
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 相続土地国庫帰属制度は、相続・遺贈で取得した土地を一定の要件のもとで国に引き渡せる制度で、2023年4月27日に始まりました。相続放棄と違い、不要な土地だけを選んで手放せる点が特徴です。
- 費用は審査手数料が1筆14,000円、負担金が1筆あたり20万円が基本(市街化区域の宅地・農地や森林は面積に応じて増額)。いずれも一度納付すると返還されません。
- 建物がある土地・担保権が設定された土地・崖や有害物質のある土地などは対象外です。実家の土地は建物付きのケースが多く、更地にしてからでないと申請できません。
- 申請から国庫帰属までの標準処理期間は8か月。書類作成の代行を業務として行えるのは弁護士・司法書士・行政書士の3士業のみです。
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度とは、相続または遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、法律で定められた要件を満たした場合に、その土地を手放して国庫に帰属させる(国に引き渡す)ことができる制度です。根拠となる法律は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」で、法務省が所管しています。
実家を相続したものの、遠方に住んでいて利用する予定がない、周辺の土地に迷惑をかけないよう管理し続けるのが負担になっている、といった相談は珍しくありません。これまでは、相続財産の中に不要な土地が含まれていても、その土地だけを手放すことはできず、他の資産も含めてすべて相続するか、すべて相続放棄するかの二択でした。その結果、名義変更のないまま土地が放置され、所有者が分からなくなる「所有者不明土地」が全国で増えていったことが、この制度が創設された背景です。
いつから始まった制度か
相続土地国庫帰属制度は、令和5年(2023年)4月27日から運用が始まりました。制度の開始前に相続した土地であっても、申請の対象になります。何十年も前に相続して名義変更をしていなかった実家の土地でも、この制度を利用できる可能性があるということです(法務省公式サイトより)。あわせて、令和6年(2024年)4月1日からは相続登記の申請も義務化されています。相続登記が済んでいない実家をお持ちの場合は、この制度の利用を検討する前に、まず登記の状況を確認しておく必要があります。義務化の内容は相続登記の義務化とは|期限・過料・実家を相続したらやることで詳しく解説しています。
相続放棄との違い
「不要な土地を手放したい」と考えたとき、相続放棄という選択肢を思い浮かべる方も多いはずです。相続放棄は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申し立てて、被相続人の権利や義務を一切受け継がないことにする手続きです。この方法には大きな制約があり、不要な土地だけを放棄することはできず、預貯金や株式、自宅の建物といった他の資産の相続権もあわせて失ってしまいます。
これに対して相続土地国庫帰属制度は、預貯金や自宅など残したい資産はそのまま相続し、管理に困っている土地だけを選んで国に引き渡せる点が最大の違いです。すでに相続を終え、名義変更も済んでいる土地に対しても使える点も、期限付きの相続放棄とは異なります。ただし、後述するとおり誰でも・どんな土地でも使えるわけではなく、対象者と土地の要件の両方を満たす必要があります。
制度を利用できる人・できない人
相続土地国庫帰属制度を使えるかどうかは、まず申請する人自身の要件から確認します。
申請できる人の要件
申請ができるのは、相続または遺贈によって土地の所有権を取得した相続人です。遺贈の場合は、相続人に対する遺贈に限られ、法定相続人以外の人が遺贈によって取得した土地は対象外になります。生前贈与を受けた人、売買などで自ら土地を取得した人、法人は、いずれも相続人ではないため申請できません。土地の共有持分を複数回にわたって取得している場合でも、そのうち一つでも相続を原因とする取得があれば利用できます。一方、売買による所有権移転登記が未了のまま相続が発生した場合は、現在の所有者が相続によって取得したことを登記上確認できないため、申請することができません(法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」より)。
相続登記が済んでいない土地でも、相続または遺贈によって取得したことを戸籍事項証明書などで証明できれば申請は可能です。ただし、申請を取り下げたり却下・不承認になったりした場合は、引き続きその土地の所有者として相続登記の義務を負うことになるため、申請と並行して相続登記の準備を進めておくと後の手続きがスムーズです。
共有名義の土地の場合
兄弟姉妹など複数人で相続した共有名義の土地も、申請の対象になります。ただし、共有者(所有者)全員で申請する必要があり、共有者のうち一人でも同意が得られない場合は、その土地について申請することができません。実家の土地は兄弟で共有名義のまま放置されているケースが少なくなく、この点が実務上のハードルになりやすい部分です。共有者に連絡が取れない人がいる場合は、不明共有者の持分取得・譲渡制度や、所有者不明土地管理人の選任といった別の手続きを組み合わせる必要があり、専門的な判断が求められるため、弁護士など専門家への相談をおすすめします(法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」より)。
実家の片付けから処分まで、窓口ひとつでご相談いただけます。
国に引き取ってもらえない土地の要件
相続した土地であれば何でも国庫に帰属できるわけではありません。法律では、通常の管理や処分に多くの費用や労力がかかると考えられる土地の類型を、申請の段階で却下される要件(A〜E)と、審査の結果として不承認になる要件(A〜E)に分けて定めています。いずれも承認申請後に該当が判明すると、納付済みの審査手数料は返還されません(法務省「相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件」より)。
却下要件(申請の段階で直ちに却下となる土地)
次のいずれかに該当する土地は、そもそも承認申請をすることができません。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| A 建物がある土地 | 登記の有無を問わず、現に建物が存在する土地。管理コストが高く、老朽化すれば建替えや取壊しも必要になるため対象外 |
| B 担保権・使用収益権が設定されている土地 | 抵当権などの担保権、地上権・地役権・賃借権などの使用収益権が登記されている土地 |
| C 他人の利用が予定されている土地 | 現に道路・墓地内・境内地・水道用地・用悪水路・ため池として利用されている土地など |
| D 特定有害物質による土壌汚染がある土地 | 土壌汚染対策法施行規則の基準を超える特定有害物質により汚染されている土地 |
| E 境界不明・所有権に争いのある土地 | 隣接地との境界について認識の相違がある、または所有権の存否・帰属・範囲に争いがある土地 |
Aの「建物がある土地」は、物置のような小規模な工作物であれば建物に該当しない場合もありますが、居住用の実家の建物はほぼ確実にこの要件に当てはまります。Eの境界については、測量や境界確認書の提出までは求められませんが、申請者が認識している隣接地との境界を明示し、かつ隣地所有者の認識と相違がないことが必要です。承認申請後、法務局から隣接地の所有者へ境界に関する確認の連絡が入ります。
不承認要件(審査の結果、該当すると判断されると不承認になる土地)
却下要件に当てはまらなくても、実地調査などを経た審査で次のいずれかに該当すると判断されると、不承認となります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| A 危険な崖がある土地 | 勾配30度以上・高さ5メートル以上の崖があり、擁壁工事など過分な費用・労力を要すると判断される土地 |
| B 管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地 | 放置車両、危険な枯れ木や竹、廃屋など。果樹園の樹木のように必ずしも該当しない例外もある |
| C 除去が必要な有体物が地下にある土地 | 産業廃棄物、古い水道管、浄化槽、井戸、建物の基礎部分、大きな石など |
| D 争訟によらなければ管理・処分できない土地 | 公道に通じない袋地、不法占拠者がいる土地、隣地からの排水流入で使用に支障がある土地など |
| E その他、過分な費用・労力がかかる土地 | 土砂崩れなど災害のおそれがある土地、鳥獣・病害虫による被害が生じる土地、整備不足の森林、金銭債務を伴う土地など |
Bの「地上の有体物」は、その土地の形状や性質によって判断が分かれます。たとえば森林にある樹木や、宅地にある安全な土留め・柵は、必ずしも管理を阻害するとは扱われません。一方、倒木のおそれがある枯れ木や、放置車両、建物に該当しない廃屋などは不承認の対象になり得ます。実家の敷地に古い納屋や農機具、庭木がそのまま残っている場合は、事前に片付けておくことで審査の可能性が広がります。
【独自チェックリスト】申請前セルフチェック
法務省が公表している却下・不承認の要件をもとに、実家の土地で確認しておきたいポイントをチェックリストにまとめました。相談の予約を取る前に、ご自身でひととおり確認しておくと、法務局での相談がスムーズに進みます。
- 土地の上に建物が残っていないか(未登記の建物も含む)
- 抵当権・地上権・賃借権などの登記が残っていないか(残っていれば抹消してから申請)
- 現に道路・墓地・境内地・水道用地・ため池として使われていないか
- 過去に工場や廃棄物処分場だったなど、土壌汚染の可能性がないか
- 隣接地との境界について、認識の相違や争いがないか
- 勾配30度以上・高さ5メートル以上の崖があり、かつ管理に大きな費用がかかる状態ではないか
- 放置車両・廃屋・伐採が必要な竹木など、管理の妨げになるものが地上にないか
- 浄化槽・井戸・産業廃棄物・建物の基礎部分など、除去が必要なものが地中に埋まっていないか
- 公道に出るための通行権が確保されており、隣地とのトラブルがないか
- 土砂崩れ・害獣・整備不足の森林など、周辺に被害を及ぼすおそれがないか
ここまで一つでも当てはまる項目がある場合、そのままでは申請が却下・不承認になる可能性があります。建物の解体や抵当権の抹消登記、境界の確認など、事前に対応できることもあるため、該当項目があれば早めに法務局の相談窓口や司法書士に相談することをおすすめします。
費用はいくらかかるか:審査手数料と負担金
相続土地国庫帰属制度の費用は、申請時にかかる審査手数料と、承認後にかかる負担金の2段階に分かれます。
審査手数料は1筆14,000円
承認申請の際には、土地1筆あたり14,000円の審査手数料がかかります。申請書に収入印紙を貼付して納付する仕組みで、キャッシュレスでの納付や領収証書での納付はできません。この手数料は、審査の途中で申請を取り下げた場合や、却下・不承認になった場合でも返還されません。複数の土地をまとめて申請しても軽減されず、たとえば10筆であれば14,000円×10筆の手数料が必要です。なお、隣接する数十筆をまとめて申請する場合に、一部の土地だけを先行して申請することも可能です(法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」より)。
負担金は10年分の管理費相当・基本20万円
審査を経て承認されると、土地の管理に要する10年分の標準的な費用に相当する額として、負担金を納付します。負担金は、国有地の種目ごとに1筆あたり20万円が基本です。ただし、次の場合は面積に応じて負担金が算定され、20万円を超えることがあります。
| 土地の種目 | 負担金の考え方 |
|---|---|
| 宅地 | 面積にかかわらず20万円が基本。ただし市街化区域や用途地域が指定された一部の市街地の宅地は面積に応じて算定 |
| 田・畑 | 面積にかかわらず20万円が基本。ただし一部市街地や農用地区域内の田畑は面積に応じて算定 |
| 森林 | 面積に応じて算定(面積の単純比例ではなく、面積が多いほど1平方メートルあたりの単価は低くなる) |
| その他(雑種地・原野等) | 面積にかかわらず20万円が基本 |
負担金の面積は、現況ではなく登記記録の地積で算定されます。現況の面積が地積と異なる場合は、承認前に地積更正または地積変更の登記をするのが原則です。面積比例の詳細な算定式は、法務省が公開している負担金額の自動計算シートで確認できます(法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」より)。
【独自シミュレーション】ケース別の負担金の目安
実家じまいの相談で多い土地のパターンをもとに、費用の目安を整理しました。面積比例の対象となるケースは正確な金額が個別に異なるため、あくまで目安としてご覧ください。
| ケース | 審査手数料 | 負担金の目安 | 合計の目安 |
|---|---|---|---|
| 郊外の実家の宅地(建物解体済み・市街化区域外) | 14,000円 | 20万円(面積問わず) | 約21万4,000円 |
| 実家に隣接する田・畑(農用地区域外) | 14,000円 | 20万円(面積問わず) | 約21万4,000円 |
| 山あいの山林(単独申請) | 14,000円 | 面積に応じて算定(20万円を超える場合あり) | 14,000円+面積比例分 |
| 隣接する山林2筆(合算特例を利用) | 14,000円×2筆=28,000円 | 2筆の面積を合算して算定 | 28,000円+面積比例分 |
宅地・田畑・雑種地であれば、更地にして要件を満たしている限り、総額はおおむね21万円台に収まるケースが多くなります。一方、森林や一部市街地の宅地・農地は面積に比例して負担金が増えるため、正確な金額は法務局への相談や自動計算シートで確認することをおすすめします。
隣接する土地をまとめる合算特例
承認申請者は、隣接する2筆以上の土地について、一つの土地とみなして負担金の額を算定するよう申し出ることができます。この特例が使えるのは、隣接する土地が同じ種目である場合に限られ、たとえば市街化区域外の宅地同士であれば申出が可能ですが、宅地と森林が隣接している場合は特例を使えません。面積に応じて負担金が変動する森林などは、申出をした土地の面積を合算して算定します。申出は、承認申請書の提出時から帰属の承認がされるまでの間に行う必要があり、隣接地の所有者が異なる場合でも、共同で申出をすることができます(法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」より)。なお、審査手数料は土地1筆ごとにかかるため、合算特例を使っても審査手数料そのものが軽減されるわけではない点に注意してください。
承認後に負担金を払わないという選択もできる
承認の通知と負担金額が想定より高額だった場合、負担金の納付は法律上強制されるものではありません。通知が到達した日の翌日から30日以内に納付しなければ承認の効力が失われるだけで、それ自体に罰則はありません。ただし、失効した場合でも審査手数料は返還されず、同じ土地について改めて国庫帰属を希望するときは、最初から申請をやり直す必要があります。負担金は分割納付ができないため、共有名義の土地では代表者1名が受け取り、共有者間で費用を取りまとめてから一括で納付することになります(法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」より)。
申請から国庫帰属までの流れ
相続土地国庫帰属制度の手続きは、大きく3つのステップで進みます。標準処理期間は8か月とされていますが、書面調査に加えて実地調査が行われる事案もあり、これより長くかかることもあります。
STEP1 法務局への事前相談
まず、承認申請をする土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門に相談します。支局・出張所では相談を受け付けていません。相談は事前予約制で、法務局手続案内予約サービスから申し込みます。方法は、窓口での対面相談、電話相談、令和6年10月15日から始まったウェブ相談の3種類から選べ、時間は一人1日1回30分以内です。土地が遠方にあり、承認申請先の法務局への相談が難しい場合は、お住まいの近くの法務局・地方法務局(本局)でも相談できます。相談時には、相続土地国庫帰属相談票と、土地の状況についてのチェックシートを事前に記入し、登記事項証明書や公図の写し、土地の現況が分かる写真などをできる限り持参します。相談は、土地の所有者本人だけでなく、家族や親族でも受けられます(法務省「相続土地国庫帰属制度の相談対応について」より)。
STEP2 申請書類の作成・提出
承認申請書は原則として所有者本人が作成しますが、書類作成の代行を業務として行えるのは弁護士・司法書士・行政書士の3士業に限られています。これ以外の資格者に代行を依頼することは、弁護士法・司法書士法・行政書士法に違反するため認められていません。家族や親族が作成を手伝うこと自体は可能ですが、申請者名義は所有者本人である必要があり、法律行為としての承認申請手続きを代理できるのは所有者本人または法定代理人のみです。申請書には、土地の位置・範囲を明らかにする図面、隣接地との境界を示す写真、土地の形状が分かる写真、印鑑証明書などを添付し、土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局の本局へ、窓口への持参または郵送(書留郵便かレターパックプラス)で提出します。インターネットやメールでの申請はできません。申請後、審査が終わるまでの間、土地の管理責任は申請者にあり、草刈りなど最低限の管理を続ける必要があります(法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」より)。
STEP3 承認・負担金納付・所有権移転
審査の結果、国が引き取れると判断されると、承認と負担金額を記載した通知書、および負担金を納付するための納入告知書が届きます。負担金は、通知が到達した日の翌日から30日以内に、日本銀行や取扱金融機関の窓口、またはインターネットバンキングなどの電子納付で支払います。負担金が納付された時点で土地の所有権が国に移転し、所有権移転の登記は国の機関が行うため、申請者が登記を申請する必要はありません。固定資産税は、国による登記手続きが翌年1月1日までに完了していれば、その年から国が納税義務者になります。12月に承認された場合は登記が翌年1月にずれ込むことがあり、その場合は翌年度分の固定資産税を申請者が負担する可能性がある点に注意してください(法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」より)。
実家じまいの現場で気をつけたいポイント
制度の条文だけを見ると分かりにくい、実家じまいの相談でよく出てくる論点を補足します。
建物が残っている実家は使えない
実家の土地を国庫帰属制度で手放したいという相談は多いのですが、そのままの状態で申請できるケースはむしろ少数です。建物がある土地は、未登記であっても却下要件に当てはまるため、母屋や離れ、納屋が残っていれば、まず解体して更地にする必要があります。解体費用は建物の構造や延床面積によって数十万円から数百万円に及ぶこともあり、審査手数料・負担金の総額(多くの場合21万円台)と比べてはるかに大きな支出になります。国庫帰属を選ぶ前に、解体費用も含めた総額と、売却や自治体への寄附で得られる可能性のある収入とを比べて検討することをおすすめします。遺品整理や家財の片付けを含めた実家じまい全体の進め方は実家じまい代行サービスで、費用の内訳は実家じまいの費用で詳しく紹介しています。
相続登記との順番
相続登記が済んでいない土地でも申請自体は可能ですが、却下や不承認になった場合はその土地の所有者として登記の義務が残ります。2024年4月からの相続登記の義務化により、正当な理由なく取得を知った日から3年以内に登記をしないと、10万円以下の過料の対象になり得ます。国庫帰属を目指す場合でも、並行して相続登記の準備を進めておくほうが、結果的にスムーズです。実家じまい全体の進め方や着手のタイミングは実家じまいの手順で解説しています。
遠方・共有名義の実家で起こりやすいこと
実家が遠方にある場合でも、相談はウェブや電話で受けられ、申請書類の提出も郵送が認められています。ただし、承認申請の手続き自体を代理できるのは所有者本人か法定代理人に限られるため、遠方に住む家族が代わりに申請することはできません。書類作成の代行を3士業に依頼することはできても、申請そのものは本人名義で進める必要がある点は見落としやすいポイントです。共有名義の実家では、共有者全員の同意が前提になるため、片付けと同時に「誰が代表して申請を進めるか」「費用をどう分担するか」を早い段階で話し合っておくと、後の手続きが滞りにくくなります。
却下・不承認になったときと、特殊なケースの扱い
審査の結果が思うようにならなかった場合や、少し特殊な事情がある土地について、実務でよく質問される点を補足します。
再申請と審査請求
一度却下や不承認になった土地でも、その原因になった事由を解消すれば、あらためて申請することができます。たとえば建物があって却下された場合は、解体後に再申請すれば審査の対象になります。却下・不承認の判断そのものに納得できないときは、異議を申し立てる審査請求という手段もあります。請求先は法務省民事局で、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行う必要があります。負担金の算定額に対しても、同様に審査請求ができます(法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」より)。ただし、審査請求を行っても再度の審査手数料は発生しない一方、当初納付した審査手数料が返還されるわけでもありません。
農地・森林・原野商法の土地はどうなるか
実家の相続では、水田や畑、山林がまとまって残っているケースも少なくありません。農地は農業委員会が権利調整を行っているため、申請前に農業委員会へ相談することもできます。森林についても承認申請自体は可能です。また、いわゆる原野商法(値上がりの見込みが乏しい山林や原野を、根拠のない将来性を強調して販売した商法)で購入された土地の相続であっても、そのことだけを理由に対象外になるわけではありません。相続等によって取得した土地で、却下・不承認の要件に該当しなければ、申請すること自体は可能です。ただし、土地の範囲が現地で明らかになっている必要があるため、境界や所在があいまいな場合は、土地家屋調査士など専門家への相談が先になります(法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」より)。
審査中に売却の話が出てきたら
申請から承認までは標準で8か月程度かかるため、その間に「買いたい」という相手が見つかることもあります。その場合は、売却する前に申請書を提出した法務局・地方法務局の担当者へ連絡し、申請を取り下げる必要があります。取下げをしないまま土地を売却すると、申請者としての権限がなくなるため却下の扱いになります。いずれの場合も、すでに納付した審査手数料は返還されません。国庫帰属の審査を待つ間に売却先の候補が出てきた場合は、早めに法務局へ相談することをおすすめします(法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」より)。
相続した土地を手放す方法の比較
相続土地国庫帰属制度は、要件を満たす土地であれば有効な選択肢ですが、唯一の方法ではありません。実家の土地の状況によっては、他の方法のほうが向いている場合もあります。
| 方法 | 主な条件 | 費用の目安 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 相続土地国庫帰属制度 | 建物なし・要件を満たす土地限定 | 審査手数料14,000円+負担金20万円〜 | 更地で要件を満たす山林・農地・空き地 |
| 隣地所有者等への売買・譲渡 | 買い手・譲渡先が必要 | 仲介手数料など(売却価格次第) | 隣地所有者が引き取りに前向きな場合 |
| 自治体・NPO等への寄附 | 引き取り先の同意が前提 | 手続き費用のみ(原則無償) | 公共利用のニーズに合致する土地 |
| 農地中間管理機構・森林経営管理制度の活用 | 農地・森林限定 | 制度ごとに異なる | 耕作放棄地や管理が行き届かない森林 |
| 相続放棄 | 相続開始を知った日から3か月以内に家裁へ申述 | 収入印紙800円+連絡用郵便切手代 | 不要な土地だけでなく他の資産も相続したくない場合 |
国が示す案内でも、国庫帰属以外の方法として相続放棄、地方公共団体等への寄附、民間売買・贈与、農地中間管理機構の活用(農地の場合)、森林経営管理制度の利用(森林の場合)が挙げられています。承認申請後は、本人の同意があれば、法務局から地方公共団体等へ寄附受けの可能性について確認する運用も予定されています(法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」より)。どの方法が適しているかは、土地の種類や立地、家族の状況によって変わるため、複数の選択肢を並べて比較しながら判断することをおすすめします。
実家じまいとあわせて進める
相続土地国庫帰属制度は、土地そのものを手放す手続きであり、家財の片付けや建物の解体、相続登記といった実家じまい全体のごく一部を担う制度です。実際には、遺品整理で家財を片付け、必要であれば建物を解体して更地にし、相続登記を済ませたうえで、国庫帰属・売却・寄附のいずれかを選ぶという順序で進むことがほとんどです。安心実家じまいでは、片付けから解体、売却の手配までを一つの窓口でご案内しており、提携司法書士と連携しながら相続登記や国庫帰属の相談先もご案内できます。実家じまい全体の進め方は実家じまいの完全ガイド、着手すべきタイミングの考え方は実家じまいの手順、費用の全体像は実家じまいの費用をあわせてご覧ください。サービスの詳細は実家じまい代行パックでご案内しています。
よくある質問
相続土地国庫帰属制度とはどんな制度ですか?
相続土地国庫帰属制度の費用はいくらかかりますか?
建物が建っている実家の土地でも申請できますか?
申請から国庫帰属までどれくらいの期間がかかりますか?
相続放棄とは何が違いますか?
共有名義の実家の土地でも申請できますか?
まとめ
相続土地国庫帰属制度は、管理に困る実家の土地を手放すための現実的な選択肢の一つです。要点を振り返ります。
- 2023年4月27日開始。相続・遺贈で取得した土地が対象で、制度開始前の相続でも申請できる
- 相続放棄と違い、不要な土地だけを選んで手放せる。ただし共有名義は共有者全員の申請が必要
- 建物・担保権・土壌汚染・境界不明などがある土地は却下、崖・有体物・争訟のおそれがある土地などは不承認になり得る
- 費用は審査手数料14,000円/筆+負担金20万円/筆が基本。市街化区域の宅地・農地や森林は面積に応じて増額
- 標準処理期間は8か月。書類作成の代行は弁護士・司法書士・行政書士の3士業に限られる
- 実家の土地は建物付きのケースが多く、解体費用と国庫帰属・売却・寄附の総額を比較して判断する必要がある
実家の土地をどう手放すかは、建物の有無や立地、共有者の状況によって最適な方法が変わります。まずは実家じまい全体の中で片付けと解体の見通しを立てたうえで、国庫帰属・売却・寄附のどれが合っているかを整理することが、遠回りに見えて一番早い進め方です。相続登記や国庫帰属の相談先に迷う場合は、提携司法書士とも連携できる実家じまい代行サービスにご相談ください。

