
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 不動産の相続は「相続人・財産の確定→遺産分割協議→相続登記→売却や活用の判断」という順に進みます。相続税の申告が必要な場合は遺産分割協議を含めて10ヶ月以内、相続登記は3年以内が期限です。
- 不動産の分け方には現物分割・代償分割・換価分割・共有の4パターンがあります。誰か1人が住み続けるなら代償分割、誰も住まないなら換価分割が実務では選ばれやすい方法です。
- 名義が故人や先代のままでは売却も解体も契約できません。相続登記の準備は、実家の片付けと並行して進めるほうが手戻りが少なくなります。
- 相続税は基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の範囲内なら申告不要です。評価額の計算や売却時の税額計算は税理士の領域にあたるため、この記事では判断の入り口までを整理します。
不動産相続の全体の流れ|7つのステップ
実家や土地といった不動産を相続する場合、やるべきことは大きく7つのステップに分かれます。全体像を先に押さえておくと、今どの段階にいるのか、次に何をすべきかが見えやすくなります。
- 相続人の確定——戸籍を集めて、法定相続人が誰と誰かを確認します。
- 相続財産の調査——不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書を取得し、預貯金や負債もあわせて洗い出します。
- 遺言書の有無の確認——遺言書があれば、原則としてその内容に従って分割します。自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要な場合があります。
- 遺産分割協議——遺言がない場合や、遺言に記載のない財産がある場合に、相続人全員で分け方を話し合います。
- 相続登記の申請——遺産分割協議書などをもとに、不動産所在地を管轄する法務局へ名義変更を申請します。
- 相続税の申告・納税(必要な場合のみ)——基礎控除を超える場合、被相続人の住所地を所轄する税務署へ申告します。
- 売却・賃貸・保有・解体などの活用判断——名義変更が完了して初めて、不動産会社や解体業者との契約が進められる状態になります。
このうちステップ4の遺産分割協議とステップ5の相続登記が、不動産特有の実務として比重の大きい部分です。この記事ではこの2つを中心に、その後の活用判断までを詳しく解説します。死亡直後の役所手続きから相続放棄の判断(3ヶ月以内)、準確定申告(4ヶ月以内)まで含めた期限の一覧は相続手続きの全体スケジュールで整理していますので、あわせてご覧ください。
| ステップ | 目安の期間 | 主な期限 |
|---|---|---|
| 相続人・相続財産の調査 | 1〜2ヶ月 | 期限の定めはないが、後続の手続きに影響するため早めに着手 |
| 遺産分割協議 | 数週間〜数ヶ月 | 相続税の申告が必要な場合は相続開始から10ヶ月以内が実質的な目安 |
| 相続登記の申請 | 2週間〜1ヶ月(書類収集後) | 不動産の取得を知った日から3年以内(2024年4月1日〜) |
| 相続税の申告・納税 | ー | 被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内 |
(国税庁タックスアンサーNo.4205、不動産登記法の相続登記義務化規定をもとに作成)相続人の人数や財産の複雑さによって所要期間は前後します。まずは自分のケースがどの段階にあるかを確認し、次のステップに必要な書類から逆算して動くと、期限に追われずに進められます。
不動産の遺産分割、4つの分け方と選び方
預貯金と違い、不動産は物理的に分けることが難しい財産です。相続人が複数いる場合、不動産をどう分けるかで実務上のやり方が変わります。分け方は大きく4パターンあり、それぞれメリットとデメリットが異なります。
| 分割方法 | 内容 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 土地を分筆する、複数ある不動産を相続人ごとに1つずつ割り当てるなど、財産そのものを現物のまま分ける | 手続きがシンプルで、代償金や売却の手間が不要 | 不動産が1つしかない場合や、面積が狭く分筆できない場合は使えない |
| 代償分割 | 相続人の1人が不動産を単独で取得し、他の相続人へ代償金(現金)を支払う | 実家を売らずに残せる。住み続けたい相続人がいる場合に向く | 取得する相続人に代償金を用意する資力が必要 |
| 換価分割 | 不動産をいったん相続人の共有名義にするか単独名義にしたうえで売却し、売却代金を相続人間で分ける | 不動産を現金化でき、分配額の計算がしやすい。誰も住む予定がない実家に向く | 売却に時間がかかる。譲渡所得に対する税金が発生する場合がある |
| 共有 | 相続人全員の共有名義のまま相続する | その場で結論を出さずに済み、当面の話し合いを先送りできる | 売却や賃貸には共有者全員の同意が必要になりやすく、将来の意思決定が難しくなる |
実務では、共有はできるだけ避けるよう案内されることが多い方法です。共有名義のまま次の世代に相続が発生すると、共有者の人数がさらに増え、権利関係が複雑化していきます。話し合いがまとまらず「とりあえず共有」で終わらせると、数年後・数十年後の子や孫の世代が、より難しい調整を引き継ぐことになりかねません。共有を選ぶ場合も、将来的に現物分割・代償分割・換価分割のいずれかに移行する見通しを、あらかじめ共有者間で話し合っておくことをおすすめします。
代償分割の計算例
相続人が長男・次男・三男の3人(法定相続分は各3分の1)で、遺産が評価額3,000万円の実家(不動産)のみだったケースで考えます。長男が実家に住み続ける代わりに、次男と三男へ代償金を支払う場合、代償金の目安は次のように計算できます。
次男・三男それぞれの取得分 = 3,000万円 × 3分の1 = 1,000万円
長男は次男・三男へそれぞれ1,000万円、合計2,000万円の代償金を支払うことで、実家を単独名義にできます。実際には預貯金など他の財産も遺産に含まれることが多く、その分だけ代償金は調整されます。代償金の額や支払い方法(一括か分割か、分割の場合の期日)は、遺産分割協議書に具体的に明記しておく必要があります。口約束のまま進めると、後日「言った・言わない」のトラブルに発展しやすい部分です。
換価分割の計算例
相続人が兄・妹の2人(法定相続分は各2分の1)で、実家を2,400万円で売却できたケースで考えます。仲介手数料・登記費用・測量費用などの諸経費が合計200万円かかった場合、手取り額の目安は次のとおりです。
売却代金2,400万円 - 諸経費200万円 = 手取り2,200万円
2,200万円 ÷ 2人 = 1人あたり1,100万円
売却によって利益(譲渡所得)が出た場合は、この手取り額とは別に所得税・住民税がかかる点に注意してください。相続税を納めたうえで相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(実質的には相続開始から3年10ヶ月以内が目安)に売却した場合は、納めた相続税額の一部を取得費に加算できる特例があります(国税庁タックスアンサーNo.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」より)。適用できるかどうかは個別の申告内容によって変わるため、売却が具体化した段階で税理士に確認することをおすすめします。
遺産分割協議書の書き方と、まとまらないときの調停
分割方法が決まったら、その内容を遺産分割協議書という書面にまとめ、相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付します。相続登記の申請には、この協議書が添付書類の1つとして必要になります。
不動産の記載で間違えやすい点
遺産分割協議書に不動産を記載する際、多くの人が最初につまずくのが「住所」と「登記上の表示」の違いです。日常生活で使う住所(例:〇〇市〇〇町1丁目2番3号)と、登記事項証明書に記載されている所在・地番・家屋番号は、多くの場合一致しません。法務局は登記事項証明書上の表示と協議書の記載が一致しているかを審査するため、住所をそのまま書き写すと、不動産を正しく特定できず補正(訂正)を求められることがあります。協議書を作成する前に、対象の不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、そこに記載された所在・地番・家屋番号・床面積などを正確に転記することが、やり直しを防ぐ最初のポイントです。
遺産分割協議がまとまらない場合:遺産分割調停
相続人同士の話し合いで折り合いがつかない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる方法があります。裁判所公式サイトによると、申立てができるのは共同相続人・包括受遺者・相続分譲受人で、申立先は相手方のうちの1人の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。申立てにかかる費用は、被相続人1人につき収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手です(金額は申立先の裁判所によって異なります)。必要書類は、被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本、相続人全員の戸籍謄本、不動産登記事項証明書や固定資産評価証明書といった遺産に関する証明書などです(裁判所公式サイト「遺産分割調停」より)。調停でも合意に至らない場合は、自動的に審判手続きへ移行し、裁判官が遺産の種類・性質などの事情を踏まえて分割方法を決定します。
相続人の中に連絡が取れない人がいる、そもそも誰が相続人にあたるか分からないという場合は、戸籍の収集からつまずくことになります。相続人の調べ方は相続人調査のやり方、必要な戸籍の集め方は相続に必要な戸籍の集め方で解説しています。話し合いが感情的な対立に発展しやすいパターンについては相続で兄弟が揉める典型パターンもあわせてご確認ください。
不動産部分の記載例
遺産分割協議書に不動産の内容を記載する際は、登記事項証明書の表記に合わせて、次のように土地と建物を分けて書くのが基本です。実際の文言は事案ごとに調整が必要なため、そのまま使う場合も司法書士による事前確認をおすすめします。
| 区分 | 記載例 |
|---|---|
| 土地 | 所在 〇〇市〇〇町一丁目 地番 〇番〇 地目 宅地 地積 〇〇.〇〇平方メートル |
| 建物 | 所在 〇〇市〇〇町一丁目〇番地〇 家屋番号 〇番〇 種類 居宅 構造 木造かわらぶき2階建 床面積 1階〇〇.〇〇平方メートル 2階〇〇.〇〇平方メートル |
「相続人〇〇は、次の不動産を取得する。」という一文に続けて、この表のとおり登記事項証明書の記載どおりに書き写します。住居表示(住所)と地番が異なる地域では、この転記を省略して住所だけで済ませてしまうミスがとくに起こりやすいので注意してください。
相続登記(名義変更)の申請|期限・費用の要点
遺産分割協議がまとまったら、その内容を登記に反映させる相続登記を申請します。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、不動産の取得を知った日から3年以内(遺産分割が成立した場合はその成立日から3年以内)に申請しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になり得ます。施行日より前に発生した相続で登記が済んでいない不動産も対象で、原則として2027年3月31日までに済ませる必要があります。
登記にかかる登録免許税は、原則として固定資産税評価額に0.4%を掛けて算出します(相続した土地の価額が100万円以下の場合は、2027年3月31日までの適用で登録免許税が免税されます)。必要書類は被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、固定資産評価証明書、遺産分割協議書などです。遺産分割がまとまらない事情がある場合には、簡易な「相続人申告登記」で義務だけ先に果たす方法もあります。期限・過料の要件・必要書類の詳しい一覧・相続人申告登記の使い方は相続登記の義務化とは|期限・過料・実家を相続したらやることで解説していますので、この記事とあわせてご覧ください。
不動産が複数ある場合は物件ごとに申請が必要
意外と見落とされやすいのが、土地と建物は別々の不動産として扱われ、それぞれに登記が必要になる点です。実家の敷地(土地)と家屋(建物)を1つの不動産だと思い込み、建物の登記だけ済ませて土地を放置してしまうケースが実務では見られます。畑や山林など、実家の敷地とは離れた場所に別の土地を所有していた場合も、その土地ごとに登記が必要です。相続財産の調査段階で、名寄帳(固定資産課税台帳の一覧)を市区町村役場で取得しておくと、被相続人名義の不動産を漏れなく洗い出せます。
登記完了後に受け取る書類の保管
相続登記が完了すると、法務局から登記識別情報通知(従来の権利証にあたる書類)が交付されます。この書類は再発行ができず、将来その不動産を売却する際に必要になるため、他の相続関係書類とあわせて紛失しないよう保管してください。登記事項証明書は、法務局の窓口やオンライン申請(登記情報提供サービス)で、いつでも取得し直すことができます。
相続税は不動産にいくらかかる?評価額の考え方と申告要否
不動産を相続したからといって、そのまま相続税がかかるとは限りません。相続財産の合計額が基礎控除の範囲内であれば、申告も納税も不要です。基礎控除額は次の式で計算します(国税庁タックスアンサーNo.4152「相続税の計算」より)。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
例えば法定相続人が3人であれば、基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。不動産の評価額に預貯金など他の財産を合計した金額がこの範囲内であれば、申告は必要ありません。詳しい計算方法や、財産の種類ごとの評価の考え方は相続税の基礎控除|計算方法と申告が必要かの判定手順で解説しています。
不動産の評価額はどう決まるか
相続税を計算する際の不動産の評価方法は、土地と建物で異なります。土地は、路線価が定められている地域では「路線価方式」(路線価に土地の形状に応じた補正率を掛け、面積を乗じて計算)、路線価がない地域では「倍率方式」(固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて計算)のいずれかで評価します。家屋は、固定資産税評価額がそのまま相続税の評価額になります(国税庁タックスアンサーNo.4602「土地家屋の評価」より)。実家の評価額を大まかに把握したい場合は、まず固定資産税の納税通知書に記載された評価額を確認するのが手がかりになります。
小規模宅地等の特例で評価額が下がる場合がある
被相続人が住んでいた宅地を配偶者や同居していた親族が相続する場合など、一定の要件を満たすと、居住用宅地について330㎡までの部分の評価額を80%減額できる「小規模宅地等の特例」があります(国税庁タックスアンサーNo.4124より)。適用できれば相続税額に大きな差が出ることもありますが、要件は「相続開始直前の利用状況」や「相続後の保有・居住の継続」など細かく定められており、申告書への適用手続きも必要です。実家の評価額が大きく、相続税がかかりそうな場合は、この特例の適用可否を早い段階で税理士に確認しておくことをおすすめします。
相続で取得した不動産に不動産取得税はかからない
売買や贈与で不動産を取得した場合には不動産取得税がかかりますが、相続(遺産分割や法定相続分による取得を含む)によって取得した場合は、地方税の実務上、不動産取得税の対象外として扱われます。相続後の税負担を検討する際に、この点を売買のケースと混同しないよう注意してください。
相続税の計算・申告は税理士の領域です
基礎控除を超えるかどうかの概算は自分で確認できますが、実際の申告書作成には、財産ごとの正確な評価、特例の適用可否の判断、相続人間での税額按分など、専門的な知識が必要です。相続財産に不動産が含まれる場合、評価額の算定だけでも実務上の判断が分かれる場面が少なくありません。基礎控除を超えそうな場合や、小規模宅地等の特例の適用を検討している場合は、早めに税理士へ相談することをおすすめします。安心実家じまいでは、税務の相談窓口として提携税理士をご紹介することも可能です。
相続登記後、その不動産をどうするか|売却・賃貸・保有・解体
相続登記が完了して初めて、名義人として不動産を自由に処分できる状態になります。ここから先は、実家をどう活かすかという判断です。主な選択肢を比較すると、次のようになります。
| 選択肢 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 売却 | 誰も住む予定がなく、維持費より現金化を優先したい場合 | 譲渡所得に税金がかかる場合がある。空き家特例や取得費加算の特例を使えるかは要確認 |
| 賃貸に出す | 立地が良く、当面手放さずに収益化したい場合 | リフォーム費用や管理の手間が発生する。空室リスクも考慮する必要がある |
| そのまま保有 | 将来の利用予定がある、または売却の判断を先延ばしにしたい場合 | 固定資産税や管理の手間が継続してかかる。空き家のまま放置すると特定空家等に指定されるリスクがある |
| 解体して更地にする | 建物の老朽化が進み、活用も売却も見込みにくい場合 | 解体費用がかかる。更地にすると固定資産税の住宅用地特例が外れ、税額が上がる場合がある |
誰も住む予定がない実家を空き家のまま放置すると、雨漏りやシロアリなどで建物の傷みが進み、庭木の管理が行き届かなくなれば近隣とのトラブルにもつながりかねません。管理が行き届かない状態が続くと、自治体から特定空家等に指定され、固定資産税の住宅用地特例が解除されて税負担が増える可能性もあります。判断に迷う場合も、実家を「片付けて中を空にした状態」にしておけば、売却・賃貸・保有のいずれの選択肢にも動きやすくなります。片付けと並行して、不動産会社や解体業者に概算の見積もりを取っておくと、判断材料がそろいます。
相続した空き家を売る場合の税の特例
相続した被相続人の居住用家屋(空き家)とその敷地を売却する場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)を控除できる特例があります。対象期間は令和9年12月31日までの譲渡で、建物が昭和56年5月31日以前に建築されていること、区分所有登記がされていないこと、相続開始の直前に被相続人以外が住んでいなかったことなど、複数の要件を満たす必要があります(国税庁タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」より)。適用できれば税負担を大きく抑えられる可能性がある一方、要件の判定には専門知識が必要なため、売却を具体的に検討する段階で税理士に確認することをおすすめします。
換価分割で代表者名義にする場合の注意点
換価分割では、売却の実務を進めやすくするために、いったん相続人の1人(代表者)の単独名義で登記し、その代表者が売主として契約したうえで、売却代金を他の相続人へ分配する進め方がよく使われます。ここで注意したいのは、代表者から他の相続人への分配が、税務上「贈与」とみなされてしまうリスクです。遺産分割協議書に「不動産を換価分割の目的で〇〇(代表者)の単独名義とし、売却代金から諸費用を差し引いた残額を相続人間で〇:〇の割合で分配する」といった換価分割である旨を明記しておくことで、分配金が贈与ではなく遺産の取得分であることを示せます。この一文が抜けていたために、後日の税務調査で分配金を贈与と指摘されるケースが実務では報告されています。換価分割を選ぶ場合は、協議書の文言を司法書士や税理士に確認してもらうことをおすすめします。
共有名義になった不動産をあとから分けたくなったら
いったん共有名義で相続登記をしたものの、後になって「やはり売却したい」「自分の持分だけ整理したい」と考えるケースは少なくありません。共有名義を解消する方法には、主に次の3つがあります。
- 持分の放棄——共有者の1人が自分の持分を放棄すると、その持分は他の共有者に帰属します(民法255条)。放棄そのものに他の共有者の同意は不要ですが、持分移転の登記手続きは別途必要です。
- 持分の売却——自分の持分だけを、他の共有者または第三者に売却することもできます。ただし持分だけを買い取る第三者は限られており、実勢価格より低い金額でしか売却できないことが多いのが実情です。
- 共有物分割請求——共有者間の協議で分割方法がまとまらない場合、裁判所に共有物の分割を請求できます(民法258条)。裁判所は事案に応じて、現物分割・代償分割(価格賠償)・換価分割のいずれかの方法を命じることになります。
共有物分割請求は最終手段であり、時間も費用もかかります。共有で相続登記をする場合は、将来どのタイミングで、どの方法に移行するかを共有者間であらかじめ話し合っておくほうが、後々の負担を減らせます。
遠方に住む相続人が進める場合の注意点
相続人が遠方に住んでいる場合、遺産分割協議も相続登記の準備も、対面での話し合いが難しいという事情が加わります。現実的な進め方としては、次の点を押さえておくと手戻りが少なくなります。
- 遺産分割協議書は郵送での持ち回りで作成できる——相続人全員が一堂に会さなくても、内容がまとまった協議書を郵送で回覧し、それぞれが実印を押して返送する方法で成立させられます。
- 相続登記の申請は郵送・オンラインでも可能——法務局の窓口へ出向かなくても、書類一式を郵送するか、オンライン申請システムを使って手続きできます。
- 戸籍謄本の収集は郵送請求が基本——本籍地が遠方の場合、各市区町村へ郵送で請求することになります。返送までに1〜2週間程度を見込んでおくと余裕を持って進められます。
- 現地確認が必要な場面は代行を検討する——不動産の現況確認や、売却・解体前の立ち会いなどは、現地に行かないと難しい作業です。何度も帰省するのが負担な場合は、片付けから売却・解体の相談までを1つの窓口に任せる方法もあります。
事務局の相談窓口でよく見られるトラブルパターン
相談を受ける中では、不動産の遺産分割や登記の場面で、次のようなパターンが繰り返し見られます。自分の状況が当てはまらないか確認してみてください。
- 遺産分割協議書に住所を書いてしまい、法務局から補正を求められて登記が数週間遅れる
- 「とりあえず共有名義にしておこう」とその場をしのいだ結果、数年後に売却したくなったときに共有者の1人と連絡が取れず、話が進まなくなる
- 代償分割で口約束のまま実家を単独名義にしたものの、代償金の支払いが滞り、相続人間の関係が悪化する
- 相続税がかかると思い込んで慌てて動いたが、実際には基礎控除の範囲内で申告不要だったと後から分かる(逆に、かからないと思い込んで期限を過ぎてから申告漏れに気づくケースもある)
- 相続登記を後回しにしたまま実家の片付けだけ終わらせ、いざ売却しようとして名義が祖父母のままだったと判明し、そこから戸籍収集をやり直す
- 相続人の1人が認知症などで判断能力を欠いている状態のまま遺産分割協議を進めてしまい、後から協議自体が無効と指摘される。判断能力に不安がある相続人がいる場合は、家庭裁判所で成年後見人等の選任を受けたうえで協議に参加してもらう必要がある
- 相続人の中に未成年者がいて、親権者である相続人自身も相続人の1人だったため、そのまま協議書に押印してしまう。この場合は親権者と未成年者の利益が相反するため、家庭裁判所で特別代理人を選任してもらい、その特別代理人が未成年者の代わりに協議に加わる必要がある
これらは実家の片付けを進める前段階、遺産分割協議の入り口でつまずきやすいポイントです。相続人の中に判断能力や年齢の面で単独では協議に参加できない人がいないか、早い段階で確認しておくと、後からの手続きのやり直しを防げます。
これらに共通するのは、遺産分割・登記・税務・活用の判断をそれぞれ別のタイミングで考えてしまい、後から手戻りが生じている点です。相続が発生した早い段階で、不動産をどう分けるか・誰が住むか(あるいは誰も住まないか)・登記の見通しをあわせて整理しておくと、こうした手戻りを避けやすくなります。
実務チェックリスト|不動産相続で確認すべきこと
不動産の相続を進める際に確認しておきたい項目をまとめました。印刷してチェックリストとしてご活用ください。
| 確認項目 | チェックの目的 |
|---|---|
| 法定相続人は全員確定しているか | 戸籍の収集漏れがあると、遺産分割協議が後から無効になるおそれがある |
| 不動産の登記事項証明書を取得したか | 所在・地番・家屋番号など、協議書に正確に転記するための基礎情報になる |
| 名寄帳で被相続人名義の不動産をすべて洗い出したか | 敷地とは別の土地・山林などの登記漏れを防ぐ |
| 遺言書の有無を確認したか(自筆証書は検認の要否も) | 遺言があれば分割協議より優先される場合がある |
| 分割方法(現物・代償・換価・共有)は決まったか | 登記の申請内容や、必要になる資金の見通しに直結する |
| 代償分割の場合、代償金の額と支払い方法を協議書に明記したか | 後日の「言った・言わない」のトラブルを防ぐ |
| 相続税の基礎控除額と財産の合計額を概算したか | 申告要否の見当をつけ、必要なら早めに税理士へ相談する |
| 相続登記の期限(取得を知った日から3年)を確認したか | 過料の対象になり得るため、着手時期の目安にする |
| 登記完了後の活用方針(売却・賃貸・保有・解体)を話し合ったか | 名義変更後の具体的な動き方を早めに共有しておく |
安心実家じまいのサービス案内
安心実家じまいは、実家の片付けから売却・解体の手配までを1つの窓口でお受けする全国対応のサービスです。遺産分割協議がまとまり、相続登記の見通しが立った段階で、片付け・売却・解体のどこから始めればよいか迷う方も多くいらっしゃいます。提携司法書士と連携しながら、名義変更の手続きと並行して片付けを進めることも可能です。
実家の家財だけを片付けたい場合は遺品整理サービス、片付けから売却・解体まで見据えている場合は実家じまい代行パックをご案内しています。相続財産の分け方に迷う段階でも、まずは実家の状況を写真でお送りいただければ、片付け・活用それぞれの選択肢についてご相談いただけます。相続税の申告や不動産の評価額の算定など税務に関わる部分は、提携税理士のご紹介も行っています。LINEでの無料相談も承っています。
遺産分割の相談から、片付け・売却・解体の手配まで。提携司法書士・税理士とも連携しながら進められます。
よくある質問
不動産の相続手続きは、相続開始から何ヶ月くらいで終わりますか?
相続人の一人が「実家に住み続けたい」と言っています。他の相続人はどうすればいいですか?
相続した不動産を売ったら、税金はかかりますか?
遺産分割協議がまとまらない場合はどうすればいいですか?
相続登記をしないまま放置するとどうなりますか?
まとめ
不動産の相続は、相続人・財産の確定から始まり、遺産分割協議、相続登記、そして売却や活用の判断まで、複数の手続きが順番につながっています。要点を振り返ります。
- 流れは「相続人・財産の確定→遺産分割協議→相続登記→活用の判断」。相続税の申告は10ヶ月以内、相続登記の申請は3年以内が主な期限
- 不動産の分け方は現物分割・代償分割・換価分割・共有の4パターン。共有は将来の意思決定を難しくしやすく、実務では避ける傾向がある
- 代償分割は代償金、換価分割は手取り額を、法定相続分に沿って事前に試算しておくとトラブルを防ぎやすい
- 遺産分割協議書には登記事項証明書どおりの所在・地番・家屋番号を記載する。話し合いがまとまらない場合は遺産分割調停(申立費用は収入印紙1,200円分から)を利用できる
- 相続登記の名義変更が済まないと、売却も解体も契約できない。片付けと登記の準備は並行して進めるのが手戻りを防ぐコツ
- 相続税は基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の範囲内なら申告不要。評価額の算定や特例の適用可否は税理士に確認する
- 相続した空き家の売却には最高3,000万円の譲渡所得控除など、税負担を抑える特例がある。適用要件は個別に確認が必要
不動産の相続は、法律・税務・実家の片付けという3つの領域が絡み合う手続きです。それぞれを別々に考えるのではなく、早い段階で全体の見通しを立てておくことが、結果的にいちばんの近道になります。相続登記の詳しい期限や過料の要件は相続登記の義務化とはを、遺産分割の実務的な進め方は実家の遺産分割協議の進め方を、あわせてご覧ください。
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