
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 実家の名義変更(相続登記)は2024年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内に行わないと10万円以下の過料の対象になります。
- 2024年3月以前に相続した未登記の実家も対象で、経過措置の期限は2027年3月31日です。期限まで1年半ほどしかありません。
- 登録免許税は固定資産税評価額の0.4%。評価額100万円以下の土地は2027年3月31日まで登録免許税が免税になります。
- 自分で行えば実費は数千円〜数万円、司法書士に依頼すると報酬5万〜15万円程度が目安です。
- 必要書類は遺産分割協議・法定相続分・遺言書ありのケースによって異なります。本文のチェックリストで確認できます。
実家の名義変更(相続登記)とは何か
親が亡くなり実家を相続すると、法務局の登記簿に記録されている所有者(名義人)は、亡くなった親のままになっています。この名義を、実家を相続する人へ書き換える手続きが「相続登記」です。日常の言葉では「名義変更」と呼ばれますが、法律上の正式名称は相続登記であり、法務局に対して行う登記申請という手続きになります。
相続が発生しても、名義は自動的には変わりません。遺産分割協議や遺言によって「誰が実家を相続するか」が決まったら、その内容に沿って登記申請をして初めて、名義が新しい所有者に切り替わります。この手続きを終えるまでは、実家は法律上、亡くなった親の名義のままです。
名義変更をしないとどうなるか
名義変更をしないまま放置すると、次のような不都合が生じます。いずれも実家じまいを考えたときに、直接の障害になるものです。
- 売却できない——不動産の売却は名義人本人(またはその代理人)しか行えません。名義が故人のままでは、買い手が見つかっても契約を進められません。
- 担保に入れられない——実家を担保にした借り入れも、名義変更が済んでいなければ手続きできません。
- 権利関係が複雑になる——名義変更をしないまま次の相続が発生すると、相続人の数がねずみ算式に増えていきます。数次相続と呼ばれる状態になると、必要な戸籍の量も、話し合う相手の数も膨れ上がります。
- 固定資産税が上がる可能性がある——空き家のまま放置され、自治体から「特定空家等」に指定されると、住宅用地の特例が外れて固定資産税の負担が増えることがあります。
- 過料の対象になる——2024年4月1日以降、正当な理由なく期限内に相続登記をしないと、10万円以下の過料の対象になります。詳しくは次の章で説明します。
後回しにするほど手続きが重くなる点は、実家の片付けや家財処分の先送りと同じ構図です。実家じまい全体の進め方は実家じまいの完全ガイドもあわせてご覧ください。
登記簿には何が書かれているか
不動産の登記簿は「表題部」と「権利部」に分かれています。表題部には土地の所在地・地積、建物の構造・床面積といった不動産そのものの情報が記録され、権利部にはさらに「甲区」と「乙区」があります。甲区には所有者が誰かという所有権の情報、乙区には抵当権など所有権以外の権利が記録されます。相続登記で書き換えるのは、この甲区にある所有者の記載です。誰が見ても「今の所有者は誰か」が分かるようにする、というのが登記制度の役割です。
実家の登記簿の内容は、法務局で登記事項証明書(いわゆる登記簿謄本)を取得すれば誰でも確認できます。名義変更を検討し始めたら、まずこの登記事項証明書を取り、現在の名義人が本当に亡くなった親のままになっているか、共有名義になっていないか、抵当権が残っていないかを確認するところから始めるとよいでしょう。
相続登記に関する基礎用語
手続きを進めるうえで出てくる言葉を、先に日常の言葉で押さえておきます。役所や法務局の窓口で聞かれたときに戸惑わないよう、印刷して手元に置いておくと安心です。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 登記事項証明書(登記簿謄本) | 不動産の所在・面積・現在の所有者などが記録された公的な証明書。法務局で誰でも取得できる |
| 固定資産税評価額 | 市区町村が固定資産税を計算するために付けた不動産の評価額。登録免許税の計算のもとにもなる |
| 遺産分割協議書 | 相続人全員が話し合い、誰が何を相続するかを決めた内容をまとめた書面。全員の実印と印鑑証明書が必要 |
| 相続関係説明図 | 被相続人と相続人の関係を家系図のように示した書類。提出すると戸籍の原本が還付される |
| 法定相続情報一覧図 | 法務局が認証する相続関係の一覧図。戸籍の束の代わりに各種相続手続きで使える(後述) |
| 相続人申告登記 | 遺産分割がまとまらないときに、相続人であることだけを法務局へ申し出て義務を果たしたとみなす簡易な制度 |
| 数次相続 | 相続登記をしないうちに次の相続が発生し、相続人が枝分かれして増えていく状態 |
| 成年後見制度 | 認知症などで判断能力が不十分になった人に代わり、家庭裁判所が選んだ後見人が財産管理や契約を行う制度 |
| 家族信託 | 本人が元気なうちに、財産の管理・処分の権限を家族に託しておく契約。認知症による資産凍結への備えとして使われる |
| 相続時精算課税制度 | 生前贈与を受けた財産を、贈与時ではなく将来の相続時にまとめて精算して課税する制度。一定額まで贈与税がかからない |
実家の名義変更はいつまでにやるべきか【義務化と経過措置】
相続登記は、2024年(令和6年)4月1日から法律上の義務になりました。これまでは「いつかやればいい」手続きでしたが、現在は期限が明確に定められています。制度の背景には、名義変更がされないまま放置された「所有者不明土地」が全国で増え、公共事業や取引の妨げになっているという社会問題があります(2026年8月時点・法務省公式サイトより)。
| 相続のタイミング | 登記の期限 | 過料の対象になる場合 |
|---|---|---|
| 2024年4月1日以降に相続を知った場合 | 知った日から3年以内 | 正当な理由なく期限を過ぎたとき |
| 2024年4月1日より前に相続を知っていた場合(未登記のまま) | 2027年3月31日まで | 正当な理由なく期限を過ぎたとき |
| 遺産分割協議がまとまった場合 | 協議成立日から3年以内 | 協議の内容に基づく登記をしなかったとき |
(2026年8月時点・法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」より)注意したいのは、2024年3月以前にすでに相続していた実家も義務化の対象になっている点です。「親が亡くなったのはずいぶん前だから関係ない」ということはなく、むしろ経過措置の期限(2027年3月31日)が先に到来します。本記事の公開時点で、この期限まで1年半ほどしか残っていません。名義変更がまだの実家に心当たりがある場合は、早めに着手することをおすすめします。
過料10万円以下の仕組みと「正当な理由」
期限内に登記をしないと自動的に過料が科されるわけではなく、次のような流れをたどります。まず登記官が義務違反を把握すると、登記をするよう促す催告書が送付されます。催告書の期限内にも登記がされない場合、登記官から裁判所へ通知が行われ、裁判所が過料を科すかどうかを判断します。過料の金額は10万円以下の範囲で裁判所が決定します(2026年8月時点・法務省公式サイトより)。
次のような事情がある場合は、期限内に登記できなくても「正当な理由」として過料の対象から外れることがあります。
- 相続人が極めて多く、戸籍の収集や相続人の把握に長い時間がかかる場合
- 遺言の有効性や遺産の範囲をめぐって相続人間に争いがある場合
- 登記義務を負う人が重病など、それに準ずる事情を抱えている場合
- DV被害者などで避難を余儀なくされている場合
- 登記義務を負う人が経済的に困窮し、申請費用を負担できない場合
ただし「正当な理由」は登記官が個別に判断するものであり、単に手続きが面倒だった、忙しかったという理由は該当しません。相続人が多い、話し合いがまとまらないといった事情がある場合は、次に説明する相続人申告登記の利用も検討してください。
遺産分割がまとまらないときの「相続人申告登記」
相続人同士の話し合いが長引き、3年以内に遺産分割協議書を用意して正式な相続登記まで終えるのが難しい場合に備えて、2024年4月1日から「相続人申告登記」という簡易な制度が新設されました。自分が登記簿上の名義人の相続人であることを法務局へ申し出るだけで、義務を果たしたとみなされる仕組みです。相続人のうち1人だけで申し出ることもできます。
ただし相続人申告登記は、あくまで義務を履行するための応急的な手続きです。不動産についての権利関係を正式に公示するものではなく、この申告だけでは実家を売却したり担保を設定したりすることはできません。遺産分割協議がまとまり次第、その内容に基づく正式な相続登記をあらためて行う必要があります(2026年8月時点・法務省公式サイトより)。期限が迫っているのに話し合いが終わらない場合の「時間稼ぎ」と考えておくとよいでしょう。
名義変更前でも固定資産税は相続人が納める
誤解されがちですが、名義変更(相続登記)が終わっていなくても、固定資産税の納税義務はなくなりません。名義人が死亡すると、市区町村は「相続人代表者指定届」の提出を求めることが多く、届出がなくても実務上は相続人の誰かに納税通知書が送られてきます。相続人全員が連帯して納税義務を負う形になるため、「まだ名義変更していないから税金も払わなくていい」ということにはなりません。固定資産税の請求書が届いたら、遺産分割の話し合いと並行して、誰が立て替えて納めるか、後で精算するかを決めておくとトラブルを防げます。
実家の片付けから処分まで、窓口ひとつでご相談いただけます。
実家の名義変更にかかる費用
費用の内訳は、自分で手続きする場合と司法書士に依頼する場合とで変わります。共通してかかるのは「登録免許税」と「必要書類の取得費」で、司法書士に依頼する場合はこれに「司法書士報酬」が加わります。総額の目安をあらかじめ知っておくことで、遺産分割協議で「誰がいくら負担するか」も話し合いやすくなります。
登録免許税の計算方法
登録免許税は、次の式で計算します。
登録免許税額 = 固定資産税評価額(1,000円未満切り捨て)× 0.4%(1000分の4)(100円未満切り捨て)
固定資産税評価額は、毎年4月頃に市区町村から送られてくる固定資産課税明細書に「価格」または「評価額」として記載されています。紛失している場合は、市区町村で固定資産評価証明書を取得すれば確認できます(2026年8月時点・法務局公式サイトより)。
評価額別に登録免許税を試算すると、次のとおりです。土地と建物がある場合は、それぞれの評価額を合計してから計算します。
| 固定資産税評価額 | 登録免許税(0.4%) |
|---|---|
| 500万円 | 20,000円 |
| 800万円 | 32,000円 |
| 1,000万円 | 40,000円 |
| 1,500万円 | 60,000円 |
| 2,000万円 | 80,000円 |
| 3,000万円 | 120,000円 |
(評価額は端数のない金額で試算。実際は1,000円未満を切り捨てた額に税率を掛け、100円未満をさらに切り捨てます)例えば固定資産税評価額が2,003,500円の場合、1,000円未満を切り捨てて2,003,000円が課税標準となり、これに0.4%を掛けた8,012円から100円未満を切り捨てた8,000円が登録免許税額になります(2026年8月時点・法務局公式サイトより)。
評価額100万円以下の土地は登録免許税が免税
意外と知られていませんが、実家の敷地となる土地の評価額が100万円以下であれば、相続による所有権移転登記の登録免許税は免税になります。この免税措置は令和7年度の税制改正で適用期限が2027年3月31日まで延長され、対象地域も全国の土地に拡大されました(2026年8月時点・法務局公式サイトより)。地方の実家で、建物より土地の評価額のほうが低いケースでは、該当する可能性があります。
注意点が二つあります。一つは、この免税は土地のみが対象で、建物分の登録免許税は通常どおり0.4%がかかることです。もう一つは、免税を受けるには申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税」といった根拠条文を記載する必要があり、記載がなければ免税は適用されません。自分で申請書を作成する場合は記載漏れに注意し、司法書士に依頼する場合も免税の対象になるかどうかを確認しておくとよいでしょう。
必要書類の実費
戸籍謄本や住民票などの取得には、1通あたり数百円の手数料がかかります。相続人の人数や、被相続人の本籍地の移転回数によって取得する通数が変わるため、実費の総額は数千円から数万円まで幅があります。
| 書類 | 手数料の目安 |
|---|---|
| 戸籍謄本 | 450円/通 |
| 除籍謄本・改製原戸籍謄本 | 750円/通 |
| 住民票・住民票の除票 | 300円前後/通(自治体により異なる) |
| 固定資産評価証明書 | 300円前後/通(自治体により異なる) |
| 登記事項証明書(登記簿謄本) | 600円/通(窓口請求)、オンライン請求は520円(送付)・490円(窓口交付) |
(2026年8月時点。戸籍関係の手数料は全国共通の目安、住民票等は自治体条例により異なる場合があります)登記事項証明書の手数料は請求方法によって異なり、古い記事では異なる金額のまま案内されていることもあります。手続き直前に法務局の最新情報で確認してください。
戸籍謄本・住民票・印鑑証明書は、マイナンバーカードを持っていればコンビニのマルチコピー機でも取得できる自治体が多く、窓口より手数料が数十円安く設定されている場合もあります。ただし本籍地と現在の住所が異なる自治体にある場合、戸籍謄本のコンビニ交付には対応していない、あるいは事前の利用登録が必要になることがあります。遠方に住んでいて実家の役所まで行けない場合は、郵送請求とあわせてコンビニ交付が使えるかどうかも確認してみてください。
司法書士に依頼した場合の報酬相場
司法書士に依頼すると、上記の実費に加えて司法書士報酬がかかります。報酬額は事務所によって幅がありますが、相続人が1〜2名で不動産も1件程度のシンプルなケースであれば5万円〜15万円程度が目安です。相続人が多い、不動産が複数の市区町村にまたがる、遺産分割協議がまとまっていないなど、手続きが複雑になるほど加算される傾向があります。依頼前に見積もりを取り、報酬の内訳(基本報酬・戸籍収集の代行費・登記申請費など)を確認しておくと安心です。
自分で行う場合と司法書士に依頼する場合の比較
どちらを選ぶべきかは、時間の余裕、相続人の人数、不動産の状況によって変わります。判断の目安を表にまとめました。
| 自分で手続きする場合 | 司法書士に依頼する場合 | |
|---|---|---|
| 費用 | 登録免許税+実費(数千円〜数万円) | 登録免許税+実費+報酬5万〜15万円程度 |
| かかる時間の目安 | 戸籍収集から申請まで1〜3か月程度(相続人が多いと長期化) | 依頼から完了まで1〜2か月程度が目安 |
| 向いているケース | 相続人が少なく、不動産が1件、遺産分割協議がすでにまとまっている場合 | 相続人が多い、不動産が複数ある、話し合いが難航している、平日に法務局や役所へ行く時間が取れない場合 |
| 注意点 | 戸籍の読み解きや遺産分割協議書の作成に専門知識が必要。不備があると法務局から補正を求められ、その分手続きが長引く | 費用はかかるが、戸籍収集の代行や書類の不備防止、相続に関する相談まで任せられる |
相続税の申告・納付とあわせて確認したいこと
相続登記の期限は「知った日から3年以内」ですが、相続税がかかる場合の申告・納付期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内と、こちらのほうが短く設定されています。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除があり、遺産の総額がこの範囲に収まれば申告は不要です。実家の評価額だけでなく、預貯金や有価証券なども含めた遺産全体で判断するため、心配な場合は早めに税理士へ相談しておくと安心です。名義変更(相続登記)と相続税の申告は別の手続きですが、どちらも同じ戸籍や評価額の資料を使うため、並行して準備を進めると効率的です。
名義変更後に売却する場合の税金の特例
実家を相続したあと、住む予定がなく売却を検討する場合、一定の要件を満たせば「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」(いわゆる空き家の3,000万円特別控除)が使える場合があります。相続した空き家を、耐震基準を満たす状態にする、または取り壊してから売却するなど、細かな要件が定められています。控除額は原則最高3,000万円ですが、令和6年1月1日以後の譲渡については、その空き家を相続した相続人が3人以上いる場合、控除額は1人あたり最高2,000万円までとなる点に注意してください。この特例を使うにも、前提として名義変更(相続登記)が完了している必要があります。適用の可否や必要な手続きは個別の事情によって変わるため、国税庁のホームページまたは税理士へご確認ください(2026年8月時点・国税庁タックスアンサーNo.3306より)。実家じまい全体の費用感は実家じまいの費用相場でも解説しています。
実家の名義変更に必要な書類【ケース別チェックリスト】
必要書類は、実家をどのように相続するかによって変わります。大きく分けると「遺産分割協議による場合」「法定相続分による場合」「遺言書がある場合」の3パターンです。いずれも共通して、被相続人(亡くなった親)の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍がすべて必要になる点は変わりません(2026年8月時点・法務局公式サイトより)。
遺産分割協議による相続の場合
相続人全員で話し合い、誰が実家を相続するかを決めた場合の必要書類です。実務でもっとも件数が多いのがこのパターンで、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要になる点が特徴です。1人でも押印を拒む相続人がいると手続きが止まってしまうため、話し合いの段階で全員の合意を丁寧に取り付けておくことが重要です。印刷してチェックリストとしてお使いください。
- [ ]被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍(本籍地の市区町村で取得)
- [ ]被相続人の住民票の除票、または戸籍の附票(登記簿上の住所と本籍が異なる場合に必要)
- [ ]相続人全員の戸籍謄本(被相続人の死亡日以降に発行されたもの)
- [ ]相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押した印鑑のもの)
- [ ]固定資産課税明細書(登記申請をする年度のもの)
- [ ]新しく所有者になる人の住民票
- [ ]遺産分割協議書(相続人全員が作成・署名押印)
- [ ]相続関係説明図(新しい所有者または代理人が作成)
- [ ]登記申請書(新しい所有者が作成)
- [ ]委任状(代理人が申請する場合のみ)
法定相続分による相続の場合
遺産分割協議をせず、民法で定められた相続割合のまま登記する場合です。相続人全員の共有名義になるため、遺産分割協議書は不要な分、他のケースより早く申請できるのが利点です。ただし共有状態には後述するようなデメリットもあり、「とりあえず急いで登記だけ済ませたい」というとき以外は、あまり選ばれない方法でもあります。
- [ ]被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍
- [ ]被相続人の住民票の除票、または戸籍の附票
- [ ]相続人全員の戸籍謄本
- [ ]固定資産課税明細書
- [ ]相続人全員の住民票
- [ ]相続関係説明図
- [ ]登記申請書(相続人のうち1名が全員分をまとめて申請することも可能)
- [ ]委任状(代理人が申請する場合のみ)
遺言書がある場合(法定相続人が相続する場合)
遺言書の内容に沿って実家を相続する場合です。遺言書があると遺産分割協議が不要になるため、他のケースより必要書類が少なく、手続きもスムーズに進みやすいのが特徴です。ただし遺言書の種類によって、家庭裁判所での検認など追加の手続きが必要になることがあります。
- [ ]遺言書(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のいずれか)
- [ ]自筆証書遺言を法務局に保管していた場合は「遺言書情報証明書」
- [ ]自筆証書遺言を自宅等で保管していた場合は、家庭裁判所での検認済みの証明
- [ ]被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍
- [ ]被相続人の住民票の除票、または戸籍の附票
- [ ]新しく所有者になる人の戸籍謄本・住民票
- [ ]固定資産課税明細書
- [ ]登記申請書
- [ ]委任状(代理人が申請する場合のみ)
兄弟姉妹や孫など、配偶者・子以外の人が遺言によって実家を相続する場合は、その人が法定相続人であることを示す戸籍関係の書類も追加で必要になります。上記はいずれも基本的なケースの一覧で、相続の状況によって追加の書類を求められることがあります。実際の申請前には、法務局の登記手続ハンドブックまたは司法書士へ確認することをおすすめします。
戸籍集めでつまずきやすいポイント
必要書類の中で最も手間がかかるのが、被相続人の出生から死亡までの戸籍です。本籍地を一度も移していなければ1〜2通で済みますが、結婚や転籍で本籍地が変わっている場合は、その都度、当時の本籍地の市区町村へ請求する必要があります。遠方の市区町村には郵送で請求できますが、返送までに1〜2週間かかることもあり、複数の自治体をまたぐと戸籍が全部そろうまでに1か月以上かかるケースも珍しくありません。昔の手書きの戸籍(改製原戸籍)は読み取りにくく、相続人の見落としにつながりやすい書類でもあります。実家が生まれ育った土地から離れた場所にある、親の本籍地が何度も変わっているという場合は、早めに着手するか、司法書士への依頼を検討してください。
法定相続情報証明制度で戸籍集めの手間を減らす
戸籍の束をそろえたら、法務局で「法定相続情報一覧図」の交付を申し出ることができます。これは法定相続情報証明制度と呼ばれる仕組みで、戸籍一式をもとに法務局が相続関係を確認し、認証文付きの一覧図の写しを無料で交付してくれるものです。一覧図の写しは、相続登記だけでなく、預貯金の解約や相続税の申告など、複数の相続手続きで戸籍の束の代わりに使えます。
実家の名義変更にあわせて、銀行口座の解約や株式の名義変更なども控えている場合、この一覧図の写しを複数枚発行してもらえば、同じ戸籍の束を何度も窓口に出し直す手間を省けます。最初の申出には戸籍一式の収集と一覧図の作成が必要なので、手間がゼロになるわけではありませんが、相続手続きが複数にわたる場合は活用を検討する価値があります。
実家の名義変更を自分で行う手順
自分で相続登記を進める場合、大まかな流れは次の6ステップです。相続人の人数や不動産の数によって前後することがあります。
- 登記簿謄本(登記事項証明書)を取得する——法務局の窓口・郵送・オンラインのいずれかで取得し、実家の現在の登記状況(所有者情報や不動産の詳細)を確認します。
- 相続人全員を調査する——被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて集め、法定相続人が誰かを確定します。過去の結婚・離婚や認知など、把握していなかった相続人が見つかることもあります。
- 遺産分割協議を行い、必要書類を集める——遺言書がない場合は相続人全員で話し合い、誰が実家を相続するかを決めて遺産分割協議書を作成します。あわせて、ケース別チェックリストの書類を収集します。
- 固定資産課税明細書を確認し、登録免許税を計算する——評価額に0.4%を掛けて登録免許税額を算出します。評価額100万円以下の土地に該当する場合は、免税措置の適用も確認します。
- 登記申請書を作成する——法務局のホームページから該当する様式(遺産分割・法定相続・遺言のいずれか)をダウンロードし、記載例を参考に作成します。
- 法務局へ申請する——申請先は、申請者の住所地ではなく、相続する不動産の所在地を管轄する法務局です。窓口への持参、郵送、オンライン申請のいずれかで提出します。戸籍謄本などの原本を提出する必要があるため、オンライン申請のみでは完結しません。
申請内容に不備があると、法務局から補正を求められ、その分だけ完了が遅れます。特に遺産分割協議書の内容や戸籍の連続性は間違いが起きやすい部分です。時間に余裕がない、書類に自信が持てないという場合は、早めに司法書士へ相談したほうが結果的に早く終わることもあります。
窓口・郵送・オンライン、どの申請方法が向いているか
法務局への申請方法は3通りあり、それぞれ向き不向きがあります。窓口申請は、不明点をその場で登記官に確認できる安心感がありますが、平日日中に法務局へ足を運ぶ時間が必要です。郵送申請は、遠方に住んでいて実家の管轄法務局まで行けない場合に便利ですが、書類に不備があった場合のやり取りに時間がかかりやすくなります。オンライン申請は登記・供託オンライン申請システムを使う方法で、事前に申請者情報の登録や、場合によっては電子証明書の準備が必要になるため、初めての人には難易度がやや高めです。いずれの方法でも、戸籍謄本などの原本は最終的に法務局へ提出(または郵送)する必要があります。初めて申請する場合は、平日に管轄法務局の登記手続案内(予約制)を利用し、書類一式を確認してもらってから申請すると、補正のやり取りを減らせます。
登記が完了するまでの標準的な処理期間は、申請内容や法務局の混雑状況によって変わりますが、書類に不備がなければ申請から1〜2週間程度で完了することが多いとされています。繁忙期(年度末や年始明けなど)は、これより時間がかかる場合があります。
登記申請書に記載する主な項目
登記申請書には、決まった書式に沿って次のような項目を記載します。法務局のホームページに様式と記載例が公開されているため、様式をダウンロードしてそのまま使うと迷いにくくなります。
- 登記の目的——「所有権移転」と記載します(共有名義の場合は「〇〇持分全部移転」など)
- 原因——「令和〇年〇月〇日相続」のように、被相続人が亡くなった日を記載します
- 相続人——新しく所有者になる人の住所・氏名を記載し、実印を押印します
- 添付情報——戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書など、添付する書類の名称を記載します
- 課税価格・登録免許税——固定資産税評価額と、そこから計算した登録免許税額を記載します
- 不動産の表示——登記事項証明書のとおりに、土地の所在・地番・地目・地積、建物の所在・家屋番号・種類・構造・床面積を正確に転記します
不動産の表示欄は、登記事項証明書の記載と一字一句そろえるのが基本です。手書きで転記する際に地番や家屋番号を書き間違えると、法務局から補正を求められる原因になります。実家の土地と建物が別々の市区町村にまたがる場合は、それぞれの不動産を管轄する法務局ごとに申請が必要になることもあるため、事前に登記事項証明書で所在地を確認しておいてください。
実家に田畑(農地)が含まれる場合の追加の届出
実家の敷地に田畑が含まれている場合、相続登記とは別に、農業委員会への届出も必要になります。相続による農地の取得そのものには農地法の許可は不要ですが、農地法第3条の3の規定により、権利を取得したことを知った日(相続の場合は被相続人が亡くなったことを知った日)からおおむね10か月以内に、農地がある市区町村の農業委員会へ届け出ることが義務付けられています。届出をしなかったり、虚偽の届出をしたりすると、10万円以下の過料の対象になり得ます(2026年8月時点。農地法第3条の3に基づく全国共通の制度)。
この届出は農業委員会に権利取得を知らせるためのもので、法務局への相続登記の代わりにはなりません。農地を含む実家では、法務局での相続登記と、農業委員会への届出の両方が必要になる点を覚えておいてください。遺産分割協議に時間がかかりそうな場合は、先に相続人全員の共有として届出だけ済ませ、協議がまとまった後にあらためて届け出る方法も認められています。田畑や山林が多い地方の実家では見落とされやすい手続きなので、該当する場合は早めに実家がある市区町村の農業委員会へ確認してください。
建物が未登記のままになっている場合
昔ながらの実家では、増築した離れや物置が登記されていない、あるいは建物そのものが一度も登記されていない「未登記建物」であることがあります。未登記の建物は、通常の相続登記(所有権移転登記)ではなく、まず建物の存在を登記簿に記録する「表題登記」を行い、そのうえで相続人名義の「所有権保存登記」を行うという、通常とは異なる手順が必要になります。表題登記は土地家屋調査士の専門分野で、司法書士だけでは対応できません。登記事項証明書を取得しようとして「該当する登記記録がありません」と言われた場合は、未登記建物である可能性が高く、土地家屋調査士への相談が必要になります。古い実家を相続する場合は、早い段階で建物が登記されているかどうかを確認しておくと、後の手続きがスムーズになります。
見落としやすい「実家以外の不動産」の確認方法
相続登記を進める中で、実家の敷地の一部が別筆の土地として登記されていた、離れの物置が別の建物として登記されていた、といった見落としがしばしば見つかります。こうした漏れを防ぐには、実家がある市区町村役場で「名寄帳(なよせちょう)」を取得するとよいでしょう。名寄帳は、その市区町村内で被相続人が所有していた不動産を一覧にした書類で、固定資産税を課税するために市区町村が管理しているものです。名寄帳を取得すれば、登記簿だけでは気づきにくい未登記の建物や、遠く離れた場所にある空き地・山林なども含めて、被相続人名義の不動産をまとめて確認できます。実家以外にも土地を所有していた可能性がある場合は、片付けを始める前に名寄帳で全体像を把握しておくと、後から不動産が見つかって二度手間になることを防げます。
相続人に未成年者や海外在住者がいる場合
相続人の中に未成年の子供がいる場合、親権者がその子の代理人として遺産分割協議に参加することはできません。親自身も相続人であるときは、親と子の利害が対立するとみなされ、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります。孫が相続人になっているケースなどで見落とされやすいポイントです。
相続人が海外に住んでいて日本の住民票や印鑑証明書を用意できない場合は、代わりに現地の日本領事館で発行してもらう「サイン証明(署名証明)」や「在留証明」を使います。取得には予約や日数がかかることが多いため、海外在住の相続人がいることが分かった時点で、早めに手続きを案内しておくと全体の進行が遅れにくくなります。実家じまいでは、離れて暮らすきょうだいの中に転勤や国際結婚で海外に住んでいる人がいるケースも珍しくないため、該当する場合は早い段階で司法書士に相談しておくと安心です。
ケース別シミュレーション:うちの実家はどのパターンに近いか
制度の説明だけでは「結局うちの場合はどうすればいいのか」が分かりにくいため、よくある3つのケースで、必要な手続きと費用感の目安を紹介します。あくまで一般的なモデルケースであり、実際の金額や期間は個別の状況によって変わります。
ケース1:母親が単独で相続し、自分で手続きする場合
父親が亡くなり、実家(固定資産税評価額800万円)を母親が単独で相続するケースです。相続人は母親と子供2人ですが、子供たちは実家を相続する意思がなく、遺産分割協議で母親単独の相続に合意しています。相続人が少なく、話し合いもまとまっているため、母親(または委任を受けた子供)が自分で手続きを進めることも可能です。登録免許税は800万円×0.4%=32,000円、戸籍謄本などの実費が数千円で、司法書士報酬はかかりません。ただし、将来の二次相続や認知症のリスクについては、名義変更前に家族で一度話し合っておくことをおすすめします。
ケース2:子供2人が共有名義で相続し、司法書士に依頼する場合
母親もすでに他界しており、実家(固定資産税評価額1,500万円)を子供2人が2分の1ずつ共有名義で相続するケースです。共有名義は将来の売却で意見が割れるリスクがあるため、遺産分割協議書の作成や説明を含めて司法書士に依頼したとします。登録免許税は1,500万円×0.4%=60,000円、これに実費数千円と司法書士報酬5万〜10万円程度が加わり、総額はおおむね12万〜17万円程度が目安になります。将来的にどちらかが持分を買い取る、または売却時に按分するといった方針も、この段階で決めておくと後のトラブルを防げます。
ケース3:数次相続で相続人が8人に増えている場合
祖父が亡くなった時点で名義変更をしないまま放置され、その後に父も亡くなり、結果として叔父・叔母を含む相続人8人の共有状態になっているケースです。固定資産税評価額は2,000万円としても、登録免許税自体は2,000万円×0.4%=80,000円と変わりませんが、相続人8人分の戸籍・印鑑証明書の収集、遺産分割協議の合意形成には数か月単位の時間がかかることが一般的です。連絡が取りづらい相続人がいる場合は、家庭裁判所の手続きが必要になることもあります。このようなケースでは、司法書士報酬が15万円を超えることもありますが、自分たちだけで進めるより、専門家に早い段階から関わってもらったほうが、結果的に早く・確実に完了することが多いパターンです。
ケース4:売却前提で名義変更から実家じまいまで一括で進める場合
実家(建物の評価額1,120万円、土地の評価額80万円)に住む予定の相続人がおらず、家財の片付けから解体・売却までを一気に進めたいケースです。土地の評価額が100万円以下にあたるため、土地分の登録免許税は免税(0円)、建物分は1,120万円×0.4%=44,800円がかかります(免税は土地のみが対象で、建物には通常どおり課税される点に注意してください)。名義変更が終わっていなければ売却も解体契約もできないため、まずは名義変更を最優先で進め、完了と同時に家財の片付けと並行して売却・解体の見積もりを取るのが効率的な進め方です。安心実家じまいのように片付けと法律手続きを窓口ひとつで相談できるサービスを使うと、名義変更の完了を待たずに片付けの計画だけ先に立てておくこともできます。
実家の名義は誰にする?よくある悩みどころ
相続人が母親(配偶者)と子供の場合、「とりあえず母親名義にしておく」という選択をしがちですが、後になって困るケースが少なくありません。名義を決める前に、次のような視点を押さえておくと判断しやすくなります。
母親名義にする場合に起こりやすい問題
- 認知症になると売却できなくなる——名義人が認知症などで判断能力を失うと、原則としてその人自身の意思で不動産を売却することができなくなります。成年後見制度を使えば売却できる場合もありますが、家庭裁判所の手続きが必要で、時間も費用もかかります。
- 二次相続で登記が2回必要になる——母親が亡くなった際に、あらためて子供への相続登記が必要になります。名義変更の手続きと費用が二重にかかることになります。
- 二次相続時の相続税が高くなる場合がある——一次相続で母親が相続する分を減らし子供が多く相続すると、配偶者の税額軽減を使える一次相続でより多くの資産を圧縮できるケースがあります。財産の内容によって有利不利が変わるため、相続税額に影響が出そうな場合は税理士へ相談することをおすすめします。
認知症による資産凍結が心配な場合は、「家族信託」という選択肢も検討の余地があります。これは、実家の名義を元気なうちから信頼できる家族(多くは子供)に託し、管理や売却の権限を持たせつつ、実家に住む権利や実家を売却した利益を受け取る権利は母親に残しておく仕組みです。名義変更そのものとは別の制度で、契約書の作成や信託口口座の開設など準備に手間がかかりますが、認知症になった後でも決めていた方針どおりに実家を売却・活用できるという利点があります。関心がある場合は、家族信託の実務に詳しい司法書士へ早めに相談してください。
子供名義にする場合の注意点
税金や将来の手続きの面では子供名義のほうが合理的になりやすい一方、実家に住み続ける母親の生活や気持ちへの配慮が欠かせません。「自分が住む家なのに自分の名義ではない」という状況に、抵抗を感じる方もいます。合理性だけで押し切らず、家族で率直に話し合う機会を持つことが大切です。子供が複数いる場合は、実家を継ぐ子供と、他の遺産(預貯金など)を多く受け取る子供とのバランスをどう取るかも、あわせて話し合っておくと後々の不公平感を防げます。
共有名義にする場合の注意点
相続人全員の共有名義にする方法もありますが、売却するには共有者全員の同意が必要になり、誰か一人でも反対すると身動きが取れなくなります。共有者の一人が亡くなればその持分がさらに相続され、名義人がどんどん増えていくおそれもあります。一時的な選択肢としてはあり得ますが、長期的には誰か一人の名義に集約するか、早めに売却するかを検討したほうが、将来のトラブルを避けやすくなります。
生前に名義変更(贈与)する場合との違い
ここまでは親が亡くなった後の相続登記を中心に説明しましたが、実家じまいや生前整理を検討する中で「親が元気なうちに名義を変えておきたい」という相談もよくあります。この場合は相続ではなく「贈与」による名義変更になり、税金の扱いが大きく異なります。
| 相続による名義変更 | 生前贈与による名義変更 | |
|---|---|---|
| タイミング | 親が亡くなった後 | 親が生きている間 |
| 登録免許税率 | 0.4%(1000分の4) | 2.0%(1000分の20) |
| かかる税金 | 相続税(基礎控除を超える場合) | 贈与税(暦年課税の基礎控除は年110万円) |
| 本人の意思確認 | できない(遺言や協議による) | できる |
登録免許税だけを見ても、生前贈与は相続の5倍の税率です。加えて贈与税は相続税より税率が高い傾向があり、実家のように評価額が大きい不動産をそのまま贈与すると、想定以上の税負担になることがあります。相続時精算課税制度など税負担を抑える制度もありますが、一度選択すると後から暦年課税に戻せないなどの制約があります。生前贈与を検討する場合は、名義変更の司法書士報酬に加えて、贈与税の試算を税理士に依頼することをおすすめします。
本人の意思を反映しやすいというメリットがある一方で、税負担の面では相続登記のほうが有利になりやすいのが一般的な傾向です。判断に迷う場合は、生前整理の一環として専門家に相談しながら進めるとよいでしょう。
生前贈与を検討したほうがよいケース
税負担だけを見れば相続を待つほうが有利になりやすいものの、次のような事情がある場合は、生前贈与によって早めに名義を移すことにも意味があります。
- 親の判断能力が低下する前に、実家の活用・売却の方針を子供が決められるようにしておきたい場合
- 相続人になる予定の家族が複数おり、実家を誰が継ぐかで将来もめる可能性が高い場合
- 親自身が「元気なうちに整理しておきたい」と強く希望している場合
逆に、税負担をできるだけ抑えたい、相続人同士で今のところ争いの心配がないという場合は、無理に生前贈与を急がず、相続のタイミングで名義変更する選択のほうが合理的なことが多くなります。どちらが向いているかは家庭の状況によって異なるため、生前整理を考え始めた段階で、司法書士や税理士に一度相談しておくと判断しやすくなります。
実家じまいの現場で見る、名義変更を後回しにした失敗パターン
安心実家じまいでは、片付けや解体・売却のご相談を受ける中で、名義変更が終わっていないために作業が止まってしまうケースにたびたび出会います。現場でよく見られるパターンを紹介します。
- 売却の直前に名義未了が発覚する——買い手が見つかり契約直前になって、実家の名義が祖父母の代のままだったことが分かるケースです。数次相続で相続人が10人以上に増えていることもあり、戸籍を集めるだけで数か月かかることがあります。
- 解体の契約者になれない——解体業者との契約は名義人(またはその相続人代表)と結ぶのが原則です。名義が故人のままでは契約主体が定まらず、解体の着工が延びてしまいます。
- きょうだいの一人と連絡が取れない——遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。疎遠になっているきょうだいや、行方が分からない相続人がいると、協議自体が始められません。こうした場合は、家庭裁判所の手続きや相続人申告登記の活用を含め、早めに司法書士へ相談したほうが選択肢が広がります。
- 空き家バンクや補助金の申請ができない——自治体の空き家バンク登録や解体費補助金の申請には、多くの場合、申請者が名義人であることの証明が求められます。名義変更が済んでいないと、活用や補助金の検討自体が進められません。
片付けや売却・解体を考え始めた段階で、実家の名義が誰になっているかを早めに確認しておくことが、結果的に一番の近道になります。家財の片付けにかかる費用や進め方は実家じまいの費用相場、全体の手順は実家じまいの進め方・手順で詳しく解説しています。
名義変更が終わったあと、実家をどうするか
名義変更を終えたら、次は実家をどう扱うかという選択が待っています。選択肢ごとの特徴を整理しました。名義変更を進めながら、並行して方針を考えておくと、完了後すぐに次の行動へ移れます。
| 選択肢 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 自分や親族が住む | 実家に住みたい家族がいる場合 | 維持管理の負担と固定資産税が継続してかかる |
| 賃貸に出す | 手放したくないが自分では住まない場合 | リフォーム費用がかかることがあり、空室リスクも伴う |
| 売却する | 住む予定がなく、資産を現金化したい場合 | 家財の片付けや、場合によっては解体・修繕が必要になる |
| 解体して更地にする | 建物の老朽化が進み、活用の見込みが低い場合 | 住宅用地の特例が外れ固定資産税が上がる場合がある。自治体の解体費補助金の対象になることもある |
| 空き家バンクに登録する | 地域の移住希望者などに活用してもらいたい場合 | 登録には名義変更の完了と、自治体ごとの登録要件を満たす必要がある |
どの選択肢を取るにしても、まず家財を片付けて建物の状態を確認しないことには判断がつかない、というのが実家じまいの現場でよくある流れです。名義変更と家財の片付けは別の手続きですが、同じタイミングで動かしておくと、全体の完了までの時間を短縮できます。
名義変更の相談先をどう選ぶか
名義変更(相続登記)は司法書士の専門分野です。相続人が少なく書類もそろっている簡単なケースなら自分で行うこともできますが、次のような場合は専門家への相談を検討してください。
- 相続人が多い、または一部の相続人と連絡が取りづらい
- 不動産が複数の市区町村にまたがっている、または未登記の建物が含まれている
- 遺言の内容や遺産の範囲について、相続人の間で意見が分かれている
- 経過措置の期限(2027年3月31日)が近づいているのに、まだ着手できていない
- 相続放棄や相続税の申告など、名義変更以外の手続きも同時に進める必要がある
特に相続放棄を検討している場合は注意が必要です。相続放棄とは、借金などマイナスの財産も含めて、相続そのものを一切引き継がないことを家庭裁判所に申し立てる手続きで、相続の開始を知った日から原則3か月以内に行う必要があります。実家の家財や不動産の一部でも処分・売却してしまうと、法律上「相続を単純承認した」——つまり財産もマイナスの借金もすべて引き継ぐことを認めた——とみなされ、後から相続放棄ができなくなることがあります。名義変更の手続き自体もこの単純承認にあたる可能性があるため、放棄を迷っている段階では、名義変更はもちろん、遺品の処分にも着手する前に司法書士や弁護士へ相談してください。実家の資産価値より負債のほうが大きそうな場合や、維持管理の負担だけがのしかかりそうな場合に、相続放棄は有力な選択肢になります。
安心実家じまいでは、実家の片付けから売却・解体の手配までを窓口ひとつでお受けしており、名義変更や相続登記が関わる場合は提携司法書士と連携して進めます。実家じまい代行パックでは、片付けと並行して法律手続きの相談も受け付けています。まずは実家の状況と、名義がどうなっているかが分かる範囲で、LINEで無料相談ください。
司法書士に依頼するときに確認したいこと
司法書士は全国に多数の事務所がありますが、報酬や対応範囲には差があります。依頼前に次の点を確認しておくと、後からの行き違いを防げます。
| 確認項目 | ポイント |
|---|---|
| 見積もりの内訳 | 基本報酬・戸籍等の収集代行費・登記申請費・実費が分かれて記載されているか |
| 相続登記の実績 | 相続登記や不動産の名義変更を専門・得意分野としているか |
| 対応できる範囲 | 遺産分割協議書の作成、相続放棄の相談、相続税の試算(税理士との連携)まで対応できるか |
| 遠方対応の可否 | 郵送やオンラインでのやり取りで完結できるか、現地訪問が必須かどうか |
| 免税措置・特例の把握 | 評価額100万円以下の土地の免税措置など、最新の制度を踏まえた提案をしてくれるか |
複数の事務所から見積もりを取って比較することは、遺品整理や解体業者を選ぶときと同じように有効です。金額の安さだけでなく、相続関係の複雑さに対応できる実績があるかどうかも判断材料にしてください。
無料で相談できる公的な窓口
まず制度の概要だけ知りたい、依頼するかどうか決める前に一度相談したいという場合は、公的な無料相談窓口も利用できます。
- 法務局の登記手続案内(予約制)——不動産を管轄する法務局で、申請書の書き方や必要書類について案内を受けられます。管轄法務局は法務局ホームページの「管轄の御案内」で調べられます。
- 日本司法書士会連合会の相続登記相談センター——フリーダイヤル0120-13-7832(平日10:00〜16:00、年末年始・お盆期間を除く)で、近くの司法書士会の相談窓口を案内してもらえます(2026年8月時点・日本司法書士会連合会公式サイトより)。
- 市区町村の無料法律相談——多くの自治体で、司法書士や弁護士による定期的な無料相談会が開かれています。開催日時は市区町村の広報やホームページで確認できます。
公的窓口は制度の説明や一般的なアドバイスが中心で、実際の書類作成や申請の代行までは行っていないのが一般的です。込み入った事情がある場合や、早く確実に終わらせたい場合は、有償での依頼にあわせて活用するとよいでしょう。
実家の名義変更でよくある誤解
相談を受けていると、事実と異なる思い込みのまま手続きを先延ばしにしているケースによく出会います。代表的な誤解を整理しました。
- 「空き家のまま固定資産税さえ払っていれば問題ない」——固定資産税を納めていても、名義変更をしていなければ売却・担保設定はできません。税金の支払いと名義変更は別の手続きです。
- 「相続人全員が納得しているなら登記しなくても大丈夫」——口約束や家族内の了解があっても、法務局の登記簿上は故人の名義のままです。義務化後は、家族の合意だけでは過料の対象から外れません。
- 「売る予定がないなら名義変更は急がなくていい」——売却予定がなくても、2024年4月1日以降は法律上の期限があります。将来売る・売らないにかかわらず、期限内の登記が義務です。
- 「実家の評価額が低いから登録免許税もかからないはず」——免税になるのは評価額100万円以下の「土地」のみで、建物には別途0.4%の登録免許税がかかります。土地・建物どちらも免税と誤解しているケースが見られます。
- 「相続人が1人だから手続きは簡単なはず」——相続人が1人でも、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて集める必要があります。本籍地の移転が多いと、相続人が1人でも書類集めに時間がかかることがあります。
- 「田畑や山林は登記しなくても分からないはず」——農地や山林も宅地と同じく相続登記の義務の対象です。加えて農地の場合は、法務局への登記とは別に、農業委員会への届出も必要になります。
よくある質問
実家の名義変更(相続登記)はいつまでにやればいいですか?
実家の名義変更をしないとどうなりますか?
実家の名義変更にかかる費用はいくらですか?
実家の名義変更は自分でできますか?
実家の名義は母親と子供のどちらにすべきですか?
遠方に住んでいても名義変更や実家じまいを進められますか?
登記簿謄本と登記事項証明書はどう違いますか?
相続登記を放置すると相続人はどのくらい増えますか?
実家の相続手続き全体のスケジュール
名義変更は相続手続きの一部にすぎません。他の手続きにもそれぞれ期限があり、重なって進める必要があります。全体像を把握しておくと、何から手をつければよいかが分かりやすくなります。
| 期限の目安 | やること |
|---|---|
| 7日以内 | 死亡届の提出(市区町村役場) |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認をする場合は家庭裁判所へ申述(マイナスの財産が多い場合に検討) |
| 4か月以内 | 被相続人の準確定申告(一定の所得があった場合) |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付(基礎控除を超える場合) |
| 3年以内 | 相続登記(実家の名義変更)。2024年3月以前の相続は2027年3月31日まで |
(2026年8月時点。準確定申告は国税庁、その他は法務省・国税庁の公式情報に基づく一般的な目安です)名義変更だけを見ると期限に余裕があるように感じますが、相続放棄を検討する場合は3か月、相続税の申告が必要な場合は10か月という、より短い期限が先に来ます。実家をどう扱うか(住む・売る・貸す・解体する)の方針は、これらの期限を踏まえて早めに決めておくことをおすすめします。実家じまい全体の進め方とスケジュールは実家じまいの進め方・手順でも解説しています。
まとめ
実家の名義変更(相続登記)は、2024年4月1日の義務化によって「いつかやること」から「期限のある義務」に変わりました。要点を振り返ります。
- 相続を知った日から3年以内が期限。2024年3月以前に相続した実家は2027年3月31日までに登記が必要
- 期限を過ぎて正当な理由がないと、10万円以下の過料の対象になり得る
- 登録免許税は評価額の0.4%。評価額100万円以下の土地は2027年3月31日まで免税
- 必要書類は遺産分割協議・法定相続分・遺言書ありの3パターンで異なる
- 自分で行えば実費のみ、司法書士に依頼すれば報酬5万〜15万円程度が目安
- 母親名義・子供名義・共有名義にはそれぞれ将来のリスクがあり、家族での早めの話し合いが欠かせない
- 生前贈与での名義変更は登録免許税率が2.0%と高く、贈与税の試算も必要
- 名義変更が終わっていないと、売却・解体・補助金申請のいずれも進められない
実家の片付けや売却・解体を考え始めたら、まず名義が誰になっているかを確認することが最初の一歩です。登記簿謄本は法務局の窓口・郵送・オンラインのいずれでも取得できます。「うちの実家はどうなっているのか分からない」という状態のままにしておくと、いざ片付けや売却を決めたときに、名義変更から着手しなければならず、想定より数か月〜半年ほど余計に時間がかかることになりかねません。まずは実家の登記事項証明書を取り、名義が誰になっているかを確認するところから始めてみてください。
名義変更と並行して家財の片付けを進めたい場合は、実家じまいの完全ガイド、費用の目安は実家じまいの費用相場、進め方の全体の流れは実家じまいの進め方・手順もあわせてご覧ください。安心実家じまいでは、名義変更を含めた法律手続きから家財の片付け、売却・解体の手配まで、実家じまいに関わる相談を窓口ひとつでお受けしています。

