
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 実家で遺言書を見つけてもその場で開封してはいけません。自筆証書遺言・秘密証書遺言は家庭裁判所の「検認」を受ける前に開封すると、民法1005条により5万円以下の過料の対象になり得ます。
- 検認の申立ては遺言者の最後の住所地の家庭裁判所へ、費用は遺言書1通につき収入印紙800円分+郵便切手です(裁判所公式サイトより)。必要書類は相続人が誰にあたるかで変わります。
- 公正証書遺言と、法務局の自筆証書遺言書保管制度を使って預けられていた遺言書は、そもそも検認が不要です(法務省公式サイトより)。
- 検認は遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。内容確認と偽造防止のための手続きであり、検認後も遺産分割協議や遺留分の問題は別に残ります。
遺言書の検認とは何か
実家を片付けていたとき、金庫やタンスの引き出し、仏壇の中から「遺言書」と書かれた封筒が出てくることがあります。多くの方が最初に迷うのは「これは開けていいのか」という点です。結論から言うと、自筆証書遺言(本人が手書きで作成し、自宅などで保管していたもの)や秘密証書遺言は、家庭裁判所の「検認」という手続きを経るまで開封してはいけません。
検認の根拠となるのは民法1004条です。条文には「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする」と定められています。同条3項では「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない」ともされており、検認は家庭裁判所という第三者の場で、相続人の立ち会いのもとに行うことが前提になっています。
ここで押さえておきたいのは、検認は遺言の中身が法的に有効かどうかを判断する手続きではないという点です。裁判所の説明でも「検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続」であり、「遺言の有効・無効を判断する手続ではない」と明記されています(裁判所公式サイトより)。つまり検認を受けたからといって、その遺言書が法的に有効だと保証されるわけではなく、逆に検認を受けていないからといって遺言そのものが無効になるわけでもありません。あくまで「今この状態で遺言書が存在している」という事実と内容を、裁判所が相続人立ち会いのもとで記録に残す手続きだと理解しておくと、その後の遺産分割協議や遺留分の話とも混同しにくくなります。
検認が必要な遺言書・不要な遺言書
遺言書にはいくつかの作成方式があり、方式によって検認の要否が変わります。実家で見つかった遺言書がどの方式にあたるかで、最初にとるべき行動が変わってくるため、まず全体像を整理しておきます。
| 遺言書の種類 | 検認の要否 | 見つけたときの対応 |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言(自宅等で保管) | 必要 | 開封せず家庭裁判所に検認を申し立てる |
| 自筆証書遺言(法務局の保管制度を利用) | 不要 | 法務局へ遺言書情報証明書の交付を請求する |
| 公正証書遺言 | 不要 | 公証役場または手元の正本・謄本で内容を確認できる |
| 秘密証書遺言 | 必要 | 開封せず家庭裁判所に検認を申し立てる |
民法1004条2項は「前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない」と定めており、公証役場で公証人が作成した公正証書遺言には検認の規定そのものが適用されません。また、2020年に始まった自筆証書遺言書保管制度を使って法務局に預けられていた自筆証書遺言についても、法務省が「家庭裁判所における検認の手続は不要です」と案内しています(法務省公式サイトより)。この制度の詳細は、この記事の後半で改めて取り上げます。
実家で見つかった遺言書が公正証書遺言かどうかは、書式を見れば見当がつきます。公正証書遺言は公証役場の用紙に、証書番号や公証人の署名・職印が入った形式で作成されており、通常は「正本」または「謄本」として複数ページの綴じられた書類になっています。一方、自筆証書遺言は遺言者本人の手書きで、便箋や罫線用紙に書かれ、封筒に入れて封印されている場合が多く見られます。封筒の外側に法務局の保管を示す記載やシールがあれば、法務局保管の自筆証書遺言である可能性が高くなります。判断に迷う場合も、まずは開封せずに保管し、次の章で説明する対応をとってください。
秘密証書遺言とは
自筆証書遺言・公正証書遺言に比べると数は少ないものの、実家で「秘密証書遺言」が見つかることもあります。秘密証書遺言は、遺言者が遺言の内容を記した書面に署名・押印して封じ、公証役場でその封書に「自分の遺言書である」旨を申述したうえで、公証人と証人2人以上が封紙に署名・押印する方式です。公証人が関わる点は公正証書遺言と似ていますが、公証人は封をした書面の存在を証明するだけで、中身までは確認しません。そのため内容の秘密は保てる一方、方式に不備があると無効になるリスクは自筆証書遺言と同様に残ります。秘密証書遺言は公正証書遺言のような「原本を公証役場が保管する」制度ではないため、検認の対象になります。実家で秘密証書遺言らしき封書(表面に公証人と証人の署名・押印があるもの)を見つけた場合も、自筆証書遺言と同じく開封せず、家庭裁判所への検認申立てに進んでください。
遺言書を見つけたらすぐにやること・やってはいけないこと
実家の遺品整理や生前整理の途中で遺言書らしきものを見つけると、多くの方はまず中身を確認したくなります。しかし自筆証書遺言・秘密証書遺言は、開封の順序を誤ると法律上のペナルティにつながる可能性があるため、最初の対応がとても重要です。
その場で開封してはいけない理由
民法1005条には、次のように定められています。「前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する」。つまり、検認を経ずに家庭裁判所の外で遺言書を開封した場合、5万円以下の過料の対象になり得るということです。過料は刑罰ではなく行政上のペナルティという位置づけですが、金銭的な負担が生じる点は変わりません。
この規定があるのは、遺言書が相続人にとって最も重要な証拠のひとつだからです。開封の過程で内容が書き換えられたり、都合の悪い部分だけが処分されたりすることを防ぐため、家庭裁判所という中立の場で、相続人立ち会いのもと開封する仕組みになっています。封筒に封印(のり付けや押印)がされている場合はなおさらで、民法1004条3項は「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない」と明記しています。
発見直後のチェックリスト
実家で遺言書らしきものを見つけた直後に確認しておきたい項目を一覧にしました。印刷してそのまま使える粒度でまとめています。
| 確認項目 | やること |
|---|---|
| 封筒が封印されているか | 封をしたまま、破らずに保管する |
| 「法務局」の記載・シールがあるか | あれば法務局保管の可能性。検認不要のケースとして次章を確認する |
| 公正証書の体裁(証書番号・公証人の署名職印)があるか | あれば公正証書遺言。検認不要で内容を確認できる |
| 遺言者の氏名・作成年月日の記載があるか | 外側から見える範囲でメモしておく(開封はしない) |
| ほかに遺言書らしき書類がないか | 金庫・仏壇・貸金庫・大切な書類をまとめた引き出しなど、複数箇所を確認する |
| 他の相続人に連絡したか | 発見した事実と保管場所を共有し、独断で進めない |
| 保管場所と状態を記録したか | 発見時の状況をスマートフォンで撮影しておくと、後の説明に役立つ |
ここで大切なのは、遺言書を見つけた人が一人で判断して開封したり、処分したりしないことです。相続人が複数いる場合、遺言の内容によっては利害が対立することもあります。発見した経緯や保管状況を他の相続人と共有しておくと、後になって「本当にその状態で見つかったのか」といった疑念を持たれずに済みます。
うっかり開封してしまったらどうなるか
すでに開封してしまった、あるいは中身を読んでしまったという場合も、慌てる必要はありません。開封したこと自体で遺言書が無効になるわけではなく、検認手続きも通常どおり申し立てることができます。ただし前述のとおり5万円以下の過料の対象になり得るため、開封した経緯を家庭裁判所に説明できるようにしておくことが実務上の対応になります。悪意なく誤って開けてしまった場合、その旨を検認の申立て時や検認期日に伝えれば、通常はそのまま検認手続きが進められます。
もう一つ注意したいのが、相続放棄との関係です。遺言書を開封したこと自体は、相続放棄ができなくなる「単純承認」の直接の原因にはなりません。しかし、開封して中身を確認した結果、遺産の一部を処分したり、遺言の内容に沿って財産を動かしたりすると、単純承認とみなされて相続放棄ができなくなる可能性があります。実家の資産価値が低く相続放棄も選択肢に入っている場合は、遺言書を見つけた段階で、開封の前後を問わず司法書士や弁護士に早めに相談しておくことをおすすめします。
検認の申立て手続き:誰が、どこに、いくらで
検認が必要な遺言書だとわかったら、家庭裁判所への申立てに進みます。申立ての基本情報を裁判所公式サイトの案内に沿って整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立人 | 遺言書の保管者、または遺言書を発見した相続人 |
| 申立先 | 遺言者の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 費用(収入印紙) | 遺言書(封書の場合は封書)1通につき800円分 |
| 費用(郵便切手) | 連絡用の郵便切手。金額は裁判所ごとに異なる |
| 検認済証明書の費用 | 遺言書1通につき150円分の収入印紙(検認完了後に別途申請) |
(裁判所公式サイト「遺言書の検認」より)申立先は、遺言者本人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所であり、相続人自身の住所地の家庭裁判所ではない点に注意してください。実家が遠方にある場合、申立人が遠方に住んでいても、遺言者の最後の住所地(多くの場合は実家の所在地)を管轄する家庭裁判所に申し立てることになります。連絡用の郵便切手の金額や内訳は裁判所ごとに異なるため、申立て先の家庭裁判所のウェブサイトで確認するか、電話で問い合わせてください。
必要書類の基本と、相続人パターン別の追加書類
必要書類は、共通して求められるものと、誰が相続人にあたるかによって追加されるものに分かれます。裁判所公式サイトの案内をもとに整理すると、次のとおりです。
| 共通で必要な書類 | 備考 |
|---|---|
| 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | 本籍地を移していた場合は複数の市区町村で取得する |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 各相続人の本籍地で取得する |
| 遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その方の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本 | 代襲相続が発生している場合に必要 |
これに加えて、相続人が誰にあたるかによって、次のように追加書類が必要になります。
| 相続人のパターン | 追加で必要になる書類の主な内容 |
|---|---|
| 相続人が遺言者の(配偶者と)父母・祖父母等(直系尊属・第二順位相続人)の場合 | 相続人と同じ代及び下の代の直系尊属で死亡している方がいる場合、その方の死亡の記載のある戸籍謄本 |
| 相続人が不存在の場合/配偶者のみの場合/(配偶者と)兄弟姉妹及びその代襲者(おい・めい)(第三順位相続人)の場合 | 遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本、直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本、死亡している兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本、代襲者としてのおい・めいで死亡している方がいる場合はその死亡の記載のある戸籍謄本 |
(裁判所公式サイト「遺言書の検認」より)戸籍等の謄本は「戸籍等の全部事項証明書」という名称で発行される場合もあります。また、戸籍等に代えて「法定相続情報一覧図の写し」を提出できる場合があるため、事前に申立て先の家庭裁判所へ確認しておくと戸籍収集の手間を減らせることがあります。申立て前にすべての戸籍等が入手できない場合は、申立て後に追加提出することも可能とされています。
相続人の範囲を確認する基本的な考え方は実家の遺産分割の進め方でも解説しています。誰が相続人にあたるかで検認申立てに必要な戸籍の範囲が変わるため、あわせて確認しておくと手続きの見通しが立てやすくなります。
検認にかかる実費の合計目安
検認そのものにかかる実費は、収入印紙と郵便切手、検認済証明書の3つに大きく分かれます。戸籍謄本などの取得費用は別途かかりますが、検認手続き自体の実費だけを取り出すと、次のような金額感になります。連絡用の郵便切手は裁判所ごとに金額が異なるため、ここでは目安として一定額を仮定して計算しています。実際の金額は申立て先の家庭裁判所にご確認ください。
| 内訳 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 検認申立ての収入印紙 | 800円 | 遺言書1通につき(裁判所公式サイトより) |
| 連絡用の郵便切手 | 数百円〜1,000円台程度が目安 | 相続人の人数や裁判所によって変動 |
| 検認済証明書の収入印紙 | 150円 | 遺言書1通につき(裁判所公式サイトより) |
| 戸籍・除籍・改製原戸籍謄本の取得費用 | 1通450〜750円程度 | 必要通数は相続人の構成で変わる(本記事の戸籍表を参照) |
たとえば相続人が配偶者と子2人(前述のケースA)で、遺言者・相続人あわせて必要な戸籍が5通程度に収まる場合、戸籍取得費用は2,500〜3,500円程度、これに検認申立ての収入印紙800円、郵便切手、検認済証明書150円を加えても、実費の合計は概ね4,000〜6,000円程度に収まることが多くなります。一方、兄弟姉妹が相続人になるケースBのように必要な戸籍が15〜20通規模に膨らむ場合は、戸籍取得費用だけで7,000円〜1万5,000円程度になることもあります。司法書士に手続きを依頼する場合は、これに加えて数万円程度の報酬がかかるのが一般的です。実費と報酬の目安を事前に把握しておくと、依頼するかどうかの判断がしやすくなります。
検認当日の流れとかかる期間、検認後にすること
検認の申立てをしてから実際に検認が行われるまでには、一定の準備期間がかかります。裁判所での取り扱いは個別の事情によって前後しますが、申立書と必要書類が揃ってから、相続人全員への通知や日程調整を経て検認期日が設定されるまで、実務上は1か月前後を見込んでおくとよいとされています。相続人の人数が多い場合や、戸籍の追加提出が必要になった場合は、さらに時間がかかることがあります。
検認期日当日の流れ
検認の手続きは、通常次のように行われます(裁判所公式サイトより)。
- 検認期日の通知——検認の申立てがあると、相続人に対し、裁判所から検認期日(検認を行う日)の通知が送られます。
- 相続人の出席——申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは各人の判断に任されており、全員がそろわなくても検認手続きは行われます。申立人は遺言書のほか、担当者から指示されたものを持参します。
- 開封と検認——検認期日には申立人から遺言書を提出し、出席した相続人等の立会いのもと、裁判官が封のされた遺言書を開封したうえで検認します。封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いのもとでなければ開封できません。
- 検認済証明書の申請——検認が終わったあと、遺言の執行には遺言書に検認済証明書が付いていることが必要になるため、遺言書1通につき150円分の収入印紙で証明書の申請を行います。
検認が終わったあとにすること
検認期日には「検認調書」という記録が作成されます。検認調書とは、検認期日に裁判官が確認した遺言書の形状・加除訂正の状態・日付・署名など、遺言書の外形的な事実を書面にまとめたものです。検認済証明書は、この検認調書の内容にもとづいて遺言書本体に付けられる証明であり、以後の名義変更手続きなどでは遺言書本体と検認済証明書をセットにして提出します。検認期日に出席した相続人が遺言の内容に異議を述べたとしても、その場で有効・無効が決まるわけではありません。検認はあくまで内容を記録する手続きであり、内容そのものに異議がある場合は、検認とは別に、遺言無効確認訴訟などの手続きを検討することになります。この点は次の章で改めて説明します。
検認が完了し検認済証明書が付いた遺言書は、不動産の名義変更や預貯金の解約・払戻しといった各種手続きで使用できるようになります。実家の名義変更(相続登記)は2024年4月から義務化されており、不動産の取得を知った日から原則3年以内に申請する必要があります。期限や必要書類、過料の詳細は相続登記の義務化についての記事で詳しく解説しています。検認済証明書が付いた遺言書があれば、遺産分割協議書がなくても、遺言の内容どおりに相続登記を進められる場合が多く、名義変更の手続きが比較的スムーズに進みます。
もう一つ、期限を意識しておきたいのが相続税の申告です。相続税がかかる場合、申告と納税の期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から原則10か月以内とされています。検認の手続きにかかる期間と申告期限が重なることもあるため、相続財産の総額によって申告が必要かどうか、いつまでに何を準備すべきかは、早めに税理士へ相談することをおすすめします。相続税の計算や申告書の作成は税理士の専門領域であり、この記事では触れません。
自筆証書遺言書保管制度なら検認は不要
ここまでは検認が必要な自筆証書遺言・秘密証書遺言を前提に説明してきましたが、実家で見つかった遺言書が「自筆証書遺言書保管制度」を利用して法務局に預けられたものであれば、検認の手続き自体が不要になります。この制度は2020年(令和2年)7月から始まった比較的新しい仕組みで、自筆証書遺言の原本を法務局(遺言書保管所)で保管してもらえるというものです。
相続人等は、遺言者の死亡後に、次の手続きを法務局に対して行うことができます(法務省公式サイトより)。
| 手続き | できること | 手数料 |
|---|---|---|
| 遺言書保管事実証明書の交付請求 | 特定の遺言者の遺言書が保管されているかどうかを確認する | 1通800円 |
| 遺言書情報証明書の交付請求 | 遺言書の画像情報が印刷された証明書を取得する(検認不要でそのまま各種手続きに使用可能) | 1通1,400円 |
| 遺言書の閲覧(モニター) | 全国どこの遺言書保管所でも遺言書の画像を閲覧する | 1回1,400円 |
| 遺言書の閲覧(原本) | 原本を保管している遺言書保管所でのみ、遺言書そのものを閲覧する | 1回1,700円 |
(法務省公式サイト「自筆証書遺言書保管制度」より・手数料は収入印紙で納付)法務省の案内では、遺言書情報証明書について「家庭裁判所における検認の手続は不要です」と明記されています。相続人等の誰かがこの証明書の交付を受けたり、遺言書を閲覧したりすると、遺言書保管官からその他の相続人等全員に対して、関係する遺言書が保管されている旨の通知が送られる仕組みになっているため、相続人の一人が手続きを進めれば、他の相続人にも自動的に情報が共有されます。
この制度を利用しているかどうかは、実家の中を探すだけでは分からないこともあります。法務局が発行する保管証(保管番号が記載されたカードのような書類)が見当たらない場合でも、遺言者の死亡が確認できる戸籍謄本などを用意すれば、全国どこの遺言書保管所でも遺言書保管事実証明書を請求して確認できます。実家の整理を進める中で「もしかすると遺言書があるかもしれない」という心当たりがある場合は、検認の要否を判断する前に、まずこの証明書で保管の有無を確認しておくのも一つの方法です。
ケース別に見る、検認にかかる期間と負担の目安
検認の手続きにどれだけの時間と手間がかかるかは、相続人の構成によって大きく変わります。ここでは代表的な3つのケースで、書類収集の負担と実務上の目安を整理します。実際の期間は家庭裁判所や個別の事情によって前後するため、あくまで目安としてご覧ください。
ケースA:配偶者と子2人のシンプルなケース
相続人が配偶者と子2人という、比較的シンプルな構成のケースです。遺言者の出生から死亡までの戸籍と、相続人3名分の戸籍を集めれば足りることが多く、追加書類も基本的に不要です。本籍地の移動が少なければ、戸籍の収集は2〜3週間程度で終わることもあります。申立てから検認期日までを含めると、発見から検認完了までおおむね1〜2か月程度が一つの目安です。
ケースB:子がおらず、兄弟姉妹が相続人になるケース
遺言者に子がなく、両親もすでに他界している場合、相続人は配偶者と遺言者の兄弟姉妹(またはその代襲者であるおい・めい)になります。このケースでは、遺言者の父母の出生から死亡までのすべての戸籍、直系尊属の死亡の記載のある戸籍、さらに死亡している兄弟姉妹がいればその出生から死亡までの戸籍まで必要になり、収集する戸籍の通数が大きく増えます。本籍地を何度も移していた遺言者の場合、複数の市区町村へ郵送で請求することになり、返送までに1〜2週間かかることもあるため、戸籍収集だけで1〜2か月、申立てから検認完了までを含めると2〜3か月程度を見込んでおくと現実的です。
ケースC:相続人の一人が音信不通・海外在住のケース
相続人の中に長期間連絡が取れない人や、海外に居住している人がいる場合、まず戸籍の附票などから現在の住所を調べる作業が加わります。住所が判明しても、海外在住者との書類のやり取りには国際郵便を使うため、通常より日数がかかります。検認期日への出席は義務ではないため、出席できなくても手続き自体は進められますが、連絡先の把握と通知の到達確認に時間を要する分、発見から検認完了まで3か月以上かかることも珍しくありません。相続人の所在確認に不安がある場合は、早い段階で司法書士に相談し、戸籍の附票の取得方法や通知の進め方を確認しておくと手戻りを防げます。
ケースD:実家の中から複数の遺言書が見つかったケース
金庫と仏壇の引き出しなど、複数の場所からそれぞれ日付の異なる遺言書が見つかることもあります。この場合も、まずはどちらも開封せず、両方とも検認の対象として家庭裁判所に提出してください。複数の遺言書が見つかった場合、日付の新しい遺言が優先され、内容が抵触する部分については後の遺言が前の遺言を撤回したものとして扱われるのが基本的な考え方です(民法1023条)。ただし、抵触していない部分はそれぞれ有効に残ることもあり、判断が難しいケースも少なくありません。検認はどちらの遺言が優先するかを判断する手続きではないため、複数の遺言書が見つかった場合は、検認後に司法書士や弁護士へ内容の整理を相談することをおすすめします。
| ケース | 戸籍収集の負担 | 発見から検認完了までの目安 |
|---|---|---|
| A:配偶者と子2人 | 小(3〜4名分程度) | 1〜2か月程度 |
| B:兄弟姉妹が相続人 | 大(父母・兄弟姉妹分まで必要) | 2〜3か月程度 |
| C:相続人が音信不通・海外在住 | 中〜大(住所調査が加わる) | 3か月以上かかることも |
| D:複数の遺言書が見つかった | 戸籍収集自体はA〜Cに準ずる | 検認後に内容整理の相談が別途必要 |
いずれのケースでも共通して言えるのは、戸籍の収集が期間を左右する最大の要因だということです。実家の片付けと並行して戸籍収集を進めておけば、検認の申立てが遅れることによる負担を小さくできます。
検認と混同されやすい家庭裁判所の手続き
実家の相続をきっかけに、検認以外にもいくつかの家庭裁判所の手続きに触れることになる場合があります。名前や場所が似ているため混同されがちですが、それぞれ目的も期限も異なります。整理すると次のとおりです。
| 手続き | 目的 | 期限の目安 | 検認との関係 |
|---|---|---|---|
| 遺言書の検認 | 遺言書の内容・状態を記録し、偽造・変造を防ぐ | 遺言書を発見後、遅滞なく | 本記事のテーマ |
| 相続放棄の申述 | 被相続人の権利義務を一切引き継がないことを申し出る | 相続の開始を知った時から原則3か月以内 | 検認とは別の期限。検認を待たずに並行して検討する必要がある |
| 限定承認 | 相続財産の範囲内でのみ債務を引き継ぐ | 相続の開始を知った時から原則3か月以内(相続人全員で申述) | 検認とは別の期限・別の申立て |
| 遺言執行者選任の申立て | 遺言の内容を実現する遺言執行者を家庭裁判所に選んでもらう | 遺言に執行者の定めがない場合などに随時 | 検認が終わったあとに必要になる場合がある |
| 遺産分割調停 | 相続人間で遺産の分け方がまとまらない場合に裁判所が仲介する | 期限の定めなし(早期の申立てが望ましい) | 検認後、遺言と異なる分け方を協議する場合などに利用 |
とくに注意したいのは、相続放棄・限定承認の期限(原則3か月)が、検認の申立てとは別に進行しているという点です。検認の手続きに気を取られている間に相続放棄の期限が迫ってしまうケースは実務上少なくありません。実家の資産価値に不安があり相続放棄も選択肢に入れている場合は、検認の完了を待たずに、早い段階で家庭裁判所や司法書士・弁護士へ相談してください。期限内に判断が難しい事情がある場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられる場合もあります。
実家の遺言書で気をつけたい注意点
検認の手続きそのものとは別に、実家で遺言書が見つかったときに相続人が誤解しやすいポイントをいくつか整理します。
遺言と異なる内容で遺産分割することはできるか
相続人全員の合意があれば、遺言の内容と異なる形で遺産分割協議を行うこと自体は可能とされています。ただし、遺言執行者が指定されている場合や、遺言の内容によっては注意が必要なケースもあるため、遺言と異なる分け方を検討している場合は、検認後に司法書士や弁護士へ相談してから進めることをおすすめします。実家をどう分けるか、売却するか、誰が住み続けるかといった話し合いの進め方は実家の遺産分割の進め方で解説しています。
遺留分の問題は検認では解決しない
「すべての財産を長男に相続させる」といった、特定の相続人に偏った内容の遺言書が見つかることもあります。検認はあくまで遺言書の状態と内容を記録する手続きであり、他の相続人が持つ遺留分(最低限保障された取り分)を侵害しているかどうかを判断したり、調整したりする手続きではありません。遺留分を侵害されていると感じる相続人がいる場合、検認とは別に、遺留分侵害額請求という手続きを検討することになります。この請求には期限があるため、該当する可能性がある場合は早めに弁護士へ相談してください。
相続放棄を検討している場合は片付けの順序に注意
実家の資産価値が低く、維持費や解体費のほうが負担になりそうな場合、相続放棄という選択肢もあります。相続放棄の期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3か月以内です。遺言書の検認を待っている間にこの期限が迫ってくることもあるため、放棄を検討している場合は検認の完了を待たずに早めに家庭裁判所や専門家へ相談してください。また、遺品の一部でも売却・処分すると単純承認とみなされ、後から相続放棄ができなくなることがあります。検認前に遺言書を開封してしまった場合でも開封自体は単純承認の直接の原因にはなりませんが、家財の処分を進めてしまうと状況が変わる可能性があるため、放棄を迷っている段階では家財の処分に着手する前に司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
遺言の内容に納得できないとき(有効性を争う場合)
検認を終えて内容を確認した結果、「この筆跡は本人のものではないのではないか」「認知症が進んでいた時期の日付になっている」「特定の相続人に極端に偏った内容になっている」など、遺言の有効性そのものに疑問を持つ相続人が出てくることもあります。検認はこうした疑問に答える手続きではないため、有効性を争いたい場合は別の対応が必要になります。
遺言無効確認訴訟という選択肢
遺言書が方式に違反している、遺言者に遺言能力(遺言の内容を理解し判断する能力)がなかった、第三者による偽造の疑いがあるといった事情がある場合、相続人は遺言無効確認訴訟を起こして、遺言の効力を裁判所に判断してもらうことができます。この手続きは検認とは別の民事訴訟であり、検認が終わっている・終わっていないにかかわらず提起できます。ただし、有効性を争うには医療記録の取り寄せや筆跡鑑定など専門的な立証作業が必要になることが多く、個人で進めるのは負担が大きい手続きです。疑問を感じた時点で、早めに相続に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
まずは検認を止めずに進めることが基本
遺言の内容に疑問がある場合でも、検認そのものを拒否したり、申立てを止めたりする必要はありません。検認は遺言書という物的証拠の状態を記録に残す手続きであり、後に有効性を争う場面になったとしても、検認の記録(検認調書)が偽造や変造の有無を判断する材料の一つになり得ます。むしろ検認を経ずに放置すると、遺言書の状態を客観的に記録する機会を逃してしまうことになります。疑問がある場合も、検認は通常どおり進めたうえで、内容についての疑義は別途専門家に相談する、という順序で対応してください。
検認の手続きと、実家じまいをどう並行して進めるか
遺言書の検認は、実家の片付けや売却・解体の検討と切り離せない場面が多くあります。検認済証明書がなければ遺言の内容どおりに相続登記や預貯金の解約を進めにくい一方、検認を待つ間に実家を空き家のまま放置すると、管理の負担や建物の傷みが進んでしまいます。戸籍の収集や検認の申立てといった法律手続きを進めながら、並行して実家の中の仕分けや貴重品の保管を進めておくと、検認が完了した時点でその後の売却や解体にもスムーズにつなげられます。
事務局の相談窓口では、遺言書の発見をきっかけにご連絡をいただくケースが一定数あります。よく見られるパターンを紹介します。
- 遺品整理の作業中に金庫から封筒が出てきて、開けてよいか分からず作業を一時中断し、開封せずに保管したまま検認の相談に進む
- 「実家に遺言書があるとは聞いていたが、法務局に預けているのか自宅にあるのか分からない」という状態で、まず遺言書保管事実証明書の確認から始める
- 遠方に住む相続人の一人が実家の整理で遺言書を発見し、他の相続人と共有しないまま開封してしまい、あとから経緯の説明に困る
- 検認の申立てに必要な戸籍収集に時間がかかり、実家の片付けだけが先に終わってしまい、売却や解体の相談時に名義変更が済んでいないことに気づく
これらに共通するのは、遺言書という重要書類の扱いと、実家の片付けという物理的な作業が、別々のタイミングで進んでしまいがちだという点です。遺言書が見つかった時点で、開封せずに保管する・種類を確認する・必要なら検認を申し立てるという流れを踏まえておけば、片付けと法律手続きを無理なく並行させられます。
安心実家じまいは、遺品整理・生前整理から実家の売却・解体の手配までを一つの窓口でお受けするサービスです。相続登記や検認など法律手続きが絡む場面では、提携司法書士と連携しながら進める体制を整えています。仏壇や位牌の供養、貴重品や思い出の品の仕分けと保管など、検認の結果を待つ間でも進められる作業は数多くあります。実家の片付けから処分までの流れは実家じまい代行パックで、ご相談から作業完了までの段取りはご相談の流れでご案内しています。料金の目安は料金表をご覧ください。
遺言書が見つかった直後は、開封してよいものかどうかの判断に迷い、手続きの進め方も分からないまま時間だけが過ぎてしまうことが少なくありません。まずは開封せずに保管し、遺言書の種類(自筆証書遺言か、公正証書遺言か、法務局保管かどうか)を確認したうえで、必要であれば家庭裁判所への検認申立てを進めてください。実家の片付けについては、検認の進み具合にかかわらず着手できる部分から始めておくと、全体の手続きが後ろにずれ込みにくくなります。
よくある質問
実家で遺言書が見つかったら、まず何をすればいいですか?
遺言書を検認せずに開封してしまったらどうなりますか?
検認の申立てにはどんな書類と費用が必要ですか?
法務局に預けられていた遺言書も検認が必要ですか?
検認が終わるまで、遺産分割や実家の片付けは進められませんか?
遺言書が複数見つかった場合や、相続放棄を考えている場合はどうすればいいですか?
まとめ
実家で遺言書が見つかったときに大切なのは、まず開封せずに種類を見極めることです。要点を振り返ります。
- 自筆証書遺言・秘密証書遺言は、家庭裁判所の検認を受ける前に開封すると民法1005条により5万円以下の過料の対象になり得る
- 公正証書遺言と、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言は検認が不要(法務省公式サイトより)
- 検認の申立ては遺言者の最後の住所地の家庭裁判所へ。費用は収入印紙800円分+郵便切手、検認済証明書は150円(裁判所公式サイトより)
- 必要書類は相続人が子・直系尊属・兄弟姉妹のいずれにあたるかで変わり、兄弟姉妹が相続人になるケースは戸籍収集の負担が大きくなりやすい
- 検認は遺言の有効・無効を判断する手続きではなく、遺留分の問題や遺産分割協議は別途対応が必要
- 相続放棄を検討している場合、遺言書の開封自体は問題にならないが、家財の処分は単純承認とみなされる可能性があるため着手前に専門家へ相談する
- 検認の完了を待つ間も、実家の仕分けや貴重品の保管など進められる作業から着手しておくと、その後の手続きがスムーズになる
遺言書は、見つけた瞬間の対応を誤ると余計な手間やペナルティにつながりかねない書類です。まずは開封せずに保管し、封筒の記載や書式から遺言の種類を見極めたうえで、必要であれば早めに家庭裁判所や司法書士へ相談することが、その後の手続きをスムーズに進める一番の近道になります。実家の片付けや売却・解体まで含めた進め方は実家じまい代行パックを、名義変更の期限については相続登記の義務化についての記事をご覧ください。
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