
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 残置物はそのまま(現状有姿)でも売却できます。ただし残置物の内容と処分責任の所在を契約書に明記し、買主の承諾を得ることが前提です。
- 売る方法は主に現状有姿売買・空き家買取業者への売却・処分費用を差し引いた価格交渉・先に片付けてから売却の4パターンがあり、向いているケースが異なります。
- 特約の書き方が曖昧だと、引き渡し後に処分費用を巡るトラブルになりやすい部分です。残置物リストの添付と特約条項の明記で防げます。
- 建物を解体または耐震基準に適合させたうえで売却すれば、空き家の3,000万円特別控除が使える場合があります。家具・什器などの生活用動産を売って得たお金には、原則として税金がかかりません。
残置物とは何か。そのまま売却できるのか
残置物とは、家財道具や生活用品のうち、売主が引き渡し時に持ち出さず室内に残していく物のことです。実家じまいの場面では、タンスや食器棚などの家具、冷蔵庫や洗濯機といった家電、布団や衣類、仏壇や神棚、写真や書類、庭の物置に入った農機具や園芸用品まで、内容は多岐にわたります。相続後に空き家となった実家を売却しようとする際、こうした家財が片付けきれないまま残っているケースは珍しくありません。
結論から言うと、残置物を残したまま実家を売ることは可能です。不動産の売買契約は、目的物の状態について売主と買主が合意すれば成立するため、残置物の存在と扱いを契約書に明記し、買主がその条件で納得すれば「現状有姿(げんじょうゆうし)」のまま引き渡すことができます。実際、相続した実家を片付ける時間や体力がない、遠方に住んでいて何度も帰省できない、といった事情から、あえて片付けずに売却の相談へ進む方は少なくありません。
「片付けが終わっていないと不動産会社に相手にしてもらえないのでは」と考えて、相談自体を先延ばしにしてしまう方もいますが、多くの不動産会社や買取業者は、残置物がある状態のままでの査定や相談を日常的に受けています。片付けを済ませてから動き出そうとして数か月が過ぎてしまうより、まず現状のまま相談し、そのうえで片付けるかどうかを判断するほうが、結果的に早く前へ進められることがあります。
残置物の具体例と扱いに迷いやすい品目
残置物とひとくちに言っても、扱いやすい物と扱いに迷う物があります。次のような区分で整理しておくと、契約書に書く内容や処分の優先順位を考えやすくなります。
| 区分 | 具体例 | 扱いの傾向 |
|---|---|---|
| 一般家財 | 家具、食器棚、カーペット、書籍 | 買主合意のうえで現状有姿にしやすい |
| 家電4品目 | テレビ・エアコン・冷蔵庫・洗濯機 | 家電リサイクル法の対象。残置しても最終的な処分に手続きが必要 |
| 信仰・儀礼関連 | 仏壇、神棚、位牌 | 処分前に閉眼供養やお焚き上げを検討する家庭が多い |
| 屋外・物置内 | 農機具、庭木の手入れ道具、灯油・薬剤 | 一般廃棄物として扱えない場合があり処分ルートの事前確認が必要 |
| 資産性のある物 | 貴金属、着物、骨董品、製造から年数の浅い家電 | 買取に出せば処分費用の相殺につながる |
この中で買主が最も敬遠しやすいのは、家電4品目と屋外の農機具・薬剤類です。処分ルートが一般ごみと異なり、知識がないと手続きに時間がかかるためです。契約書に残置物リストを添付する際は、こうした処分が面倒な品目を漏れなく書き出しておくと、後のトラブルを避けやすくなります。
戸建てとマンションで残置物の扱いが変わる場面
実家が分譲マンションの場合、残置物の搬出には管理規約への配慮も必要になります。大型家具の搬出時にエレベーターや共用廊下を使う際は、あらかじめ管理組合や管理会社への届け出が求められることが多く、無断で搬出作業を行うと後日トラブルになりかねません。現状有姿のまま売却する場合でも、買主側が入居後に残置物を処分する際、同じ手続きを踏む必要があることを重要事項として伝えておくと親切です。戸建ての場合はこうした共用部分の制約がない一方、庭や物置、車庫まで含めた敷地全体が残置物の対象になりやすく、屋内だけを見て契約内容を決めると搬出範囲の認識違いが生じることがあります。
残置物の中に貴重品や重要書類が紛れていないか、先に確認する
残置物をまとめて現状有姿で引き渡す前に、確認しておきたいのが通帳・印鑑・権利証・保険証券・現金などの貴重品と重要書類です。古いタンスの引き出しの奥や、仏壇の引き出し、鏡台の裏、押し入れの奥に仕舞われたままになっているケースが多く、引き渡し後に買主側で発見されると、返却のやり取りが一段面倒になります。物量が多くてすべてを仕分ける時間がない場合でも、貴重品が紛れ込みやすい場所だけは事前にひととおり見ておくと安心です。判断に迷う書類が出てきたときは、その場で処分せず、いったん段ボールにまとめて保管しておき、後日あらためて要否を確認する方法もあります。相続手続きに必要な戸籍関係の書類や、固定資産税の納税通知書もこの段階で見つかることが多く、名義変更の手続きにそのまま使える場合があります。
残置物を残したまま売る4つの方法
残置物がある実家を売る方法は、大きく4つに整理できます。どれが向いているかは、物量・立地・売却までにかけられる時間によって変わります。それぞれの特徴を比較表にまとめました。
| 方法 | 内容 | 向いているケース | 費用の考え方 |
|---|---|---|---|
| 現状有姿売買 | 残置物ありのまま仲介で一般の買主に売る | 買主が処分前提でリフォーム・解体を予定している場合 | 買主が処分費用を見込んで指値をしやすい |
| 空き家買取業者への売却 | 訳あり物件専門の買取業者に直接売る | スピード重視、内見対応や交渉の手間を省きたい場合 | 買取価格は仲介の想定売却額より低めになりやすい |
| 処分費控除の価格交渉 | 査定額から処分費用相当額を差し引いた条件で仲介に出す | 残置物の量が把握できており、費用の見積もりが取れる場合 | 処分費用の見積書があると交渉の根拠になる |
| 先に片付けてから売却 | 遺品整理・生前整理で片付けたうえで仲介に出す | 実需向けに高値・早期売却を狙いたい場合 | 片付け費用は先に発生するが内見の印象と価格に反映されやすい |
それぞれの向き不向き
現状有姿売買は、買主が最初から解体や大規模リフォームを前提にしているケースで選ばれやすい方法です。片付ける手間そのものが省ける一方、買主候補が限られるため、売却までの期間が読みにくい面があります。空き家買取業者への売却は、内見対応や複数回の交渉を省き、短期間で現金化したい場合に向いています。ただし買取価格は、業者が転売・再生にかけるコストを見込んで算定するため、仲介で時間をかけて売る場合の想定額より低くなりやすい点は理解しておく必要があります。買取業者は自社で購入する形をとるため、一般の買主を探す仲介と違い、内見希望者の対応や広告掲載の期間を挟まずに話が進みやすいのも特徴です。査定から契約までのスピードを重視する場合は、複数の買取業者に同時に問い合わせて条件を比べる方法が現実的です。
処分費控除の価格交渉は、残置物の処分費用をあらかじめ見積もってもらい、その金額を査定額から差し引いた条件で仲介に出す方法です。買主にとっては「片付け済みの物件と同じ感覚で検討できる」利点があり、売主にとっては片付けの手間をかけずに交渉材料を明確にできる利点があります。先に片付けてから売却する方法は、内見時の印象が良くなるため実需層に響きやすく、価格や売却スピードの面で有利になりやすい傾向があります。ただし片付け費用を売却前に自己負担する必要があり、資金繰りの都合で選びにくい場合もあります。
どの方法が合うかは、実家の立地・築年数・残置物の量、そして売主がどれだけ時間をかけられるかによって変わります。判断に迷う場合は、片付けありと片付けなしの両方の条件で査定を取り、金額の差と手間を比べたうえで決めることをおすすめします。査定の取り方は実家売却の査定の受け方で詳しく解説しています。
残置物ありでも売れやすい物件・売れにくい物件の特徴
同じ残置物ありの状態でも、需要のつき方は物件によって差があります。駅から近い、幹線道路に面している、再建築が可能な広さの敷地があるといった条件が揃っている実家は、買主側が解体や大規模リフォームを見込んで購入するため、残置物があっても比較的動きやすい傾向があります。逆に、接道条件を満たさない再建築不可の土地や、山間部・過疎地域で買い手そのものが少ないエリアでは、残置物の有無にかかわらず売却まで時間がかかりやすく、片付けの有無が価格に与える影響も小さくなりがちです。
建物の状態も判断材料になります。雨漏りやシロアリの被害が進み、解体を前提とせざるを得ない家屋であれば、残置物を片付けても内見時の印象改善にはつながりにくく、現状有姿のまま買取業者に相談したほうが手間に見合う結果になりやすい場合があります。一方、建物の状態が良く、実需層が住居として検討できる物件であれば、片付けて内見の印象を整えたほうが、価格・売却スピードの両面で有利になりやすいというのが実務上の傾向です。
| 物件の傾向 | 残置物ありでの動きやすさ | 優先したい進め方 |
|---|---|---|
| 駅近・再建築可・実需層に人気のエリア | 動きやすい(解体・リフォーム前提の買主が見つかりやすい) | 現状有姿のまま複数社に査定を依頼 |
| 建物の状態が良く住居として使える | 片付けた方が内見の印象が上がりやすい | 片付けてから仲介に出す |
| 再建築不可・接道条件を満たさない | 動きにくい(買主候補が限られる) | 買取業者への相談を優先 |
| 山間部・過疎地域で需要が少ない | 片付けの有無による差が小さい | 売却より活用・解体・国庫帰属も含めて検討 |
現状有姿で売るときの契約書・特約の書き方
残置物を残したまま売る場合、最も重要なのが契約書の書き方です。不動産の売買契約では、引き渡した物が契約内容に適合しない場合、買主が売主に対して修補や損害賠償、契約解除を求められる「契約不適合責任」という仕組みがあります。残置物についても、契約書に「何を、誰の負担で、いつまでに処分するか」を明記していないと、引き渡し後に「聞いていた話と違う」という主張の材料にされる可能性があります。
特約に盛り込みたい要素
現状有姿で売却する場合の特約には、次の要素を具体的に書き込んでおくと、トラブルの芽を減らせます。
- 残置物の範囲——「別紙リストに記載の家財一式」のように、対象を特定できる形で示す。口頭での「だいたいこれくらい」という説明は証拠として残りません。
- 処分の責任者——引き渡し後の残置物の処分は買主が行う旨、または一部は売主が引き渡し前に処分する旨を明記する。
- 処分費用の負担——処分費用を売主・買主のどちらが負担するか、価格に織り込み済みかどうかを明確にする。
- 契約不適合責任の範囲からの除外——残置物の状態や数量について、契約不適合責任の対象としない旨を明記する条項を入れる。ただし、この条項があっても、残置物の存在を故意に隠していた場合などは責任を問われる可能性があります。
- 写真での記録——引き渡し時点の室内の状態を写真で残しておく。「言った・言わない」の水掛け論を避ける材料になります。
トラブルになりやすいパターン
相談を受ける中でよく見られるのが、口頭では「家財は残しても構わない」と伝えていたのに、契約書には残置物に関する記載が一切なかったというケースです。引き渡し後に買主から「処分費用がこれだけかかった。差額を請求したい」と連絡が来て、当初の合意内容を証明できずに対応に苦慮する展開になりがちです。もう一つよくあるのは、仏壇や神棚など宗教的な意味合いを持つ物が残置物リストから漏れており、買主側で処分に困って連絡が来るパターンです。信仰に関わる物は、通常の家財と扱いの感覚が異なるため、リストに明記したうえで供養の要否まで事前に伝えておくと、双方にとって負担が少なくなります。
契約書の作成や特約の文言は、不動産会社や司法書士に相談しながら詰めるのが安全です。売買契約自体の一般的な流れは実家売却の査定の受け方でも紹介しています。
仲介契約と買取契約で、特約の重みが変わる
同じ現状有姿でも、一般の買主を探す仲介契約と、業者に直接売る買取契約とでは、特約の位置づけが異なります。仲介契約では、契約後に買主から個人的な要望や追加交渉が入りやすく、特約の文言があいまいだと、引き渡し直前になって「これも運び出してほしい」といった要求につながることがあります。買取契約では、業者があらかじめ残置物を含めた状態を前提に価格を提示していることが多く、契約後のやり取りは比較的シンプルになりやすい傾向があります。ただし、いずれの契約形態でも、口頭でのやり取りだけに頼らず、残置物の範囲と処分責任を書面に残しておくという基本は変わりません。
残置物の処分費用の相場とケース別シミュレーション
そのまま売るか、片付けてから売るかを判断する材料として、処分費用の相場を把握しておくことが役立ちます。間取り別の目安は、遺品整理・生前整理の相場と同じ考え方で計算できます。
| 間取り | 処分費用の目安 | 作業人数・時間の目安 |
|---|---|---|
| 1R・1K | 3〜8万円 | 1〜2名/1〜3時間 |
| 1DK〜1LDK | 5〜20万円 | 2〜3名/2〜5時間 |
| 2DK〜2LDK | 9〜30万円 | 2〜4名/2〜6時間 |
| 3DK〜3LDK | 15〜50万円 | 3〜5名/4〜8時間 |
| 4LDK以上 | 22〜60万円 | 4〜8名/1〜2日 |
ケース別の試算例
実際の判断は、査定額と処分費用の関係で変わります。3LDKの実家、査定額2,800万円を前提に、二つのケースで比較してみます。数字はあくまで一例で、実際の金額は物件の状態や地域の需要によって変わります。
| ケースA:現状有姿のまま売却 | ケースB:先に片付けてから売却 | |
|---|---|---|
| 査定額の前提 | 買主が処分費用相当を見込み30万円程度の指値 | 片付け済みのため査定額どおり |
| 売却額の目安 | 約2,770万円 | 2,800万円 |
| 片付け費用の負担 | 買主側が引き渡し後に負担(売主の直接負担なし) | 売主が先行負担(3LDKの目安15〜50万円) |
| 手取りの目安 | 約2,770万円-仲介手数料等 | 2,800万円-片付け費用15〜50万円-仲介手数料等 |
このケースでは、片付け費用が査定額の下がり幅より大きければ現状有姿のほうが手取りは多くなり、逆に片付け費用が小さく、内見の印象改善によって想定より高値で売れれば片付けてから売るほうが有利になります。物量が少ない場合や、貴金属・着物など買取で費用を相殺できる品が多い場合は、片付けてから売るほうが総額で有利になりやすい傾向があります。逆に物量が多く処分費用がかさむ見込みの場合や、買主が最初から解体・大規模リフォームを予定している場合は、現状有姿のまま交渉したほうが手間を抑えられます。どちらが得かは物件ごとに異なるため、片付けありとなしの両方で査定を取り、処分費用の見積もりと突き合わせて判断することをおすすめします。
物量が多い4LDK以上の実家や、離れ・納屋がある実家では、処分費用の下限と上限の幅が大きくなります。あらかじめ写真で概算を出してもらい、査定額から差し引かれる可能性のある金額と、自力で片付けた場合の実費を並べて比較しておくと、値引き交渉の場でも根拠を持って対応できます。自分で片付けを進める場合の手順は、後段の「残置物を自分で処分する場合の手順」で紹介しています。
譲渡所得税と空き家の3,000万円特別控除
残置物の処分方法だけでなく、実家を売った際にかかる税金も事前に把握しておく必要があります。不動産を売って利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して譲渡所得税がかかります。
譲渡所得税の基本的な計算方法
課税譲渡所得金額は、次の式で計算します。
課税譲渡所得金額=譲渡価額(売却代金)-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
取得費とは、実家を購入したときの代金や仲介手数料などに、その後の改良費を加えた金額です。建物部分は所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。取得費が分からない場合や、実際の取得費が譲渡価額の5%より少ない場合は、譲渡価額の5%を取得費(概算取得費)として計算できます(国税庁タックスアンサーNo.3208より)。相続で受け継いだ古い実家では、購入当時の契約書が見つからず、この概算取得費で計算せざるを得ないケースも珍しくありません。
税額は、譲渡した年の1月1日時点での所有期間によって税率が変わります。所有期間が5年以下の「短期譲渡所得」は所得税30%・復興特別所得税0.63%・住民税9%の合計39.63%、5年を超える「長期譲渡所得」は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%です(国税庁タックスアンサーNo.3208・No.3211より)。相続した実家の所有期間は、被相続人が取得した日から通算されるため、長年住んでいた実家であれば長期譲渡所得に該当するのが一般的です。
空き家の3,000万円特別控除の要件
相続した実家(被相続人が居住していた家屋とその敷地)を売る場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。適用期間は平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡です。主な要件は次のとおりです(国税庁タックスアンサーNo.3306より)。
- 家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたものであること
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと
- 相続開始の直前に被相続人以外が居住していなかったこと(要介護認定を受けて老人ホーム等に入所していた場合など、一定の要件を満たせば例外あり)
- 相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住の用に供されていないこと
- 家屋を売る場合は譲渡時に一定の耐震基準を満たしていること、または家屋を取り壊して更地にしてから敷地を売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
ここで重要なのは、この特例が問題にしているのは家屋そのものの「耐震性」や「解体の有無」であって、残置物の有無ではないという点です。残置物が残っていること自体は、この特例の適用要件に直接影響しません。ただし、耐震基準を満たさない古い家屋のまま残置物もそのままで売る場合、そもそも要件イの対象にならず、取り壊しを前提とする要件ロで進めることになります。取り壊しの際には残置物を先に搬出しておく必要があるため、解体と片付けのスケジュールを合わせて考えることになります。相続人が3人以上いる場合、令和6年1月1日以後の譲渡では控除額の上限が2,000万円になる点にも注意してください。
試算例:特別控除を使う場合と使わない場合
実家(土地・建物)の譲渡価額3,000万円、取得費が分からないため概算取得費150万円(譲渡価額の5%)、仲介手数料などの譲渡費用100万円、所有期間20年(長期譲渡所得に該当)という前提で試算します。
| 特別控除を使う場合 | 特別控除を使わない場合 | |
|---|---|---|
| 課税譲渡所得金額の計算 | 3,000万円-(150万円+100万円)-3,000万円特別控除=0円 | 3,000万円-(150万円+100万円)=2,750万円 |
| 税額(長期譲渡所得20.315%) | 0円 | 約558万6,600円 |
この試算はあくまで一例であり、実際の取得費や譲渡費用、特例の適用可否によって金額は変わります。最終的な税額は税務署または税理士に確認してください。特例の適用を受けるには確定申告が必要で、市区町村長が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」など複数の添付書類が求められます。書類の準備には時間がかかることがあるため、売却のスケジュールが決まった段階で早めに市区町村の窓口へ相談しておくと安心です。
納税のタイミングにも注意してください。所得税と復興特別所得税は、売却した年の翌年2月16日から3月15日ごろの確定申告期間に申告・納付します。一方、住民税は申告した内容をもとに市区町村が税額を計算し、通常は申告した年の6月以降に納税通知書が届く「普通徴収」の形で別途納めることになります。売却時に受け取った代金をそのまま生活費や実家じまいの費用に充ててしまうと、翌年の住民税の支払いで資金繰りに困ることがあるため、税額の見込みを事前に確認し、納税分を取り分けておくことをおすすめします。
相続税を払っている場合はさらに税額を抑えられることがある(取得費加算の特例)
実家の相続にあたって相続税を納めている場合、その相続税額の一部を譲渡所得の計算上の取得費に加算できる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」も確認しておきたい制度です。相続や遺贈で財産を取得した人に相続税が課税されていることが前提で、相続開始があった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却することが要件になります(国税庁タックスアンサーNo.3267より)。おおよその目安として、相続開始から3年10か月程度以内の売却が対象になると考えておくと分かりやすくなります。取得費に加算できる金額は、その財産に対応する相続税額を基準に計算し、加算後の取得費が譲渡益を超える場合は譲渡益相当額が上限です。なお、同じ家屋・敷地について空き家の3,000万円特別控除の適用を受ける場合、この取得費加算の特例は重ねて使えません(併用不可でどちらか一方を選択)。相続税を納めた実家を売る場合は、どちらの特例を使うほうが有利かをあわせて確認しておくと、申告時の手戻りを防げます。
残置物を売って得たお金は課税されるか
実家の売却とは別に、家財そのものを買取業者に売って現金化する場合の税金も気になるところです。国税庁のタックスアンサーによれば、家具、什器、衣服などの生活に通常必要な動産の譲渡による所得は、原則として所得税がかかりません(国税庁タックスアンサーNo.3105より)。つまり、実家の家財を買取に出して得た代金は、基本的に確定申告の対象外です。ただし、貴金属や宝石、書画、骨とうなどで1個または1組の価額が30万円を超えるものは対象外とされ、譲渡所得として課税される場合があります。着物や掛け軸、茶道具などをまとめて高額で買い取ってもらった場合は、この例外に該当しないか確認しておくと安心です。
残置物を放置したまま売らずにいるリスク
売却の判断がつかず、残置物が残った実家をそのまま空き家にしている期間が長引くと、別のリスクが生じます。人の出入りがない家は換気や通水が行われず、湿気やカビ、害虫の発生が進みやすくなります。庭木が伸び放題になれば近隣とのトラブルの原因にもなり、管理が行き届かない状態が続くと、自治体から「特定空家等」に指定される可能性も出てきます。指定後さらに改善が見られず「勧告」を受けると、固定資産税の住宅用地特例が解除されて税負担が増えるほか、最終的には行政代執行による解体とその費用の請求に至ることもあります。
特定空家等に指定されると、市区町村から助言・指導、勧告、命令という段階を経て、最終的には行政による代執行で解体され、その費用が所有者に請求される仕組みになっています。ここまで進む前に自治体からの連絡に応じて改善すれば行政代執行には至らないのが通常ですが、通知そのものを見落とすと対応が遅れやすくなります。残置物の片付けに迷って動けずにいるなら、まず現状のまま売れるかどうかを不動産会社や買取業者に相談してみることをおすすめします。「片付けが終わってから売却を考える」という順番にこだわらなくても、査定や相談は残置物がある状態のままで受けられます。空き家のまま放置するリスクや管理の考え方は空き家管理の注意点で詳しく解説しています。解体を選ぶ場合の費用や進め方は実家の解体費用と進め方を参照してください。
相続登記・相続土地国庫帰属制度との関係
残置物の処分と並行して確認しておきたいのが、実家の名義です。名義が故人や先代のままでは、不動産会社への売却依頼や解体業者との契約を進めることが基本的にできません。買主や施工業者は登記簿上の所有者と契約する必要があるためです。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、不動産の取得を知った日から3年以内(施行日より前に相続していた場合は原則2027年3月31日まで)に申請しないと、正当な理由なく放置した場合10万円以下の過料の対象になり得ます。売却を検討し始めた時点で、名義の確認と登記の準備を並行して進めておくと、片付けが終わった後の手続きがスムーズになります。
売却が難しい土地の場合、選択肢として相続土地国庫帰属制度もあります。一定の要件を満たせば、土地を国に引き渡せる制度で、審査手数料14,000円と10年分の土地管理費に相当する負担金の納付が必要です。ただし建物が建っている土地は対象外のため、家屋付きの実家でこの制度を使う場合は、残置物の搬出と建物の解体を済ませてから申請することになります。名義変更や制度選択に迷う場合は、早めに司法書士へ相談することをおすすめします。
残置物を自分で処分する場合の手順
業者に依頼せず、自分で残置物を減らしてから売却に臨みたい場合は、次のような順番で進めると効率的です。すべてを自力で片付けるのが難しくても、一部だけ自分で進め、残りを業者に任せる組み合わせも選べます。
- 貴重品・重要書類の仕分け——通帳・印鑑・権利証・保険証券など、前段で触れた品目を優先的に確認します。
- 資産性のある物の見極め——貴金属、着物、骨董品、製造から年数の浅い家電などを分け、買取に出せるかどうかを確認します。買取額が処分費用の負担を軽くする場合があります。
- 供養が必要な物の手配——仏壇・位牌・神棚があれば、菩提寺や業者への閉眼供養・お焚き上げの依頼を早めに検討します。
- 自治体の粗大ごみ・資源ごみに出せる物の仕分け——衣類や古紙、家具の一部は、自治体の収集ルールに沿って自分で出せる場合があります。ただし多くの自治体で申込制・点数制限があるため、物量が多いと時間がかかります。
- 家電4品目・薬剤類の処分先の確認——家電リサイクル法対象品は自治体の粗大ごみに出せないため、販売店やリサイクル業者への引き渡しを事前に手配します。
- 残った物の最終処理——自分で処分しきれない量が残った場合は、その時点で遺品整理業者に依頼する範囲を絞り込みます。全量ではなく一部だけの依頼にすることで、費用を抑えられることがあります。
自分で進める場合の最大のハードルは、搬出と処分場までの運搬にかかる時間と体力です。遠方に住んでいて何度も帰省できない場合や、物量が多く自治体の収集回数の上限に収まらない場合は、無理に自力にこだわらず、部分的にでも業者へ相談することをおすすめします。1R・1K程度の物量であれば、貴重品の仕分けから自治体の粗大ごみ搬出まで週末の数回で終えられることもありますが、3LDK以上で物置や納戸まで物が詰まっている実家では、仕分けだけで数週間、自治体の収集枠を使い切る形で数か月かかることも珍しくありません。着手前に大まかな期間を見積もり、売却や解体のスケジュールと矛盾しないか確認しておくと安心です。
パソコン・スマートフォンに残るデジタル遺品への対応
残置物の片付けでは、家具や家電に目が行きがちですが、パソコンやスマートフォン、外付けハードディスクなどに残る写真・データ・アカウント情報も忘れずに確認しておきたい対象です。処分の前にログインパスワードが分かるものは控えておき、サブスクリプションの契約や、ネット銀行・証券口座など金銭に関わるサービスが残っていないかを確認します。パソコンは資源有効利用促進法に基づき、メーカーや認定リサイクル事業者への引き渡しが基本で、自治体の粗大ごみには出せません。判断がつかないデータが入った機器は、処分を急がず、必要な確認が済むまで手元に残しておく方法が安全です。
不動産会社に相談する前に知っておきたいこと
残置物ありの実家を売る相談は、不動産会社にとって珍しい案件ではありません。ただし、相談の仕方によって提示される条件や進め方が変わることがあるため、次の点は事前に知っておくと交渉がしやすくなります。
「処分は無料でやります」という言葉の裏側
買取業者の中には「残置物の処分費用はいただきません」とアピールする会社があります。これ自体は嘘ではないことが多いのですが、処分費用相当額があらかじめ買取価格に織り込まれているのが一般的です。無料という言葉だけで判断せず、片付けありの想定価格と、残置物ありのままの買取価格を両方提示してもらい、差額が処分費用の相場と見合っているかを確認することをおすすめします。
片付けと買取を一体で行う業者の許可確認
不動産の買取と残置物の処分・買取をまとめて請け負う業者に依頼する場合は、家庭から出る廃棄物を収集運搬するための一般廃棄物収集運搬の許可、家財を買い取って再販するための古物商許可の両方を持っているかを確認しておくと安心です。無許可のまま「まとめて回収します」と持ちかける業者に依頼すると、回収後の廃棄物が不法投棄されるなどの問題が生じた場合、依頼した側も事情を問われる可能性があります。許可番号の提示を求めても差し支えなく、誠実な業者であれば契約前に快く応じてくれます。搬出時の事故に備えた損害保険への加入状況も、あわせて確認しておきたい項目です。
契約前に確認しておきたいチェックリスト
残置物ありで売却の相談をする際、次の項目を確認しておくと、後からの認識違いを防ぎやすくなります。
| 確認項目 | ポイント |
|---|---|
| 残置物リストの作成 | 部屋ごとに残す物・処分する物を書き出し、契約書に添付できる状態にする |
| 処分責任の所在 | 引き渡し後の処分を買主・売主どちらが行うか、契約書に明記されているか |
| 特約の文言 | 「現状有姿」「契約不適合責任の対象外」などの条項が具体的に書かれているか |
| 家電4品目・薬剤類の扱い | 家電リサイクル法対象品や農薬・薬剤の処分ルートが決まっているか |
| 供養が必要な物の扱い | 仏壇・位牌・神棚があれば、供養の要否と手配先を先に伝えているか |
| 片付けありの査定との比較 | 片付けた場合の想定価格も取り、指値の妥当性を判断する材料にする |
片付けずに売る前提であっても、貴金属や着物、骨董品など資産性のある物だけは先に仕分けて査定に出しておくほうが、結果的に手取りを増やせることがあります。残置物のすべてを一括で「まとめて処分」に回してしまう前に、価値のありそうな物だけでも確認しておくことをおすすめします。判断がつかない場合は、遺品整理と買取を扱う専門業者に一度写真で見てもらう方法もあります。
相談前に用意しておきたい書類
残置物ありのまま相談する場合でも、次の書類がそろっていると査定や特例の検討がスムーズに進みます。すべてを一度に用意できなくても、分かる範囲から着手しておくと、後の手続きで慌てずに済みます。
| 書類 | 用途 |
|---|---|
| 登記事項証明書(登記簿謄本) | 名義人・所有権の確認。法務局または登記情報提供サービスで取得できる |
| 固定資産税の納税通知書 | 評価額の確認、登録免許税や取得費の参考資料になる |
| 権利証または登記識別情報通知 | 売却時の本人確認・名義確認に使う |
| 建築時期が分かる書類(建築確認済証など) | 空き家の3,000万円特別控除の要件(昭和56年5月31日以前建築)の確認に使う |
| 購入当時の売買契約書(あれば) | 取得費の算定に使う。見つからない場合は概算取得費で計算する |
片付けと売却、二つの業者にまたがる場合の注意
残置物の処分を遺品整理業者に、売却を不動産会社に、それぞれ別々に依頼する場合は、両者の間で情報が食い違わないようにする調整役が必要になります。たとえば「いつまでに搬出を終えるか」「解体前提の物件かどうか」といった情報が共有されていないと、片付けのスケジュールと内見・引き渡しの日程がずれてしまうことがあります。窓口を分けて依頼する場合は、双方の担当者の連絡先を早い段階で共有し、進捗を都度すり合わせておくと手戻りを防ぎやすくなります。片付けと売却・解体まで一つの窓口でまとめて相談したい場合は、後述する実家じまい代行サービスのように、両方を一体で扱う窓口を利用する方法もあります。
安心実家じまいのサービス案内
安心実家じまいは、実家の片付けから売却・解体の手配までを一つの窓口でお受けする全国対応のサービスです。残置物がある状態のままでのご相談にも対応しており、そのまま売却する場合の想定価格と、片付けてから売却する場合の想定価格の両方をご案内できます。
片付けだけを依頼したい場合は遺品整理サービスで、家の売却・解体まで見据えている場合は実家じまい代行パックが窓口を一本化できて割安です。パック料金は、2DKまで29.8万円、3LDKまで49.8万円、4LDK以上69.8万円〜(税別)が目安で、間取りや物量によって個別に見積もりを出します。料金の全体像は料金表をご覧ください。
相続登記など名義変更の手続きが必要な場合は、提携司法書士と連携して進める体制を整えています。貴金属や着物などの買取による費用の相殺、仏壇や位牌の供養手配も承ります。まずは実家の状態を写真でお送りいただければ、残置物ありのままでの査定と、片付けた場合の想定価格の両方を無料でご案内します。
よくある質問
残置物はそのまま売却できますか?
残置物を残したまま売ると値段は下がりますか?
残置物を処分してから売るのと、そのまま売るのはどちらが得ですか?
残置物を売って得たお金に税金はかかりますか?
遠方に住んでいても残置物ありの実家を売却できますか?
相続税を払った場合、譲渡所得税はどのくらい軽くなりますか?
まとめ
残置物が残った実家でも、契約書の書き方次第でそのまま売却できます。要点を振り返ります。
- 残置物は現状有姿のまま売却できる。残置物リストの添付と特約条項の明記がトラブル防止の要点
- 売る方法は現状有姿売買・空き家買取業者・処分費控除の価格交渉・先に片付けてから売却の4パターン。物量と立地に応じて選ぶ
- 処分費用の相場は間取り別に3〜60万円程度。片付け費用と査定額の差を比べて判断する
- 建物を解体または耐震基準に適合させて売れば、空き家の3,000万円特別控除が使える場合がある。残置物の有無は要件に直接影響しない
- 長期譲渡所得の税率は20.315%、短期は39.63%。取得費が不明な場合は概算取得費(譲渡価額の5%)で計算できる
- 家財の売却で得たお金は原則非課税。ただし30万円超の貴金属・骨とう等は課税対象になり得る
- 相続税を納めている場合は、取得費加算の特例で譲渡所得税をさらに抑えられることがある
- 名義が故人や先代のままだと売却契約が進められない。相続登記の準備は片付けと並行して進める
- 「処分無料」という言葉だけで判断せず、片付けありとなしの両方の査定を比べる
残置物の有無だけで売却をあきらめる必要はありません。まずは現状のまま複数社に査定を依頼し、処分費用の見積もりと突き合わせながら、自分にとって負担の少ない進め方を選んでください。片付け・税金・名義変更のどれか一つでも見通しが立てば、残りの手続きも動かしやすくなります。判断に迷う場合は、片付け・買取・売却・登記のそれぞれの専門家に個別に聞くよりも、窓口を一本化して全体の順序を整理してもらうほうが、結果的に早く進むことがあります。実家じまい全体の進め方は実家じまい代行サービスのページもあわせてご覧ください。
早いこともあります
実家の片付けから処分まで、
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ご相談・お見積もりは無料です。

