
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 相続税の計算では、実家の建物は「固定資産税評価額×1.0」、土地は「路線価方式」または「倍率方式」で評価します。売買の実勢価格(時価)そのものではありません。
- 路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度、固定資産税評価額(宅地)は地価公示価格等の7割を目途に定められています。つまり相続税評価額は、市場で売れる価格より低くなるのが一般的です。
- 亡くなった方が住んでいた宅地は、要件を満たせば小規模宅地等の特例で330㎡まで評価額が80%減額されます。適用の可否で税額が大きく変わるため、必ず確認しましょう。
- 評価額を合計しても基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら相続税はかかりません。まずは自宅で概算し、判断に迷ったら税理士や税務署に相談してください。
相続税の家の評価額は「売値」ではない|まず3つの価格を区別する
実家を相続したとき、多くの方が最初に戸惑うのが「この家はいくらとして相続税を計算するのか」という点です。結論からいうと、相続税の計算に使う評価額は、不動産会社の査定額(時価・実勢価格)ではありません。国税庁が定める「財産評価基本通達」のルールに従い、土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額で評価します(出典:国税庁 タックスアンサー No.4602 土地家屋の評価)。
一つの不動産には、目的の異なる複数の「価格」が存在します。この違いを最初に整理しておくと、後の計算がぐっと分かりやすくなります。
| 価格の種類 | 使われる場面 | 水準の目安 | 調べ方 |
|---|---|---|---|
| 実勢価格(時価) | 実際の売買 | 取引により変動 | 不動産会社の査定・近隣の成約事例 |
| 地価公示価格 | 土地取引の指標 | 基準(100%) | 国土交通省の地価公示 |
| 相続税路線価 | 相続税・贈与税の土地評価 | 地価公示価格等の80%程度 | 国税庁「路線価図・評価倍率表」 |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税・登録免許税など | 宅地は地価公示価格等の7割目途 | 毎年届く課税明細書・市区町村の評価証明書 |
路線価が「地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途」に定められていることは国税庁が公表しており(出典:国税庁 令和7年分の路線価等について)、固定資産税評価額の宅地が「地価公示価格等の7割を目途」に評価されることは総務省の資料に明記されています(出典:総務省 固定資産税の評価・課税のしくみ)。
この水準差を知っておくと、手元の資料から他の価格をおおまかに逆算できます。たとえば固定資産税評価額が1,400万円の宅地なら、1,400万円÷0.7=2,000万円が公示価格水準の目安、2,000万円×0.8=1,600万円が路線価水準の目安、という具合です。あくまで概算の目安ですが、「相続税がかかりそうかどうか」の当たりを付けるには十分役立ちます。
建物(家屋)の評価方法|固定資産税評価額×1.0
建物の評価はシンプルです。固定資産税評価額に1.0を乗じた金額、つまり固定資産税評価額そのままが相続税評価額になります(出典:国税庁 タックスアンサー No.4602)。
固定資産税評価額は、毎年4〜6月頃に市区町村(東京23区は都税事務所)から届く固定資産税の納税通知書に同封された「課税明細書」で確認できます。課税明細書が見当たらない場合は、市区町村の窓口で「固定資産評価証明書」を取得すれば分かります。評価証明書は相続登記の際にも必要になる書類なので、相続手続きの初期に取得しておくと二度手間になりません。
家屋の固定資産税評価額は、同じ家屋をその場所に新築する場合の建築費(再建築価格)に、築年数に応じた経年減点補正率を掛けて算定され、3年を1期として評価替えが行われます(出典:総務省 固定資産税の評価・課税のしくみ)。築年数の古い実家では、建物の評価額が数十万円〜数百万円程度まで下がっているケースも珍しくありません。「建物は思ったより評価が低く、土地が評価額の大半を占める」というのが、実家相続の典型的なパターンです。
土地の評価方法①|路線価方式(市街地の宅地)
路線価が定められている地域(主に市街地)の宅地は、路線価方式で評価します。計算式は次のとおりです。
土地の評価額 = 路線価 × 奥行価格補正率などの各種補正率 × 土地の面積(㎡)
路線価とは、道路(路線)に面する標準的な宅地1㎡当たりの価額で、路線価図には千円単位で表示されています。毎年1月1日を評価時点として定められ、その年中の相続・贈与に適用されます(出典:国税庁 No.4602・国税庁 路線価等の公表資料)。
たとえば、路線価図に「200D」とある道路に面した180㎡の整形地なら、路線価は20万円/㎡(200千円)なので、補正がない場合の評価額は20万円×180㎡=3,600万円です。末尾のアルファベットは借地権割合を示す記号で、A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%を意味します(出典:国税庁 路線価図の説明)。自分の土地として使っていた「自用地」の評価では借地権割合は使いませんが、貸している土地の評価(後述)で必要になります。
補正率で評価額が下がる土地もある
路線価方式では、土地の形状や条件に応じて各種の補正率を掛けます。奥行が極端に長い・短い土地(奥行価格補正)、形がいびつな土地(不整形地補正)、間口が狭い土地(間口狭小補正)などは評価額が下がる方向に補正されます。逆に、二つの道路に面した角地などは加算される場合があります。補正率の適用は専門的な判断を伴うため、変形地や広い土地では、路線価×面積の単純計算より評価額を下げられる余地がないか、相続税に詳しい税理士に確認する価値があります。
土地の評価方法②|倍率方式(路線価のない地域)
路線価が定められていない地域(郊外や農村部など)の土地は、倍率方式で評価します。計算式は次のとおりです。
土地の評価額 = 固定資産税評価額 × 評価倍率
評価倍率は国税庁の「評価倍率表」で地域・地目ごとに定められており、宅地では「1.1倍」といった倍率がよく見られます。固定資産税評価額は課税明細書や評価証明書で確認できるため、倍率方式の場合は「手元の書類の金額×倍率表の数字」だけで評価額が計算でき、路線価方式より手間がかかりません(出典:国税庁 No.4602)。
自分の実家が路線価地域か倍率地域かは、後述の「路線価図・評価倍率表」サイトで住所をたどれば分かります。市街地の中心部は路線価地域、郊外や農村部は倍率地域、と一つの市町村の中で両方が混在していることも普通にあります。地方の実家では倍率地域であることが多く、その場合はまず固定資産税の課税明細書を探すことが評価の第一歩になります。
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路線価・評価倍率の調べ方|4ステップ
路線価と評価倍率は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」(rosenka.nta.go.jp)で誰でも無料で閲覧できます。手順は次のとおりです。
| 手順 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 年分を選ぶ | トップページで相続が発生した年(亡くなった年)の年分を選択 | 使うのは「相続開始の年」の路線価。今年の相続なら今年分 |
| 2. 都道府県→市区町村を選ぶ | 実家の所在地をたどる | 「路線価図」に町名があれば路線価地域、なければ「評価倍率表」を確認 |
| 3. 路線価図で実家の前の道路を探す | 地図上で実家が面する道路の数字を読む | 数字は千円単位。「200D」なら1㎡=20万円 |
| 4. 面積を掛ける | 登記事項証明書や課税明細書の地積(㎡)を掛ける | これで概算評価額が出る。変形地は補正の検討余地あり |
土地の面積は、法務局で取得できる登記事項証明書の「地積」欄、または固定資産税の課税明細書で確認します。登記上の面積と実測面積が異なる場合もありますが、概算段階では登記上の地積で計算すれば十分です。なお、亡くなった年の路線価がまだ公表されていない時期に相続が発生した場合は、公表を待ってから計算することになります。
評価額が大きく下がる「小規模宅地等の特例」
実家の相続でもっとも影響が大きいのが、小規模宅地等の特例です。亡くなった方(被相続人)等が住んでいた宅地を一定の要件を満たす親族が相続した場合、330㎡までの部分について評価額が80%減額されます(出典:国税庁 タックスアンサー No.4124 小規模宅地等の特例)。
| 宅地の利用区分 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(被相続人等が住んでいた宅地) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等(被相続人等の事業に使われていた宅地) | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等(賃貸アパートや貸駐車場などの宅地) | 200㎡ | 50% |
たとえば評価額3,600万円・180㎡の実家の敷地に特定居住用宅地等として特例を適用できれば、課税価格に算入する金額は3,600万円×(1−0.8)=720万円まで下がります。2,880万円分の評価減であり、相続税がかかるかどうかの分かれ目になることも多い制度です。
誰が相続するかで適用の可否が変わる
特定居住用宅地等として認められるかどうかは、「誰がその宅地を相続したか」によって変わります。配偶者が取得する場合は原則として適用でき、同居していた親族が取得する場合は申告期限まで居住・保有を続けることなどが要件になります。別居の親族(いわゆる「家なき子」)が取得する場合は、持ち家がないことなど、より細かい要件が定められています。ここの判定は個別性が高く、適用できると思い込んでいたら要件を満たしていなかった、というケースが実務ではよく起こります。
特例を使うには相続税の申告が必要
注意したいのは、小規模宅地等の特例を適用した結果、税額がゼロになる場合でも、特例の適用には相続税の申告が必要だという点です。「計算したらゼロだったから申告しなかった」は通用しません。特例を前提に無申告のままにしないよう、適用を考えている場合は税理士や税務署に確認してください。
宅地以外の土地の評価|田・畑・山林も地目ごとに計算する
実家の敷地のほかに、田・畑・山林などを親が持っていたというケースも少なくありません。土地は原則として、宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価します(出典:国税庁 No.4602)。評価倍率表には宅地だけでなく田・畑・山林の倍率も地域ごとに定められており、倍率地域であれば「その地目の固定資産税評価額×倍率」という同じ考え方で計算できます。
注意したいのは、登記上の地目と実際の利用状況が食い違っている場合です。登記は「田」のまま宅地として使われている、山林だが一部が資材置き場になっている、といった土地は、実際の利用状況に基づいて評価することになるため、判断に迷ったら税理士や税務署に確認してください。また、農地は農地法の制約で売却先が限られるなど、評価とは別に処分の難しさもあります。手放す選択肢として、要件を満たせば国に土地を引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度もあります。詳しくは相続土地国庫帰属制度とは|要件・負担金・実家の土地を手放す方法で解説しています。
貸している家・土地の評価|賃貸中は評価額が下がる
実家の一部を貸していた場合や、亡くなった方が賃貸アパートを持っていた場合は、権利関係に応じて評価額が調整されます。借主の権利が付いている分、所有者が自由に使えないため、評価額は自用地より低くなります。
- 貸宅地(借地権付きの土地)——自用地としての価額 −(自用地としての価額 × 借地権割合)で評価します。借地権割合は路線価図の記号(A〜G)で確認できます(出典:国税庁 No.4613 貸宅地の評価)。
- 貸家建付地(賃貸アパート等の敷地)——自用地としての価額 −(自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)で評価します。借家権割合は国税庁の財産評価基準書で確認できます(出典:国税庁 No.4614 貸家建付地の評価)。
- 賃貸している建物——貸家として、借家権等を考慮した調整後の評価になります(出典:国税庁 No.4602)。
逆に、親族に無償で貸していた(使用貸借)場合は、原則として自用地としての評価になります。「貸していたから安くなるはず」と思い込まず、賃貸借契約の有無と家賃の実態を確認したうえで判断してください。
マンションの評価|2024年からルールが変わった
実家がマンション(区分所有)の場合は、敷地利用権(土地部分)+区分所有権(建物部分)の合計で評価します。土地部分はマンション敷地全体の価額に敷地権の割合を掛けて計算し、建物部分は固定資産税評価額で評価します。さらに、令和6年(2024年)1月1日以後に相続・贈与で取得した分譲マンションについては、市場価格と評価額の乖離を是正するための「区分所有補正率」を乗じて評価する場合があります(出典:国税庁 No.4602)。
国税庁が示している計算例では、正面路線価50万円/㎡・敷地全体3,500㎡・敷地権の割合が105万分の6,300のマンションの場合、敷地全体の価額は50万円×3,500㎡=17億5,000万円、これに敷地権の割合を掛けた敷地利用権(土地部分)の価額は1,050万円となります。建物部分は固定資産税評価額400万円×1.0=400万円で、合計1,450万円という計算です(出典:国税庁 No.4602)。敷地権の割合は登記事項証明書に記載されています。
タワーマンションの高層階などでは、この改正により従来より評価額が上がるケースがあります。マンションの評価は戸建て以上に計算要素が多いため、概算は「固定資産税の課税明細書の土地・家屋の評価額」を出発点にしつつ、正確な評価は税理士への相談をおすすめします。
ケース別シミュレーション|実家の評価額と相続税の目安
ここまでの内容を、よくある3つのケースに当てはめて計算してみます。いずれも計算を簡単にするため補正率は考慮せず、財産は記載のもののみと仮定した概算です。実際の税額は個々の事情で変わるため、目安としてご覧ください。
ケースA:地方都市の実家に母と同居していた長男が相続(相続人2人)
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 土地(路線価20万円/㎡×180㎡) | 200,000×180 | 3,600万円 |
| 小規模宅地等の特例(330㎡以下・80%減) | 3,600万円×(1−0.8) | 720万円 |
| 建物(固定資産税評価額) | — | 500万円 |
| 課税価格の合計 | 720万円+500万円 | 1,220万円 |
| 基礎控除(相続人2人) | 3,000万円+600万円×2 | 4,200万円 |
課税価格1,220万円は基礎控除4,200万円を下回るため、このケースでは相続税はかかりません。ただし小規模宅地等の特例を使って基礎控除以下になる場合は申告が必要です。特例なしでも4,100万円<4,200万円なので、このケースは特例に頼らず基礎控除内に収まります(その場合は申告不要)。
ケースB:倍率地域の実家を一人っ子が相続(相続人1人)
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 土地(固定資産税評価額800万円×倍率1.1) | 800万円×1.1 | 880万円 |
| 建物(固定資産税評価額) | — | 300万円 |
| 課税価格の合計 | 880万円+300万円 | 1,180万円 |
| 基礎控除(相続人1人) | 3,000万円+600万円×1 | 3,600万円 |
1,180万円<3,600万円で、預貯金などを合わせても基礎控除以下であれば相続税はかからず、申告も不要です。地方の実家相続はこのパターンが多く、「まず課税明細書と倍率表で概算」すれば早い段階で安心材料が得られます。
ケースC:都市部の空き家実家+預金を、持ち家のある子2人が相続
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 土地(路線価30万円/㎡×200㎡) | 300,000×200 | 6,000万円 |
| 建物(固定資産税評価額) | — | 800万円 |
| 預貯金 | — | 2,000万円 |
| 課税価格の合計 | — | 8,800万円 |
| 基礎控除(相続人2人) | 3,000万円+600万円×2 | 4,200万円 |
| 課税遺産総額 | 8,800万円−4,200万円 | 4,600万円 |
| 相続税の総額(法定相続分1/2ずつ) | (2,300万円×15%−50万円)×2人 | 590万円 |
誰も住んでいない空き家で、相続する子がそれぞれ持ち家に住んでいる場合、小規模宅地等の特例(特定居住用)は適用できないことが多く、評価額がそのまま課税対象になります。同じ実家でも「誰が・どういう状況で相続するか」で税額が数百万円単位で変わるのがこの制度の特徴です。税率と計算方法は国税庁の速算表に基づきます(出典:国税庁 No.4155 相続税の税率)。
3つのケースから分かること
同じような実家でも、ケースAとケースCでは納税額が0円と590万円に分かれました。分かれ目になったのは、実家の評価額そのものよりも、「誰が・どんな状況で相続したか」による小規模宅地等の特例の適用可否と、他の財産との合計額です。実家じまいの文脈でいえば、親が元気なうちに同居や住み替えの計画を話し合っておくこと、相続が始まったら早い段階で評価額の概算を出して特例の適用可否を確認することが、そのまま税額対策につながります。評価の概算はこの記事の手順で自分でもできますが、特例の適用判断や補正率を使った減額の検討は、相続税を専門とする税理士に相談したほうが確実です。
生前に評価額を把握しておくメリット
この記事の計算は、相続が始まる前でもそのまま使えます。親が健在なうちに実家の評価額の概算を出しておくと、次のような判断材料になります。
- 相続税がかかる家かどうかが早めに分かる——評価額の概算と預貯金などを合計し、基礎控除と比べるだけで、申告が必要になりそうかどうかの見通しが立ちます。かからない見込みなら、過度に心配する必要がなくなります。
- 実家をどうするかの話し合いを始めるきっかけになる——「実家の土地は評価額でいくら」という具体的な数字があると、住み続けるか、売るか、誰が引き継ぐかという話を感情論ではなく数字ベースで進められます。
- 特例が使える形を検討できる——小規模宅地等の特例は相続時点の利用状況と取得者で決まるため、生前であれば選択肢が残されています。個別の対策は税理士への相談が前提ですが、制度を知っているかどうかで結果が変わり得ます。
評価額の把握は、いわば実家じまいの「健康診断」です。数字を知ったうえで、名義・登記の確認、家財の把握、住まいの希望の共有へと進めていくと、いざというときに慌てずに済みます。
相続税がかかるかの判定|基礎控除と速算表
相続税は、財産の評価額の合計(課税価格の合計額)から基礎控除額を差し引いた残り(課税遺産総額)に対して計算されます。基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数です(出典:国税庁 No.4152 相続税の計算)。
課税遺産総額を法定相続分で按分した取得金額に、次の速算表を当てはめて総額を計算します(出典:国税庁 No.4155)。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | — |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超〜2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超〜3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超〜6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
法定相続人の数え方の注意点
基礎控除額を計算するときの「法定相続人の数」には、細かいルールがあります。まず、相続の放棄をした人がいても、放棄がなかったものとした場合の相続人の数で数えます。また、養子がいる場合に法定相続人の数に含められるのは、実子がいるときは養子のうち1人まで、実子がいないときは2人までです(出典:国税庁 No.4152)。相続人の人数が1人違うと基礎控除は600万円変わるため、家族構成が複雑な場合は最初に人数を確定させることが重要です。相続人が誰かの確定には戸籍の収集が必要で、これは相続登記でも必ず通る工程です。
計算例:課税遺産総額1億5,200万円・妻と子2人の場合
国税庁が示している計算例で流れを確認しておきましょう。法定相続人が妻と子2人の場合、法定相続分は妻2分の1、子が4分の1ずつです。課税遺産総額が1億5,200万円とすると、法定相続分に応ずる取得金額は妻7,600万円、子3,800万円ずつになります。速算表に当てはめると、妻は7,600万円×30%−700万円=1,580万円、子はそれぞれ3,800万円×20%−200万円=560万円。合計した相続税の総額は2,700万円です(出典:国税庁 No.4155)。この総額を、実際に財産を取得した割合に応じて各相続人に割り振り、配偶者の税額軽減などの控除を差し引いたものが、それぞれの納付税額になります。
実家の評価額を出したら、預貯金・有価証券・生命保険金などの他の財産と合算し、基礎控除と比べる。これが「うちは相続税がかかるのか」を判断する基本の流れです。判定に迷う場合は、国税庁サイトの「相続税の申告要否判定コーナー」で財産額を入力して確認する方法もあります。
評価でつまずきやすい5つのポイント
ご相談の中でよく見かける、評価の段階でのつまずきどころを挙げておきます。着手前に目を通しておくと、計算のやり直しを防げます。
- 「課税標準額」と「評価額」を混同する——固定資産税の課税明細書には評価額と課税標準額の両方が載っています。住宅用地には課税標準の特例措置があるため、課税標準額は評価額よりも小さくなっていることが多くあります(出典:総務省 固定資産税の評価・課税のしくみ)。相続税の計算で使うのは「評価額」の欄です。ここを取り違えると評価が大きくずれます。
- 路線価の「年分」を間違える——使うのは相続が発生した年(亡くなった年)の路線価です。路線価は毎年1月1日時点で定められるため、閲覧時の最新年分と相続発生年がずれていないか確認してください。
- 共有持分を掛け忘れる——実家が父母の共有名義だった場合、亡くなった方の持分だけが相続財産です。土地全体の評価額に持分(2分の1など)を掛けるのを忘れると、評価額が倍になってしまいます。持分は登記事項証明書で確認できます。
- 親族への無償貸しを「貸家」と誤解する——子や親族にタダで貸していた家(使用貸借)は、賃貸中の調整は適用されず、原則として自用のものとして評価します。家賃を取っていたかどうか、契約書の有無を確認してください。
- 特例適用を前提に申告しない——小規模宅地等の特例で税額がゼロになる場合でも申告は必要です。「ゼロだから何もしなくていい」ではない点に注意してください。
実家の評価に必要な書類チェックリスト
評価の作業を始める前に、次の書類を揃えておくとスムーズです。印刷して、書類集めのチェック用にご活用ください。
| 書類 | 入手先 | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 固定資産税の課税明細書 | 毎年春に市区町村から郵送(納税通知書に同封) | 土地・家屋それぞれの固定資産税評価額、地積、家屋の床面積 |
| 固定資産評価証明書 | 市区町村の窓口(東京23区は都税事務所) | 課税明細書が見つからない場合の代替。相続登記でも使用 |
| 登記事項証明書(登記簿謄本) | 法務局(オンライン請求可) | 正式な地積・所有者名義・持分 |
| 路線価図・評価倍率表 | 国税庁サイト(無料) | 路線価、評価倍率、借地権割合 |
| 賃貸借契約書(貸している場合) | 自宅・管理会社 | 貸宅地・貸家建付地の評価に必要な賃貸状況 |
| 測量図・公図(あれば) | 法務局・自宅保管書類 | 土地の形状。不整形地補正の検討材料 |
とくに課税明細書は、評価の出発点でありながら「どこにあるか分からない」となりがちな書類です。実家の郵便物や重要書類の保管場所を確認し、見つからなければ評価証明書の取得に切り替えてください。評価証明書の請求には、窓口となる市区町村ごとに本人確認書類や相続人であることが分かる戸籍などが求められるため、事前に自治体のサイトで必要書類を確認してから出向くと確実です。名義が祖父母のままになっているなど登記が古い場合は、評価と並行して名義の整理も必要になります。詳しくは実家の名義変更手続き|必要書類・費用・自分でやる方法をご覧ください。
評価額の計算とあわせて進めたい実家じまいの手続き
相続税の評価は、実家じまい全体の中の一つの工程です。評価額の計算とあわせて、次の点も早めに確認しておくことをおすすめします。
まず相続登記です。相続登記の申請は令和6年4月から義務化されています(出典:法務省 相続登記の申請義務化について)。評価や遺産分割の話し合いを進めながら、登記の準備も並行して進めておくと、売却や活用の段階で止まらずに済みます。安心実家じまいでは、提携司法書士による相続登記サポートをご用意しています。
次に、実家をどうするかの方針決めです。評価額と実勢価格は別物なので、「相続税評価額が低いから売っても安い」とは限りませんし、逆もあります。売却・解体・活用のどれが合うかは、実家は売却と解体どちらが得か|判断基準と費用シミュレーションで整理しています。また、相続人が複数いる場合の分け方は実家の遺産分割|共有名義のリスクと4つの分け方が参考になります。
そして、見落とされがちなのが家の中の整理です。相続税の評価対象は不動産だけでなく、預貯金の通帳や有価証券、貴金属などの動産も含まれます。実家の家財を整理する過程で、把握していなかった通帳や権利証、保険証券が見つかることは珍しくありません。評価や申告の前に家の中を一度きちんと確認しておくことは、財産の把握漏れを防ぐという意味でも重要です。家財整理の際は、金融機関の書類・不動産の権利関係書類・貴重品を先に仕分けてから、不要品の処分に進む順序をおすすめします。
「うちの実家じまいには何の手続きが必要か」をまとめて知りたい方は、質問に答えるだけの実家じまい診断もご活用ください。家財整理から登記・売却まで、必要な工程を一覧で確認できます。評価額の計算で相続税の見通しを立て、診断で全体の段取りを確認する。この二つが揃うと、実家じまいの計画はぐっと立てやすくなります。
よくある質問
相続税の家の評価額は、不動産会社の査定額と同じですか?
路線価はどこで調べられますか?
固定資産税評価額はどこに書いてありますか?
小規模宅地等の特例を使えば必ず80%安くなりますか?
評価額を計算したら基礎控除以下でした。申告は必要ですか?
田舎の実家で路線価図に載っていません。どう計算しますか?
まとめ
相続税における家の評価は、ルールさえ分かれば概算は自分でも計算できます。要点を振り返ります。
- 建物は固定資産税評価額×1.0。課税明細書か評価証明書で確認できる
- 土地は路線価方式(路線価×補正率×面積)または倍率方式(固定資産税評価額×倍率)で評価する
- 路線価は公示価格等の80%程度、固定資産税評価額(宅地)は公示価格等の7割目途。実勢価格とは別物
- 住んでいた宅地は小規模宅地等の特例で330㎡まで80%減額の可能性がある。ただし要件確認と申告が必要
- 評価額の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら相続税はかからない
- 貸している土地・建物、マンションは評価の調整があるため、個別の計算は税理士に相談する
評価額の計算は、実家をどうするかを決めるための出発点です。数字の当たりが付いたら、相続登記・遺産分割・家財整理・売却と、実家じまいの工程を順に進めていきましょう。税額の具体的な判断は税理士や税務署に、登記や名義の手続きは司法書士に相談しながら進めれば、迷わず進められます。安心実家じまいでも、提携司法書士・提携税理士と連携しながら、実家じまい全体の段取りをサポートしています。
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