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実家の売却は相続前と相続後どちらが得?税金・登記・判断基準を解説

最終更新日:2026年9月16日|監修:司法書士・行政書士 久留慎一郎先生・安心実家じまい事務局

司法書士・行政書士 久留慎一郎
監修者

久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士

東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。

監修の範囲:相続・登記・法務に関する記述(司法書士・行政書士の業務範囲)。片付け・買取・費用相場などの記述は安心実家じまい事務局が編集しています。監修者プロフィール

税金について:税額の計算や特例を使えるかどうかの判断は税理士の業務で、監修の範囲に含みません。申告の前に、税理士または所轄の税務署でご確認ください。

■経歴

  • 1966年鹿児島県生まれ
  • 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
  • 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
  • 2013年司法書士試験合格
  • 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
  • 2017年司法書士法人コスモ退職
  • 2018年事務所開設
  • 2021年司法書士法人設立

■得意領域

  • 相続登記・相続手続き
  • 不動産の名義変更
  • 相続放棄
  • 簡易裁判所の訴訟代理

この記事の結論

  • 相続税がかかる家庭では、「相続後」に売却したほうが手取りで有利になるケースが多いです。不動産は現金より相続税評価額が低く、相続後なら空き家の3,000万円特別控除や取得費加算の特例も使えるためです。
  • 「相続前」(親の存命中、または遺産分割前)の売却は、親の意思能力・共有者全員の同意・成年後見の許可など、そのままでは売れない事情がないかを先に確認する必要があります。
  • 判断に迷ったら、「片付けてから売る(仲介)か、そのまま買取に出すか」を手取り額で比べるのが実務的な近道です。詳しい手順は実家の売却(片付けから売却まで窓口ひとつ)で解説しています。
  • 相続登記は2024年4月から義務化され、期限内に登記しないと10万円以下の過料の対象になり得ます。売却の前提として、まず名義を確認しましょう。
目次

実家の売却は「相続前」と「相続後」どちらがいいか|結論を先に

「実家 売却 相続前 相続後」で検索する方の多くは、親が存命のうちに実家を売ってしまうべきか、それとも相続が発生してから売るべきかを迷っています。結論から言うと、多くの専門家サイトが共通して挙げているのは「相続税がかかる可能性がある家庭では、相続後に売却したほうが有利になりやすい」という考え方です。不動産は現金に比べて相続税評価額が低く算定される(土地は路線価、建物は固定資産税評価額がベースになる)ため、実家をそのまま相続してから売る方が、相続税と譲渡所得税の合計で見て負担が軽くなる場合が多いからです。

ただし、これは「必ず相続後が正解」という意味ではありません。親の生活費や施設入居費用の確保、複数の相続人がいる場合の分割のしやすさ、実家の管理負担を早く手放したいという事情がある家庭では、相続前(親の存命中)に売却したほうが合理的な場合もあります。実際、複数の不動産専門メディアでも「相続税が発生しない、または少額で済む見込みの家庭では、相続前の売却によるメリット(現金化のしやすさ、管理負担の軽減)が上回ることもある」という考え方が紹介されています。つまり、正解は一つではなく、①相続税がかかりそうかどうか、②誰が・いつ資金を必要としているか、③相続人の間で意見がまとまりやすいかどうか、という3つの要素の組み合わせで決まるということです。

まずは「相続前」という言葉が指す2つの状況を整理しておきましょう。

「相続前」には2つの意味がある

「相続前に売却する」という表現は、実務上は次の2つのケースを指すことが多く、それぞれ手続きも注意点も異なります。

  • ①親が存命中に、親名義のまま実家を売る——売主は親自身(または親の代理人・成年後見人)になります。親に十分な判断能力があることが前提で、認知症などで意思表示が難しい場合は、家庭裁判所の許可を得て成年後見人が売却する手続き(居住用不動産の処分許可)が必要になります。詳しくは成年後見人による実家売却の手続きで解説しています。
  • ②相続は発生したが、遺産分割協議が終わる前に売る——相続人全員の共有名義として相続登記(または相続人申告登記)をしたうえで、共有者全員の同意を得て売却し、売却代金を分ける「換価分割」という方法です。この場合も、相続登記自体は済ませる必要があります。

本記事のタイトルにある「相続前」「相続後」という言葉だけを見ると単純な二択に思えますが、実際にはこのように売主が誰になるか、必要な手続きが何かという点で内容が大きく異なります。まずは自分の実家がどちらのケースに当てはまるのかを確認したうえで、以降の内容を読み進めてください。判断に迷ったときは、この記事を家族間で共有し、同じ前提知識をもったうえで話し合いを始めることも、後のトラブルを防ぐうえで有効です。

本記事では、この2つのケースを踏まえながら、「相続前」「相続後」それぞれのメリット・デメリット、税金の違い、そして「片付けてから売るか、そのまま買取に出すか」という実務的な判断軸まで、順を追って整理します。まずは全体像を一覧で把握したい方のために、判断のポイントを一覧表にまとめました。

比較項目 相続前(親の存命中)に売却 相続後に売却
売主 親本人(判断能力が必要)または成年後見人 相続人(相続登記後)
相続税評価額への影響 不動産が現金化され、評価減の効果が失われる可能性 不動産のまま評価されるため評価減の効果を受けやすい
空き家の3,000万円特別控除 対象外 要件を満たせば適用できる可能性あり
取得費加算の特例 対象外 相続開始からおおむね3年10か月以内なら対象になり得る
相続登記の要否 不要(親名義のまま売却) 必須(義務化・3年以内・過料10万円以下)
向いている家庭 介護・施設費用を急ぎ確保したい、実家の管理負担を早く手放したい 相続税の負担を抑えたい、相続人間で分割方法を話し合う時間がある

相続前(親の存命中)に売却する場合のメリット・デメリット

親が元気なうちに実家を売却する選択には、相続後にはないメリットとデメリットの両方があります。

メリット

  • 売却代金を親の生活費・介護費用・施設入居費用に充てられる——老人ホームの入居一時金や月額費用は高額になりやすく、実家を早期に現金化することで資金計画が立てやすくなります。
  • 親自身の意思で「誰にいくらで売るか」を決められる——相続後だと相続人間の話し合いが必要になりますが、存命中なら親の意向をそのまま反映できます。
  • 空き家の管理負担を早く手放せる——施設入居後に実家が空き家になると、庭木の手入れ・防犯・郵便物の管理など、家族の負担が増えます。売却によりこの負担がなくなります。
  • 相続人が複数いる場合、遺産分割時のトラブルを事前に回避できる——不動産は現金と違って分けにくい財産のため、生前に現金化しておくことで、遺産分割協議での「誰が家を継ぐか」という争いを避けられる場合があります。

デメリット

  • 相続税評価額より高い現金が残ることで、かえって相続税が増える可能性がある——不動産のまま相続すれば路線価等の評価減が使えますが、現金化するとその圧縮効果がなくなります。相続税がかかりそうな家庭では、事前に税理士に試算してもらうことをおすすめします。
  • 親に十分な判断能力が必要——認知症等で判断能力が低下していると、通常の売買契約ができません。成年後見制度を使う場合、家庭裁判所の許可(居住用不動産の処分許可)に時間がかかることがあります。
  • 空き家の3,000万円特別控除(相続空き家特例)が使えない——この特例は相続または遺贈により取得した空き家が対象のため、親の生前売却では適用されません。
  • 取得費加算の特例も使えない——同様に相続財産の譲渡が前提の制度のため、生前売却では対象外です。

特に注意したいのは、相続税評価額と税負担の関係です。実家を生前に売却して現金化すると、相続財産の中に占める現金の割合が増えます。現金はそのままの金額で相続税評価額に計上されますが、不動産(特に自宅用の宅地)は、路線価や固定資産税評価額をベースに評価されるため、時価より低く評価される傾向があります。加えて、要件を満たせば小規模宅地等の特例により評価額をさらに圧縮できる制度もあるため、生前に現金化するかどうかは、相続税がかかりそうな家庭ほど慎重な試算が必要です。具体的な評価方法は相続税の家の評価方法|路線価・固定資産税評価額の調べ方と計算例で解説しています。

また、生前贈与と誤解されないよう、売却代金の使い道や名義には注意が必要です。親名義の口座に売却代金が入り、そのまま親の生活費や施設費用に充てられるのであれば問題になりにくいですが、子ども名義の口座に移すような場合は贈与とみなされる可能性があるため、資金の流れは記録に残しておくことをおすすめします。売買契約書、振込明細、施設費用の領収書などは、後から税務署に説明を求められた場合に備えて、まとめて保管しておくと安心です。

相続後に売却する場合のメリット・デメリット

相続が発生してから実家を売却する場合は、税制上の優遇策を使える可能性がある一方、名義変更などの手続きが先に必要になります。

メリット

  • 不動産のまま相続することで、相続税評価額が現金より低くなる効果を享受できる——土地は路線価(時価のおおむね8割程度が目安とされる)、建物は固定資産税評価額(時価より低くなる傾向)で評価されるため、同じ資産価値でも相続税の計算上は有利になりやすいとされています。
  • 空き家の3,000万円特別控除(相続空き家特例)が使える可能性がある——一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)を控除できます。要件は後述します。
  • 取得費加算の特例が使える可能性がある——相続税を払った人が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日(相続開始からおおむね3年10か月)までに売却すると、納めた相続税の一部を取得費に加算し、譲渡所得税を軽減できます。
  • 小規模宅地等の特例で相続税評価額そのものを圧縮できる場合がある——要件を満たせば宅地の評価額を最大80%減額できる制度で、詳しくは小規模宅地等の特例の要件とシミュレーションで解説しています。

デメリット

  • 相続登記を済ませないと売却できない——買主への所有権移転登記の前提として、まず被相続人から相続人への相続登記が必要です。2024年4月からは相続登記が義務化され、正当な理由なく期限内に登記しないと10万円以下の過料の対象になり得ます。
  • 遺産分割協議がまとまらないと売却が進まない——相続人が複数いる場合、誰の名義で相続登記をするか(単独名義か共有名義か)を決める必要があります。
  • 空き家のまま放置すると管理コストとリスクが増える——固定資産税・都市計画税に加え、庭木の剪定や防犯対策などの管理負担が発生します。管理が不十分だと「管理不全空き家」に指定され、固定資産税の住宅用地特例が解除されるリスクもあります(後述)。
  • 空き家特例には期限がある——相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があり、のんびり構えていると適用できなくなります。

相続後の売却で最も多いつまずきは、「相続登記を後回しにしているうちに、気づけば空き家特例の期限が近づいていた」というパターンです。相続登記自体は義務化前から可能であり、遺産分割協議さえまとまれば早期に着手できます。売却の方針が固まっていない段階でも、まずは相続登記だけでも先に済ませておくという考え方も、期限管理の観点からは有効です。

なお、相続放棄を検討している場合は特に注意が必要です。相続財産である実家を売却・処分してしまうと、家庭裁判所への相続放棄の申述が受理されなくなる可能性があります(法定単純承認とみなされるリスク)。相続放棄をするかどうか迷っている段階では、実家の売却はもちろん、片付けや処分にも着手せず、先に司法書士や弁護士へ相談してください。相続放棄の手続きと期限(原則3か月)については相続放棄の手続き・費用・期限|自分でやる方法と必要書類で解説しています。実家に価値があるかどうかにかかわらず、相続放棄を選ぶ可能性が少しでもある家庭は、この期限内に判断を下す必要があるという点も、あわせて覚えておいてください。

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相続前・相続後の税金の違いを一次情報で確認する

税金の話は「どちらが得か」を左右する最大の要素です。ここでは国税庁のタックスアンサーをもとに、相続後の売却で使える主な特例を確認します。金額や要件の詳細は、必ず最新の国税庁ページや税理士への確認をおすすめします。制度は毎年のように見直しが入ることがあり、本記事執筆時点(2026年9月)の内容が将来にわたって同じ条件で続く保証はありません。売却を実行する前に、必ず最新の要件を国税庁のページで確認するようにしてください。

空き家の3,000万円特別控除(相続空き家特例)の要件

国税庁タックスアンサー「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」によると、主な要件は以下のとおりです。

要件項目 内容
取得の原因 相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋・敷地であること
売却方法 家屋を耐震基準に適合させて売却するか、家屋を取り壊して更地にして売却するかのいずれか
居住状況 相続の開始の直前において被相続人が一人で居住していたこと(原則)
空き家期間 相続時から譲渡時まで、居住・貸付け・事業の用に供されていないこと
売却期限 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
制度の適用期限 令和9年(2027年)12月31日までの譲渡が対象
売却代金の上限 1億円を超える場合は特例を適用できない
控除額 最高3,000万円。ただし令和6年1月1日以後の譲渡で、相続・遺贈により取得した相続人が3人以上いる場合は2,000万円が上限

出典:国税庁タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

この特例は要件が細かく、「一人暮らしだった」「昭和56年5月31日以前に建築された家屋」など、実家ごとに該当するかどうかの確認が必要です。特に「相続の開始の直前において被相続人が一人で居住していたこと」という要件は見落とされやすく、たとえば同居していた配偶者が先に亡くなり、その後は被相続人が一人暮らしをしていたようなケースでは要件を満たす一方、相続開始の直前まで子ども家族と同居していたようなケースでは要件を満たさない可能性があります。詳しい要件と具体的なシミュレーションは空き家の3,000万円特別控除(相続空き家特例)の要件とシミュレーションで解説していますので、あわせてご確認ください。

取得費加算の特例(相続税を取得費に上乗せできる制度)

国税庁タックスアンサー「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」によると、相続や遺贈により取得した財産に相続税が課税されている場合、その相続税額のうち一定額を、譲渡した財産の取得費に加算できます。取得費が増えれば、譲渡所得(売却益)が圧縮され、譲渡所得税を軽減できます。

この特例の適用期限は、相続の開始があった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内が原則のため、実務上は「相続開始からおおむね3年10か月以内の売却」が目安になります。空き家の3,000万円特別控除とは併用できない点にも注意が必要です(どちらか有利な方を選択します)。どちらが有利かは、相続税の納税額と譲渡所得の見込み額の両方を試算しないと判断できないため、必ず税理士に両方のパターンで試算してもらったうえで、有利な方を選ぶようにしてください。

出典:国税庁タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

譲渡所得税全体の計算方法や税率、シミュレーションについては実家売却の譲渡所得税の計算方法とケース別シミュレーションで詳しく解説しています。

空き家特例あり・なしで譲渡所得税がどう変わるか(計算の考え方)

具体的な金額は物件ごとの取得費・売却価格によって大きく変わるため、ここでは架空の数値を使って「計算の仕組み」だけを確認します(あくまで考え方を理解するための一例であり、実際の税額を保証するものではありません)。

項目 空き家特例なしの場合(考え方) 空き家特例ありの場合(考え方)
譲渡所得の計算式 売却価格-(取得費+譲渡費用) 売却価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除(最高3,000万円)
取得費が不明な場合 売却価格の5%を概算取得費として計算できる(国税庁の取り扱い) 同左(特例適用の可否とは別の論点)
税率の目安 所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得(税率は短期より低い)、5年以下は短期譲渡所得として扱われる 控除後の譲渡所得に対して同様の税率が適用される
ポイント 取得費が不明・低いほど譲渡所得が大きくなり税負担が増えやすい 特例により譲渡所得そのものを圧縮できるため、取得費が低いケースほど恩恵が大きい

特に実家のように取得時期が古く、購入当時の売買契約書が残っていないケースでは、取得費が「売却価格の5%」という低い概算取得費で計算されることが多く、譲渡所得が大きく算出されがちです。親や祖父母の代から受け継がれてきた実家では、そもそも購入時の契約書自体が存在しないことも珍しくないため、あらかじめこの点を理解しておくと、税額のイメージがつかみやすくなります。このようなケースほど、空き家の3,000万円特別控除や取得費加算の特例の恩恵が大きくなる傾向があるため、相続後の売却でこれらの特例が使えるかどうかを最初に確認する価値があります。取得費の考え方について詳しくは、国税庁タックスアンサー「No.3258 取得費が分からないとき」もご参照ください。

出典:国税庁タックスアンサー No.3258 取得費が分からないとき

売却した翌年は確定申告が必要

空き家の3,000万円特別控除や取得費加算の特例は、いずれも自動的に適用されるものではなく、実家を売却した翌年に確定申告を行い、必要書類を添付して申告することで初めて適用されます。確定申告の期間は、原則として売却した年の翌年2月16日から3月15日までです。特例を使うつもりで準備を進めていても、確定申告を忘れると控除を受けられなくなるため、売却が完了したら早めに必要書類(登記事項証明書、被相続人居住用家屋等確認書など)をそろえておくことをおすすめします。被相続人居住用家屋等確認書は、実家がある市区町村役場で交付を受ける書類です。

相続登記を済ませないと実家は売れない

相続後に実家を売却する場合、避けて通れないのが相続登記です。法務局の案内によると、相続登記は2024年4月1日から義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をする必要があります。正当な理由がないのに期限内に申請しなかった場合は、10万円以下の過料の対象となり得ます。

この義務化は、2024年4月1日より前に発生した相続にもさかのぼって適用されます。施行日より前にすでに相続の発生を知っていた場合の期限は2027年3月31日、施行日以降に知った場合はその日から3年以内が期限です。相続人が多く、遺産分割協議に時間がかかりそうな場合の救済措置として、簡易な「相続人申告登記」の制度もあります。

出典:法務局・法務省「相続登記の申請義務化に関するご案内」(法務局ウェブサイト内)

相続登記の費用(登録免許税は原則として不動産の固定資産税評価額の0.4%)や、自分で申請する方法・必要書類については相続登記の費用と自分でやる方法で詳しく解説しています。売却を急ぐ場合ほど、まず相続登記の見通しを立てることが結果的に近道になります。自分で申請するのが難しいと感じる場合は、司法書士に依頼することで、書類の不備による差し戻しやスケジュールの遅れを防ぎやすくなります。

空き家のまま放置するリスク|管理不全空き家と固定資産税

「相続後にゆっくり考えよう」と実家を空き家のまま放置すると、税金面で不利になることがあります。2023年12月に施行された改正空家法(空家等対策特別措置法)では、そのまま放置すれば「特定空家等」になるおそれがある空き家を、市区町村が「管理不全空家等」として指導・勧告できる制度が新設されました。

従来は「特定空家等」に指定された場合のみ、固定資産税の住宅用地特例(住宅用地の固定資産税を軽減する制度)の対象から外れる扱いでしたが、この改正により「管理不全空家等」として勧告を受けた場合も、住宅用地特例の対象外となり得ることになりました。住宅用地特例が外れると、土地の固定資産税額が上がる可能性があります。

出典:国土交通省 空家等対策特別措置法の一部改正について

全国的にも空き家は増加傾向にあります。総務省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年時点の全国の空き家数は899万戸で過去最多、総住宅数に占める空き家率は13.8%となっています。相続した実家をそのまま空き家にしておくことは、決して珍しいことではありませんが、管理の手間とリスクが年々増していく点は踏まえておく必要があります。

出典:総務省統計局 令和5年住宅・土地統計調査 調査の結果

なお、解体して更地で売却する方針を選んだ場合、自治体によっては空き家の解体費用に対する補助金制度を設けていることがあります。補助の有無や金額、対象となる要件(特定空家等に指定されていることが条件になる場合が多い等)は自治体ごとに大きく異なるため、実家がある市区町村の空き家対策担当窓口に直接確認することをおすすめします。都道府県別の空き家解体補助金の傾向については、各都道府県ごとの実家じまい費用相場の記事でも紹介しています。

特定空家等に指定されるとどうなるか

管理不全空き家よりもさらに状態が悪化し、倒壊のおそれや衛生上有害な状態にあると市区町村が判断した場合は「特定空家等」に指定されます。特定空家等に指定されると、固定資産税の住宅用地特例が解除されるだけでなく、市区町村からの助言・指導、勧告、命令を経ても改善されない場合は、行政代執行により強制的に解体され、その費用を所有者(相続人)が負担させられる可能性もあります。相続した実家を長期間放置する場合は、この段階まで至らないよう、最低限の管理を続けることが重要です。

「相続後、売却するかどうかまだ決めていないから」といって実家をそのまま放置する期間が長引くほど、こうした指定を受けるリスクは高まります。売却の方針が固まっていない段階でも、庭木の剪定、郵便受けの整理、通気のための換気など、最低限の管理を定期的に行っておくことが、将来の選択肢を狭めないための備えになります。遠方に住んでいて頻繁に訪問できない場合は、空き家の管理を代行するサービスの利用も検討してください。定期的な巡回・写真での状況報告に対応しているサービスであれば、現地に行けない間も状態を把握でき、指定を受けるリスクを早期に察知しやすくなります。

判断軸|「片付けてから売るか、そのまま買取か」を手取りで比べる

相続前・相続後の税制の違いを踏まえたうえで、実際に売却を進める段階でもう一つ重要な判断があります。それが「時間と手間をかけて片付け・仲介で高く売るか」「片付けをせず、そのまま買取に出して早く終わらせるか」という選択です。当事務局は宅地建物取引業者ではないため、実家の買取や仲介そのものは提携の宅建業者が担当し、当事務局は相談の窓口と、片付け・残置物処理の実務を担当します。

どちらが得かは、次の3つの要素を「手取り額」で比べると判断しやすくなります。

  • ①想定売却価格——仲介(片付け後に売却)の方が高値で売れやすい傾向がありますが、地域や物件の状態によって差があります。
  • ②かかる費用——仲介の場合は仲介手数料(宅地建物取引業法46条にもとづく上限は、売買価格400万円超の部分について速算式「売買価格×3%+6万円」に消費税を加えた額)に加え、片付け・解体・測量などの費用がかかることがあります。買取の場合はこれらの費用が発生しないか、査定額にあらかじめ織り込まれています。
  • ③かかる時間——仲介は買い手が見つかるまで数か月〜半年以上かかることもありますが、買取は交渉がまとまれば短期間で現金化できる傾向があります。

「片付ける時間も体力もない」「早く現金化して相続税の納税資金に充てたい」という場合は、残置物が残ったままでも売却できる方法(買取・有料引き取り)を検討する価値があります。片付けから売却までの流れは実家の売却(片付けから売却まで窓口ひとつ)で、家財が残ったままの売却については残置物はそのまま売却できる?家財が残った実家を売る方法もあわせてご覧ください。

手取り額で比較する際は、次の式で大まかな見取り図を作るとイメージしやすくなります。「想定売却価格」から「仲介手数料などの諸費用」「片付け・解体にかかる費用」「譲渡所得税(特例適用後)」を差し引いた金額」が最終的な手取り額です。仲介は①の想定売却価格が高くなりやすい一方で②③の費用と時間がかかり、買取は①がやや下がる代わりに②③を圧縮しやすいという構造になっています。どちらが総合的に得かは、実家ごとの立地・築年数・残置物の量によって変わるため、まずは両方の見積もりを取ってから比較することをおすすめします。

買取・仲介・有料引き取りの3択比較表

実家の手放し方には、大きく分けて「仲介」「買取」「有料での引き取り」の3つの選択肢があります。それぞれの特徴を比較表にまとめました。印刷して、家族での話し合いにお使いください。

方法 手取り額の傾向 片付けの要否 売却までの期間の傾向 向いているケース
仲介(提携宅建業者) 3つの中では最も高くなりやすい 原則、片付け・残置物撤去が必要 買い手探しに数か月〜半年以上かかることがある 時間に余裕があり、少しでも高く売りたい場合
買取(提携宅建業者) 仲介よりは下がる傾向だが、諸費用は抑えやすい 残置物が残ったままでも対応できる場合が多い 比較的短期間で現金化しやすい 相続税の納税期限が迫っている、早く手放したい場合
有料での引き取り(再建築不可・老朽化が著しい等) 売却益は見込みにくい、費用がかかる場合もある 片付け込みで依頼できることが多い 個別交渉次第 買い手がつきにくい訳あり物件・再建築不可物件

再建築不可物件の売却相場や活用法については再建築不可物件とは|売却相場・活用法・買い手の探し方で詳しく解説しています。どの方法が自分の実家に合っているかは、まず現況を確認したうえでの相談が近道です。

表からも分かるとおり、「片付け不要で早く終わらせたいか」「時間をかけてでも高く売りたいか」で選ぶべき方法は変わります。相続前・相続後どちらのタイミングであっても、この判断軸自体は共通して使えます。特に相続後に空き家特例の期限(相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日)が迫っている場合は、仲介で買い手を探す時間的余裕がないこともあるため、早めに買取も選択肢に含めて動き出すことをおすすめします。逆に、期限まで十分な時間がある場合は、まず仲介で一定期間募集をかけ、反応が薄ければ途中で買取に切り替えるという段階的な進め方も現実的な選択肢です。

ケース別に見る「相続前・相続後」の判断シミュレーション

実際の家庭の状況に近い4つのケースで、判断の考え方を整理します。

ケースA:親が施設に入居し、実家が空き家になりそうな場合

親が存命で判断能力もある場合は、施設入居のタイミングで実家を売却し、入居費用に充てるという選択が現実的です。ただし親自身が認知症等で判断能力が低下している場合は、通常の売買契約ができないため、成年後見制度を利用し、家庭裁判所の許可(居住用不動産の処分許可)を得る必要があります。この許可には時間がかかることがあるため、判断能力があるうちに早めに検討することが重要です。手続きの詳細は成年後見人は実家を売却できるか|居住用不動産の許可手続きと流れをご覧ください。

なお、施設入居にあたって「実家を担保にして資金を借りる」「持ち家を貸して家賃収入を得る」といった住み替え支援の制度を利用できる場合もあります。売却して手放す以外の選択肢も含めて比較検討したい場合は高齢者の住み替え支援制度|マイホーム借上げ制度などを解説もあわせてご覧ください。

ケースB:相続人が1人で、相続発生後1年ほど空き家のままにしている場合

相続人が1人であれば遺産分割協議は不要ですが、相続登記は必要です。空き家の3,000万円特別控除を使うつもりであれば、「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」という期限を意識し、家屋の耐震基準への適合、または取り壊しの判断を先延ばしにしないことが重要です。管理が不十分なまま放置すると、管理不全空き家に指定されるリスクもあるため、売却の方針が固まるまでの間も、最低限の管理(通気・郵便物の確認・庭の手入れ等)は続けることをおすすめします。相続人が1人であっても、片付け・仲介探し・行政手続きをすべて一人でこなすのは負担が大きいため、片付けだけでも先に外部に依頼し、自分は不動産会社や税理士とのやり取りに集中するといった役割分担も検討してみてください。

ケースC:相続人が複数おり、遺産分割協議中で早く現金化したい場合

不動産をそのまま分けるのが難しい場合、いったん相続人全員の共有名義(または代表者名義)で相続登記をしたうえで売却し、売却代金を相続分に応じて分ける「換価分割」という方法があります。この場合も相続登記は必須です。共有者全員の合意形成に時間がかかりやすいため、早い段階で「誰が窓口になるか」「売却条件の決定権をどう扱うか」を決めておくと、話し合いがスムーズになります。相続全体の手続きの流れは不動産相続の流れ|遺産分割から相続登記までの全手順で解説しています。共有名義のまま長期間が経過すると、共有者の一部が亡くなって次の世代に権利が引き継がれ、関係者がさらに増えてしまうこともあります。換価分割を選ぶ場合は、遺産分割協議書に「売却して代金を分割する」旨を明記したうえで、できるだけ早い段階で相続登記と売却活動を進めることをおすすめします。

ケースD:家財(残置物)が大量に残っており、片付ける時間がない場合

遠方に住んでいる、仕事で時間が取れない等の理由で片付けが進まない場合は、残置物が残ったままでも対応できる買取や、片付けと売却の窓口を一本化するサービスの利用を検討します。安心実家じまいでは、仕分け・搬出・ご供養までを窓口ひとつでご相談いただけます。実家じまい代行の内容は実家じまい代行サービス、遺品の仕分けが中心の場合は遺品整理サービスをご覧ください。

ケースE:実家が農地・山林を含む、または再建築不可物件の場合

実家の敷地に田畑や山林が含まれる場合、農地法の制限により宅地と同じ感覚では売却できないことがあります。買い手を見つけること自体が難しく、相続前・相続後にかかわらず時間がかかりやすい類型です。詳しくは農地・山林の処分方法|売れない土地の手放し方と相続の注意で解説しています。また、接道条件を満たさず建て替えができない「再建築不可物件」の場合も、通常の仲介では買い手がつきにくく、専門の買取業者への相談が現実的な選択肢になります。

ケースF:相続人の一部が遠方在住・疎遠な場合

相続人の中に長年連絡を取っていない親族や、遠方に住んでいて頻繁に集まれない人がいる場合、遺産分割協議自体がなかなか進まないことがあります。このような場合は、まず相続人調査(戸籍の収集)を進めて相続人を確定させたうえで、書面や写真の共有を中心に、非対面でも合意形成を進められる方法を検討します。相続人調査のやり方は相続人調査のやり方|戸籍のたどり方と見落としやすいケースで解説しています。売却の合意ができるまでの間も、固定資産税の負担や管理の分担について、早めに取り決めておくと後のトラブルを防げます。

相談先の役割分担|司法書士・税理士・宅建業者・実家じまい窓口

実家の売却には複数の専門家が関わるため、「誰に何を相談すればよいか分からない」という声もよく聞かれます。役割を整理すると次のようになります。

相談先 主な役割
司法書士 相続登記の申請、遺産分割協議書の作成支援、成年後見に関する手続きなど
税理士 相続税の申告、譲渡所得税の試算、空き家特例・取得費加算の特例の適用可否の判断
弁護士 相続人間で意見がまとまらない場合の調整、相続放棄の相談
宅地建物取引業者(提携先) 実家の査定、仲介・買取による売買契約の実務
実家じまいの実務窓口(当事務局) 相談の窓口、片付け・残置物処理・供養の手配、各専門家への橋渡し

当事務局は宅地建物取引業者ではないため、売買契約そのものは提携の宅建業者が担当します。当事務局の役割は、複数の専門家が関わる実家じまい全体の窓口となり、特に手間のかかる「片付け」の部分を代行することです。相続前・相続後どちらのタイミングでも、片付けと専門家への相談は同時並行で進められるため、「片付けが終わってから相談しよう」と後回しにする必要はありません。むしろ、片付けを進めながら並行して査定や税務の相談を進めたほうが、全体としての所要期間は短くなる傾向があります。「まず誰に相談すればいいか分からない」という段階からのご相談も可能です。相続登記や相続放棄など法律面の手続きが必要な場合は提携の司法書士・弁護士を、税金の試算が必要な場合は提携の税理士をご案内できる体制を整えています。ひとつの窓口に相談すれば、必要な専門家へ橋渡しされる流れになるため、「誰に何を聞けばいいか分からない」状態のまま時間だけが過ぎてしまう事態を防ぎやすくなります。

実家の売却を進める前の実務チェックリスト

相続前・相続後を問わず、売却に着手する前に確認しておきたい項目を一覧にしました。印刷して、家族間の確認用にご活用ください。

確認項目 チェックのポイント
名義の確認 実家が親名義のままか、すでに相続登記済みかを登記事項証明書(法務局)で確認する
相続人の確認 戸籍を集めて相続人が誰か・何人いるかを確定させる
遺言書・エンディングノートの確認 売却方法や分け方について故人の希望が残されていないか確認する
相続登記の要否 相続後に売却するなら相続登記が必須。義務化の期限(知った日から3年以内)も確認
空き家特例の期限確認 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却できそうか確認する
建物の建築時期 昭和56年5月31日以前の建築かどうかで、空き家特例の対象可否が変わる
耐震性・解体の要否 耐震基準に適合させて売るか、更地にして売るかの方針を決める
残置物の状況 家財の量を確認し、仲介前に片付けるか、残置物ありで買取に出すかを検討する
固定資産税の精算 引き渡し時期に応じた日割り精算の方法を確認する
成年後見の要否 親の判断能力に不安がある場合は、早めに家庭裁判所への相談を検討する

このチェックリストのうち、特に見落とされやすいのが「空き家特例の期限確認」と「相続登記の要否」です。この2つを後回しにすると、いざ売却の話が進んでから「特例が使えない」「そもそも登記が済んでいない」と判明し、スケジュールが大きく崩れることがあります。着手前の段階で確認しておくことをおすすめします。固定資産税の日割り精算の考え方については実家売却時の固定資産税の精算とはで詳しく解説しています。

名義確認のやり方

実家の名義は、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得すれば確認できます。オンラインでの請求のほか、法務局窓口やコンビニ交付にも対応している場合があります。「親名義のまま」なのか「すでに相続人名義に変わっている」のかによって、その後の手続きが大きく変わるため、売却を検討し始めた時点でまず取得しておくことをおすすめします。

相続人の確認と戸籍収集

相続人が何人いるかを確定させるには、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて集める必要があります。本籍地を転々としている場合、複数の市区町村役場に請求する必要があり、時間がかかることも珍しくありません。2024年からは「広域交付」制度により、最寄りの市区町村窓口でまとめて請求できる範囲が広がっています。詳しい集め方は相続に必要な戸籍の集め方|広域交付・法定相続情報一覧図もをご覧ください。

建物の建築時期の調べ方

空き家特例の対象になるかどうかを左右する「昭和56年5月31日以前の建築」という要件は、建物の登記事項証明書に記載されている「新築年月日」や、固定資産税の課税明細書(建物の欄)で確認できます。あわせて、旧耐震基準(昭和56年5月31日以前の建築確認)の建物かどうかも、耐震診断や解体の要否を判断するうえで重要な情報になります。

相続前・相続後の売却でよくあるトラブルとその防ぎ方

事務局として実家じまいのご相談を受ける中でよく耳にするパターンと、その防ぎ方を紹介します。

  • 相続登記をしないまま何年も放置し、いざ売ろうとしたら相続人がさらに増えていた——相続登記をしないうちに相続人本人が亡くなると、その子や配偶者が新たな相続人になる「数次相続」が発生し、関係者が増えて手続きが複雑になります。相続が発生したら、売却の予定がなくてもできるだけ早めに相続登記を済ませておくことがトラブル予防になります。数次相続の詳細は数次相続とは|放置された実家の相続手続きと登記の書き方で解説しています。
  • 空き家特例が使えると思い込んでいたら、要件を満たしていなかった——建築時期や居住状況などの要件は細かく、実家によって該当有無が分かれます。売却の話を進める前に、要件を一つひとつ確認することが重要です。
  • 遺産分割協議がまとまらないまま、一部の相続人だけで話を進めてしまった——共有名義の不動産は、共有者全員の同意がないと売却できません(持分のみの売却は可能な場合がありますが、実務上は買い手がつきにくい傾向があります)。売却の意思決定は、必ず相続人全員で共有しながら進める必要があります。
  • 親の生前に、判断能力が低下した状態で売買契約を進めてしまった——後になって契約の有効性が問題になることがあります。判断能力に不安がある場合は、契約前に医師の診断や、必要に応じて成年後見制度の利用を検討してください。
  • 片付けを先延ばしにして、査定・売却のタイミングを逃した——残置物が多いまま放置すると、内覧や査定自体が進めにくくなります。売却の方針が固まる前でも、貴重品や思い出の品だけでも先に仕分けておくと、後の動きがスムーズになります。
  • 相続人の一人が売却に反対し、話し合いが止まってしまった——実家に思い入れがある相続人が売却に消極的なケースは珍しくありません。売却するかどうかを急いで結論づけようとせず、「まず名義と評価額を確認する」「維持コストを可視化する」など、判断材料をそろえてから話し合う方が合意形成が進みやすい傾向があります。
  • 解体してから売ろうとしたら、更地にした後の方が固定資産税の負担が増えて資金繰りに困った——住宅用地特例は建物がある土地に適用されるため、解体して更地にすると、翌年度以降の固定資産税が上がる場合があります。解体の時期は、売却の見通しが立ってから、できるだけ引き渡しに近いタイミングで行うことも検討してください。

こうしたトラブルの多くは、「まず名義と相続人を確認する」「特例の要件と期限を早めに確認する」という2つを徹底することで防げます。急いで一度に片付けようとせず、事実関係の確認から着手することが、結果的に一番の近道になります。相続をめぐる兄弟間の対立は、実家の分け方そのものが原因になることも多く、典型的な揉め方と予防策は相続で兄弟が揉める典型パターン7つと予防策|実家の分け方でも詳しく紹介しています。あわせて確認しておくと、いざ話し合いが始まったときの心構えができます。

小規模宅地等の特例と売却の関係

相続税を計算する際、被相続人が住んでいた宅地については「小規模宅地等の特例」により、一定の要件を満たせば評価額を最大80%減額できる制度があります。この特例は、相続税の申告期限までに、対象の宅地を相続した相続人が保有し続けている(原則として申告期限まで所有・居住等の要件を満たす)ことなどが条件になるため、相続後すぐに売却してしまうと、要件によっては適用できなくなる場合があります。

一方で、空き家の3,000万円特別控除や取得費加算の特例は、いずれも「売却すること」が前提の制度です。つまり、小規模宅地等の特例を使うか、それとも早期に売却して他の特例を使うかは、トレードオフの関係になり得るということです。どちらが有利かは、相続財産全体の評価額、相続人の数、売却予定価格などによって変わるため、相続税の申告を担当する税理士に、売却の予定を事前に伝えたうえで試算してもらうことを強くおすすめします。小規模宅地等の特例の要件とシミュレーションは小規模宅地等の特例とは|実家の相続税を8割減らす要件もあわせてご覧ください。

実家の売却にかかる期間の目安

「相続前」「相続後」いずれの場合も、実際に現金化されるまでの期間は、名義の整理・査定・契約・引き渡しといった複数の工程を経るため、ある程度のまとまった時間がかかります。一般的な目安として、それぞれの工程で必要になることが多い作業を整理しました。

工程 相続前(親名義のまま) 相続後
名義・書類の準備 権利証(登記識別情報)・本人確認書類の準備 戸籍収集・遺産分割協議書の作成・相続登記の申請
査定・媒介契約 複数社への査定依頼、媒介契約の締結 相続登記完了後に査定依頼、媒介契約の締結
片付け・残置物処理 親の生活動線を確保しながら段階的に実施 形見分けと並行して仕分け・搬出を実施
売買契約・引き渡し 親本人(または後見人)が売主として契約 相続人(代表者または全員)が売主として契約

特に相続後のケースでは、戸籍収集と遺産分割協議、相続登記という3つの工程を経てから、ようやく通常の不動産売却の工程(査定・契約・引き渡し)が始まります。相続発生から売却完了までを急ぐ場合は、これらの工程をできるだけ並行して進める(片付けと戸籍収集を同時に始める等)ことが、時間短縮のポイントになります。

実家が売れにくい場合の代替の選択肢

相続前・相続後にかかわらず、実家の立地や状態によっては、通常の仲介や買取だけではなかなか買い手がつかないこともあります。人口減少が進む地域や、接道条件を満たさない土地、老朽化が著しい家屋などは、査定を依頼しても「買取価格がつかない」「そもそも査定を断られる」ということも実際に起こり得ます。そうした場合でも、いくつかの代替の選択肢を組み合わせることで、手放す道が見つかることがあります。

空き家バンクへの登録

自治体が運営する「空き家バンク」に登録し、移住希望者などとのマッチングを図る方法があります。地方の実家で、通常の不動産流通ルートでは買い手が見つかりにくい場合の選択肢のひとつです。登録方法や売れやすさの傾向については空き家バンクとは|登録方法・売れやすさ・自治体の支援で解説しています。

古家付き土地・更地としての売却

建物の資産価値がほとんどない場合、建物を解体して更地にしたうえで「古家付き土地」ではなく純粋な土地として売却したほうが、買い手がつきやすくなることがあります。ただし解体費用が発生するため、更地にする前と後の想定売却価格を比較したうえで判断する必要があります。詳しくは古家付き土地として売る方法|解体して更地にすべきかの判断をご覧ください。

隣地所有者への売却という選択肢

敷地が狭い、接道条件が悪いなど、一般の買い手には売りにくい実家でも、隣接する土地の所有者にとっては価値がある場合があります。隣の方に直接声をかける方法や、価格の決め方については実家を隣の人に売る方法|声のかけ方・価格の決め方・注意点で詳しく解説しています。

県をまたぐ実家を相続前・相続後に売却する場合の注意点

実家が遠方にある場合、相続前・相続後どちらのタイミングでも、現地に何度も足を運ぶのが負担になりがちです。地域によって空き家の需要や買取相場、自治体の補助金制度(解体費用の補助等)が異なるため、実家がある都道府県の事情に合わせた相談先を選ぶことも大切です。たとえば神奈川県の実家であれば神奈川県の空き家買取、東京都であれば東京都の空き家買取、大阪府であれば大阪府の空き家買取のように、エリアごとの相場観を確認したうえで進めると、判断の精度が上がります。

また、遠方の実家の場合は、立ち会いなしで片付けや査定を進められるかどうかも重要な確認ポイントです。鍵を預けての作業や、写真・オンライン通話での状況共有に対応しているかを、片付けの依頼先に確認しておくと、現地訪問の回数を最小限に抑えながら手続きを進めることができます。

売却代金を子どもに渡す場合の贈与税の注意点

相続前に実家を売却し、その代金の一部を子どもの住宅資金や生活費として渡したいと考える家庭もあります。この場合、個人が1年間(1月1日〜12月31日)に受け取った財産の合計額に応じて贈与税がかかる「暦年課税」という仕組みがあり、一定の基礎控除額を超える部分に課税されます。基礎控除額や税率、非課税特例(住宅取得等資金の贈与など)の詳細は年度によって変わることがあるため、渡す予定がある場合は、実行前に税理士または税務署へ具体的な金額を伝えて確認することを強くおすすめします。

また、相続時精算課税制度という、生前贈与を相続時にまとめて精算する制度を選択できる場合もあります。どちらの制度を選ぶかによって、将来の相続税額や、贈与を受けた時点での税負担が変わってくるため、実家の売却代金を家族に分配する予定がある場合は、売却の実行前に必ず専門家に相談してください。本記事では、断定的な控除額や税率をお伝えすることは避けますが、「渡す前に確認する」という原則を徹底することが、後々のトラブルを防ぐ一番の方法です。

実家売却でよく出てくる専門用語ミニ辞典

相続と不動産売却の手続きには、聞き慣れない専門用語が多く登場します。特に相続後に実家を売却する場合は、税理士や司法書士との会話の中でこうした用語が次々に出てくるため、あらかじめ意味を押さえておくと、相談がスムーズに進みます。本記事で扱った用語を中心に、簡単な説明をまとめました。分からない言葉が出てきたら、このミニ辞典に立ち返って確認してください。

用語 意味
譲渡所得 不動産を売却して得た利益。売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて計算する
取得費 その不動産を取得したときにかかった費用(購入代金、購入時の諸費用など)。分からない場合は売却価格の5%を概算取得費にできる
路線価 相続税・贈与税を計算する際に用いる、道路に面した土地の1㎡あたりの評価額。国税庁が毎年公表する
相続登記 亡くなった人(被相続人)名義の不動産を、相続人名義に変更する登記手続き。2024年4月から義務化
換価分割 相続財産である不動産を売却し、その売却代金を相続人間で分ける遺産分割の方法
法定単純承認 相続財産の処分などにより、相続人が相続を単純に承認したものとみなされること。これにより相続放棄ができなくなる場合がある
特定空家等 倒壊のおそれや衛生上有害な状態など、空家法にもとづき市区町村が指定する管理不全な空き家
管理不全空家等 放置すれば特定空家等になるおそれがある空き家として、2023年改正空家法で新設された区分
住宅用地特例 住宅が建っている土地の固定資産税・都市計画税を軽減する制度。特定空家等・管理不全空家等に指定されると対象外になり得る

よくある質問

実家は相続前と相続後、どちらで売るのが一般的に得ですか?
相続税がかかる可能性がある家庭では、相続後に売却したほうが手取りで有利になるケースが多いとされています。不動産は現金より相続税評価額が低くなる傾向があり、相続後の売却では空き家の3,000万円特別控除や取得費加算の特例が使える可能性もあるためです。ただし、親の生活費の確保や相続人間の分割のしやすさなど、家庭の事情によっては相続前の売却が合理的な場合もあります。個別の判断は税理士への相談をおすすめします。
親が認知症になった場合、実家を売却する方法はありますか?
親本人が判断能力を欠く状態では、通常の売買契約はできません。家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立て、選任された後見人が「居住用不動産の処分許可」を得たうえで売却する方法があります。この許可には時間がかかることがあるため、判断能力があるうちに実家の今後について話し合っておくことが望ましいとされています。
相続登記をしないまま実家を売ることはできますか?
できません。買主への所有権移転登記の前提として、被相続人から相続人への相続登記が必要です。また、2024年4月からは相続登記自体が義務化されており、不動産の相続を知った日から3年以内に申請しないと、10万円以下の過料の対象になり得ます。売却を検討する際は、まず名義の状況を確認することが第一歩です。
空き家の3,000万円特別控除は相続前の売却でも使えますか?
使えません。この特例は相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋等を譲渡した場合が対象であり、親の生前売却は対象外です。相続後の売却で、かつ建築時期や居住状況などの要件を満たす場合に限り適用できます。
残置物(家財)が残ったままでも実家は売却できますか?
買取であれば、残置物が残ったままでも対応できる場合が多くあります。仲介の場合は、原則として片付け・撤去をしたうえでの売却が一般的です。片付けにかかる時間や費用と、買取での手取り額を比較して判断することをおすすめします。
相続人が複数いる場合、誰の名義で相続登記すればよいですか?
遺産分割協議で不動産を取得する人を決め、その人の単独名義で登記する方法が一般的です。すぐに決まらない場合は、いったん相続人全員の共有名義で登記し、後日「換価分割」として売却代金を分ける方法もあります。ただし共有名義のまま長期間放置すると、将来の意思決定が複雑になりやすいため、早めに方針を決めることをおすすめします。
相続税の申告期限と、実家の売却期限は別物ですか?
別物です。相続税の申告・納税期限は、相続の開始を知った日の翌日から原則10か月以内です。一方、空き家の3,000万円特別控除を使うための売却期限は、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までであり、取得費加算の特例の期限は相続開始からおおむね3年10か月以内です。それぞれ期限が異なるため、混同しないよう注意してください。
実家を売却せず、賃貸に出すという選択肢もありますか?
あります。相続後すぐに売却せず、賃貸に出して収益を得る方法も選択肢のひとつです。ただし、賃貸に出すと空き家の3,000万円特別控除の要件(居住・貸付け・事業の用に供されていないこと)を満たさなくなり、後から売却しても特例が使えなくなる点に注意が必要です。賃貸に出す場合の手順や収支の考え方は実家を貸すという選択肢|賃貸に出す手順・収支・リスクで解説しています。
空き家の3,000万円特別控除と、通常のマイホームの3,000万円特別控除は同じものですか?
別の制度です。通常のマイホームの3,000万円特別控除(居住用財産を売ったときの特例)は、自分が住んでいた家を売った場合に使える制度です。一方、空き家の3,000万円特別控除(相続空き家特例)は、被相続人が住んでいた家屋を相続人が相続し、一定要件のもとで売却した場合に使える制度で、対象者・要件・適用期限がそれぞれ異なります。どちらか一方しか使えない点にも注意してください。
相続放棄をした場合、実家は誰が管理することになりますか?
相続放棄をしても、次の相続人が管理を始めるまでの間、一定の管理責任が残る場合があります(民法の改正により、現に占有している相続放棄者の管理義務についての規定が整理されています)。相続放棄をする予定がある場合の実家の管理については、着手前に司法書士や弁護士に確認することをおすすめします。

まとめ

実家の売却を「相続前」にするか「相続後」にするかは、税金・名義・家族の事情という3つの軸で総合的に判断する必要があります。振り返ります。

  • 相続税がかかる家庭では、相続後の売却のほうが手取りで有利になるケースが多い
  • 相続前(親の生前)の売却は、親の判断能力・成年後見の要否を先に確認する
  • 相続後の売却では、相続登記が前提。2024年4月からの義務化(3年以内・過料10万円)にも注意
  • 空き家の3,000万円特別控除・取得費加算の特例は、いずれも要件と期限(相続開始から3年〜3年10か月程度)がある
  • 小規模宅地等の特例を使うか、早期売却で他の特例を使うかはトレードオフになり得るため、事前に税理士へ相談する
  • 片付けてから仲介で売るか、そのまま買取に出すかは、想定価格・費用・時間の3点を手取りで比較して判断する
  • 空き家のまま長期間放置すると、管理不全空き家・特定空家等に指定され、固定資産税が上がるリスクがある
  • 相続放棄を検討している場合は、売却はもちろん処分にも一切着手せず、先に司法書士・弁護士へ相談する
  • 当事務局は宅建業者ではないため、売買契約そのものは提携の宅建業者が担当し、当事務局は窓口と片付けを担当する

実家という一つの不動産をめぐって、税金・登記・家族間の合意形成という複数のテーマが絡み合うのが、この問題の難しさです。だからこそ、最初の一歩は「今、実家がどういう状態にあるか」を客観的に把握することにあります。名義は誰か、相続人は何人か、建物はいつ建てられたのか、家財はどれくらい残っているのか——これらが分かるだけで、相続前に売るべきか相続後まで待つべきか、仲介と買取のどちらが向いているかの判断材料がそろいます。

判断に迷う場合は、一人で抱え込まず、まずは現状(名義・相続人の数・残置物の状況)を整理したうえで、司法書士や税理士、そして実家じまいの実務窓口に相談することをおすすめします。相続前か相続後か、仲介か買取か——どちらの選択にも一長一短があり、絶対的な正解はありません。大切なのは、思い込みや急ぎの判断で動くのではなく、名義・相続人・特例の要件といった事実を一つずつ確認したうえで、家族が納得できる形を選ぶことです。片付けから売却までを一つの窓口で相談したい場合は実家の売却(片付けから売却まで窓口ひとつ)もあわせてご覧ください。

読むより、聞いたほうが
早いこともあります

相続前か相続後か、片付けてから売るか、そのまま買取に出すか。ご状況を伺ったうえで、費用と進め方をご案内します。ご相談・お見積もりは無料です。

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この記事を書いた人

安心実家じまい事務局です。実家の片付けや遺品整理、空き家になった家の処分について、はじめての方にも分かるように記事を書いています。提携している現場の業者や司法書士と一緒に、費用の相場・自治体のごみ出しルール・補助金といった、調べてもなかなか分かりにくいところを一つずつ確かめながらまとめています。「誰に頼めばいいか分からない」という段階のご相談も、LINEやお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
運営は株式会社Sora Capital(東京都渋谷区・安心実家じまい事務局)です。相続・登記・法務に関する記述は、提携の司法書士・行政書士 久留慎一郎が監修しています。税額の計算や申告の判断は、税理士にご確認ください。

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