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限定承認とは|相続放棄との違い・手続き・使うべきケース

最終更新日:2026年8月6日|監修:司法書士・行政書士 久留慎一郎先生・安心実家じまい事務局

司法書士・行政書士 久留慎一郎
監修者

久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士

東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。

■経歴

  • 1966年鹿児島県生まれ
  • 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
  • 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
  • 2013年司法書士試験合格
  • 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
  • 2017年司法書士法人コスモ退職
  • 2018年事務所開設
  • 2021年司法書士法人設立

■得意領域

  • 相続登記・相続手続き
  • 不動産の名義変更
  • 相続放棄
  • 簡易裁判所の訴訟代理

この記事の結論

  • 限定承認とは、相続で得たプラスの財産の範囲内でのみ被相続人の借金を引き継ぐ相続方法です(民法922条)。財産が残れば受け取れ、借金がプラス財産を超えても超過分は支払わなくてよい仕組みです。
  • 期限は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内。相続人が複数いる場合は全員が共同で申述する必要があり、一人でも反対すれば利用できません(民法923条・924条)。
  • 手続きは家庭裁判所への申述だけで終わらず、財産目録の作成、債権者への公告・催告、弁済、必要なら換価までを行う清算手続きです。時間と手間がかかる分、実家などの特定の財産を鑑定評価額の支払いで残せる「先買権」という選択肢もあります(民法932条)。
  • 限定承認をすると、相続税とは別に「みなし譲渡課税」という譲渡所得税が発生する場合があります(所得税法59条)。税額の計算や申告は税理士の領域になるため、早めに専門家へつなぐ判断が必要です。
目次

限定承認とは何か——単純承認・相続放棄との違い

人が亡くなって相続が始まると、相続人は被相続人(亡くなった方)の財産と借金の両方を受け継ぐかどうかを決めなければなりません。民法はこの選択肢を三つ用意しています。何もしなければ自動的に「単純承認」になり、財産も借金もすべて無限に引き継ぎます(民法920条)。借金のほうが明らかに多い場合は「相続放棄」を選べば、財産も借金も一切受け継がずに済みます。そして、財産と借金のどちらが多いか分からない場合に使えるのが「限定承認」です。

限定承認は、平たく言えば「もらった分だけ払う」相続方法です。相続によって得た財産の範囲内でだけ被相続人の債務や遺贈を弁済すればよく、それを超える借金の返済義務は負いません(民法922条)。財産を清算した結果、借金を払ってもなお財産が残れば、その残りは通常どおり相続人が受け取れます。逆に、財産をすべて処分しても借金が残った場合、相続人が自分の財産(固有財産)から補填する必要はありません。

相続には三つの選択肢がある

三つの制度はいずれも、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に選ぶ必要があります(民法915条1項)。何も手続きをしないまま3か月が過ぎると、自動的に単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。それぞれの性質を整理すると、次のとおりです。

単純承認 限定承認 相続放棄
財産・借金の引き継ぎ方 プラス・マイナスとも無限に引き継ぐ プラスの財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐ プラスもマイナスも一切引き継がない
財産が残った場合 すべて相続人のもの 清算後の残りは相続人のもの 受け取れない
借金が財産を超えた場合 相続人が自己の財産から返済 超過分の返済義務なし 関わらない(もともと相続人でなかった扱い)
申述人 手続き不要(自動) 相続人全員が共同で申述 相続人が単独で申述可能
家庭裁判所での費用 なし 収入印紙800円分(申述1件) 収入印紙800円分(申述人1人につき)
手続きの手間 なし 財産目録作成・公告・清算まで必要で重い 申述書と戸籍の提出で比較的軽い
期限 特に定めなし 相続の開始を知った時から3か月以内 相続の開始を知った時から3か月以内

(民法915条・920条〜924条、裁判所「相続の限定承認の申述」「相続の放棄の申述」より作成、2026年8月時点)表の「家庭裁判所での費用」の行で分かるとおり、限定承認は相続人が複数いても申述自体は1件として扱われ、収入印紙は800円分で足ります。これに対して相続放棄は申述人1人ごとに800円分が必要です。もっとも、限定承認は全員が共同で行う必要があるぶん、1人でも同意を得られない相続人がいると成立しない点に注意してください。

限定承認のメリット

限定承認の一番の強みは、相続財産の全容が分からない段階でも安全に相続の判断ができることです。被相続人が事業をしていた、複数の借入先があった、保証人になっていた可能性があるなど、負債の全体像がすぐには見えない相続では、単純承認をして後から想定外の借金が発覚するリスクを避けられます。財産を清算してみて借金のほうが多ければそれ以上の負担はなく、財産のほうが多く残れば相続人として受け取れます。プラスとマイナスのどちらに転んでも相続人が損をしない、いわば保険的な性格を持つ制度です。

もう一つの実務上のメリットが、後述する「先買権」です。相続財産の中に自宅や実家などどうしても手放したくない不動産がある場合、限定承認の清算手続きの中で鑑定人による評価額を支払うことで、その不動産を競売にかけずに相続人の手元に残せる仕組みが用意されています。借金の存在と実家を残したい気持ちが両方ある相続では、この点が単純承認や相続放棄にはない限定承認だけの利点になります。

さらに、限定承認をすると、公告期間が満了するまでは相続債権者や受遺者からの弁済請求を拒める点も見落とされがちな利点です(民法928条)。督促の連絡が続いていた実家の借金であっても、限定承認の申述後は一定期間、法律に基づいて弁済を待ってもらえます。取り立てに追われながら財産を投げ売りするような事態を避け、財産目録の作成や換価の方法を落ち着いて検討する時間を確保できることは、精神的な負担の面でも意味があります。

限定承認のデメリット

一方で、限定承認には実務上のハードルがあります。第一に、相続人が複数いる場合は全員が共同でなければ申述できません(民法923条)。1人でも「面倒だから単純承認でいい」「関わりたくない」という相続人がいれば、限定承認そのものが利用できなくなります。第二に、財産目録の作成、家庭裁判所への申述、債権者・受遺者への公告と催告、弁済、必要に応じた換価という一連の清算手続きを踏む必要があり、相続放棄に比べて時間と労力がかかります。第三に、後述するみなし譲渡課税という税務上の負担が生じる場合があります。手続きの重さと引き換えに得られる保険的な安心感、というのが限定承認の実像です。

限定承認を検討すべきケース・向かないケース

限定承認は万能の制度ではなく、状況によって向き不向きがはっきりしています。判断の目安を整理します。

限定承認が向いているケース

  • 借金の総額が把握できない——被相続人が個人事業や副業をしていた、複数の金融機関から借り入れがあった、誰かの連帯保証人になっていた可能性があるなど、負債の全体像がすぐに分からない相続。
  • 実家などの特定の財産をどうしても残したい——借金があることは分かっているが、先買権を使って評価額を支払えば、実家や事業用の不動産を手放さずに済む見込みがある場合。
  • 財産と借金のバランスが読めない状態で、相続人全員の協力が得られる——共同相続人の意見がまとまっており、財産目録の作成や公告手続きに時間をかけられる場合。
  • 被相続人が個人事業主や会社役員で、事業用資産と事業性の負債が混在している——機械設備や店舗の不動産など残したい事業用資産がある一方、リース債務や買掛金の全容が見えにくい場合。先買権を使えば事業用資産を残しつつ、負債は相続財産の範囲内に区切れます。

限定承認が向かないケース

  • 借金のほうが明らかに多いと分かっている——このケースでは、手続きの軽い相続放棄のほうが早く確実です。限定承認は財産が残る可能性がある場合に選ぶ意味がある制度です。
  • 財産のほうが明らかに多く、借金の心配がほぼない——このケースでは単純承認で足り、限定承認の手間をかける必要はありません。
  • 相続人の中に協力が得られない人がいる——全員の同意が前提のため、1人でも反対や無関心な相続人がいると成立しません。この場合、その相続人にだけ相続放棄をしてもらい、残りの相続人で限定承認をするという組み合わせも選択肢になります。
  • すでに遺品や家財を処分してしまった——後述するとおり、相続財産の全部または一部を処分する行為は法定単純承認とみなされ、限定承認や相続放棄ができなくなることがあります(民法921条1号)。
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限定承認の手続きの流れと期限

熟慮期間3か月とその起算点

限定承認は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ財産目録を提出したうえで申述しなければなりません(民法915条1項、924条)。起算点は「亡くなったことを知った日」ではなく「自分が相続人であることを知った日」である点に注意してください。通常はこの二つが同じ日になりますが、先順位の相続人が相続放棄をしたことで自分に相続権が回ってきた場合などは、そのことを知った日が起算点になります。

3か月間で相続財産の調査をしても、なお単純承認・限定承認・相続放棄のいずれを選ぶか判断できない場合は、家庭裁判所に申し立てることでこの熟慮期間を伸ばしてもらえます(民法915条1項ただし書)。申立ては利害関係人(相続人本人を含む)または検察官が行い、費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です(裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」より、2026年8月時点)。期限が迫っていることに気づいた段階で、財産調査が終わっていなくても、まずはこの伸長の申立てを検討してください。

相続人全員の同意が必要

相続人が複数いる場合、限定承認は共同相続人の全員が共同してのみ行うことができます(民法923条)。これは相続放棄との大きな違いです。相続放棄は各相続人が自分の意思だけで単独にできますが、限定承認は1人でも反対すれば実行できません。実務では、遠方に住む相続人や疎遠になっている相続人がいる場合、まず全員の意向を早い段階で確認しておくことが手続きの成否を分けます。どうしても同意が得られない相続人がいる場合は、その人にだけ先に相続放棄をしてもらい、残った相続人だけで限定承認をするという方法が使われることもあります。

手続きのステップ

限定承認は申述して終わりではなく、その後の清算まで含めた一連の手続きです。おおまかな流れは次のとおりです。

  1. 相続財産の調査と目録の作成——不動産・預貯金・有価証券などのプラスの財産と、借入金・保証債務などのマイナスの財産を洗い出し、財産目録を作成します。
  2. 家庭裁判所への申述——被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続人全員の連名で財産目録を添えて申述します(民法924条)。
  3. 相続財産清算人の選任(相続人が複数の場合)——相続人が数人いる場合、家庭裁判所は相続人の中から相続財産清算人を選任します。清算人は他の相続人に代わって財産の管理と債務の弁済に必要な行為を行います(民法936条)。
  4. 債権者・受遺者への公告と催告——限定承認をした後5日以内(清算人が選任された場合はその選任後10日以内)に、すべての相続債権者・受遺者に対して官報で公告し、2か月を下らない期間内に請求の申し出をするよう求めます。すでに分かっている債権者には個別にも催告します(民法927条)。
  5. 公告期間中の弁済拒絶——公告期間が満了するまでは、相続債権者や受遺者からの請求があっても弁済を拒むことができます(民法928条)。
  6. 弁済——公告期間が満了した後、申し出のあった債権者やすでに判明している債権者に、それぞれの債権額の割合に応じて弁済します(民法929条)。弁済期が来ていない債権や、条件付き・存続期間不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済します(民法930条)。
  7. 必要なら相続財産の換価(競売または先買権の行使)——弁済のために相続財産を売却する必要がある場合は競売にかけるのが原則ですが、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払えば競売を止められます(民法932条)。
  8. 残余財産の分配——弁済をすべて終えてなお財産が残れば、通常の遺産分割と同様に相続人へ分配します。

(民法915条・923条・924条・927条〜932条・936条、裁判所「相続の限定承認の申述」より作成、2026年8月時点)このように、限定承認は「申述したら終わり」ではなく、公告・催告・弁済・換価という清算業務そのものを相続人(または相続財産清算人)が担う手続きです。相続放棄が「関わらない」選択であるのに対し、限定承認は「責任を負う範囲を区切ったうえで清算まで担う」選択だという違いを理解しておくと、手続きの重さのイメージがつかみやすくなります。

限定承認者の財産管理義務

限定承認をした相続人(限定承認者)は、清算が終わるまでの間、自分自身の財産を管理するのと同じ程度の注意をもって相続財産を管理し続ける義務を負います(民法926条1項)。実家の建物であれば雨漏りを放置しない、預貯金であれば無断で引き出さないといった、通常の管理を続ける必要があるということです。相続財産清算人が選任された場合も、この義務は清算人に引き継がれます(民法936条3項)。公告・催告を怠ったり、弁済の順序を誤って一部の債権者だけに先に支払ってしまったりして他の債権者に損害を与えた場合、限定承認者や清算人はその損害を賠償する責任を負うことがあります(民法934条1項)。実家の管理と清算実務を並行して進める負担が大きいと感じる場合は、この時点で弁護士や司法書士に実務を委任することも検討してください。

実務チェックリスト——限定承認を検討し始めたら確認すること

限定承認を選ぶかどうかを判断する段階で確認しておきたい項目をまとめました。相談前の整理にご活用ください。

確認項目 チェックのポイント
相続の開始を知った日 3か月の熟慮期間の起算点。手帳やメールの日付など、根拠となる記録を残しておく
相続財産の概要 不動産・預貯金・有価証券・生命保険(受取人指定の有無)を洗い出す
負債の概要 信用情報機関への開示請求、督促状・契約書の有無、保証契約の可能性を確認する
共同相続人全員の意向 限定承認は全員の同意が前提。連絡先が不明な相続人がいないか確認する
遺品・家財への手つかず状態 形見分けや売却など「相続財産の処分」に当たる行為をしていないか確認する(法定単純承認のリスク)
残したい特定の財産の有無 実家や事業用不動産など、先買権で残す価値がある財産があるか整理する
専門家への相談状況 司法書士・弁護士(手続き代理)、税理士(税務)のどちらに、いつ相談するか決めておく

負債をどう調べるか

限定承認を使うべきかどうかを判断するには、まず負債の見当をつける必要があります。実家に届いた督促状や契約書、通帳の引き落とし履歴を確認するのが基本ですが、それだけでは把握しきれない借入もあります。個人の借入情報は、消費者金融・クレジット会社系の情報を扱う日本信用情報機構(JICC)、クレジットカード会社系の情報を扱うCIC(指定信用情報機関)、銀行系の情報を扱う全国銀行協会(全銀協)の3つの信用情報機関に、相続人から開示請求をすることで確認できます。開示には被相続人の死亡が分かる戸籍謄本や、請求者が相続人であることを示す戸籍謄本などが必要です。不動産の担保設定(抵当権)の有無は法務局で登記事項証明書を取得すれば確認でき、保証契約の有無は関係先に心当たりがないか、契約書類が残っていないかを確認するほかありません。3か月の熟慮期間はこうした調査にも充てる時間で、期間内に終わらない場合は前述の伸長の申立てを検討してください。

限定承認でつまずきやすいポイント——現場で多い相談パターン

実家じまいの相談を受ける中では、限定承認を検討する段階で同じようなつまずきが繰り返し見られます。当てはまる項目がないか、早めに確認してみてください。

  • 熟慮期間の終盤になってから相談が来る——「借金があるらしいと最近分かった」という相談が、相続の開始から2か月半以上経ってから寄せられることが少なくありません。財産調査や相続人全員の同意取り付けには時間がかかるため、この段階では期間伸長の申立てを並行して進めることになります。督促状が届いた時点、あるいは疑わしいと感じた時点で早めに動き出すことが、選択肢を狭めないための一番の対策です。
  • 相続人の一部と連絡が取れない——疎遠になっている兄弟姉妹、離婚した元配偶者との間の子など、連絡先の把握自体に時間がかかるケースです。限定承認は全員の同意が前提のため、この調整に手間取ると期限に間に合わなくなるおそれがあります。戸籍の附票などで住所を調べつつ、専門家を介した連絡を検討します。
  • 相続財産清算人になる相続人が見つからない——遠方に住んでいる、平日に時間が取れないなどの理由で、清算人の実務を担える相続人がいない場合があります。この場合は弁護士など専門家に清算人としての実務を委任する形で進めることになります。
  • 片付けを先に始めてしまっていた——「相続の相談をする前に、とりあえず実家の片付けだけ進めていた」というケースで、処分した物の内容によっては法定単純承認に該当するかどうかの判断が必要になります。形見や生活用品の保存的な整理と、価値のある家財の売却・大量廃棄とでは扱いが異なるため、心当たりがある場合は着手した作業の内容を専門家に伝えて確認してください。
  • 公告期間中に新たな債権者から連絡が来る——官報公告や催告の後、把握していなかった債権者から請求が来ることがあります。公告期間内に申し出のなかった債権者は、原則として残余財産からのみ弁済を受けられる扱いになるため(民法935条)、期間内の申し出を促す実務対応が必要です。

限定承認にかかる費用とケース別シミュレーション

家庭裁判所に納める費用

限定承認の申述そのものにかかる家庭裁判所の費用は、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です(裁判所「相続の限定承認の申述」より、2026年8月時点)。相続放棄が申述人1人につき800円分であるのに対し、限定承認は相続人全員による1件の申述として扱われるため、印紙代自体は少額で済みます。郵便切手の金額は申述先の家庭裁判所ごとに異なるため、申述前に管轄裁判所へ確認してください。

官報公告費用

限定承認では、債権者・受遺者への公告を官報に掲載する必要があります(民法927条4項)。公告料は掲載する内容の分量によって変わりますが、目安として、裁判所が案内する類似の手続きである相続財産清算人選任の官報公告料は5,582円です(裁判所「相続財産清算人の選任」より、2026年8月時点)。限定承認の公告もこれに近い水準になることが多く、数千円程度を見込んでおくとよいでしょう。正確な金額は、手続きを進める段階で官報販売所または依頼先の専門家に確認してください。

専門家報酬の目安

限定承認は財産目録の作成や公告手続きが必要で、一般的に相続放棄より書類作成の負担が大きい手続きです。司法書士や弁護士に依頼する場合の報酬は、相続財産の内容や相続人の数、換価手続きの有無によって幅があり、案件の複雑さに応じて数十万円程度からになるのが実務上の相場感です。正式な金額は、財産と負債の概要を伝えたうえで個別に見積もりを取ることをおすすめします。

ケース別シミュレーション

限定承認を選んだ場合に、実際どのくらいの財産が手元に残るのか、二つのケースで概算します。数字は理解のための単純化した例で、実際の弁済には債権者の優先順位や換価費用なども関わるため、正式な金額は手続きの中で確定します。

ケースA:財産が借金を上回る場合 ケースB:借金が財産を上回る場合 ケースC:先買権で実家を残す場合
プラスの財産(評価額の合計) 1,200万円(実家の評価額800万円+預貯金400万円) 600万円(実家の評価額500万円+預貯金100万円) 900万円(実家の評価額700万円+預貯金200万円)
マイナスの財産(借金の合計) 800万円 1,500万円 500万円
弁済の結果 財産の中から800万円を債権者へ弁済 財産600万円をすべて弁済に充てても900万円が残る 預貯金200万円を弁済に充当し、残り300万円は実家の売却(競売)を待たずに用意する必要がある
先買権の使い方 相続人が鑑定人評価額700万円のうち不足分300万円を自己資金等で用意し支払うことで、実家を競売にかけずに取得
相続人が受け取れるもの 残余財産400万円を相続人で分配 0円(それ以上の負担は生じない) 実家(自己資金300万円を支払って取得)
単純承認だった場合との比較 結果は単純承認と同じ(財産が残る) 単純承認なら残り900万円を相続人が自己の財産から負担する必要があったが、限定承認によりその負担を免れる 単純承認でも実家は残せるが、負債の総額が不明な段階で単純承認をすると想定外の借金まで無限に背負うリスクがある

ケースAのように財産が借金を上回る場合、最終的な受け取り額は単純承認と変わりません。限定承認の価値が際立つのはケースBのように借金が財産を上回る場合で、超過した900万円分の返済義務を負わずに済みます。ケースCは、先買権を使って実家という特定の財産を選んで残す例です。弁済に不足する分は相続人が自己資金などで用意する必要がありますが、負債の全体像が読めない中でも実家だけは競売にかけずに確保できる点が単純承認や相続放棄にはない特徴です。相続開始の時点でどちらに転ぶか読めないからこそ、限定承認という「両建て」の選択肢に意味があります。

限定承認と税金——みなし譲渡所得課税に要注意

限定承認を検討するうえで見落とされやすいのが、相続税とは別にかかる可能性のある税金です。通常の相続(単純承認や、遺産分割による取得)では、相続人は被相続人の取得費をそのまま引き継ぎ、実際に不動産などを売却するまで譲渡所得税はかかりません(所得税法60条1項)。ところが限定承認による相続では扱いが異なり、被相続人がその財産をその時の時価で譲渡したものとみなして譲渡所得を計算する特例が適用されます(所得税法59条1項1号)。これを「みなし譲渡課税」と呼びます。

具体的には、実家の土地建物などを被相続人が昔に取得した金額(取得費)よりも、相続時の評価額(時価)のほうが高い場合、その差額に対して譲渡所得税が発生する可能性があります。この税金は相続人自身の税金ではなく、亡くなった被相続人が生前に得たものとみなされる所得への課税という位置づけのため、相続人が被相続人に代わって「準確定申告」を行い、納税します。準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です(国税庁「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」より、2026年8月時点)。相続税の申告期限(10か月以内)よりもかなり早い点に注意してください。

たとえば、被相続人が数十年前に購入した実家の土地建物で、取得費が500万円、相続時の評価額(時価)が1,500万円だったとします。この場合、差額の1,000万円から取得費・譲渡費用や特別控除などを差し引いた金額が譲渡所得となり、所有期間に応じた税率で所得税がかかる可能性があります。実際の税額は、取得費が分かる書類の有無、特例の適用可否、他の所得との合算方法などによって大きく変わるため、この記事内での税額の断定はできません。限定承認を検討する段階で、みなし譲渡課税が生じそうな不動産や有価証券がある場合は、早めに税理士へ相談し、準確定申告の要否と概算税額を確認しておくことを強くおすすめします。

なお、相続税そのものは限定承認をしても通常どおり課税対象です。みなし譲渡課税はこれとは別枠の所得税であり、相続税の申告と準確定申告の両方が必要になるケースがある、という点を整理して理解しておいてください。税務の詳細な試算は司法書士の対応範囲を超えるため、安心実家じまいでは提携司法書士による手続き支援と並行して、必要に応じて税理士への相談をご案内しています。

実家を手放さずに残す「先買権」という選択肢

限定承認のなかでも、実家じまいを検討する方にとって特に関わりが深いのが「先買権」と呼ばれる仕組みです。限定承認の清算では、弁済のために相続財産を売却する必要がある場合、原則として競売にかけなければなりません。しかし、家庭裁判所が選任した鑑定人による評価額を相続人が支払えば、その競売を止めることができます(民法932条)。これにより、思い出のある実家や、今後住み続けたい家、事業を続けるための不動産などを、競売で他人の手に渡すことなく、評価額を支払うことで相続人自身が取得できます。

実家じまいの相談では、「借金があることは分かっているが、実家だけは残したい、あるいは売るにしても自分たちのペースで進めたい」という声を聞くことがあります。先買権はまさにこうした状況に対応できる制度です。ただし、評価額に相当する現金を用意できることが前提になるため、実家の評価額が高い場合や、他に大きな財産がない場合は、資金計画を先に立てておく必要があります。金融機関からの借り入れや、他の相続財産の一部を売却して資金を作るなど、評価額を用意する方法も含めて、早い段階で司法書士や弁護士に相談しておくと、清算手続きの期限に間に合わせやすくなります。

実家を先買権で残す場合も、残した後の名義変更(相続登記)は別途必要になります。限定承認の清算手続きが終わった後、名義が被相続人のままでは売却や解体、賃貸に出すこともできません。相続登記の期限や過料の仕組みは相続登記の義務化とは|期限・過料・実家を相続したらやることで詳しく解説しています。あわせて、限定承認をするかどうかを判断する前提として、他の相続人との遺産分割の話し合いが必要になる場面も多く、実家をめぐる遺産分割の進め方は実家の遺産分割の進め方を参考にしてください。

相続人が複数いる場合の注意点——法定単純承認に気をつける

限定承認や相続放棄を検討している段階で、うっかり相続財産に手を付けてしまうと、それだけで単純承認をしたものとみなされ、限定承認も相続放棄もできなくなることがあります(民法921条1号、いわゆる法定単純承認)。対象になるのは「相続財産の全部又は一部を処分」する行為で、預貯金の引き出しや使い込み、形見以外の遺品の売却、実家の家財を大量に処分することなどが典型例です。ただし、通常の保存行為(傷まないように管理する程度の行為)や、短期間の賃貸は処分に当たらないとされています。

実家じまいを考える方にとってここは特に注意が必要な点です。「とりあえず片付けを進めながら、相続の方針は後で決めよう」という進め方は、限定承認や相続放棄の選択肢を自分から狭めてしまうリスクがあります。借金の有無がはっきりしない実家では、家財の片付けに着手する前に、まず財産と負債の概況を確認し、限定承認・相続放棄を検討する必要があるかどうかを見極めることが優先です。安心実家じまいでは、遺品整理や実家の片付けをご相談いただく際に、相続方針が固まっているかを最初に確認し、必要であれば提携司法書士への相談を先にご案内する体制を取っています。実家の片付けと法律手続きの順序については実家じまい代行サービスのページでもご案内しています。

相続人が数人いる場合、限定承認をすると家庭裁判所が相続人の中から相続財産清算人を選任します(民法936条1項)。清算人は他の相続人に代わって財産の管理と債務の弁済に必要な行為を行う立場で、公告・催告・弁済・換価といった実務を中心的に担います。共同相続人の1人が清算人に選ばれた場合、その負担は他の相続人より重くなるため、誰が担うか、専門家にどこまで代行してもらうかを事前に話し合っておくと、後のトラブルを避けやすくなります。

祖父母の代から名義変更をしないまま相続が重なっている、いわゆる数次相続の実家では、相続人の人数がさらに増え、全員の同意を取り付ける難易度も上がります。たとえば祖父の相続の際に父が相続放棄も限定承認も単純承認もしないまま亡くなった場合、父の相続人である子(孫世代)が祖父の相続についても選択をすることになります(民法916条)。世代をまたぐ相続では、まず戸籍を遡って相続人の範囲を確定させる作業自体に時間がかかるため、限定承認を検討する場合は特に早めの着手が欠かせません。

専門家の役割分担——司法書士・弁護士・税理士

限定承認には複数の専門分野が関わるため、誰に何を相談すればよいかが分かりにくい制度でもあります。役割を整理すると、次のようになります。

専門家 主な役割
司法書士 財産目録の作成支援、申述書類の作成、相続登記など不動産名義変更の手続き
弁護士 相続人間の意見調整、家庭裁判所とのやり取り、債権者との交渉、相続財産清算人としての実務代行
税理士 みなし譲渡課税の要否判定と税額計算、被相続人の準確定申告、相続税の申告

限定承認そのものの申述や財産目録の作成は司法書士・弁護士が中心となって進められますが、みなし譲渡課税が絡む場面では税理士の関与が欠かせません。安心実家じまいは、提携司法書士と連携して相続登記や実家の名義変更を含めた実家じまい全体をサポートする窓口です。限定承認や相続放棄そのものの判断・手続きが必要な場合や、税務の詳細な試算が必要な場合は、早い段階で司法書士・弁護士・税理士それぞれの専門家へおつなぎします。まずは実家の状況と、分かっている範囲での財産・負債の概要をご相談ください。

よくある質問

限定承認とは簡単に言うとどういう制度ですか?
相続で受け取ったプラスの財産の範囲内でだけ、被相続人の借金などマイナスの財産を引き継ぐ相続方法です(民法922条)。プラスの財産を超える借金は支払わなくてよく、逆に財産が余れば相続人が受け取れます。借金の総額がはっきりしない相続で使われる制度です。
限定承認と相続放棄はどちらを選べばいいですか?
借金のほうが明らかに多いなら相続放棄、財産と借金のどちらが多いか分からないなら限定承認が向いています。相続放棄は申述人ごとに単独ででき手続きも比較的簡単ですが、財産が残っていても一切受け取れません。限定承認は財産が残れば受け取れる代わりに、相続人全員の同意と財産目録の作成、債権者への公告・催告という手間のかかる手続きが必要です。
限定承認の期限に間に合わない場合はどうすればいいですか?
自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に、財産調査をしても単純承認・限定承認・相続放棄のいずれにするか判断できない場合は、家庭裁判所に申し立てることでこの期間を伸ばしてもらえます(民法915条1項ただし書)。期限が迫っていることに気づいた時点で、早めに家庭裁判所か専門家へ相談することをおすすめします。
限定承認をすると実家を売らずに残すことはできますか?
残せる可能性があります。限定承認では、弁済のために相続財産を売却する場合は原則として競売にかけますが、家庭裁判所が選任した鑑定人による評価額を相続人が支払えば、その競売を止めることができます(民法932条、いわゆる先買権)。評価額に相当する資金を用意できれば、実家を手放さずに借金だけを清算する形が取れます。
限定承認をすると相続税とは別に税金がかかりますか?
かかる場合があります。限定承認による相続では、被相続人がその時の時価で相続財産を譲渡したものとみなして譲渡所得を計算する「みなし譲渡課税」が適用されます(所得税法59条1項1号)。取得費より評価額が高い不動産などがあると譲渡所得税が生じることがあり、相続人は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に被相続人の準確定申告をする必要があります。具体的な税額計算は税理士にご相談ください。
相続人の一部が限定承認に反対している場合はどうすればいいですか?
限定承認は共同相続人の全員が共同してのみできるため(民法923条)、1人でも反対すると成立しません。その場合、反対している相続人にだけ先に相続放棄をしてもらい、初めから相続人でなかった扱いにしたうえで(民法939条)、残りの相続人全員で限定承認をするという方法があります。話し合いが難航する場合は、早い段階で司法書士や弁護士に間に入ってもらうことをおすすめします。
限定承認をした後に、把握していなかった借金が新たに見つかったらどうなりますか?
官報での公告期間内に申し出をせず、かつ限定承認者に知られていなかった相続債権者は、原則として残余財産についてのみ弁済を受けられます(民法935条)。弁済がすでに終わった財産にまで遡って請求されることは基本的にありません。ただし、これは適正に公告・催告の手続きを行っていることが前提です。手続きに不備があると賠償責任を問われる可能性があるため(民法934条)、公告・催告は専門家の助言を受けながら確実に行ってください。

まとめ

限定承認は、相続財産の全体像が読めないときに相続人を守るための制度です。要点を振り返ります。

  • 限定承認とは、相続で得たプラスの財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐ相続方法(民法922条)
  • 期限は相続の開始を知った時から3か月以内。相続人全員が共同で申述する必要がある(民法915条・923条)
  • 手続きは申述だけでなく、財産目録の作成・官報公告・催告・弁済・必要なら換価までを含む清算業務
  • 家庭裁判所への費用は収入印紙800円分。官報公告料は数千円程度、専門家報酬は案件により数十万円程度が目安
  • 実家などの特定の財産は、鑑定人の評価額を支払う「先買権」で競売を止めて残せる場合がある(民法932条)
  • 限定承認をすると、相続税とは別に「みなし譲渡課税」という譲渡所得税が発生する場合がある(所得税法59条)。準確定申告は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内
  • 財産や家財に手を付けると法定単純承認とみなされ、限定承認・相続放棄ができなくなることがある。片付けの前に相続方針を確認する

限定承認は、借金の有無がはっきりしない実家を相続したときの選択肢の一つです。手続きの重さと引き換えに、財産が残れば受け取れ、実家を先買権で残せる可能性もあるという点で、単純承認にも相続放棄にもない特徴を持っています。一方で、相続人全員の同意やみなし譲渡課税など、判断を誤ると取り返しがつきにくい要素も含んでいます。実家の相続で借金の有無に不安がある場合は、家財の片付けに着手する前に、まず司法書士や弁護士へ相談し、限定承認が必要な状況かどうかを見極めることをおすすめします。名義変更まで含めた実家の手続き全体は相続登記の義務化とはを、実家の遺産分割の進め方は実家の遺産分割の進め方を、片付けから先の実家じまい全体は実家じまい代行サービスをご覧ください。

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この記事を書いた人

安心実家じまい事務局です。実家の片付けや遺品整理、空き家になった家の処分について、はじめての方にも分かるように記事を書いています。提携している現場の業者や司法書士と一緒に、費用の相場・自治体のごみ出しルール・補助金といった、調べてもなかなか分かりにくいところを一つずつ確かめながらまとめています。「誰に頼めばいいか分からない」という段階のご相談も、LINEやお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

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