
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
監修の範囲:相続・登記・法務に関する記述(司法書士・行政書士の業務範囲)。片付け・買取・費用相場などの記述は安心実家じまい事務局が編集しています。監修者プロフィール
税金について:税額の計算や特例を使えるかどうかの判断は税理士の業務で、監修の範囲に含みません。申告の前に、税理士または所轄の税務署でご確認ください。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 相続税は亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、原則として現金で一括納付します。遺産分割がまとまっていなくても期限は延びません。
- 「払えない」と感じたら、まず基礎控除・小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減・生命保険金の非課税枠で税額が下がらないかを確認します。特例は申告しないと使えません。
- 資金が足りないときの方法は5つ。①実家・土地を売る ②延納(分割払い) ③物納 ④金融機関から借りる ⑤生命保険金を充てる。預貯金の仮払い制度(相続人1人あたり1金融機関150万円まで)も当座の資金になります。
- 実家を売るなら、相続登記→売却→決済を10か月に収める逆算が必要です。申告期限の翌日から3年以内に売れば取得費加算の特例で売却時の税金が軽くなります。
- 期限を過ぎると延滞税がかかります。2026年の割合は、納期限の翌日から2か月までが年2.8%、それ以降は年9.1%(国税庁)。払えないと分かった時点で、税理士と所轄税務署に早めに相談してください。
親が亡くなり、遺産の大半が実家の土地と建物だった。預貯金は少なく、計算してみると相続税が数百万円になる。「家はあるのに、税金を払う現金がない」という状況は、実家を相続した人にとって珍しいものではありません。
この記事は、相続税の申告期限(10か月)が迫っている、または近く迫る人に向けて、本当に払えないのかの確認方法と、払えないときの5つの方法を、国税庁の公表資料と法令に沿って整理したものです。延納・物納は令和7年度税制改正で許可限度額の計算方法が変わっているため、最新の内容で解説しています。
なお、税額の計算や特例の適用判断は税理士の業務領域です。この記事は制度の仕組みを理解するためのもので、個別の税額は税理士に確認してください。本記事の監修者(司法書士)が監修しているのは相続・登記の部分です。
まず確認:相続税は本当に払えないのか
「払えない」と判断する前に、税額そのものを下げられないかを確認します。相続税は正味の遺産額が基礎控除額を超えた部分にだけかかり、さらに大きな減額制度がいくつかあります。見落としたまま資金繰りを考えると、不要な売却や借入をしてしまうおそれがあります。
確認1:基礎控除を超えているか
基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数です(国税庁 No.4102)。相続人が子2人なら4,200万円、配偶者と子2人なら4,800万円。正味の遺産額(遺産総額から借金・葬式費用などを引き、一定の生前贈与を足した額)がこれ以下なら、申告も納税も不要です。計算手順は相続税の基礎控除|計算方法と申告が必要かの判定手順で詳しく解説しています。
実家の評価額は、売れる値段(時価)ではなく、土地は路線価や倍率方式、建物は固定資産税評価額で計算します。時価より低くなるのが一般的なので、まず正しく評価し直すことが第一歩です。評価方法は相続税の家の評価方法|路線価・固定資産税評価額の調べ方と計算例を参照してください。
確認2:小規模宅地等の特例が使えるか
亡くなった人が住んでいた土地(特定居住用宅地等)は、330㎡までの部分の評価額を80%減額できます(国税庁 No.4124)。評価額5,000万円の実家の土地(330㎡以下)なら、課税対象は1,000万円まで下がります。これだけで相続税がゼロになるケースも少なくありません。
取得する人ごとの要件は次のとおりです。
| 実家の土地を取得する人 | 主な要件 |
|---|---|
| 配偶者 | 取得者ごとの要件なし |
| 同居していた親族 | 相続開始の直前から申告期限まで住み続け、かつ申告期限まで所有していること |
| 別居の親族(いわゆる「家なき子」) | 配偶者も同居の相続人もいない、相続開始前3年以内に自分・配偶者・3親等内の親族などが所有する家に住んだことがない、今住む家を過去に所有したことがない、申告期限まで所有していること など |
親が老人ホームに入所していた場合でも、要介護認定を受けていたなど一定の条件を満たせば、入所直前まで住んでいた実家が対象になります。詳しくは小規模宅地等の特例とは|実家の相続税を8割減らす要件をご覧ください。
注意:小規模宅地等の特例は、相続税の申告書を出して初めて使える制度です。特例を使えば税額がゼロになる場合でも、特例適用前の遺産額が基礎控除を超えていれば申告が必要です。また、原則として申告期限までに遺産分割が済んでいることが条件になります。
確認3:配偶者の税額軽減が使えるか
配偶者が実際に取得した遺産は、1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額まで相続税がかかりません(国税庁 No.4158)。1次相続(父→母など)では大きな効果がありますが、これも遺産分割で配偶者が実際に取得した財産が対象で、申告が必要です。
確認4:生命保険金の非課税枠を差し引いたか
亡くなった人が保険料を負担していた死亡保険金を相続人が受け取った場合、500万円×法定相続人の数までは非課税です(国税庁 No.4114)。相続人が子2人なら1,000万円。保険金の全額を課税対象にして計算していないか確認してください。
確認5:期限は「10か月」、分割がまとまらなくても延びない
相続税の申告と納税の期限は、亡くなったことを知った日(通常は死亡日)の翌日から10か月以内です。1月6日に亡くなった場合は11月6日が期限で、土日祝日にあたる場合は翌日になります(国税庁 No.4205)。
兄弟で遺産分割がまとまらなくても期限は延びません。未分割のまま申告すると、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減が使えない申告になり、いったん高い税額を納めることになります(国税庁 No.4208)。「分割がまとまらない」ことが「払えない」の原因になっていないかも確認が必要です。実家の分け方で揉めている場合は実家の遺産分割|共有名義のリスクと4つの分け方も参考にしてください。
「払えない」を数字にする:納税資金チェック表
次に、いくら足りないのかを具体的な金額にします。国税庁が延納の審査で使う「延納許可限度額」の計算では、納期限に持っている現金・預貯金など換金しやすい財産から、申請者と生計を一にする親族の3か月分の生活費と、事業の当面(3か月分)の運転資金を差し引いた額を「現金で納められる額」とみなします。令和7年4月1日以後の相続からは、事業の運転資金の目安が前年の事業経費の1/12から3/12に改められました(国税庁「物納許可限度額等の計算方法が変わりました」)。これを家庭向けに置き換えたのが次の表です。印刷して金額を書き込んで使ってください。
| 行 | 項目 | 記入欄 |
|---|---|---|
| A | 自分が納める相続税額(税理士の試算、または自分の概算) | 万円 |
| B | 相続で受け取る預貯金(分割が決まった分。仮払い制度で引き出せる分も含む) | 万円 |
| C | 受け取る死亡保険金(受取人が自分のもの) | 万円 |
| D | 自分の預貯金のうち納税に回せる額 | 万円 |
| E | 3か月分の生活費(自営業なら3か月分の運転資金も) | 万円 |
| F | 現金で納められる額(B+C+D−E) | 万円 |
| G | 不足額(A−F) | 万円 |
G がプラスなら、その金額を下の5つの方法のどれで埋めるかを考えます。G が数十万円程度なら借入や仮払いで足りることが多く、数百万円以上で実家以外に換金できる財産がないなら、売却か延納が現実的な選択肢になります。
相続した家・土地の売却を、片付けから名義変更・売却まで窓口ひとつでご相談いただけます。買取・仲介は提携の宅建業者、登記は提携司法書士が担当します。
方法1:実家・土地を売って納める
相続財産の大半が実家の場合、最も一般的なのは実家を売って納税資金を作る方法です。延納のような利子税や担保が不要で、売却後に残ったお金は自由に使えます。一方で、10か月という期限の中で登記・売却・決済を終える段取りが必要です。
10か月の逆算スケジュール
| 時期(死亡日から) | やること | 注意点 |
|---|---|---|
| 〜1か月 | 遺言書の有無の確認、財産と借金の洗い出し、相続人の確定(戸籍収集) | 借金が多いなら相続放棄も検討 |
| 〜3か月 | 相続放棄・限定承認の判断、実家の概算評価と相続税の試算、不動産会社への査定依頼 | 相続放棄の期限は原則3か月(民法915条) |
| 〜4か月 | 準確定申告(亡くなった人の所得税) | 期限は4か月 |
| 〜5か月 | 遺産分割協議の成立、遺産分割協議書の作成 | 誰が実家を取得して売るかを決める |
| 〜6か月 | 相続登記の申請、売却方法(仲介か買取か)の決定、販売開始 | ここで間に合わない見込みなら延納の準備を並行 |
| 〜9か月 | 売買契約、決済・引渡し | 小規模宅地等の特例を使う場合は所有期間の要件に注意(後述) |
| 10か月 | 相続税の申告・納付(延納するならこの日までに申請) | 延納・物納の申請期限も同じ日 |
全体の期限は相続手続きの全体スケジュール|期限一覧と進める順番、準確定申告は準確定申告とは|必要なケース・期限4か月・やり方で解説しています。
相続登記が終わるまで売れない
亡くなった人の名義のままでは、実家を買主へ名義変更できません。売るには、まず相続人への名義変更(相続登記)を済ませる必要があります。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に登記しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります(法務省「相続登記の申請義務化について」)。
遺産分割協議の成立から登記の完了までには、書類の準備と法務局の審査の期間がかかります。売却を前提にするなら、分割協議と同時に登記の準備を進めてください。手順は相続登記の義務化とは|期限・過料・実家を相続したらやること、提携司法書士への依頼は相続登記・名義変更の相談から受け付けています。
小規模宅地等の特例との「売る時期」の衝突
見落としやすいのがこの点です。同居していた親族や「家なき子」が小規模宅地等の特例を使う場合、その土地を申告期限まで所有していることが要件です(配偶者は除く)。申告期限前に売却して所有権が買主に移ると、特例が使えなくなり、税額が大きく増える場合があります。
特例を使いながら売却代金で納税したい場合は、次のような組み立てが考えられます。
- 売買契約は申告期限前に結び、引渡し(所有権移転)を申告期限の翌日以降にする
- 申告期限までは延納や借入でつなぎ、期限後に売却して返済・一括納付する
- 特例の減額分と売却時期の制約を比べ、特例を使わずに早く売るほうが有利かを試算する
どれが有利かは税額次第なので、売買契約の前に税理士へ確認してください。
売った後の税金:取得費加算の特例
実家を売って利益が出ると、翌年に譲渡所得税の確定申告が必要です。相続税を払った人が、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(死亡から約3年10か月)に相続財産を売った場合、払った相続税の一部を取得費に加えて譲渡所得を減らせます(国税庁 No.3267)。
加算できる額は「その人の相続税額×売った財産の相続税評価額÷その人の取得財産の価額(相続時精算課税財産・加算される生前贈与を含む)」で、売却益の額が上限です。
計算例(仮定):子2人が1億6,000万円を相続。長男は実家(評価額7,000万円)と預金1,000万円の計8,000万円を取得し、相続税は1,070万円(小規模宅地等の特例は使えない前提)。実家を7,500万円で売却、取得費1,200万円、譲渡費用270万円、所有期間5年超(親の取得時期を引き継ぐ)とします。
| 項目 | 特例なし | 取得費加算あり |
|---|---|---|
| 取得費に加える相続税 | 0円 | 1,070万円×7,000÷8,000=936.25万円 |
| 譲渡所得 | 7,500−1,200−270=6,030万円 | 6,030−936.25=5,093.75万円 |
| 税額(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=20.315%) | 約1,225万円 | 約1,035万円 |
| 差額 | 約190万円の軽減 | |
この例では長男の相続税1,070万円は預金1,000万円では足りず、実家の売却が前提になります。売却代金から、翌年の確定申告で納める所得税・復興特別所得税と、その後に課される住民税(この例では合計約1,035万円)も残しておく必要がある点に注意してください。相続税を払うために売ったお金を全部使うと、翌年の所得税が払えなくなります。
なお、実家が空き家の場合の空き家の3,000万円特別控除(令和9年12月31日までの売却が対象)とはどちらか一方しか使えません(国税庁 No.3306)。空き家特例の要件を満たすなら、多くの場合そちらの減税額が大きくなります。売却時の税金の全体像は実家売却の譲渡所得税の計算方法で解説しています。
仲介と買取、どちらで売るか
期限に余裕があり高く売りたいなら仲介、期限が迫っている・建物が古い・家財が残っているなら買取、が基本の考え方です。買取は買主を探す期間がないぶん現金化が早い傾向がありますが、価格は仲介より低くなりがちです。違いは空き家の仲介と買取の違いで比較しています。安心実家じまい事務局は宅建業者ではないため、売却の実務は提携の宅建業者が担当します。期限から逆算した売り方の相談は実家売却の相談窓口で受け付けています。
方法2:延納(年払いの分割納付)
延納は、相続税を何年かに分けて金銭で納める制度です(国税庁 No.4211)。実家をすぐには売りたくない、売却が期限に間に合わない、というときの選択肢になります。
延納の要件
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で納付することが困難な事由があり、その困難な金額の範囲内であること
- 延納税額と利子税に見合う担保を提供すること(延納税額100万円以下かつ延納期間3年以下なら担保不要)
- 申告期限までに延納申請書と担保提供関係書類を税務署に出すこと
「困難な金額」は先ほどの計算表と同じ考え方で、手元の現金・預貯金から3か月分の生活費等を引いた額は一括で納める前提です。預金が十分あるのに延納だけを使うことはできません。担保にできるのは国債・地方債、税務署長が確実と認める有価証券、土地、保険をかけた建物、確実な保証人の保証などで、相続した実家の土地だけでなく、相続人自身の財産も担保にできます。担保書類が間に合わない場合は、届出で1回3か月・最長6か月まで提出期限を延ばせます。
延納期間と利子税(令和8年)
延納できる期間と利子税の割合は、相続財産のうち不動産等が占める割合で決まります。実家中心の相続で使うことが多い区分を抜粋しました。
| 不動産等の割合 | 区分 | 最長期間 | 本来の割合 | 特例割合(令和8年) |
|---|---|---|---|---|
| 75%以上 | 不動産等に係る延納相続税額 | 20年 | 3.6% | 0.6% |
| 動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.9% | |
| 50%以上75%未満 | 不動産等に係る延納相続税額 | 15年 | 3.6% | 0.6% |
| 動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.9% | |
| 50%未満 | 一般の延納相続税額 | 5年 | 6.0% | 1.0% |
特例割合は、令和8年1月1日現在の延納特例基準割合1.3%で計算したもので、毎年変わります(国税庁 No.4211)。例えば不動産等に係る延納税額1,000万円を特例割合0.6%で延納すると、初年の利子税は概算で年6万円程度。元金が減るにつれて利子税も減ります。
延納の注意点
- 審査期間:原則、申請期限から3か月以内に許可・却下が決まり、担保の状況によって最長6か月まで延びることがあります。
- 加算税・延滞税は延納できない:延納の対象は相続税の本税だけです(国税庁「延納・物納申請等」)。
- 途中で払えなくなったら特定物納:延納の許可後に払えなくなった場合、申告期限から10年以内なら、まだ期限の来ていない分を物納に切り替えられます。
- 延納中に実家を売ることもできる:担保にした土地を売る場合は税務署との調整が必要になるため、事前に相談してください。
方法3:物納(財産そのもので納める)
物納は、延納によっても金銭で納められない場合に限り、相続した財産そのもので納める制度です(国税庁 No.4214)。「実家を国に渡して相続税を済ませたい」と考える人は多いのですが、要件はかなり厳しくなっています。
物納の要件と財産の順位
- 延納でも金銭で納められない事由があり、その金額が限度であること
- 相続税の課税対象になった日本国内の財産で、次の順位によること
- 第1順位:不動産、船舶、国債・地方債、上場株式等
- 第2順位:非上場株式等
- 第3順位:動産
- 管理処分不適格財産に当たらないこと(物納劣後財産は、ほかに適当な財産がない場合のみ)
- 申告期限までに物納申請書と物納手続関係書類を出すこと(届出で1回3か月・最長1年まで延長可)
実家が物納できない主なケース
国税庁が挙げる管理処分不適格財産・物納劣後財産のうち、実家で当てはまりやすいものを抜粋しました。
| 区分 | 実家で当てはまりやすい例 |
|---|---|
| 管理処分不適格財産(原則として物納できない) | 抵当権などの担保が付いている/境界が明らかでない土地/隣地との争いがないと通常使えない/公道に通じず通行権が不明確/共有名義の不動産/耐用年数を過ぎた建物(通常使えるものを除く)/管理・処分の費用が収納価額に比べ過大 |
| 物納劣後財産(ほかに適当な財産がない場合のみ) | 違法建築の建物と敷地/道路に2m以上接していない土地/市街化区域以外の土地(宅地造成できるものを除く)/建物を建てられない土地/事件・事故などで正常な取引が行われないおそれがある不動産 |
物納が現実的でない理由
- 延納で払えるなら使えない:物納できるのは、延納によっても納められない金額が限度です。令和7年4月1日以後の相続からは、物納許可限度額の計算で、将来の収入の減少が確実な場合の扱いや平均余命年数を考慮し、延納期間終了後の当面の生活費・事業経費も加味する方法に改められました(国税庁 チラシ)。それでも、年間の収入から生活費を引いた「納付資力」が大きい相続人ほど、延納で払えると判断されやすい仕組みです。
- 国が引き取る価格は相続税評価額:収納価額は原則として課税価格の計算の基礎となった価額で、小規模宅地等の特例を使った土地は特例で減額した後の価額になります。時価で売れる土地を物納すると、手取りの面では不利になりがちです。
- 整備費用は自己負担:境界確定のための測量・境界標の設置、登記費用、許可までの固定資産税や修繕費などは申請者が負担します。
- 時間がかかる:審査は原則3か月以内ですが、財産の状況により最長9か月延長されることがあります。この間、手続きの訂正などに要した期間には利子税がかかります。申請した財産が管理処分不適格財産・物納劣後財産に当たるとして却下された場合は、却下の日の翌日から20日以内に1回だけ別の財産で再申請できます(延納で払えるとして却下された場合は延納の申請ができます)。
物納が認められない実家を手放す方法としては、売却のほかに相続土地国庫帰属制度もありますが、こちらは建物がある土地は対象外で、負担金も必要です。比較は相続土地国庫帰属制度は空き家に使える?を参照してください。
方法4・5:借入と生命保険金、その他の資金の作り方
方法4:金融機関から借りる
銀行や信用金庫には、相続税の納税資金に使えるローンを扱っているところがあります。実家を売るまでの「つなぎ」として借り、売却代金で返す使い方が典型です。延納と違って税務署の審査や利子税はなく、使い道の制約も比較的少ないのが利点です。
一方、金利は延納の利子税(令和8年の特例割合で0.6〜1.0%)より高くなることが多く、実家などを担保に入れる場合は抵当権の設定費用もかかります。借入で納めてから、申告期限の翌日以後3年以内に実家を売れば、先ほどの取得費加算の特例も使えます。
方法5:生命保険金を充てる
死亡保険金は受取人が保険会社に請求して受け取るお金で、遺産分割協議を待たずに受け取れるのが一般的です。非課税枠(500万円×法定相続人の数)もあるため、納税資金として最も使いやすい財源です。ただし非課税枠が使えるのは相続人が受け取った場合で、相続放棄をした人が受け取った保険金には適用されません(国税庁 No.4114)。
その他1:預貯金の仮払い制度
亡くなった人の口座は、金融機関が死亡を知ると凍結されます。2019年7月からは、遺産分割前でも各相続人が単独で一定額を引き出せる仮払い制度があります(民法909条の2)。引き出せる額は口座ごとの相続開始時の残高×1/3×その相続人の法定相続分で、相続人1人につき同じ金融機関からは150万円が上限です(法務省)。
例:残高600万円の口座、相続人が子2人(法定相続分各1/2)なら、1人あたり600万円×1/3×1/2=100万円。引き出した分は、その相続人が遺産の一部を取得したものとして扱われます。これで足りない場合は、遺産分割の調停・審判を申し立てたうえで、家庭裁判所に預貯金の仮分割の仮処分を求める手続きもあります。手続きは故人の銀行口座の凍結解除|必要書類と仮払い制度で解説しています。
その他2:納税の猶予・換価の猶予
延納とは別に、国税全般に使える猶予制度があります(国税庁「国税を一時に納付できない方のために猶予制度があります」)。
- 換価の猶予(申請):一時に納付すると事業の継続や生活の維持が困難になるおそれがあり、納税に誠実な意思がある場合などに、納期限から6か月以内の申請で原則1年以内の猶予が認められる場合があります。
- 納税の猶予:災害・盗難、本人や生計を一にする親族の病気・けが、事業の廃止・休止などで一時に納付できない場合が対象です。
どちらも原則として担保が必要(猶予額100万円以下、猶予期間3か月以内などは不要)で、猶予期間中は各月に分けて納めます。認められると延滞税が軽減・免除され、差押えも猶予されます。
その他3:相続放棄(最終手段)
相続放棄をすれば相続税も払わなくてよくなりますが、実家を含むすべての財産を受け取れなくなります。期限は相続の開始を知った時から原則3か月で、一部の財産だけ放棄することはできません。親に借金が多い場合などに限られる選択肢です。相続放棄の手続き・費用・期限もあわせて確認してください。
方法別の比較表と判定フロー
| 方法 | 主な費用 | 資金化・手続きの期間 | 主な条件 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|
| 1 実家・土地を売る | 仲介手数料・登記費用・翌年の譲渡所得税(取得費加算で軽減可) | 登記後に販売。買取なら早い傾向、仲介は買主次第 | 相続登記が済んでいること | 実家に住む予定がない/期限まで4か月以上ある |
| 2 延納 | 利子税(令和8年は特例割合0.6〜1.0%)、担保設定の費用 | 申告期限までに申請。審査は原則3か月 | 税額10万円超、金銭納付が困難、担保 | 実家をすぐ売りたくない/売却が期限に間に合わない |
| 3 物納 | 測量・境界確定・登記などの整備費用、利子税 | 申請期限まで。審査は原則3か月、延長あり | 延納でも払えない、不適格財産でない | 収入が乏しく延納も難しい、整った土地がある |
| 4 借入 | ローン金利、抵当権設定費用 | 金融機関の審査次第 | 返済能力・担保 | 申告期限後に売る予定でつなぎ資金が必要 |
| 5 生命保険金 | なし(非課税枠を超えた分は課税) | 請求から受け取りまで | 自分が受取人であること | 受取人になっている保険がある |
| 仮払い制度 | なし | 金融機関の手続き次第 | 1金融機関150万円まで | 当座の不足が小さい |
判定フロー(上から順に当てはめてください)
- 特例と評価を見直しても不足額(チェック表のG)が出るか → 出なければ申告して納付
- 生命保険金・仮払い・自分の預金で埋まるか → 埋まればそれで納付
- 実家を今後使う予定があるか → ない場合は4へ、ある場合は6へ
- 申告期限まで4か月以上あり、遺産分割がまとまっているか → はいなら売却(方法1)、いいえなら5へ
- 申告期限までは借入または延納でつなぎ、期限後に売却して返済・繰上げ納付
- 収入から毎年払えるか → 払えるなら延納(方法2)、払えないなら物納(方法3)の可否を税務署・税理士に確認
小規模宅地等の特例を使う同居親族・家なき子は、4の段階で「申告期限まで所有」の要件と売却時期を契約前に突き合わせてください。
他の相続人が払わない・払えないとき:連帯納付義務
相続税は各相続人が自分の分を納めるのが原則ですが、同じ人から相続した人は、相続で受けた利益の額を限度として互いに連帯して納付する責任を負います(相続税法34条)。兄弟の一人が納めないと、税務署から他の相続人に連帯納付の通知が届く場合があります。
兄弟で実家を共有して相続し、一人だけ納税資金がないというケースでは、この連帯納付義務が問題になりやすくなります。共有のままでは売却にも全員の同意が必要になるため、納税資金の見通しまで含めて遺産分割を決めることが大切です。共有の実家の売り方は空き家の共有名義売却で解説しています。
期限を過ぎたときの延滞税と、その後の流れ
延滞税の割合(2026年)
期限までに納めないと、法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて延滞税が自動的にかかります(国税庁 No.9205)。
| 期間 | 令和8年(2026年)1月1日〜12月31日 | 令和4年〜令和7年 |
|---|---|---|
| 納期限の翌日から2か月を経過する日まで | 年2.8% | 年2.4% |
| 2か月を経過した日以後 | 年9.1% | 年8.7% |
割合は「年7.3%と延滞税特例基準割合+1%のいずれか低い割合」「年14.6%と延滞税特例基準割合+7.3%のいずれか低い割合」で毎年決まります。
延滞税の計算式と計算例
計算式は次のとおりです(国税庁「延滞税の計算方法」)。
- ①本税(1万円未満切捨て)×年2.8%×(法定納期限の翌日から2か月を経過する日までの日数)÷365
- ②本税(1万円未満切捨て)×年9.1%×(2か月を経過する日の翌日から完納日までの日数)÷365
- 延滞税=①+②(100円未満切捨て)
計算例(仮定):本税1,000万円、期間はすべて2026年中とします。
| 遅れた期間 | 計算 | 延滞税 |
|---|---|---|
| 61日(約2か月) | 1,000万円×2.8%×61÷365=46,794円 | 46,700円(約4.7万円) |
| 183日(約6か月) | 46,794円+1,000万円×9.1%×122÷365=46,794円+304,164円=350,958円 | 350,900円(約35万円) |
2か月を過ぎると割合が3倍以上になります。売却の決済が期限に少し遅れる見込みでも、延納の申請や猶予の相談をせずに放置するのは避けてください。
加算税と滞納処分
申告自体を期限までにしなかった場合や、実際より少ない額で申告した場合は、延滞税に加えて加算税がかかることがあります(国税庁 No.4205)。納税資金がなくても、申告だけは期限内に出すことが重要です。督促状が届いてもなお納めない場合は、財産の差押えなどの滞納処分を受けることがあります(国税庁 猶予制度のチラシ)。
誰に相談するか:税理士・税務署・司法書士・不動産の窓口
| 相談先 | 相談できること | 相談するタイミング |
|---|---|---|
| 税理士 | 相続税の試算、特例の適用判断、申告書作成、延納・物納の申請書類、売却時期と税額の比較 | 死亡後できるだけ早く(遅くとも3〜4か月目まで) |
| 所轄税務署(徴収担当・相続税担当) | 延納・物納の手続き、納期限までに納められない場合の相談、猶予制度 | 払えないと分かった時点ですぐ |
| 司法書士 | 相続登記、遺産分割協議書、相続放棄の書類 | 遺産分割の方針が決まったら |
| 不動産会社(宅建業者) | 査定、仲介・買取による売却 | 相続税の試算と並行して3か月目ごろまで |
相続税の申告は、特例の判断や土地の評価で税額が大きく変わる分野です。基礎控除を超えそうなら、税理士への依頼を前提に考えるのが無難です。一方、遺産が明らかに基礎控除以下で、実家の名義変更だけが必要なら、税理士に頼む必要はありません。
安心実家じまい事務局では、実家の売却相談(契約実務は提携の宅建業者)と相続登記(提携司法書士)の窓口をまとめてご案内しています。「申告期限までに売れるか」「売るならいつ・どの方法か」を整理したい場合は、実家売却の相談からお問い合わせください。
よくある質問
相続税を払うお金がないときはどうすればいいですか?
相続税が高すぎて払えません。延納はどんな条件で使えますか?
延納の利子税はどのくらいかかりますか?
実家を物納して相続税を払うことはできますか?
相続税の支払いに間に合うように実家を売れますか?
相続した土地を売ったときの税金を軽くする方法はありますか?
相続税の納付期限を過ぎたらどうなりますか?
他の相続人が相続税を払わないとどうなりますか?
亡くなった親の預金から相続税を払えますか?
まとめ
- 相続税の申告・納付期限は死亡の翌日から10か月。遺産分割がまとまらなくても延びません。
- 「払えない」と判断する前に、基礎控除・小規模宅地等の特例(330㎡まで80%減)・配偶者の税額軽減・生命保険金の非課税枠を確認。特例は申告が前提です。
- 不足額はチェック表で金額にし、①売却 ②延納 ③物納 ④借入 ⑤生命保険金、さらに仮払い制度や猶予制度から埋め方を選びます。
- 実家を売るなら、相続登記→売却→決済を10か月に収める逆算が必要。小規模宅地等の特例の「申告期限まで所有」要件と、翌年の譲渡所得税(取得費加算の特例で軽減可)にも注意してください。
- 延納は令和8年の特例割合で0.6〜1.0%と低い一方、担保と審査が必要です。物納は延納でも払えない場合に限られ、実家では要件を満たしにくいのが実情です。
- 期限を過ぎると延滞税(2026年は2か月まで年2.8%、以後年9.1%)。申告だけは期限内に出し、税理士と税務署に早めに相談しましょう。
実家を売って納める段取りを期限から逆算したい方は、実家売却の相談窓口をご利用ください。
税金についてのご注意
本記事の税金に関する記述は、2026年9月29日時点の国税庁の公表資料と法令にもとづく一般的な説明です。特例が使えるかどうかや個別の税額は、所得や相続の状況によって変わります。個別の税額は税理士にご確認ください(所轄の税務署でも相談できます)。
出典・参考資料(2026年9月29日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 タックスアンサー No.4102 相続税がかかる場合
- 国税庁 タックスアンサー No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 国税庁 タックスアンサー No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 タックスアンサー No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 タックスアンサー No.4155 相続税の税率
- 国税庁 タックスアンサー No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
- 国税庁 タックスアンサー No.4211 相続税の延納
- 国税庁 タックスアンサー No.4214 相続税の物納
- 国税庁 延納・物納申請等
- 国税庁 物納許可限度額等の計算方法が変わりました(令和7年度税制改正・チラシ)
- 国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 国税庁 タックスアンサー No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 タックスアンサー No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
- 国税庁 タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
- 国税庁 タックスアンサー No.9205 延滞税について
- 国税庁 延滞税の計算方法
- 国税庁 国税を一時に納付できない方のために猶予制度があります(令和7年7月)
- 法務省 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)遺産分割前の払戻し制度
- 法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A
- e-Gov法令検索 民法(第909条の2、第915条)
- e-Gov法令検索 相続税法(第34条 連帯納付の義務等)
早いこともあります
相続した家・土地の売却を、片付けから名義変更・売却まで窓口ひとつでご相談いただけます。買取・仲介は提携の宅建業者、登記は提携司法書士が担当します。ご相談・お見積もりは無料です。

