
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 空き家の所有者には民法717条(土地工作物責任)と空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)にもとづく管理責任があります。誰も住んでいないからといって責任を免れるわけではありません。
- 台風で瓦が飛んで隣家を壊した、地震でブロック塀が倒れて通行人がけがをしたといった場合、占有者ではなく所有者が無過失で賠償責任を負う可能性が高いのが、居住中の家との大きな違いです。
- 「特定空家等」や「管理不全空家」に指定され勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例(最大1/6軽減)が外れ、税額が数倍になることがあります。
- 放置し続けるより、早い段階で売却・解体・相続登記を進めたほうが、税負担・賠償リスク・管理の手間をまとめて減らせるケースが多いです。不動産会社に相談する前に知っておくべき制度を、このページでまとめて確認できます。
空き家の所有者に法律上の管理責任があるのはなぜか
実家が空き家になったとき、多くの人がまず気にするのは「片付けをどうするか」ですが、法律上はそれ以前に、建物を所有しているという事実そのものから管理責任が生じています。誰も住んでいない、遠方に住んでいて見に行けない、相続の話し合いが済んでいない――といった事情は、責任を軽くする理由にはなりません。ここでは根拠となる2つの法律を整理します。
民法717条(土地工作物責任)とは
民法717条は、建物などの「土地の工作物」に設置または保存の欠陥があり、それによって他人に損害が生じた場合の賠償責任を定めた条文です。ポイントは、責任を負う順番が決まっていることです。
- 第一次的責任は占有者——建物を実際に使用・管理している人(賃貸なら借主、居住中なら住んでいる本人)がまず責任を負います。ただし占有者は、損害の発生を防ぐために必要な注意をしていたことを証明できれば、責任を免れます(過失責任)。
- 占有者が免責される場合は所有者——占有者が注意義務を果たしていたと認められると、今度は所有者が責任を負います。所有者の責任は、注意をしていたかどうかにかかわらず負う「無過失責任」とされているのが特徴です。
空き家には基本的に占有者がいません。つまり、瓦の落下やブロック塀の倒壊といった事故が起きたとき、最初から所有者が矢面に立つ構造になっています。「住んでいないから関係ない」ではなく、「住んでいないからこそ、所有者が全責任を負う」という点を、まず押さえておく必要があります。
なお、民法717条には、損害を賠償した占有者や所有者が、損害の原因について他に責任を負うべき者がいる場合は、その者に対して求償できるという規定もあります。たとえば数年前に行った屋根の補修工事に施工不良があり、それが原因で瓦が飛散したような場合は、所有者が被害者に賠償した後で、施工業者に対して費用の負担を求められる余地があります。工事の見積書や契約書、施工記録を保管しておくことは、いざというときにこの求償権を行使するための備えにもなります。
空家等対策の推進に関する特別措置法における管理責任
2015年に施行された空家法は、空き家の所有者に対し「周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等を適切に管理するよう努めなければならない」という努力義務を課しています。この法律自体は所有者に直接損害賠償を命じるものではありませんが、管理不全な状態が続くと、後述する「特定空家等」や「管理不全空家」に指定され、行政からの助言・指導、勧告、命令、行政代執行という段階的な措置の対象になります。民法717条が「事故が起きた後の賠償責任」を扱うのに対し、空家法は「事故を未然に防ぐための行政上の管理責任」を扱う法律だと考えると整理しやすくなります。
2023年の空家法改正で加わった仕組み
2023年12月13日に施行された改正空家法では、規制の強化だけでなく、所有者を支援する仕組みも新設されました。市区町村やNPO法人・社団法人などが「空家等管理活用支援法人」として指定され、所有者からの相談対応や、空き家の活用・管理に関するマッチング支援を行う制度が導入されています。また、所有者が誰か分からない、あるいは相続人が全員相続放棄をして管理する人がいない空き家について、家庭裁判所に財産管理人の選任を請求できる仕組みも整備されました。規制の強化(管理不全空家の新設)と支援の拡充が同時に進んでいる点は、空き家所有者にとって知っておく価値のある変化です。実家の活用や管理に迷ったときは、自治体の空き家相談窓口や、指定を受けた支援法人に相談できないか確認してみる選択肢もあります。
賃貸中の空き家・借地上の建物の責任は誰が負うか
実家が賃貸に出されている場合や、借地の上に建物がある場合は、責任の所在がやや複雑になります。賃貸中であれば入居者が占有者にあたるため、まずは入居者に管理義務が及びますが、建物の老朽化など構造的な欠陥が原因の場合は、貸主である所有者の責任が問われる可能性があります。借地上の建物では、土地の所有者と建物の所有者が別人であることが多く、工作物責任は原則として建物の所有者(賃借人ではなく建物の名義人)に及びます。名義が誰になっているかを登記で確認しておくことが、責任の所在を把握する第一歩です。
空き家は普通の家より劣化が早い、その理由
「まだ建ってから年数も浅いし大丈夫」と思っていても、無人の家は人が住んでいる家より劣化のスピードが速いことが知られています。理由はいくつか重なっています。まず、換気がされないことで室内に湿気がこもり、木材の腐食やカビの発生が進みます。水回りの排水管は定期的に水を流さないと封水(においや害虫の侵入を防ぐ水のふた)が蒸発し、排水管の劣化や悪臭につながります。人の出入りがないことで害虫やねずみが住み着きやすくなり、床下や天井裏の木材を内側から傷めることもあります。庭木や雑草は誰も手入れをしないまま数年で敷地の外まで伸び、隣地や道路にはみ出す原因になります。防犯面でも、無人であることが外から分かりやすい家は、不審者の侵入や放火のリスクが高まるとされています。こうした劣化の積み重ねが、結果として屋根や外壁、塀の強度を落とし、台風や地震の際に被害が拡大する土台をつくっています。「劣化に気づいていなかった」ことは、法律上は必ずしも免責の理由にならない点も踏まえておく必要があります。
総務省統計局の住宅・土地統計調査によると、2023年時点の全国の空き家数は約900万戸、空き家率は過去最高の13.8%に達しています(2023年・総務省統計局「住宅・土地統計調査」より)。実家が空き家になることは特別な事情ではなく、多くの世帯が同じ課題に直面しているのが実情です。だからこそ、所有者責任の内容を正しく理解し、早めに対応することが重要になります。
相続放棄をすれば管理責任から逃れられるか
「実家が負動産化しているなら相続放棄すればいい」と考える方もいますが、管理責任との関係では注意が必要です。2023年4月1日に施行された改正民法940条では、相続放棄をした人が負う保存義務の範囲が明確化されました。改正後のルールでは、相続放棄をした時点でその財産を現に占有していた場合に限り、次の順位の相続人(または相続財産清算人)が管理を始められるまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務を負うとされています。逆にいえば、放棄時点で実家を占有していなければ、この保存義務は生じません。ただし、相続人全員が相続放棄をして誰も財産を管理しない状態が続くと、空き家は事実上放置され、近隣に被害が及ぶリスクは残ります。最終的に管理者がいない状態が続く場合は、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があり、この手続きには予納金など別途費用がかかります。相続放棄は有効な選択肢の一つですが、「放棄すれば即座にすべての責任から解放される」という単純な話ではない点を理解した上で判断することが大切です。
台風・地震で損害が出たときに所有者はどこまで賠償するか
ここからが、この記事でもっとも読者の関心が高い部分です。実際に自然災害で被害が出た場合、所有者の責任はどこまで及ぶのか、ケースごとに整理します。
台風で屋根瓦・外壁が飛び隣家を傷つけたケース
老朽化した空き家では、瓦のずれや外壁材の劣化が進んでいることが多く、台風の強風で瓦が飛散し、隣家の屋根や車、窓ガラスを損傷させる事故が各地で報告されています。この場合、民法717条にもとづき、所有者が賠償責任を負う可能性が高いとされています。争点になりやすいのは「台風は不可抗力ではないか」という点ですが、実務上は次のように考えられています。
- 通常想定される範囲の台風・強風であれば、事前の点検・補修を怠っていたと評価され、所有者の責任が認められやすい
- 観測史上まれにみる暴風など、通常の管理では防ぎようのない異常な自然力による損害は、不可抗力として争える余地がある
- 実際にどちらと判断されるかは、建物の老朽化の程度、直前の点検の有無、当該地域での台風の想定強度などを踏まえた個別判断になる
つまり「台風のせいだから仕方ない」では済まされない場面が多く、日頃の点検状況が賠償責任の有無を左右します。
ブロック塀・擁壁が倒壊したケース
敷地の境界にあるブロック塀や、高低差のある土地の擁壁も、民法717条の「工作物」に含まれます。地震や豪雨、あるいは経年劣化によって倒壊し、通行人がけがをしたり隣接する車両が損傷したりした場合、所有者が損害賠償責任を負う可能性が高いです。ブロック塀は建築基準法で高さや控え壁の基準が定められており、既存不適格の古いブロック塀(基準を満たさないまま建てられ、その後の法改正で不適合になったもの)は、倒壊リスクが特に高いとされています。実家に古いブロック塀がある場合は、遺品整理や片付けと合わせて塀の状態も確認しておくことをおすすめします。
地震で建物が倒壊し道路をふさいだ・隣家を損壊したケース
大規模地震で空き家が倒壊し、道路をふさいで交通を妨げた場合や、隣接する建物を損壊させた場合も、基本的な考え方は同じです。老朽化した空き家は耐震性が低いことが多く、通常の地震でも倒壊するおそれがあると判断されれば、所有者の管理責任が問われます。一方で、耐震基準を満たした建物が、想定を大きく超える巨大地震で倒壊した場合は、不可抗力として免責される可能性が相対的に高くなります。ただし、これも個別の状況次第であり、「うちは大丈夫」と安易に判断できるものではありません。
「不可抗力」は免責になるか(工作物責任の特殊性)
ここで整理しておきたいのが、工作物責任における所有者の立場です。占有者の責任は「注意を尽くしていたか」という過失の有無で判断される過失責任ですが、所有者の責任は、占有者が注意を尽くしていたにもかかわらず損害が発生した場合に生じる無過失責任です。空き家には占有者がいないため、実質的に所有者がこの無過失責任を直接負う構造になります。無過失責任である以上、「自分に落ち度はなかった」という主張だけでは免責されにくく、争えるのは「そもそも工作物に設置・保存の瑕疵がなかった」「損害の原因が通常の管理では防げない異常な自然力によるものだった」という点に限られます。この立証のハードルは決して低くありません。
地域特性によるリスクの違い
所有者責任のリスクは、実家がある地域の特性によっても重みが変わります。台風の常襲地域や沿岸部では、屋根・外壁の風災対策と、飛来物による第三者への加害リスクへの備えが特に重要です。積雪地域では、大雪による屋根の崩落や落雪事故への備えが優先度の高い課題になります。都市部の住宅密集地では、隣家との距離が近いために、瓦の飛散やブロック塀の倒壊が及ぼす被害の範囲が広くなりやすく、地方の敷地に余裕がある実家と比べて賠償額が高額化しやすい傾向があります。実家がどの地域特性に当てはまるかを踏まえて、点検の優先順位を決めることが効率的な対策につながります。
ケース別損害賠償シミュレーション(独自試算)
実際にどの程度の金額が問題になり得るのか、公表されている裁判例の傾向や修理費の相場をもとに、想定されるケースを整理しました。数値はあくまで目安であり、実際の賠償額は個別の事情や過失割合の認定によって変わります。被害者側の過失(例えば駐車位置が不適切だった等)が認められれば、過失相殺により賠償額が調整されることもあります。
| ケース | 想定される被害 | 賠償額の目安 | 責任の考え方 |
|---|---|---|---|
| 台風で瓦が飛び隣家の屋根・車を破損 | 屋根修理20〜80万円+車の修理10〜50万円程度 | 30〜130万円程度 | 点検不十分なら所有者の無過失責任が及びやすい |
| 老朽ブロック塀が倒壊し通行人が負傷 | 治療費・慰謝料・休業損害 | 数十万円〜数百万円(後遺障害があれば1,000万円超も) | 既存不適格の塀は特に責任が重く評価されやすい |
| 強風で看板・波板が飛び第三者の建物を損傷 | 外壁・窓の修理費 | 10〜100万円程度 | 設置状態の劣化が争点になりやすい |
| 倒壊した空き家が道路をふさぎ通行止め・隣家損壊 | 解体・撤去費用+隣家の修繕費 | 数百万円規模になることもある | 耐震性の欠如が認められると免責は難しい |
この表からわかるのは、被害が「モノ」だけで済むケースはまだ負担を見積もりやすいものの、通行人がけがをするケースでは賠償額が一気に大きくなるという点です。空き家を所有し続けるということは、こうした賠償リスクを常に抱え続けるということでもあります。
共有名義(相続人が複数)の場合、責任は誰が負うか
実家の名義が遺産分割未了のまま相続人全員の共有になっているケースは珍しくありません。この場合、工作物責任は共有者全員が連帯して負うのが原則で、「自分は遠方に住んでいて実質的に管理していなかったから責任がない」という理屈は通用しません。被害者側は共有者のうち誰か一人に対して損害額の全部を請求することもでき、請求を受けた共有者は、支払った後で他の共有者に対して持分に応じた負担を求める(求償する)という形で精算します。相続人同士で「誰が実家の管理をするか」を曖昧にしたまま放置すると、いざ事故が起きたときに責任の押し付け合いが起きやすくなります。早い段階で管理担当を決めておくか、後述する管理代行サービスの利用を相続人間で合意しておくと、こうしたトラブルを防ぎやすくなります。
事務局の相談窓口でよく見られるパターン
相談を受ける中では、賠償責任にまつわる次のようなパターンが繰り返し見られます。心当たりがないか確認してみてください。
- 台風シーズン直前に「屋根が心配」と相談があったが、見積もりから作業日までに時間がかかり、結局補修が間に合わないまま台風を迎えてしまう
- 遠方に住む相続人が「近所の人に頼んで年に一度見てもらっている」と思い込んでいたが、実際は数年前に見回りが止まっていたことが後から判明する
- ブロック塀の傾きに気づいていたが「まだ大丈夫だろう」と先送りにしたまま次の台風シーズンを迎える
- 相続人同士で管理担当を決めないまま数年が経過し、固定資産税の納付だけは誰かが払っているが、現地の見回りは誰も行っていない状態が続く
- 解体を検討し始めたタイミングで、実は火災保険が数年前に失効していたことに気づく
これらに共通するのは、「誰かがやっているだろう」という思い込みと、判断の先送りです。特に台風・地震のリスクは季節や周期で予測しやすい面があるため、点検・補修のタイミングを先送りにしないことが、賠償リスクを避ける最も現実的な方法になります。
特定空家等に指定されるとどうなるか
賠償責任と並んで見落とされがちなのが、行政上の措置です。空き家を放置し続けると、市区町村から「特定空家等」あるいは「管理不全空家」に指定され、段階的に強い措置が取られていきます。
指定の流れ(助言・指導→勧告→命令→代執行)
特定空家等とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある状態、著しく衛生上有害となるおそれがある状態、著しく景観を損なっている状態などにあると市区町村が認めた空き家を指します。指定された場合の流れは次のとおりです。
- 立入調査——市区町村の職員が現地を調査し、建物の状態を確認します。
- 助言・指導——所有者に対し、改善するよう助言や指導が行われます。この段階ではまだ強制力はありません。
- 勧告——改善されない場合、正式に勧告が行われます。この時点で、後述する固定資産税の住宅用地特例が外れます。
- 命令——勧告にも従わない場合、期限を定めた命令が出されます。命令に違反すると50万円以下の過料の対象になり得ます。
- 行政代執行——それでも改善されない場合、行政が所有者に代わって解体・除却などを行い、その費用を所有者に請求します。費用が回収できず自治体の負担になる例も報道されていますが、所有者への請求自体は継続して行われます。
特定空家等の判定基準の目安
特定空家等に該当するかどうかは、国のガイドラインをもとに市区町村が総合的に判断します。判断の基礎となる観点は、大きく次の4つに整理されています。
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある状態——基礎や柱の傾き、屋根の変形、外壁の剥落など、建物の構造耐力に関わる劣化が進んでいる状態
- 著しく衛生上有害となるおそれがある状態——排水設備の破損による汚水の流出、浄化槽の破損、大量のごみの放置などによる悪臭・害虫の発生
- 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態——多数の窓ガラスの破損放置、落書き、看板等の破損放置など
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態——立木の枝の越境や繁茂、動物の侵入・繁殖、破損した屋根材の飛散のおそれなど
これらは一つでも該当すれば即座に指定されるというより、複数の要素を踏まえて市区町村が総合的に判定します。台風で瓦が飛ぶ、地震で外壁が崩れるといった被害は、まさにこの1つ目の基準(保安上の危険)に直結する事象であり、事故が起きる前の段階で既に特定空家等の判定材料になり得る点は覚えておく価値があります。
命令に従わないとどうなるか(過料・公示のリスク)
勧告を経てもなお改善されず命令の段階に進むと、空家法の規定により、市区町村は命令をした事実を敷地内への標識の設置などの方法で公示することになっています。空き家の前に「命令対象物件」であることを示す標識が立てられれば、近隣からも行政指導を受けている物件であることが明らかになります。命令に違反した場合は50万円以下の過料の対象になり得るほか、その後も改善がなければ行政代執行に進みます。金銭的な負担に加えて、こうした公示による対外的な信用への影響も、放置を続けることの実質的なコストとして考えておく必要があります。
越境した庭木への対応(2023年民法改正)
実家の空き家でよくある近隣トラブルが、庭木の枝が隣地や道路に伸びてしまう問題です。2023年4月1日に施行された改正民法233条により、隣地の竹木の枝が境界線を越えている場合、隣地の所有者はまず竹木の所有者(実家の所有者)に切除を催告し、相当期間内に切除されないときは自ら切り取ることができるようになりました。竹木の所有者が不明な場合や、急迫の事情がある場合は、催告なしに切り取ることも認められています。以前は「越境された側が勝手に切ってはいけない」という原則が徹底されていましたが、改正後は空き家の所有者が対応しないまま放置すると、隣地の所有者が自ら対応する流れが生まれやすくなっています。近隣との関係を悪化させないためにも、庭木の越境は見つけ次第、早めに剪定・伐採の手配をすることをおすすめします。
固定資産税の住宅用地特例解除でいくら増えるか(計算例)
特定空家等の勧告を受けると、住宅が建っている土地に適用されていた固定資産税の住宅用地特例(200㎡以下の部分は課税標準額が1/6、200㎡を超える部分は1/3に軽減される仕組み)が対象から外れます。特例が外れると、更地とほぼ同じ水準の課税標準額に基づいて税額が計算されるため、税額が大きく上がります。目安として、次のような試算になります(実際の税額は評価額・自治体の税率・負担調整措置により変動するため、正確な金額は固定資産税課への確認が必要です)。
| 土地の固定資産税評価額 | 特例適用時の年税額目安(1/6軽減・税率1.4%) | 特例解除後の年税額目安(軽減なし) | 年間の増加額目安 |
|---|---|---|---|
| 600万円(150㎡程度) | 約1.4万円 | 約8.4万円 | 約7万円 |
| 1,200万円(180㎡程度) | 約2.8万円 | 約16.8万円 | 約14万円 |
| 2,000万円(200㎡以下) | 約4.7万円 | 約28万円 | 約23万円 |
この増額は、勧告が続く限り毎年発生します。数年間放置すれば数十万円単位の負担増になる計算です。加えて、特例が外れたからといって管理責任がなくなるわけではなく、賠償リスクや命令・代執行の可能性は引き続き残ります。
「管理不全空家」という新しい区分(2023年法改正)
2023年の空家法改正では、特定空家等になる前の段階でも対応できるよう「管理不全空家」という区分が新設されました。そのまま放置すれば特定空家等に該当するおそれがある状態の空き家が対象で、市区町村長の勧告を受けると、特定空家等と同様に住宅用地特例の対象から除外されます。以前は「特定空家等に指定されるまでは大きな不利益はない」という認識が一般的でしたが、この改正により、より早い段階から税負担のリスクが生じるようになった点は、実家を空き家のまま放置している方が特に押さえておくべき変化です。
賠償責任に備える保険と、入っていない場合のリスク
制度上の責任を理解したうえで、実務としてどう備えるかも重要な論点です。空き家であっても加入できる保険があります。
火災保険・施設賠償責任保険の要否
空き家でも火災保険には加入できますが、居住用物件と比べて保険料が高めに設定される場合や、契約できる保険会社・プランが限られる場合があります。放火・漏電による火災、台風による損壊などは火災保険(風災補償)でカバーされることが一般的ですが、地震による損壊は火災保険では原則補償対象外で、地震保険への加入が必要です。地震保険は火災保険とセットでのみ契約でき、保険金額は火災保険金額の30〜50%の範囲内、上限は建物5,000万円・家財1,000万円までとされています。
自分の建物が壊れる被害への備えとは別に、自分の建物が原因で第三者に損害を与えたときの備えとして重要なのが、個人賠償責任保険や施設賠償責任保険です。火災保険の特約や、自動車保険・クレジットカード付帯の個人賠償責任保険で対応できる場合もあるため、実家が空き家になった時点で、既存の契約に賠償責任特約が含まれているか確認しておくことをおすすめします。
空き家保険に入っていない場合の実費負担リスク
保険に未加入のまま事故が起きると、賠償額の全額を所有者個人の資産から支払うことになります。前述のケース別シミュレーションで示したとおり、通行人のけがが絡む事故では賠償額が数百万円規模になることもあり、実家一軒分の資産価値を上回る負担が生じる可能性もゼロではありません。空き家を当面手放さない方針であれば、保険の見直しは後回しにできない項目です。
加入を検討すべき保険の種類(独自整理)
「空き家 保険」で検索すると複数の保険種類が出てきて混乱しやすいため、それぞれの役割を整理しました。
| 保険の種類 | 補償の対象 | 加入のポイント |
|---|---|---|
| 火災保険(空き家用プラン) | 火災・台風などの風災・落雷・破裂爆発による建物の損害 | 居住用より保険料が高め、または引受不可の会社もあるため空き家対応の保険会社を選ぶ |
| 地震保険 | 地震・噴火・津波による建物・家財の損害 | 単独契約不可。火災保険とセットで、保険金額は火災保険の30〜50%の範囲 |
| 施設賠償責任保険 | 建物の設置・管理の不備が原因で第三者に与えた損害の賠償金 | 民法717条の所有者責任に直接対応する保険。空き家所有者が優先的に検討すべき保険 |
| 個人賠償責任保険(特約) | 日常生活で第三者に与えた損害全般の賠償金 | 自動車保険やクレジットカードに付帯していることがあるため、まず既存契約を確認する |
この中でも、台風・地震で第三者に損害を与えたときの賠償責任に直接備えられるのは施設賠償責任保険です。火災保険は「自分の建物が壊れたときの補償」、施設賠償責任保険は「自分の建物のせいで他人に損害を与えたときの補償」という役割の違いを理解しておくと、保険選びで迷いにくくなります。
被害が出たときの罹災証明書と保険金請求の流れ
実際に台風や地震で建物や塀が損傷した場合、あるいは自分の空き家が原因で他人の建物を傷つけてしまった場合、慌てずに次の順序で対応すると手続きがスムーズです。
- 被害状況の写真・動画を撮影する——保険金請求と、相手方への説明の両方に必要になります。全景と損傷箇所の両方を記録しておきます。
- 市区町村に罹災証明書の交付を申請する——台風・地震などの自然災害で建物が被害を受けた場合、市区町村の窓口で罹災証明書(被害の程度を証明する書類)を申請できます。保険金請求や税の減免手続きで求められることがあります。
- 加入している火災保険・施設賠償責任保険の保険会社に連絡する——事故の日時・状況・被害の程度を伝え、必要書類を確認します。相手方がいる事故の場合は、示談交渉を保険会社に任せられるかどうかも確認します。
- 相手方(被害者)への連絡と謝罪——保険会社の指示に沿って進めますが、事実確認ができた段階での早めの連絡は、その後のやり取りを円滑にします。
- 修繕・賠償の完了と記録の保管——支払いや修繕が完了した後も、書類一式は一定期間保管しておくと、後日の問い合わせに対応しやすくなります。
なお、自治体によっては空き家バンクへの登録者向けに、割安な保険料で加入できる空き家所有者向け賠償責任保険を紹介している場合もあります。売却や活用を視野に入れている場合は、空き家バンクへの登録とあわせて、こうした制度の有無を自治体窓口で確認してみる価値があります。
空き家を維持し続けた場合の年間コスト試算(独自試算)
賠償リスクだけでなく、空き家を維持すること自体にも継続的なコストがかかります。売却・解体を検討する際の判断材料として、一般的な木造戸建て(延床30坪・土地150㎡程度、固定資産税評価額は建物300万円・土地800万円と仮定)を維持した場合の年間コストを試算しました。
| 費目 | 年間の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 固定資産税(住宅用地特例適用時) | 約6万円前後 | 建物300万円分+住宅用地特例適用後の土地800万円分の合計。評価額・自治体により変動。特例が外れると建物分を含め数倍になる |
| 都市計画税(市街化区域の場合) | 約1.5万円前後 | 建物・土地合計の目安。市街化区域外では非課税の自治体もある |
| 火災保険・地震保険 | 2〜6万円程度 | 空き家プランは居住用より高めになりやすい |
| 施設賠償責任保険 | 数千円〜1万円程度 | 単体または特約で加入可能 |
| 庭木の剪定・簡易清掃(年1〜2回) | 2〜10万円程度 | 敷地の広さ・樹木の本数により変動 |
| 見回り・管理代行サービス | 0〜12万円程度 | 自分で訪問するなら0円、委託するなら月5,000円〜1万円が目安 |
| 年間合計の目安 | おおよそ12〜37万円程度 | 管理の頻度・委託の有無で幅がある |
特例維持を前提としても、5年間で60万円から185万円程度が積み上がる計算です。ここに特定空家等・管理不全空家の勧告による税額増加や、事故が起きた場合の賠償金が加われば、負担はさらに膨らみます。「今は何も起きていないから維持費だけで済んでいる」という状態は、あくまで一時的なものだと捉えておく必要があります。
空き家の相続・売却にまつわる税制(費用計算例つき)
賠償リスクや税負担を根本的に減らす方法のひとつが、売却または解体です。ここでは実家を売却する際にかかる税金の考え方を、具体的な計算例とともに整理します。
譲渡所得税の基本と空き家の3,000万円特別控除
不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、所得税・住民税(譲渡所得税)がかかります。譲渡所得は「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除」で計算します。税率は、売却した年の1月1日時点での所有期間によって次のように変わります。
| 区分 | 所有期間 | 税率(所得税・復興特別所得税・住民税の合計) |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63%(所得税30%、復興特別所得税0.63%、住民税9%) |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%) |
相続した実家の場合、所有期間は被相続人(親など)が取得した時点から通算されるため、長年住んでいた実家であれば、多くの場合は長期譲渡所得(20.315%)が適用されます。取り急ぎ数年で売却する場合でも、この通算のルールにより短期譲渡になることは通常ありません。
相続した空き家を売る場合に使えるのが「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。国税庁の案内によると、次の主な要件を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)を控除できます(2026年8月時点・国税庁タックスアンサーNo.3306より)。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(区分所有建物登記のあるマンション等は対象外)
- 相続開始直前に被相続人が一人で住んでいた家であること(一定の要件を満たせば老人ホーム入所中も対象)
- 相続の時から譲渡の時まで、事業用・貸付用・居住用に使われていないこと
- 譲渡時に耐震基準を満たしているか、家屋を解体してから土地を売ること
- 相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 適用期限は令和9年(2027年)12月31日までの譲渡であること
評価額別・特別控除の有無による税額シミュレーション(独自試算)
相続した実家の取得費は、被相続人(親など)がその不動産を取得したときの金額をそのまま引き継ぎます。ただし、数十年前に取得した実家では、当時の売買契約書や領収書が残っておらず、取得費が分からないケースが少なくありません。その場合、実務上は譲渡価額の5%相当額を「概算取得費」として計上できる扱いになっています。古い実家ほどこの概算取得費ルールが使われる場面が多く、実際の取得費より低い金額で計算されることで、譲渡所得が大きく計上されやすい点には注意が必要です。次の試算は、この概算取得費のルールを前提に、特別控除を使える場合と使えない場合とで、税額がどれほど変わるかをまとめたものです。
| ケース | 譲渡価額 | 取得費・譲渡費用 | 特別控除の適用 | 課税譲渡所得 | 税額の目安(20.315%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 昭和55年築・要件を満たし解体して売却 | 2,500万円 | 取得費125万円+譲渡費用200万円 | あり(3,000万円) | 0円 | 0円 |
| 昭和55年築・要件を満たし耐震適合で売却 | 4,000万円 | 取得費200万円+譲渡費用250万円 | あり(3,000万円) | 約550万円 | 約111.7万円 |
| 昭和57年築のため要件を満たさず | 4,000万円 | 取得費200万円+譲渡費用250万円 | なし | 約3,550万円 | 約721.2万円 |
建築年が要件(昭和56年5月31日以前)をわずかに外れるだけで、税額が数百万円単位で変わることがこの試算からわかります。実家の建築年や耐震基準の適合状況は、売却を検討し始めた早い段階で確認しておく価値があります。適用の可否は個別事情によって細かく分かれるため、最終的には税理士または不動産会社に確認してください。
相続登記の義務化と名義未変更のリスク
2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産の取得を知った日から3年以内の申請が必要です。過去の相続分についても、原則として2027年3月31日までに登記を済ませる必要があり、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料の対象になり得ます。名義が故人や先代のままでは、不動産会社への売却依頼や解体業者との契約を進めることが基本的にできません。所有者責任を負うのは登記簿上の名義人とは限らず実質的な所有者(相続人)であるため、「名義変更をしていないから自分は責任がない」という理屈は通用しない点にも注意が必要です。相続登記の期限・手続きの詳細は相続登記の義務化とは|期限・過料・実家を相続したらやることで解説しています。
相続土地国庫帰属制度という選択肢
資産価値が低く、活用のめどが立たない土地であれば、一定の要件を満たすことで土地を国に引き渡せる「相続土地国庫帰属制度」も選択肢になります。審査手数料14,000円と、10年分の土地管理費に相当する負担金を納付する必要があり、建物が建っている土地はそのままでは対象外です。実家の建物を解体して更地にしたうえでこの制度を利用する組み合わせも検討に値します。
不動産会社に相談する前に知っておくべきこと
ここまでの内容を踏まえ、不動産会社や解体業者に相談する前に、所有者自身で確認・準備しておくとよい項目をチェックリストにまとめました。印刷してそのまま使える粒度にしています。
| 確認項目 | チェックのポイント |
|---|---|
| 登記名義の確認 | 登記事項証明書を取得し、名義が誰になっているか確認する。故人や先代のままなら相続登記の準備を並行して進める |
| 建築年の確認 | 昭和56年5月31日以前かどうかで、3,000万円特別控除の対象になるかが変わる |
| 耐震基準の適合状況 | 耐震診断・耐震基準適合証明書の有無を確認。適合していなければ解体前提での売却も検討する |
| ブロック塀・擁壁の状態 | ひび割れ・傾き・控え壁の有無を目視確認。危険がある場合は補修または撤去を検討する |
| 屋根・外壁の劣化状況 | 瓦のずれ、外壁材の剥落など、台風時に飛散するおそれのある箇所を確認する |
| 火災保険・地震保険・賠償責任保険の加入状況 | 空き家状態でも契約を継続できているか、賠償責任特約が付いているかを保険会社に確認する |
| 特定空家等・管理不全空家の指定の有無 | 市区町村の空き家対策担当課に、指定や助言・指導を受けていないか確認する |
| 固定資産税の課税明細 | 住宅用地特例が適用されているか、課税明細書の「摘要」欄で確認する |
| 相続放棄の検討有無 | 資産価値より負債・維持費が大きい場合、家財の処分前に司法書士・弁護士へ相談する |
| 複数社への査定依頼 | 売却・解体とも1社だけで判断せず、2〜3社の見積もりを比較する |
不動産会社は物件を預かって初めて仲介手数料が発生する立場のため、面談の場では「早く売った方がいい」という方向の説明に寄りやすい面があります。それ自体は間違いではないことが多いのですが、判断材料である登記・税制・保険の情報は、相談前に自分でも一通り把握しておくと、提案の妥当性を自分の目で確認しながら話を進められます。実家の売却査定の受け方は実家売却の査定の受け方、解体の進め方は実家の解体費用と進め方で詳しく解説しています。
不動産会社の説明を鵜呑みにしない方が良い理由
正直にお伝えすると、不動産会社の中には、所有者にとって最適な選択肢よりも、自社の利益につながる契約形態を優先して勧めてくるケースがあります。代表的なのが媒介契約の種類です。「専属専任媒介」「専任媒介」は他社に重ねて依頼できない契約で、依頼を受けた1社が売主・買主の両方から仲介手数料を得る「両手仲介」につながりやすい構造があります。両手仲介自体は違法ではありませんが、他社からの良い条件の買主候補を意図的に紹介しない「囲い込み」が起きるリスクが指摘されています。「一般媒介」であれば複数社に同時に依頼でき、比較検討がしやすくなりますが、その分どの会社も積極的に動いてくれないというデメリットもあります。どちらが適しているかは物件や地域の状況によって異なるため、契約の種類ごとのメリット・デメリットを説明してくれるかどうかは、その会社が誠実に対応しているかを見極める材料になります。
また、根拠を示さないまま高値を約束するような説明をする会社よりも、査定価格の根拠(近隣の取引事例、路線価、建物の劣化状況など)を具体的に示せる会社のほうが、長期的には信頼できる傾向があります。査定は複数社に依頼し、金額だけでなく説明の透明性も比較材料にすることをおすすめします。
空き家所有者の管理責任を減らす具体的な方法
賠償リスクと税負担をどう減らすかは、実家をどうしたいかによって選ぶべき方法が変わります。主な4つの選択肢を比較しました。
自主管理・管理代行サービス・解体・売却の比較表(独自比較)
| 方法 | 費用目安 | 賠償リスク | 税負担 | 向いているケース |
|---|---|---|---|---|
| 自主管理(定期的に自分で訪問) | 交通費・修繕費が随時発生 | 点検頻度が低いと残る | 住宅用地特例を維持しやすい | 近隣に住んでいる、月1回程度は訪問できる |
| 空き家管理サービスに委託 | 月5,000〜1万円程度+報告費用 | 定期点検で早期発見しやすく低減 | 特例を維持しやすい | 遠方在住で当面は解体・売却を決めていない |
| 解体して更地にする | 木造30坪で100〜200万円程度 | 建物由来のリスクは解消(塀等は残る) | 住宅用地特例は失うが管理不全のリスクもなくなる | 建物の老朽化が進み活用の見込みがない |
| 売却する(現状のまま/解体後) | 仲介手数料が中心。解体費は別途 | 所有権移転後は買主の責任に | 譲渡所得税がかかるが特例で軽減できる場合がある | 賠償・税・管理のリスクをまとめて手放したい |
空き家管理サービスは、賠償リスクを抑えながら当面所有を続けたい場合の現実的な選択肢です。管理の頻度や報告内容、緊急時の対応範囲は事業者によって差があるため、契約前に確認しておくと安心です。管理サービスの選び方や費用相場は空き家管理サービスの選び方と費用相場で詳しく紹介しています。一方で、老朽化が進み修繕コストが今後もかさむと見込まれる実家であれば、管理を続けるより解体・売却で根本的にリスクを断つほうが、長期的な負担は小さくなる傾向があります。
台風・地震前にできる最低限の点検チェックリスト
すぐに解体や売却の判断ができない場合でも、次の点検だけは台風シーズン・地震への備えとして行っておくことをおすすめします。
- 屋根瓦・棟板金の浮き、ずれがないか(双眼鏡や写真で下から確認するだけでも把握できます)
- 雨樋の外れ、詰まりがないか
- ブロック塀のひび割れ、傾き、控え壁の有無
- 庭木の枝が越境していないか、倒れそうな枯れ木がないか
- 物置・カーポート・波板など、飛散しやすい設置物の固定状態
- 窓ガラスの割れ、雨戸の破損の有無
- 敷地周囲のフェンス・門扉の固定状態
これらは専門業者でなくても、写真を撮って目視で確認できる範囲です。異常が見つかった場合は、応急的な補修だけでも先に済ませておくと、賠償責任が問われた際に「注意を尽くしていた」ことの証拠にもなります。点検した日付入りで写真を保存しておくことも、後々の説明材料として有効です。
台風・地震以外にも注意しておきたいリスク
所有者責任が問題になるのは台風・地震だけではありません。空き家特有のリスクをあわせて把握しておくと、点検の抜け漏れを防げます。
大雪による屋根の崩落
積雪地域の空き家では、屋根に積もった雪の重みでカーポートや物置が倒壊したり、雪が落下して隣地や道路の通行人に被害を与えたりする事故が起きています。除雪を担う住人がいない空き家は、積雪期に入る前の屋根・雨樋の点検と、必要に応じた雪止め金具の設置が重要になります。
豪雨による浸水・地盤への影響
排水路の詰まりや基礎周りの土砂の堆積を放置すると、豪雨時に敷地内や隣地への浸水被害が広がりやすくなります。長期間放置された空き家では、雨水ますや側溝が落ち葉やごみで詰まっていることも多く、これが原因で隣地に水が流れ込めば、所有者の管理不備が問われる可能性があります。
動物の侵入・不法投棄・放火の誘発
人の出入りがない空き家は、野生動物や野良猫が住み着きやすく、鳴き声やふん尿による近隣トラブルに発展することがあります。また、敷地内にごみが不法投棄されると、それを放置したこと自体が「著しく衛生上有害」な状態として特定空家等の判定要素になり得ます。放火のリスクも軽視できず、庭や玄関先に燃えやすいものを置いたままにしないことや、外から様子が見えにくい死角を作らないことが、防犯上の基本的な対策になります。
空き家所有者責任についてよくある誤解
相談を受ける中では、所有者責任について事実と異なる思い込みをされている方が少なくありません。代表的な誤解を整理しておきます。
誤解1:「火災保険に入っていれば、何が起きても安心」
火災保険は自分の建物が受けた損害を補償するものであり、自分の建物が原因で他人に与えた損害の賠償には基本的に対応しません。第三者への賠償に備えるには、施設賠償責任保険や個人賠償責任特約が別途必要です。また、老朽化を放置していたなど所有者に重大な過失があると判断された場合、保険会社から保険金の支払いが減額されたり、免責事由に該当するとして支払いを拒否されたりする可能性もあります。定期的な点検を怠らないことは、保険金を確実に受け取るためにも重要です。
誤解2:「相続放棄すれば、実家の責任は完全になくなる」
前述のとおり、相続放棄をした時点で実家を占有していた場合は、次の管理者が決まるまで一定の保存義務が残ります。また、相続人全員が放棄した場合でも、空き家そのものが消えてなくなるわけではなく、最終的に相続財産清算人の選任などの手続きが必要になります。「放棄届を出したから翌日から無関係」というわけにはいかない点に注意してください。
誤解3:「誰も気づいていないなら、当面は大丈夫」
近隣からの苦情や自治体からの通知がまだ来ていないというだけで、責任が発生していないわけではありません。事故はある日突然起こるものであり、通知の有無と、事故が起きたときの法律上の責任の有無は別の問題です。むしろ、通知が来ていない段階のほうが対応の選択肢が広く、コストも抑えやすいタイミングだといえます。
誤解4:「遠方に住んでいるので、実質的に管理できないのは仕方ない」
裁判上、遠方に住んでいることや多忙であることは、それ自体では免責の理由になりません。管理会社への委託や、帰省のたびの点検、近隣への連絡先の共有など、「できる範囲で管理体制を整えていたか」が問われます。何もしていない状態と、管理を委託していた状態とでは、万一の事故の際の評価が大きく異なります。
空き家所有者が今日からできる5つの対応
制度と数字を理解した上で、実際に何から手をつければよいかを行動の順番で整理しました。すべてを一度に終わらせる必要はなく、まずは1と2から着手することをおすすめします。
- 登記事項証明書を取得し、名義と共有状況を確認する——法務局の窓口またはオンライン(登記情報提供サービス)で取得できます。名義が故人や先代のままなら、相続登記の準備を並行して進めます。
- 建物の外観を撮影し、点検記録を残す——屋根・外壁・塀・庭木の現状を写真に残しておくと、後日「いつの時点でどんな状態だったか」を説明する材料になります。台風シーズン前・年末など、時期を決めて定点撮影する方法が簡単です。
- 火災保険・地震保険・賠償責任保険の契約状況を保険会社に確認する——空き家になった時点で契約が失効していないか、補償内容が空き家の状態に合っているかを確認します。未加入であれば、この機会に見直します。
- 固定資産税の課税明細書を確認する——住宅用地特例が適用されているか、「摘要」欄などの記載で確認します。特定空家等・管理不全空家の指定や勧告を受けていないかは、自治体の空き家対策担当課に問い合わせれば確認できます。
- 売却・解体・管理継続のどれを軸にするか、家族内で方向性を話し合う——結論を急ぐ必要はありませんが、「当面は維持する」という選択をした場合も、それは能動的な決定として管理体制(自主管理か委託か)とセットで考えます。「決めていない」状態を漫然と続けることが、最もリスクの高い選択です。
あわせて、近隣住民との関係づくりも実務上は効果があります。挨拶がてら連絡先を伝えておく、あるいは町内会・自治会の役員に緊急連絡先を共有しておくだけでも、屋根材が飛びそうになっている、庭木が倒れかかっているといった異変に早く気づいてもらいやすくなります。事故が起きてから対応するより、事故になりそうな段階で連絡をもらえる関係を作っておくほうが、結果的に賠償リスクを大きく下げます。
これらの対応は、司法書士・保険会社・自治体窓口・不動産会社など相談先が分かれるため、一つの窓口でまとめて整理したい場合は、次章でご案内するサービスもあわせてご検討ください。相談内容ごとの主な窓口を一覧にまとめました。
| 相談したい内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 登記名義・相続登記の手続き | 法務局、司法書士 |
| 特定空家等・管理不全空家の指定状況 | 市区町村の空き家対策担当課 |
| 固定資産税・住宅用地特例の適用状況 | 市区町村の資産税課・固定資産税課 |
| 火災保険・地震保険・賠償責任保険の見直し | 契約中の保険会社、保険代理店 |
| 譲渡所得税・3,000万円特別控除の要件確認 | 税務署、税理士 |
| 相続放棄の要否・タイミング | 司法書士、弁護士 |
| 片付け・解体・売却の一括相談 | 安心実家じまいなどの実家じまい代行サービス |
安心実家じまいのサービス案内
安心実家じまいは、実家の片付けから売却・解体の手配までを一つの窓口でお受けする全国対応のサービスです。空き家の所有者責任に関するご相談も、片付けと合わせて承っています。
「特定空家等に指定されそうで不安」「台風が来る前に何とかしたい」「まずは費用感だけ知りたい」といったご相談にも対応します。相続登記など法律手続きが絡む場合は提携司法書士と、解体や売却の判断が必要な場合は提携の解体業者・不動産会社と連携しながら進める体制を整えています。実家じまい全体の進め方は実家じまい代行パックをご覧ください。
お見積もりを確定してからのご契約です。追加の作業が見込まれる場合は作業前に金額を提示し、ご了承をいただいてから実施します。片付けと並行して、登記や税制の確認が必要な場合は早めにお申し出ください。
よくある質問
空き家の所有者にはどんな法律上の責任がありますか?
台風で屋根瓦が飛んで隣家を壊した場合、賠償責任は誰が負いますか?
空き家が「特定空家等」に指定されるとどうなりますか?
空き家を放置した場合と売却・解体した場合、費用はどちらが得ですか?
相続した空き家を売ると税金はいくらかかりますか(3,000万円特別控除は使えますか)?
共有名義(相続人が複数)の場合、賠償責任は誰が負いますか?
空き家の管理を怠ったまま行政代執行された場合、費用はどうなりますか?
まとめ
空き家の所有者責任は、誰も住んでいないからこそ重くのしかかる、という逆説を含んだテーマです。要点を振り返ります。
- 民法717条により、空き家では占有者がいない分、所有者が無過失で賠償責任を負う場面が多い
- 台風での瓦の飛散、地震でのブロック塀倒壊は、点検不十分と評価されると免責されにくい
- 特定空家等・管理不全空家に指定され勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が外れ税額が上がる
- 2023年の法改正で、特定空家等になる前の段階からも税負担のリスクが生じるようになった
- 相続した空き家の売却には3,000万円特別控除があるが、建築年・耐震基準・売却時期など要件が細かい
- 相続登記が未了だと売却も解体もできないため、片付けと並行して名義変更を進める必要がある
- 火災保険・地震保険・賠償責任保険の加入状況を、空き家になった時点で見直す
- 自主管理・管理代行・解体・売却の4つの選択肢を、費用とリスクの両面から比較して判断する
「まだ誰も困っていないから」「そのうち考える」と先延ばしにしている間にも、賠償リスクと税負担は静かに積み上がっていきます。まずは登記名義と建築年、固定資産税の課税明細を確認するところから始めてみてください。片付けから売却・解体まで、判断に迷う部分はまとめてご相談いただけます。実家の片付け方全体の進め方は実家じまい代行サービスをご覧ください。
所有者責任は、実家をどう扱うか決めるまでの「猶予期間」に対して静かに課される負担だと捉えることもできます。維持するなら維持するなりの管理体制を、手放すなら手放すための手続きを、それぞれ能動的に選び取ることが、結果として賠償リスクと税負担の両方を抑える一番の近道になります。判断材料が揃っていない段階でも、まずは現状を整理するところから始めてみてください。
早いこともあります
実家の片付けから処分まで、
窓口ひとつでご相談いただけます。
ご相談・お見積もりは無料です。

