
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 小規模宅地等の特例を使うと、実家の土地の相続税評価額を最大330㎡まで80%減額できます(租税特別措置法69条の4)。
- 適用できるのは被相続人の配偶者、同居していた親族、または持ち家のない別居親族(家なき子特例)に限られ、それぞれ要件が異なります。
- 特例は相続税の申告書を提出して初めて適用されます。申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに遺産分割が終わっていない場合、原則として適用できません。
- 実家の解体や売却を検討している場合、誰が相続するかによって保有・居住を続けるべき期間が変わります。具体的な税額計算や申告書の作成は税理士の領域のため、要件を満たすかどうかは早めに専門家へ確認することをおすすめします。
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた土地や事業に使っていた土地について、一定の要件を満たす相続人が引き継ぐ場合に、相続税の課税価格の計算上、土地の評価額の一定割合を減額できる制度です。正式名称は「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」で、根拠となる条文は租税特別措置法69条の4です。実家の土地のように評価額が高くなりがちな不動産でも、要件を満たせば評価額を最大80%減らして相続税を計算できるため、相続税額に与える影響が大きい特例のひとつです。
相続税は原則として金銭で一括納付することになっています。実家の土地の評価額をそのまま課税価格に算入すると、住み続けるための資金や納税資金の確保が難しくなる場合があります。小規模宅地等の特例は、こうした負担を軽減し、遺族が実家に住み続けたり、事業を続けたりしやすくする目的で設けられている制度です。
特例は自動的には適用されない
誤解されやすい点ですが、小規模宅地等の特例は要件を満たしているだけでは適用されません。相続税の申告書に「この特例の適用を受ける旨」を記載し、必要な書類を添付して申告することで、初めて評価額の減額が反映されます。要件を満たしているのに申告を忘れると、減額のない評価額で相続税が計算されてしまうため注意が必要です。
特例を使って相続税がゼロになっても、申告は必須
もうひとつ見落とされやすいのが、小規模宅地等の特例を使った結果、納付税額がゼロになった場合でも、相続税の申告書は提出しなければならないという点です。相続税の申告が必要かどうかは、遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかどうかで判定しますが、この判定は小規模宅地等の特例を適用する前の評価額をもとに行います(国税庁タックスアンサーNo.4205の注記)。「特例でゼロになったから申告しなくていい」と考えて申告を怠ると、特例そのものが適用されず、後から本来より高い税額を求められることがあります。
対象になる宅地の種類と限度面積・減額率
小規模宅地等の特例は、宅地の使われ方によって4つの区分に分かれており、区分ごとに限度面積と減額割合が決まっています。国税庁タックスアンサーNo.4124に示されている内容を整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 限度面積 | 減額割合 | 主な例 |
|---|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 330㎡ | 80% | 被相続人が住んでいた実家などの土地 |
| 特定事業用宅地等 | 400㎡ | 80% | 個人商店や自営業の店舗・工場の土地 |
| 特定同族会社事業用宅地等 | 400㎡ | 80% | 被相続人が同族会社に貸していた事業用地 |
| 貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% | 賃貸アパートや駐車場の土地 |
実家じまいで相談を受ける場面の多くは、被相続人が住んでいた自宅の土地、つまり「特定居住用宅地等」に該当するケースです。この記事でも、以下は特定居住用宅地等を中心に解説します。事業用地や賃貸物件が絡む相続では区分の組み合わせが複雑になるため、その場合は税理士への相談を優先してください。
複数の区分を併用できるか
特定居住用宅地等(⑥)と、特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等(①・②)を併用する場合、貸付事業用宅地等を含まなければ、それぞれの限度面積をフルに使って合計730㎡(400㎡+330㎡)まで適用できます。一方、貸付事業用宅地等(賃貸アパートや駐車場の土地など)を組み合わせる場合は、限度面積をそのまま合算するのではなく、200㎡を基準にした按分計算が必要になります((①+②)×200/400+⑥×200/330+(③+④+⑤)≦200㎡)。この按分計算は専門的な内容のため、実家の土地に加えて賃貸物件や事業用地を相続する場合は、税理士に計算を依頼することをおすすめします。
特定居住用宅地等の要件|実家を相続するのは誰か
実家の土地に特定居住用宅地等の特例を使えるかどうかは、誰がその土地を相続するかによって要件が変わります。国税庁の整理では、大きく「配偶者」「同居していた親族」「持ち家のない別居親族(家なき子特例)」の3パターンに分かれます。
配偶者が相続する場合
被相続人の配偶者が実家の土地を相続する場合、追加の要件はありません。同居していたかどうかも問われず、相続後にすぐ売却したり解体したりしても、特例の適用には影響しません。配偶者は最も要件がゆるやかな取得者です。
同居していた親族が相続する場合
被相続人と同じ建物に同居していた親族が相続する場合は、次の2つの要件をどちらも満たす必要があります。
- 居住継続要件——相続開始の直前から相続税の申告期限まで、引き続きその建物に住み続けること。
- 保有継続要件——その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで保有していること。
つまり、同居していた親族が相続する場合は、少なくとも申告期限(後述するとおり原則10か月)までは、その家に住み続け、土地を手放さないことが条件になります。
持ち家のない別居親族が相続する場合(家なき子特例)
被相続人に配偶者も同居親族もいない場合に限り、持ち家のない別居親族が実家を相続すると特例を使える制度があり、通称「家なき子特例」と呼ばれています。国税庁タックスアンサーNo.4124に示されている要件を整理すると、次のすべてを満たす必要があります。
- 日本国籍を有しない一定の非居住者に該当しないこと
- 被相続人に配偶者がいないこと
- 相続開始の直前において、被相続人と同居していた相続人(相続放棄があった場合はなかったものとした場合の相続人)がいないこと
- 相続開始前3年以内に、自分・自分の配偶者・自分の3親等内の親族・自分と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に住んだことがないこと
- 相続開始時に、自分が現在住んでいる家屋を過去のいずれかの時点で所有していたことがないこと
- その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること
この特例は「持ち家がなく賃貸暮らしをしている子」を主な想定像として設計されていますが、実際の判定は細部まで及びます。たとえば持ち家の名義を子や親族に一時的に移していた場合、二世帯住宅を区分所有登記にしていた場合、住民票と実際の居住実態が異なる場合など、素人判断では見誤りやすい論点が少なくありません。家なき子特例に該当しそうだと感じても、最終的な適用可否の判断は税理士に確認することをおすすめします。
被相続人と生計を一にしていた親族が住んでいた場合
ここまでの3パターンとは別に、被相続人自身は実家に住んでいなかったものの、生活費を共にしていた(生計を一にしていた)親族がその敷地内の別の建物などに住んでいたケースも、特定居住用宅地等の対象になり得ます。この場合は、相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に住み続け、かつ申告期限まで宅地等を保有していることが要件です。親名義の土地に子が家を建てて仕送りを受けながら暮らしていたようなケースが該当し得ますが、「生計を一にしていた」かどうかの実態判定は資料の残り方によって左右されるため、こちらも税理士への確認が必要な論点です。
親が老人ホームに入居していた実家も対象になり得る
実家じまいの相談で特に多いのが、「親が老人ホームなどの施設に入所し、実家は空き家のまま亡くなった」というケースです。この場合でも、一定の要件を満たせば、施設に入る直前まで住んでいた実家は「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」として扱われます。国税庁タックスアンサーNo.4124の注記によれば、要介護認定または要支援認定を受けていた被相続人が、特別養護老人ホーム・軽費老人ホーム・有料老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院・サービス付き高齢者向け住宅などに入居・入所していた場合が対象です。
ただし、このみなし規定には条件があります。被相続人が施設に移った後、その実家を事業の用に供したり、被相続人等以外の人が新たに住むようにしたりしていた場合は対象外になります。空き家のまま維持していた実家であれば対象になりますが、施設入所後に子世帯が引っ越して住み始めた実家では、この規定を使えない可能性があります。該当しそうな場合は、要介護認定を受けていた時期や施設の入居契約書、認定資料などを保管しておくと、申告時の確認がスムーズになります。
二世帯住宅は建物の登記形態で判定が変わる
実家が二世帯住宅の場合、「同居していた親族」に該当するかどうかは、建物の登記形態によって結果が変わります。一棟の建物を区分所有登記(各世帯の専有部分をそれぞれ別個の建物として登記する形式)にしている場合、法律上は世帯ごとに別の建物として扱われるため、生活が実質的に一体でも「同居」とは認められず、子世帯側は同居親族としての特例を使えないことがあります。一方、区分所有登記をしていない一般的な共有登記や単独登記の二世帯住宅であれば、建物内のどの部分に住んでいたかにかかわらず、同居していた親族として扱われます。二世帯住宅を新築・購入する際にどの登記形態を選ぶかは、将来の相続税にも影響するため、実家が二世帯住宅の場合は、現在の登記の形式を早めに確認しておくと安心です。
取得者別の要件を一覧で確認する
ここまで説明した4パターンの要件を、一覧表にまとめました。誰が実家を相続する見込みかを確認しながら、あてはまる行を見てください。
| 取得者 | 居住継続要件 | 保有継続要件 | 主な追加要件 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 | なし | なし | なし |
| 同居していた親族 | あり(申告期限まで居住) | あり(申告期限まで保有) | 相続開始の直前に同居していたこと |
| 生計を一にしていた親族 | あり(申告期限まで居住) | あり(申告期限まで保有) | 相続開始前から生計を一にしていたこと |
| 持ち家のない別居親族(家なき子特例) | なし(もともと別居) | あり(申告期限まで保有) | 3年以内に自己等の持ち家に住んでいないことなど複数要件 |
実家の相続税評価額はどう調べるか
特例の計算をする前提として、実家の土地の「相続税評価額」を把握する必要があります。固定資産税の納税通知書に記載されている評価額は、そのまま相続税評価額として使えるわけではない点に注意してください。
- 路線価方式——市街地の多くの地域では、国税庁が公表する路線価(道路に面した土地の1㎡あたりの評価額)に、土地の形状などに応じた補正率をかけて評価額を算出します。路線価は国税庁の路線価図・評価倍率表で地域ごとに確認できます。
- 倍率方式——路線価が定められていない郊外や農村部などでは、固定資産税評価額に、地域ごとに定められた倍率をかけて評価額を算出します。倍率も路線価図・評価倍率表のページで確認できます。
どちらの方式で評価するかは地域によって決まっており、選ぶことはできません。実家の正確な評価額の算出には、土地の形状や接道状況などの個別事情も影響するため、目安を把握したい段階では概算で確認し、実際の申告に用いる評価額は税理士に算出を依頼することをおすすめします。
【計算例】実家の評価額はいくら減るのか
特例による減額額は、次の式で計算します。
減額額 = 宅地等の相続税評価額 ×(適用対象面積 ÷ 宅地等の総面積)× 減額割合
ここで注意したいのは、「評価額に一律80%を掛けて引く」わけではないという点です。土地の面積が限度面積(特定居住用宅地等なら330㎡)を超える場合、超えた部分には減額が適用されません。以下、実家の相続でよくある4つのパターンをもとに、評価額がどう変わるかを確認します(いずれも仮の金額による試算例です)。
| ケース | 相続人 | 敷地面積 | 相続税評価額 | 特例適用後の評価額 |
|---|---|---|---|---|
| A:配偶者が相続 | 配偶者 | 240㎡ | 4,000万円 | 800万円 |
| B:同居の長男が相続(限度面積超過) | 同居していた長男 | 450㎡ | 6,000万円 | 2,480万円 |
| C:家なき子特例に該当する長女が相続 | 別居の長女(要件を充足) | 200㎡ | 3,000万円 | 600万円 |
| D:家なき子特例の要件を満たさない次男が相続 | 別居の次男(3年以内に自己所有の家に居住) | 200㎡ | 3,000万円 | 3,000万円(適用不可) |
ケースA:敷地面積が限度内(配偶者)
敷地240㎡は限度面積330㎡以内のため、評価額全体に80%の減額を適用できます。減額額は4,000万円×80%=3,200万円、特例適用後の評価額は4,000万円−3,200万円=800万円です。配偶者には保有・居住の継続要件がないため、この後すぐに売却や解体を検討しても特例の適用に影響しません。
ケースB:敷地面積が限度を超える場合の計算のしくみ
敷地450㎡は限度面積330㎡を超えているため、超えた120㎡分には減額が適用されません。計算の流れは次のとおりです。
- 1㎡あたりの評価額を出す:6,000万円 ÷ 450㎡ ≒ 13.3万円
- 限度面積分(330㎡)に相当する評価額を出す:13.3万円 × 330㎡ = 4,400万円
- その部分に80%の減額を適用する:4,400万円 × 80% = 3,520万円
- 評価額から減額額を差し引く:6,000万円 − 3,520万円 = 2,480万円
残りの120㎡分は、通常どおりの評価額のまま課税価格に算入されます。「敷地が広い実家ほど得をする」わけではなく、限度面積を超える部分は減額の対象外になる点に注意してください。
ケースC・D:家なき子特例は「該当するかどうか」で結果が大きく変わる
ケースCとDは、敷地面積・評価額とも同じ条件ですが、要件を満たすかどうかで結果が正反対になります。ケースCの長女は賃貸暮らしで持ち家がなく、家なき子特例の要件を満たすため80%減額(評価額600万円)が適用されます。一方ケースDの次男は、相続開始前3年以内に自分名義の持ち家に住んでいたため要件を満たさず、特例はまったく適用されず評価額は3,000万円のままです。同じような立場に見えても、直近数年の住まい方ひとつで税額計算上の扱いが大きく変わるのが、この特例の実務上の難しさです。
特例を受けるための手続きと必要書類
小規模宅地等の特例の適用を受けるには、相続税の申告書一式に、特例の適用を受ける旨と必要書類を添えて提出します。実務でおおむね必要になる書類は次のとおりです。個々の事情によって過不足があるため、最終的には税理士や税務署に確認してください。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 相続税の申告書 | 特例の適用を受ける旨を記載する |
| 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書(第11・11の2表の付表1) | 対象宅地の面積・評価額・減額額を計算して記載する |
| 遺産分割協議書の写し | 相続人全員の実印による押印と印鑑証明書を添付する |
| 特例対象宅地等の選択に関する同意 | 対象となり得る宅地等を取得した相続人等の全員が、選択する宅地等について同意していることを示す |
| 要件に応じた立証書類 | 同居親族なら住民票、家なき子特例なら賃貸借契約書や戸籍の附票の写しなど、要件を満たすことを示す書類 |
相続税の申告期限は10か月
相続税の申告と納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です(国税庁タックスアンサーNo.4205)。たとえば1月6日に亡くなったことを知った場合、その年の11月6日が期限になります。期限が土曜・日曜・祝日にあたるときは、その翌日が期限とみなされます。この期限までに申告と納税の両方を行う必要があり、遅れると加算税や延滞税がかかる場合があります。
申告期限までの逆算スケジュール(目安)
実家の片付けや解体・売却の計画と、相続税の申告準備は同時進行になるのが一般的です。大まかな目安を一覧にしました。実際の日程は相続財産の内容や相続人の人数によって前後します。
| 相続開始からの目安 | やっておきたいこと |
|---|---|
| 速やかに | 死亡届の提出、遺言の有無の確認、実家の状況の確認 |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認を検討する場合はこの期限までに家庭裁判所へ申述する |
| 〜7か月ごろ | 戸籍謄本等の収集、相続財産の洗い出し、実家の相続税評価額の確認、遺産分割協議 |
| 〜9か月ごろ | 遺産分割協議書の作成、小規模宅地等の特例に必要な添付書類の準備 |
| 10か月まで | 相続税の申告書提出・納税。分割が未了なら分割見込書を添付 |
実家の解体や売却を急いでいる場合でも、同居親族や家なき子特例の相続人が取得する土地については、保有・居住の継続要件が申告期限まで続く点を踏まえてスケジュールを組む必要があります。
申告期限までに遺産分割がまとまらないときはどうなるか
小規模宅地等の特例を含む一部の特例は、原則として相続税の申告期限までに遺産分割が終わっていることが適用の条件です。相続人同士の話し合いが長引き、期限までに分割協議がまとまらない場合、いったんは特例を使わない前提で申告と納税をする必要があります(国税庁タックスアンサーNo.4208)。
ただし、このまま特例を諦めなければならないわけではありません。申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して未分割のまま申告しておけば、その後3年以内に遺産分割が成立した時点で、更正の請求(払いすぎた税金の還付を求める手続き)を行うことで、さかのぼって特例の適用を受けられます。分割が長引きそうな見通しがある場合は、この分割見込書の提出を忘れないようにしてください。なお、更正の請求ができるのは、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内という別の期限もあるため、分割が成立したら早めに手続きを進める必要があります。
実家の売却・解体を考えている人が知っておきたいこと
実家じまいの相談では、遺品整理や解体、売却の段取りと、相続税の申告期限が重なって「どちらを先に進めればいいのか」という質問をよく受けます。小規模宅地等の特例の要件を踏まえると、次の点が実務上のポイントになります。
配偶者が相続する場合は急いでも問題になりにくい
配偶者が実家を相続する場合、保有継続要件も居住継続要件もありません。相続税の申告を済ませれば、その後に実家を解体したり売却したりしても、特例そのものには影響しません。遠方に住む家族の負担を考えて早めに片付けを進めたい場合、配偶者が相続人になっているケースでは比較的動きやすいといえます。
同居親族・家なき子特例の相続人は申告期限まで待つのが安全
一方、同居していた親族が相続する場合は「申告期限まで住み続けること」、家なき子特例を使う別居親族が相続する場合は「申告期限まで保有すること」が要件に含まれます。申告期限(原則10か月)より前に実家を解体したり、名義変更前に売却の契約を進めたりすると、要件を満たせなくなり特例が使えなくなる可能性があります。相続人が同居親族や家なき子特例の対象者である場合は、解体や売却の具体的な着手時期を、相続税の申告期限を踏まえて決めることをおすすめします。
空き家の譲渡所得の特別控除とは別の制度
実家を将来売却する際によく比較される制度に、被相続人居住用財産(空き家)を売却したときの譲渡所得から最大3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)を控除できる特例があります。こちらは相続税ではなく、売却時にかかる所得税・住民税(譲渡所得税)の計算に関する制度で、適用要件も別に定められています。小規模宅地等の特例は「相続税を計算する段階」、空き家の特別控除は「将来、実家を売却した年の所得税を計算する段階」と、適用される税金の場面がそもそも異なります。両方の制度を使える場合もあれば、片方しか使えない場合もあるため、実家の売却を具体的に検討し始めた段階で税理士に確認することをおすすめします。
相続放棄を検討している場合の注意
実家の資産価値が低く、負債の方が大きいと分かった場合は、相続放棄を選ぶ方法もあります。相続放棄をすると、その人ははじめから相続人でなかったものとして扱われるため、小規模宅地等の特例を使う対象にもなりません。ここで注意したいのが、相続放棄を検討している段階で実家の家財を処分したり、遺品を売却したりすると、法定単純承認とみなされ、後から相続放棄ができなくなる可能性がある点です。特例の適用や申告期限を意識するあまり片付けに着手してしまうと、相続放棄という選択肢そのものを失うことにもなりかねません。放棄を迷っている場合は、家財の処分に着手する前に司法書士や弁護士へ相談してください。
名義変更(相続登記)も並行して進める
小規模宅地等の特例を適用して相続税の申告を終えても、それだけでは不動産の名義は変わりません。実家の名義を故人から相続人へ移すには、別途、法務局への相続登記が必要です。相続登記は2024年4月から義務化されており、正当な理由なく放置すると過料の対象になり得ます。相続税の申告準備と並行して、名義変更の見通しも立てておくと、その後の売却や解体の手続きがスムーズに進みます。制度の詳細は相続登記の義務化とは|期限・過料・実家を相続したらやることで解説しています。
また、小規模宅地等の特例の対象宅地をどの相続人が取得するかは、遺産分割協議の結果によって決まります。誰が実家を相続するかによって使える要件が変わるため、分割協議の段階から特例の適用可否を意識しておくと、後から「別の相続人が取得していれば特例を使えたのに」という手戻りを防ぎやすくなります。実家をめぐる遺産分割の進め方は実家の遺産分割の進め方で紹介しています。
配偶者の税額の軽減とあわせて検討する
実家を含む相続税の計算では、小規模宅地等の特例とあわせて「配偶者の税額の軽減」も検討されることが多くあります。これは、被相続人の配偶者が実際に取得した遺産額が、1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかからないという制度です(国税庁タックスアンサーNo.4158)。小規模宅地等の特例と配偶者の税額の軽減は、要件が別々の制度であるため併用できます。実家を含めた財産の分け方によって、どちらの制度をどの程度使うかで納税額の総額が変わることもあるため、配偶者が相続人に含まれる場合は、2つの制度を組み合わせた試算を税理士に依頼することをおすすめします。
なお、配偶者の税額の軽減も、小規模宅地等の特例と同じく、相続税の申告期限までに遺産分割が終わっていない財産は対象になりません。未分割のまま申告する場合は、小規模宅地等の特例と同様に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておく必要があります。
実家じまいの相談窓口として対応できること
安心実家じまいは、実家の片付けから売却・解体の手配までを窓口ひとつで承るサービスです。相続税の具体的な計算や申告書の作成は税理士の専門領域になるため、当事務局では直接の税務相談はお受けしていませんが、提携する司法書士や必要に応じた専門家とのご相談をつなぐことができます。小規模宅地等の特例の適用を見据えて「いつ実家を解体・売却してよいか分からない」「相続人の間で誰が実家を引き継ぐか決まっていない」といった段階のご相談も承っています。実家じまい代行サービスの詳細は、こちらのページでご案内しています。
よくある質問
小規模宅地等の特例とは何ですか?
小規模宅地等の特例の限度面積と減額率はどれくらいですか?
同居していない子でも小規模宅地等の特例は使えますか?(家なき子特例)
相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合はどうなりますか?
実家を解体・売却する予定がある場合、小規模宅地等の特例に影響はありますか?
まとめ
小規模宅地等の特例は、実家の相続税を大きく左右する制度です。要点を振り返ります。
- 被相続人が住んでいた土地(特定居住用宅地等)は、330㎡まで評価額を80%減額できる
- 適用できるのは配偶者・同居していた親族・要件を満たす持ち家のない別居親族(家なき子特例)に限られる
- 敷地が限度面積を超える場合、超えた部分には減額が適用されない
- 特例は申告して初めて適用される。相続税がゼロになる場合でも申告は必須
- 申告期限(10か月)までに遺産分割が終わっていない場合、原則として特例は使えない。分割見込書を出せば後から適用できる
- 同居親族・家なき子特例の相続人は、申告期限まで実家を保有(同居親族はさらに居住)する必要がある。解体・売却の時期はこれを踏まえて検討する
- 空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は、小規模宅地等の特例とは別の制度。適用場面が異なる
- 特例の適用が終わっても不動産の名義変更(相続登記)は別途必要
小規模宅地等の特例は要件も計算方法も細かく、相続人の続柄や住まい方ひとつで結果が大きく変わります。この記事で紹介した内容は制度の全体像であり、実際の税額計算や申告書の作成は税理士の専門領域です。実家を相続することが分かった時点で、早めに税理士へ相談しながら、片付けや解体・売却の計画を並行して立てることをおすすめします。相続登記の進め方は相続登記の義務化とはを、実家の遺産分割の進め方は実家の遺産分割の進め方をあわせてご覧ください。
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