
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 実家を貸せば家賃収入が得られますが、原状回復や仲介手数料などの初期費用の目安は50万〜150万円程度です。水回りの交換や耐震補強まで行う場合はさらに上乗せされます。
- 見落とされがちな注意点として、一度でも賃貸に出すと、将来その家を売るときに使える「空き家の3,000万円特別控除」が使えなくなります(国税庁タックスアンサーNo.3306)。売却の可能性を残したいなら、貸す前に確認しておいてください。
- 契約形態は普通借家契約と定期借家契約の2種類。将来自分や家族が使う可能性があるなら、契約期間の満了で確実に終了できる定期借家契約が現実的です。
- 家賃収入は不動産所得として確定申告が必要で、青色申告なら最大10万円(事業的規模の場合は最大65万円)の特別控除が使えます。空室・滞納・修繕のリスクもあり、実家の状態によっては「貸すより売る」「貸すより解体する」ほうが合理的な場合もあります。
実家を「貸す」「売る」「空き家のまま維持」を比較する
親が施設に入所した、あるいは亡くなって実家が空き家になったとき、選択肢は大きく3つに分かれます。賃貸に出して収益化する、売却して現金化する、そしてどちらも決めずに空き家のまま維持する、の3つです。どれが正解かは家の状態・立地・相続人の人数・将来その家を使う予定があるかによって変わります。まずは全体像を比較しておきます。
| 貸す(賃貸) | 売る(売却) | 空き家のまま維持 | |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 原状回復・仲介手数料等で50万〜150万円程度 | 測量・解体が必要な場合は数十万〜数百万円 | ほぼゼロ(管理費のみ) |
| 毎月の収支 | 家賃収入から管理費・固定資産税等を差し引いた額がプラス | 売却後は収支なし(一時金として入る) | 固定資産税・管理の手間がマイナスのみ |
| 税金の主な論点 | 不動産所得として毎年確定申告 | 譲渡所得税(要件を満たせば3,000万円特別控除) | 固定資産税(特定空家等指定で増税リスク) |
| 将来の自由度 | 普通借家は貸主都合での明け渡しが難しい | 手放した時点で選択肢は確定 | いつでも貸す・売る・解体に方向転換できる |
| 向いているケース | 立地がよく、将来使う予定が明確な実家 | 管理の手間を手放したい、資産価値が下がる前に現金化したい | 相続人間の方針が決まっていない、判断を保留したい期間 |
この表からわかるとおり、「貸す」は初期費用と手間をかけて毎月の収入を作る選択肢であり、「売る」は一度の判断でまとまった現金を得る選択肢です。「空き家のまま維持」は判断を先延ばしにする選択肢に見えますが、固定資産税と管理の手間だけがかかり続け、自治体から「特定空家等」に指定され、改善の勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例が外れて税負担が増えるリスクもあります。売却を軸に検討したい場合は査定の考え方を実家の売却査定の進め方で、解体を視野に入れる場合は費用の目安を実家の解体費用と売却の流れで解説しています。空き家のまま維持する場合に必要な管理の頻度は空き家管理の方法と費用を参考にしてください。
「貸す」がフィットしやすい実家の条件
次の条件に複数当てはまる実家は、賃貸に出す選択肢が現実的になりやすい傾向があります。
- 最寄り駅やバス停まで徒歩圏内で、賃貸需要のあるエリアにある
- 築年数が浅いか、最小限の修繕で入居者を募集できる状態である
- 相続人(きょうだいなど)の間で、当面は売らずに残す方針が一致している
- 将来、自分や子世代がその家に戻って住む可能性がある
- 賃貸管理を任せられる不動産会社が近隣にある
逆に、駅から遠く車が前提の立地、老朽化が進み大規模なリフォームが避けられない家、相続人の間で売却の意向が強い場合は、貸すよりも売却や解体を先に検討したほうが結果的に負担が少ないことがあります。この判断基準は本記事の後半で改めて整理します。
実家を貸す前に確認しておくべきこと
賃貸募集を始める前に、確認しておかないと後から手続きが止まってしまう項目があります。不動産会社に相談する前に、次の点を自分で整理しておくと相談がスムーズです。
名義(相続登記)は済んでいるか
実家の名義が故人や先代のままになっている場合、賃貸借契約の貸主になることができません。賃貸借契約は登記簿上の所有者、または所有者から正式に委任を受けた代理人が結ぶ必要があります。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、不動産の取得を知った日から3年以内の申請が必要です。名義変更が済んでいない実家は、賃貸を検討する前にまず相続登記の見通しを立ててください。
住宅ローンが残っていないか
実家に住宅ローンの残債があり、その融資が「居住用」を条件にしたものである場合、そのまま賃貸に出すと契約条件に違反する可能性があります。金融機関によっては賃貸目的のローンへの借り換えや、事前の承諾が必要です。ローンが残っている実家を貸す場合は、貸し出す前に金融機関へ確認しておく必要があります。
再建築不可・接道義務の有無
建築基準法上の道路に2m以上接していない土地(再建築不可物件)は、建て替えができないだけでなく、大規模なリフォームにも制限がかかる場合があります。賃貸として貸し出すこと自体は可能なケースが多いものの、将来的な建て替えや増改築を前提にした投資は避けたほうが安全です。登記事項証明書や自治体の建築指導課で確認できます。
耐震基準を満たしているか
1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認を受けた建物は「旧耐震基準」に該当します。旧耐震の家をそのまま貸すこと自体に法律上の制限はありませんが、入居希望者が耐震性を懸念して敬遠する場合があります。耐震診断や簡易な補強を行うかどうかは、想定する家賃帯や入居者層に応じて判断してください。
家財が残っていないか
賃貸に出すには、家財をすべて撤去した状態にする必要があります。遺品整理や生前整理が終わっていない実家は、まずそちらを先に済ませてから賃貸の準備に入ることになります。片付けと並行して不動産会社に相談し、リフォームの見積もりだけ先に取っておくと、片付け完了後すぐに募集を始められます。
賃貸募集前の確認事項チェックリスト
不動産会社への相談前に、次の項目を自分で確認しておくと、初回の相談がスムーズに進みます。印刷してそのままお使いください。
| 確認項目 | 確認先・準備するもの |
|---|---|
| 相続登記は完了しているか | 登記事項証明書(法務局で取得可能) |
| 住宅ローンの残債と契約条件 | 金融機関への確認、賃貸利用の可否 |
| 再建築不可・接道義務の有無 | 登記事項証明書、自治体の建築指導課 |
| 建築時期(旧耐震か新耐震か) | 建築確認済証、固定資産税課税明細書 |
| 家財の撤去は完了しているか | 各部屋・収納・屋外物置まで確認 |
| 共有者(他の相続人)の同意 | 賃貸に出す方針について事前に合意形成 |
| 将来その家を使う予定の有無 | 普通借家か定期借家かの判断材料 |
| 固定資産税・都市計画税の年額 | 固定資産税課税明細書 |
実家を賃貸に出す手順
実家を賃貸に出す一般的な流れは、次の8ステップです。物件の状態や地域によって前後することがあります。
- 片付け・遺品整理——家財をすべて撤去し、空の状態にします。仏壇や思い出の品の扱いはこの段階で決めておきます。
- 名義・ローンの確認——相続登記が済んでいるか、住宅ローンの残債と契約条件を確認します。
- 不動産会社への相談・査定——賃貸仲介を扱う地域の不動産会社に、想定家賃と必要なリフォーム範囲を相談します。複数社に相談し、想定家賃の根拠を比較すると精度が上がります。
- リフォーム・原状回復の実施——クリーニング、畳や襖の張り替え、水回りの点検・交換など、想定家賃に見合う範囲で工事を行います。
- 契約形態の決定——普通借家契約にするか、定期借家契約にするかを決めます。将来の使用予定の有無が判断の分かれ目です。
- 入居者募集——不動産会社を通じて募集を開始します。周辺相場より高すぎる設定は空室期間を長引かせる原因になります。
- 賃貸借契約の締結——入居希望者の審査後、契約を結びます。仲介手数料や礼金・敷金の扱いはこの段階で確定します。
- 管理の開始——自主管理か管理会社への委託かを決め、家賃回収・入居者対応・修繕の体制を整えます。
片付けからリフォーム、募集開始までは、物件の状態にもよりますが2〜4か月程度を見込んでおくと現実的です。相続登記や住宅ローンの確認に時間がかかる場合は、さらに前倒しで着手する必要があります。
実家を貸すのにかかる初期費用と収支シミュレーション
「実家 貸す」で検索する方の多くが知りたいのは、結局いくらかかって、いくら残るのかという具体的な数字です。ここでは築30年台の木造戸建て(3LDK・延床100㎡程度)を想定し、最小限のリフォームで貸し出すケースの試算例を示します。実際の金額は物件の状態、地域、依頼する会社によって変わるため、あくまで目安として参考にしてください。
初期費用の内訳(目安)
| 項目 | 内容 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| ハウスクリーニング | 水回り・全体清掃 | 5万〜10万円 |
| 畳・襖・クロスの張り替え | 目立つ傷みがある部屋のみ | 10万〜30万円 |
| 設備点検・簡易修繕 | 給湯器・水栓・建具の調整等 | 5万〜20万円 |
| 仲介手数料 | 家賃1か月分+消費税が上限 | 家賃1か月分程度 |
| 火災保険(施設賠償責任保険込み) | 初年度分 | 1万〜2万円 |
| 広告費(AD) | 空室が長引きやすい物件のみ | 0〜家賃1か月分 |
最小限の対応であれば初期費用の合計は50万〜100万円程度、給湯器の交換や水回り設備の入れ替えまで含めると100万〜150万円程度になるケースが多く見られます。旧耐震の建物で耐震補強まで行う場合は、さらに数十万円から100万円以上が上乗せされます。まずはリフォームなしでどこまで貸せるか、複数の不動産会社に確認してから工事範囲を決めると、無駄な支出を避けられます。
火災保険は、建物本体を対象とする「建物保険」を貸主が、入居者の家具や家電を対象とする「家財保険」を入居者が、それぞれ加入するのが基本です。貸主が加入する保険には、入居者の失火や漏水事故で近隣に損害を与えた際に備える「施設賠償責任保険」を付帯できる商品もあり、賃貸経営を始める際にはあわせて加入を検討しておくと安心です。
年間収支のシミュレーション例
想定家賃を月8万円、管理を不動産会社に委託(管理委託費は家賃の5%が目安)した場合の年間収支の例です。稼働率100%(空室なし)のケースと、稼働率90%(年間約1.2か月分の空室を見込む)のケースを並べます。
| 項目 | 稼働率100% | 稼働率90% |
|---|---|---|
| 年間家賃収入 | 96万円 | 約86.4万円 |
| 管理委託費(家賃の5%) | ▲4.8万円 | ▲4.3万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | ▲8万円 | ▲8万円 |
| 火災保険料 | ▲1.5万円 | ▲1.5万円 |
| 修繕積立(想定) | ▲5万円 | ▲5万円 |
| 年間手取り(税引前) | 約76.7万円 | 約67.6万円 |
(上記は説明のための試算例で、実際の税額・管理費・修繕費は物件と契約内容によって異なります)ここに、後述する不動産所得の所得税・住民税が別途かかります。初期費用を100万円とした場合、税引前の年間手取りが約70万〜77万円ですから、単純計算で初期費用の回収には1年半〜2年程度かかる計算です。ただし空室が長引いた場合や、退去のたびに原状回復費が発生することを考えると、余裕を持った資金計画が必要です。家賃を高く設定しすぎると空室期間が延び、結果的に年間の手取りが下がることもあるため、相場観のある不動産会社に複数見積もりを取ることをおすすめします。
家賃帯別の年間手取り早見表
想定家賃によって年間の手取りがどう変わるか、稼働率90%(年間で約1.2か月分の空室を見込む水準)で試算した早見表です。固定資産税・火災保険・修繕積立の合計を年間14.5万円で固定し、管理委託費を家賃の5%として計算しています。自宅がある地域の家賃相場と照らし合わせて、大まかな見当をつける際にお使いください。
| 想定家賃(月額) | 年間家賃収入(稼働率90%) | 管理委託費 | 年間手取り(税引前) |
|---|---|---|---|
| 5万円 | 約54万円 | 約2.7万円 | 約36.8万円 |
| 8万円 | 約86.4万円 | 約4.3万円 | 約67.6万円 |
| 12万円 | 約129.6万円 | 約6.5万円 | 約108.6万円 |
地方の郊外や車が前提の立地では家賃5万円前後、地方都市の駅近や都市近郊のベッドタウンでは8万〜12万円程度が一つの目安になります。実際の相場は不動産会社が持つ周辺の成約事例で確認するのが最も確実です。
敷金・礼金・保証会社利用料も収支に含めて考える
入居時には、家賃の1〜2か月分程度の敷金・礼金を受け取れることが一般的ですが、地域や物件によっては「礼金なし」「敷金なし」で募集しないと入居者が決まりにくいこともあります。近年は連帯保証人ではなく家賃保証会社の利用を必須とする契約が主流で、保証会社の利用料は入居者負担が一般的ですが、保証会社と契約する分、審査や更新の手間が発生します。敷金は退去時の原状回復費用に充当されるため、収入として計算に含めず、修繕費用の一時的な備えと考えておくほうが実態に近い収支管理になります。
減価償却費の考え方
不動産所得の計算では、建物部分の取得費用を耐用年数に応じて毎年経費計上できる「減価償却費」が節税のポイントになります。たとえば相続時に把握した建物の評価額が500万円、木造の法定耐用年数22年のうち、経過年数を考慮した残存耐用年数を仮に15年とする場合、定額法で年間の減価償却費はおおむね33万円程度になります(500万円÷15年)。ただし、相続で取得した建物の取得費は、亡くなった被相続人の取得費を引き継ぐのが原則で、実際の計算は購入時期・増改築の履歴によって変わります。正確な金額は税理士に確認することをおすすめします。土地部分は減価償却の対象にならない点にも注意してください。
普通借家契約と定期借家契約——どちらを選ぶべきか
実家を貸すときの契約形態は、大きく分けて「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類です。どちらを選ぶかは、その家を将来どうしたいかによって決めるべき、実務上とても重要な判断です。
普通借家契約の特徴
借地借家法に基づく一般的な賃貸借契約です。契約期間は通常2年ですが、期間満了時に貸主側から更新を拒絶するには「正当事由」が必要とされ、単に「自分たちがまた住みたくなったから」という理由だけでは、法律上、更新拒絶が認められにくいのが実情です。長期的に安定した家賃収入を得たい場合には向いていますが、将来その家を自分たちで使う予定がある、あるいは数年後に売却や解体を考えている場合には、契約の終了が思うように進まないリスクがあります。
定期借家契約の特徴
契約であらかじめ定めた期間の満了により、更新なく確実に契約が終了する契約形態です(借地借家法38条)。貸主・借主双方の合意があれば再契約も可能ですが、貸主側が「今回で終了」と決めれば、正当事由がなくても契約を終わらせられます。将来的に実家を売却する、建て替える、家族が戻って住む予定があるなど、期限付きで貸したい事情がある場合は、定期借家契約のほうが後々のトラブルを避けやすくなります。ただし定期借家契約を有効に成立させるには、契約書とは別に「契約の更新がなく、期間満了により終了する」ことを記載した書面をあらかじめ交付し、口頭でもその旨を説明することが法律上の要件になっています。この事前説明を欠くと、契約自体は普通借家契約とみなされてしまい、定期借家のつもりで貸していたのに貸主都合で終了できない、という事態にもなりかねません。契約書の作成と事前説明の手続きは、不動産会社や司法書士に確認しながら進めることをおすすめします。
判断の目安
| 状況 | 向いている契約形態 |
|---|---|
| 将来使う予定はなく、長期の家賃収入を優先したい | 普通借家契約 |
| 数年後に自分や家族が住む可能性がある | 定期借家契約 |
| 数年以内に売却・解体を考えている | 定期借家契約 |
| 相続人の間でまだ将来の方針が固まっていない | 定期借家契約(短めの期間で様子を見る) |
迷った場合は、まず短い期間の定期借家契約から始め、状況が固まった段階で普通借家への切り替えや契約継続を検討する進め方もあります。契約形態の選択は後から変更しにくいため、貸し出す前の段階でしっかり検討しておいてください。
地域の不動産会社と全国チェーンのどちらに相談すべきか
賃貸仲介の相談先は、地域密着の不動産会社と、大手の賃貸仲介チェーンの店舗とに大きく分かれます。地域密着の会社は、周辺の家賃相場や、実際に入居が決まりやすい層(学生・単身赴任者・子育て世帯など)を具体的に把握していることが強みです。大手チェーンは広告の露出範囲が広く、遠方からの問い合わせにも対応しやすい体制が整っています。実家の立地によって向き不向きがあるため、可能であれば両方のタイプに相談し、想定家賃と募集方法の提案を比較することをおすすめします。
空き家バンクや改修補助、マンスリー・シェア型という選択肢もある
一般的な賃貸仲介以外にも、実家の立地や状態によっては検討する価値のある活用方法があります。周辺の不動産会社に相談する際、これらの選択肢も一緒に聞いてみると、賃貸の幅が広がることがあります。
自治体の空き家バンク・改修補助制度
多くの市区町村では、空き家を貸したい・売りたい所有者と、移住や田舎暮らしを希望する人をつなぐ「空き家バンク」制度を運営しています。登録は無料で行える自治体が多く、地域によっては空き家バンク登録物件に限定した改修費用の補助制度が用意されている場合もあります。補助の有無・金額・対象工事の範囲は自治体ごとに大きく異なるため、実家がある市区町村の空き家対策担当窓口(都市計画課や建築住宅課などが多い)に問い合わせて確認してください。移住者向けの需要が見込める地方の実家では、通常の賃貸仲介より空き家バンク経由のほうがマッチングしやすいこともあります。
マンスリー賃貸・シェアハウス・民泊という選択肢
通常の賃貸借契約以外にも、家具付きで月単位の契約とするマンスリー賃貸、複数人でルームシェアするシェアハウス、旅行者向けに貸し出す民泊(住宅宿泊事業法に基づく届出、または旅館業法の許可が必要)といった活用方法もあります。これらは通常の賃貸より高い収益を狙える可能性がある一方、清掃や運営の手間が増える、自治体によっては営業日数の制限がある、近隣トラブルのリスクが高まるといった注意点もあります。管理を専門業者に委託する前提であれば選択肢になりますが、遠方から自分だけで運営するのは現実的ではないケースが多く、まずは通常の賃貸で検討し、立地や建物の特徴が活かせそうな場合に選択肢として比較する進め方をおすすめします。
家賃収入の確定申告と必要経費
実家を貸して得た家賃収入は「不動産所得」として、毎年の確定申告が必要です。給与所得がある会社員であっても、不動産所得が年間20万円を超える場合は原則として確定申告の対象になります。
必要経費にできる主な項目
- 固定資産税・都市計画税
- 火災保険料・地震保険料
- 管理会社への管理委託費
- 修繕費(原状回復・設備の修理等)
- 減価償却費(建物の取得費用を耐用年数に応じて経費計上)
- ローンが残っている場合の利息部分
- 不動産会社への仲介手数料(募集時)
これらの経費を家賃収入から差し引いた金額が不動産所得となり、給与所得など他の所得と合算して所得税・住民税が計算されます(総合課税)。相続した実家のように取得費が低い、あるいは減価償却がすでに終わっている建物では、経費として計上できる金額が限られる点にも注意が必要です。
青色申告の特別控除
不動産の貸付けが「事業的規模」(おおむね5棟10室以上が目安とされます)に満たない実家1軒の賃貸であっても、青色申告を選択すれば、要件を満たすことで最大10万円の青色申告特別控除が受けられます。事業的規模に該当し、かつ電子申告や優良な帳簿保存などの要件を満たす場合は、最大65万円の控除が受けられる制度もあります。実家1軒のみの貸付けでは65万円控除の対象外となるケースが一般的ですが、青色申告自体は事業的規模でなくても選択できるため、税理士に相談のうえで検討する価値があります。
税金・制度面で見落としやすい注意点
実家を貸すかどうかを判断するうえで、税金や制度面の見落としが後になって大きな影響を及ぼすことがあります。ここでは特に見落とされやすい3点を整理します。
賃貸に出すと「空き家の3,000万円特別控除」が使えなくなる
相続した実家を将来売却する可能性が少しでもある場合、真っ先に確認しておきたいのがこの点です。被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除(国税庁タックスアンサーNo.3306)は、相続または遺贈により取得した家屋や敷地を売却した際、譲渡所得から最高3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)を控除できる制度です。適用期限は令和9年(2027年)12月31日までの譲渡とされています。
この特例の要件の一つに「相続の時から譲渡の時まで、事業の用・貸付けの用・居住の用に供されていたことがないこと」があります。つまり、相続した実家を一度でも賃貸に出すと「貸付けの用に供した」ことになり、その後にその家を売却してもこの特例は使えなくなります。将来的に売却する可能性を少しでも残しておきたいのであれば、貸す前にこの点を確認し、貸す・売るのどちらを優先するかを先に決めておく必要があります。
なお、この特例には賃貸の有無以外にも、譲渡の時に一定の耐震基準を満たしている(またはその後取り壊す)こと、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること、売却代金が1億円以下であることなど、複数の要件があります。貸していないことだけを満たしていれば使える特例ではないため、他の要件も含めて満たすかどうかは税理士や税務署に確認してください。
固定資産税の住宅用地特例は維持される
住宅が建っている土地には、固定資産税の課税標準額を軽減する「住宅用地の特例」があります(200㎡以下の部分は課税標準額が6分の1、200㎡を超える部分は3分の1に軽減)。賃貸として人が住み続ける限り、この特例は維持されます。逆に空き家のまま放置し、自治体から「特定空家等」に指定されたうえで改善の勧告を受けると、この特例が解除され、固定資産税が実質的に増える場合があります。この意味では、賃貸に出すことは空き家放置による増税リスクを避ける効果もあります。
将来売却する場合の譲渡所得税の目安
貸したあとに、あるいは貸さずにそのまま将来売却する場合、売却益(譲渡所得)には譲渡所得税がかかります。税率は所有期間によって異なり、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える「長期譲渡所得」なら税率20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)、5年以下の「短期譲渡所得」なら税率39.63%(所得税30%・復興特別所得税0.63%・住民税9%)です。相続した実家の場合、被相続人が取得した時期から所有期間を通算できるため、長期譲渡所得に該当するケースがほとんどです。
ここで、空き家の3,000万円特別控除が使えるかどうかによる税額の差を具体的に見てみます。譲渡益(売却額から取得費・譲渡費用を差し引いた額)が800万円だったと仮定します。
| 特例が使える場合(貸していない) | 特例が使えない場合(貸した実績がある) | |
|---|---|---|
| 譲渡益 | 800万円 | 800万円 |
| 特別控除 | ▲800万円(3,000万円が上限のため全額控除) | 控除なし |
| 課税譲渡所得 | 0円 | 800万円 |
| 譲渡所得税(長期・20.315%) | 0円 | 約162.5万円 |
このケースでは、賃貸に出した実績があるかどうかだけで、約162万円の税負担の差が生じる計算になります。これが、「貸すかもしれないし、いずれ売るかもしれない」という状態のまま、なんとなく賃貸に出してしまうことを避けたほうがよい最大の理由です。将来の売却を少しでも視野に入れているなら、貸す前にこの試算を頭に入れておいてください。
相続登記と賃貸借契約の関係
前述のとおり、相続登記が済んでいない実家では賃貸借契約の当事者になれません。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、不動産の取得を知った日から3年以内、施行日より前に発生していた相続分は原則2027年3月31日までの申請が必要です。賃貸を検討し始めた段階で相続登記が未了であれば、まずそちらを先に進める必要があります。
実家を貸すことのリスクと対策
家賃収入というメリットの裏側には、相応のリスクがあります。事前に知っておけば対策を取れるものがほとんどです。
- 空室リスク——立地や家賃設定によっては、入居者が決まるまでに数か月かかることがあります。周辺の賃貸相場を確認し、適正な家賃で募集することが空室期間を短くする一番の対策です。
- 家賃滞納リスク——入居者の家賃滞納は珍しくありません。家賃保証会社の利用を契約条件にしておくと、滞納が発生しても管理会社経由で回収してもらえる体制を作れます。
- 原状回復・修繕の負担——入居者の退去時には、経年劣化を超える損耗分の原状回復費用が発生することがあります。国土交通省のガイドラインに沿った契約書を用意し、入居時の状態を写真で記録しておくとトラブルを防ぎやすくなります。
- 明け渡しが思うように進まないリスク——普通借家契約では、貸主都合での契約終了が難しいことは前述のとおりです。将来使う予定があるなら、契約前に定期借家を選んでおくことが最大の対策になります。
- 近隣トラブル——入居者と近隣住民とのトラブルは、実家が地域に長く根付いていた家であるほど、貸主側の心理的な負担になりやすい面があります。管理会社に間に入ってもらう体制を整えておくと安心です。
- 自然災害・老朽化による損害——火災保険は台風・水災・落雷などの自然災害もカバーする内容にしておくと安心です。地震による損害は火災保険では補償されないため、必要に応じて地震保険への加入も検討してください。老朽化した屋根や外壁は、台風シーズン前に点検しておくと、被害の拡大を防ぎやすくなります。
- 相続人間の意見の相違——実家を複数の相続人で共有している場合、賃貸に出す・出さないの判断は共有者全員の合意が前提です。民法上、3年以内の短期の賃貸借(管理行為)は共有者の持分価格の過半数の同意で足りるとされる一方、通常の普通借家契約は共有者全員の同意が必要と解されており、独断で進めるとトラブルの原因になります。
事務局によく寄せられる失敗パターン
実家じまいの相談を受ける中では、賃貸に関して同じようなつまずき方をするケースが繰り返し見られます。あらかじめ知っておくと、同じ失敗を避けやすくなります。
- 相続人のうち一人が「とりあえず貸してみよう」と単独で不動産会社に相談し、他のきょうだいに知らせないまま話が進んでしまい、契約直前になって共有者の同意が得られず白紙に戻る
- 「家賃保証があるから安心」とサブリース契約を結んだものの、2年後の家賃改定で保証額が引き下げられ、想定していた収支より手取りが減る
- 賃貸に出したあとで「やはり売却したい」と考え直したところ、貸付けの用に供したことで空き家の3,000万円特別控除が使えなくなっていたと知り、想定より税負担の大きい売却になる
- 普通借家契約で貸したあと、数年後に自分たちの家族が住む必要が生じたが、借主から更新拒絶に応じてもらえず、明け渡しの交渉に半年以上かかる
これらに共通するのは、貸すという判断を単独で・急いで決めてしまい、相続人間の合意形成や将来の見通しを後回しにしている点です。賃貸は始めるのは比較的簡単でも、途中でやめるのが難しい選択肢であることを踏まえて、契約前に立ち止まって検討する時間を取ることをおすすめします。
不動産会社に行く前に知っておきたいこと
賃貸の相談窓口となる不動産会社は、当然ながら管理委託契約や仲介手数料が自社の収益になります。悪意があるわけではありませんが、相談する側にも知っておいたほうがよい前提があります。
「貸せます」と「貸したほうが得です」は別の話
不動産会社は基本的に、預かった物件をできるだけ貸し出す方向で提案します。しかし本記事で見てきたとおり、賃貸には初期費用・空室リスク・税制上の制約(3,000万円特別控除が使えなくなる点など)が伴います。「貸せますよ」という提案を受けても、それが本当にご自身の状況にとって得なのかは、税金面まで含めて別途整理する必要があります。
サブリース契約の注意点
不動産会社が空室の有無にかかわらず一定の家賃を保証する「サブリース契約」を提案されることがあります。安定収入に見えますが、多くのサブリース契約では数年ごとに保証家賃の見直し条項があり、契約当初の金額がずっと続くとは限りません。契約書の家賃改定条項と、中途解約の条件は事前によく確認してください。
管理委託か自主管理か
管理委託費(家賃の5%前後が相場)を払って不動産会社に任せる方法のほかに、家賃回収や入居者対応を自分で行う自主管理という選択肢もあります。近隣に住んでいて対応できる時間があるなら、自主管理でコストを抑えることも可能です。ただし遠方に住んでいる場合や、トラブル対応に時間を割けない場合は、管理委託費を払ってでも管理会社に任せたほうが結果的に負担が少ないケースが多くなります。
複数社への相談を勧める理由
想定家賃やリフォームの必要範囲は、相談する不動産会社によって提示内容に差が出ることがあります。1社だけの提案を鵜呑みにせず、2〜3社に同じ条件で相談し、想定家賃の根拠とリフォーム提案の内容を比較することをおすすめします。
こんな実家は「貸す」より「売る」「解体する」ほうが向いている
ここまで見てきたとおり、賃貸は万能の選択肢ではありません。次のチェックリストに複数当てはまる場合は、貸すよりも売却や解体を優先して検討したほうが、結果的に負担が少なくなることがあります。印刷してそのままチェックにお使いください。
| チェック項目 | 該当する場合の判断の目安 |
|---|---|
| 最寄り駅・バス停から徒歩20分を超える、または車が生活の前提の立地である | 賃貸需要が限られ、空室が長期化しやすい |
| 大規模なリフォーム(水回り全交換・耐震補強等)が避けられない状態である | 初期費用が家賃収入で回収しにくい |
| 相続人の誰も、将来その家を使う予定がない | 将来の売却も視野に入れるなら、3,000万円特別控除を使える売却が有利な場合がある |
| 相続人の間で「早く現金化したい」という意向が強い | 賃貸は毎月の分配が発生し、共有者間の管理も続くため、売却のほうが精算しやすい |
| 再建築不可物件、または接道義務を満たさない土地である | 将来の資産価値が下がりやすく、早期の売却・解体の検討価値がある |
| 近隣で空き家率が高く、賃貸物件の供給が過剰な地域である | 賃料の下落・空室長期化のリスクが高い |
| 遠方に住んでおり、管理会社に任せてもなお心理的な負担が大きい | 売却して手放すほうが、精神的な負担を減らせる場合がある |
実家じまいの相談窓口では、「とりあえず貸してみたい」というご相談を数多くお受けします。相談の過程で家の立地や状態、相続人の意向を整理していくと、実際には売却や解体のほうが合っている、という結論に至るケースも少なくありません。貸すこと自体を否定するわけではなく、貸すという選択肢が持つ費用・手間・税制上の制約を正しく理解したうえで、売却や解体と比べて判断することが大切です。
山間部や過疎地で、賃貸需要も買い手もほとんど見込めない土地の場合は、建物を解体して更地にしたうえで、国に土地を引き渡す「相続土地国庫帰属制度」も選択肢になります。審査手数料14,000円と、10年分の土地管理費に相当する負担金を納付することで、一定の要件を満たす土地を国庫に帰属させられる制度です。建物が建ったままの土地は対象外のため、利用する場合は解体が前提になります。賃貸にも売却にも見込みが立たない土地を持て余している場合は、法務局に一度相談してみる価値があります。
安心実家じまいでできること
安心実家じまいは、実家の片付けから売却・解体の手配までを一つの窓口でお受けする全国対応のサービスです。賃貸に出すかどうかを検討する前提として、まず家財をすべて片付ける必要がある実家がほとんどですので、「貸す・売る・解体する、どれが向いているか分からない」という段階からのご相談にも対応しています。
賃貸として貸し出す判断をされた場合は、片付け完了後、地域の賃貸仲介に強い不動産会社をご紹介することも可能です。一方で、ここまで見てきたような初期費用や税制上の制約(3,000万円特別控除が使えなくなる点など)を踏まえて、売却や解体のほうが合うと判断された場合は、実家じまい代行パックで片付けから売却・解体までを一括してお受けします。相続登記など法律手続きが絡む場合は、提携司法書士と連携して進める体制です。
まずは実家の状況を写真にまとめてご相談ください。貸す・売る・維持するのどれが向いているか、費用面も含めて整理するお手伝いをいたします。
よくある質問
実家を貸すにはどのくらい費用がかかりますか?
実家を貸すと、将来売るときの3,000万円特別控除は使えなくなりますか?
普通借家契約と定期借家契約はどちらを選ぶべきですか?
遠方に住んでいても実家を貸すことはできますか?
まとめ
実家を貸すという選択肢は、家賃収入という魅力がある一方で、初期費用・空室リスク・税制上の制約まで理解したうえで判断すべき選択肢です。要点を振り返ります。
- 実家を貸す初期費用の目安は50万〜150万円程度。水回りの交換や耐震補強を行う場合はさらに上乗せされる
- 一度でも賃貸に出すと、将来売却時に使える「空き家の3,000万円特別控除」が使えなくなる(国税庁タックスアンサーNo.3306)
- 将来その家を使う予定がある、または数年内に売却・解体を考えているなら定期借家契約が現実的
- 家賃収入は不動産所得として毎年確定申告が必要。青色申告なら特別控除も使える
- 空室・滞納・原状回復・明け渡しのリスクがあり、対策を事前に知っておくことが重要
- 立地・築年数・相続人の意向によっては「貸すより売る」「貸すより解体する」ほうが向いているケースもある
- 賃貸に出す前提として、家財の片付けと相続登記の完了が必要
実家をどうするかは、貸す・売る・維持するのいずれか一つに決めつけず、それぞれの費用と税制上の制約を並べたうえで判断することが、後悔の少ない選択につながります。まずは実家の状態を整理し、片付けから始めることが、どの選択肢を取るにしても共通の第一歩です。売却を軸に検討したい場合は実家の売却査定の進め方を、解体費用の目安は実家の解体費用と売却の流れを、当面は空き家として維持する場合の管理方法は空き家管理の方法と費用をあわせてご覧ください。
早いこともあります
実家の片付けから処分まで、
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