
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
監修の範囲:相続・登記・法務に関する記述(司法書士・行政書士の業務範囲)。片付け・買取・費用相場などの記述は安心実家じまい事務局が編集しています。監修者プロフィール
税金について:税額の計算や特例を使えるかどうかの判断は税理士の業務で、監修の範囲に含みません。申告の前に、税理士または所轄の税務署でご確認ください。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 通帳や証書が見当たらなくても、自宅の郵便物・パソコン・スマホ・店舗型銀行の振替履歴の4か所を順に確認すれば、ネット銀行・ネット証券の手がかりは多くの場合見つかります。
- 手がかりが一切ない場合は、2025年4月開始の「相続時預貯金口座照会制度」(預金保険機構)と、証券保管振替機構(ほふり)への開示請求という2つの一括照会の仕組みが使えます。
- 相続時口座照会の手数料は1件5,060円(結果まで約1か月)、ほふり開示請求は1件7,700円(法定相続情報一覧図を添付すれば6,050円、約2か月)です。
- 相続放棄を検討している場合は、口座を見つけた後の取り扱いに注意が必要です。解約・払い戻しをすると単純承認とみなされることがあるため、着手前に司法書士や弁護士へ相談してください。
なぜネット銀行・ネット証券は「探しにくい」のか
店舗型の銀行であれば、通帳やキャッシュカード、定期的に届く郵便物(残高のお知らせ、年次報告書など)から口座の存在に気づけます。ところがネット銀行・ネット証券の多くは、口座開設から取引、残高確認まですべてインターネット上で完結する設計になっており、紙の郵便物がほとんど発生しません。家族が故人の自宅を片付けても、キャッシュカードや通帳そのものが存在しないケースも珍しくなく、「口座があったかどうか」すら分からないまま相続手続きが止まってしまうことがあります。
さらに、ネット銀行・ネット証券は口座開設時のメールアドレスとパスワードがなければログインできず、二段階認証やワンタイムパスワードが設定されている場合は、スマートフォンの本体がないと突破できないことも多くあります。結果として「存在は疑わしいが、どこの金融機関か特定できない」「存在は分かったが中身を確認できない」という二重の壁にぶつかりやすいのが、ネット系金融資産の相続における特徴です。遺品整理や実家じまいの現場でも、形見分けや残置物の仕分けと並行して金融資産の調査が必要になる場面は多く、遺品整理全体の進め方は遺品整理とは?いつから・費用・捨ててはいけないもの 完全ガイドでも解説しています。
民間の相続サポート機関の解説でも、ネット銀行・ネット証券は「取引残高報告書」「配当金のお知らせ」といった書面が自宅に郵送される場合があると紹介されていますが、近年はペーパーレス化が進み、こうした書面自体を発行しない金融機関も増えています。郵便物に頼った調査だけでは限界があることを前提に、次に紹介するデバイス確認と一括照会の両方を併用するのが現実的な進め方です。
もう一つ見落とされがちなのが、「本人は自分の資産を把握していたが、家族には一切話していなかった」というケースです。生前にネット銀行・ネット証券を利用していた人の中には、節税や資産分散、ポイント還元の良さなどを理由に複数の金融機関を使い分けている人も少なくありません。家族からすると、故人がどこまで資産を分散させていたのか見当がつかず、「ひとまず見つかった分だけで相続手続きを終えてよいのか」という不安につながります。こうした不安を解消するためにこそ、次章で紹介する一括照会の制度が用意されていると捉えると、調査の位置づけが分かりやすくなります。
まず自宅とデバイスで確認すべき4つの手がかり
一括照会の制度を使う前に、まずは自宅にある手がかりを確認してください。費用もかからず、見つかれば数日で金融機関を特定できます。
1. 郵便物・紙の書類を確認する
ネット銀行・ネット証券でも、口座開設時の案内書類、キャンペーンの案内はがき、税務署から送られる「支払調書」の控え、確定申告の控えに記載された口座情報などが自宅に残っていることがあります。デスクや本棚だけでなく、年賀状入れや名刺入れ、通帳とは別の引き出しも確認してください。
2. パソコン・スマートフォンのブックマークとアプリ
パソコンのブラウザのブックマーク(お気に入り)や閲覧履歴、スマートフォンのホーム画面・アプリ一覧に、銀行アプリや証券アプリが入っていないかを確認します。メールソフトで「口座開設」「取引報告書」「ログイン」「お知らせ」といった件名を検索すると、口座開設時や取引時の自動送信メールが見つかることがあります。
3. 預金通帳の入出金履歴から「振替先」をたどる
故人名義の、普段使っていた店舗型銀行の通帳があれば、そこからネット銀行・ネット証券への振込・振替の履歴がないかを確認します。給与振込口座から毎月一定額が特定の金融機関へ振り込まれている場合、そこにネット銀行や証券口座が存在する可能性が高くなります。摘要欄の振込先名(カタカナの略称であることが多い)をインターネットで検索すると、金融機関名が特定できることがあります。
4. クレジットカードの明細・家計簿アプリ
クレジットカードの利用明細に、証券会社や銀行への入金・積立の記録が残っていることがあります。家計簿アプリやポイント管理アプリを故人が使っていた場合、連携先の金融機関一覧から口座の存在が判明することもあります。クレジットカードそのものの解約手続きについては死亡後のクレジットカード解約と未払金で詳しく解説しています。
実家の片付け・仕分けと合わせて、金融資産の手がかり探しもご相談いただけます。写真を送るだけで概算のお見積もりをお出しします。
手がかりが見つからないときの一括照会2制度【比較表】
自宅やデバイスを確認しても手がかりがまったく見つからない場合は、次の2つの一括照会の仕組みを使うことができます。対象となる金融資産の範囲や手数料、所要期間が異なるため、違いを整理しておきます。
| 制度名 | 相続時預貯金口座照会制度 | 証券保管振替機構(ほふり)開示請求 |
|---|---|---|
| 運営主体 | 預金保険機構 | 株式会社証券保管振替機構 |
| 対象資産 | 預貯金口座(普通・定期預金) | 上場株式・投資信託など振替制度対象の有価証券 |
| 利用開始 | 2025年4月〜 | 以前から運用されている既存の制度 |
| 照会できる条件 | 故人のマイナンバーが口座に登録(付番)されていた金融機関に限る | 株式等を保有していた証券会社・信託銀行であれば登録の有無を問わない |
| 申請窓口 | 任意の取扱金融機関の窓口(申請者が選んだ1行でよい) | 証券保管振替機構へ郵送 |
| 手数料(税込) | 1件5,060円 | 1件7,700円(法定相続情報一覧図を添付すると6,050円) |
| 結果が届くまでの目安 | おおむね1か月程度 | 郵送から約2か月 |
| 分かること | 口座の有無と金融機関名(残高・取引内容は分からない) | 証券会社名・信託銀行名(保有銘柄や評価額は分からない) |
どちらの制度も、「どこの金融機関に口座があるか」を教えてくれる仕組みであり、残高や具体的な取引内容までは開示されません。口座の存在が判明した後は、あらためてその金融機関へ死亡の連絡をし、相続手続き(残高証明書の請求、名義変更や解約の手続き)を進める必要があります。また、相続時預貯金口座照会制度は、故人が生前にマイナンバーと口座を紐づけていなかった場合は対象外となるため、この制度だけですべてのネット銀行口座が判明するとは限らない点に注意してください。預金保険機構の申込案内文書でも、「お申込み受付後は、結果通知の内容によらず手数料をお返しすることはできない」「被相続人のマイナンバーを確認できず通知ができない場合に限り手数料を返金する」旨が明記されています。
申請に必要な書類の目安
いずれの制度も、申請時には故人の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本、相続人であることが分かる戸籍一式(または法定相続情報一覧図の写し)、申請者の本人確認書類が必要になります。代理人が申請する場合は委任状も必要です。必要書類の具体的な内容は申請先によって異なるため、事前に窓口や公式サイトで最新情報を確認してください。
証券口座を調べる際の追加の注意点
証券口座については、ほふりへの開示請求で証券会社・信託銀行の名称は分かりますが、投資信託や外国株式、一部の国債など、振替制度の対象外となっている商品はほふりの開示対象に含まれません。そのため、ほふりの回答だけで「故人の金融資産をすべて把握できた」と判断するのは早計です。確定申告の控えに記載された配当所得や譲渡所得の情報、特定口座年間取引報告書(税務署や証券会社から届く書類)が自宅に残っていないかも、あわせて確認することをおすすめします。
確定申告の控えから証券会社名を特定する
故人が確定申告をしていた場合、申告書の控えには、配当所得や株式等の譲渡所得に関する記載があることがあります。特に「申告分離課税」を選択していた場合は、特定口座年間取引報告書の写しが申告書に添付されているケースもあり、そこには取引していた証券会社名が明記されています。確定申告の控えは税務署へ提出した原本の控え、あるいは税理士に依頼していた場合はその税理士事務所にも保管されている場合があるため、心当たりがあれば問い合わせてみてください。また、ふるさと納税のワンストップ特例を利用せず確定申告をしていた形跡がある場合も、申告書一式に金融資産の手がかりが含まれていることがあります。
NISA口座・iDeCo(個人型確定拠出年金)の扱いに注意する
NISA口座は、故人が亡くなった時点で非課税の優遇措置が終了し、相続人は改めて自分名義の課税口座(特定口座・一般口座)で株式等を引き継ぐことになります。NISA口座をそのまま相続人のNISA口座に移すことはできないため、証券会社から届く相続手続きの案内に沿って、課税口座への移管手続きを進める必要があります。一方、iDeCoは相続財産ではなく「死亡一時金」として受取人に支給される仕組みで、相続税法上は「みなし相続財産」として扱われ、一定の非課税枠が設けられています。iDeCoの死亡一時金は、請求できる期限が「死亡から5年以内」などと定められている場合が多いため、運営管理機関(証券会社・銀行)に早めに確認することをおすすめします。いずれも制度の詳細や非課税枠の扱いは個々の契約内容によって異なるため、証券会社・運営管理機関や税理士に直接確認してください。
一括照会制度を申し込む具体的な流れ
自宅の確認で手がかりが見つからず、一括照会制度を利用すると決めた場合の、申請から結果受領までの標準的な流れを整理しました。実際の運用は金融機関や時期によって変わることがあるため、申請前に窓口で最新の案内を確認してください。
| ステップ | やること | 目安 |
|---|---|---|
| ①必要書類の準備 | 死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本、相続人であることが分かる戸籍一式、または法定相続情報一覧図の写し、申請者の本人確認書類を揃える | 戸籍の収集に数日〜数週間 |
| ②申請先の選定 | 預貯金なら取扱金融機関の窓口を1つ選ぶ、証券・株式ならほふりへ郵送する | 即日 |
| ③申請書の記入・提出 | 所定の申請書に記入し、必要書類とあわせて窓口へ提出、またはほふりへ郵送する | 即日〜数日 |
| ④手数料の支払い | 相続時預貯金口座照会は申込時に金融機関へ、ほふりは代金引換(簡易書留受領時)で支払う場合が多い | 申請時または結果受領時 |
| ⑤結果の受領 | 相続時預貯金口座照会はおおむね1か月、ほふりは郵送から約2か月で、簡易書留などにより通知が届く | 1か月〜2か月 |
| ⑥判明した金融機関への連絡 | 口座が見つかった金融機関・証券会社へ死亡の連絡をし、残高証明書の請求や名義変更・解約の手続きに進む | 結果受領後、速やかに |
申請から結果受領まで1か月〜2か月ほどかかるため、相続放棄を検討している場合は、この期間も考慮に入れたスケジュールを組む必要があります。相続放棄の申述期限は、原則として相続の開始を知った時から3か月以内と定められています。一括照会の結果を待っている間に期限が迫ってきた場合は、家庭裁判所に対して期間の伸長を申し立てる制度もあるため、期限が近づいている場合は早めに司法書士や弁護士へ相談してください。
預貯金とほふり、どちらを先に申請すべきか
どちらを先に申請すべきか迷う場合は、故人の生活状況から優先順位を決めると判断しやすくなります。給与振込や年金受給の記録はあるが投資の形跡が見当たらない場合は、まず相続時預貯金口座照会制度を優先します。逆に、証券会社からのダイレクトメールが過去に自宅へ届いていた、確定申告で配当所得や譲渡所得の申告をしていた形跡があるといった場合は、ほふりへの開示請求を優先してください。どちらの可能性も捨てきれない場合は、前述のとおり同時に申請しても問題はなく、戸籍一式を1セット多めに取得しておけば、2つの申請先に並行して提出できます。
金融資産調査を始める前の実務チェックリスト
ネット銀行・ネット証券の調査をスムーズに進めるために、着手前に確認しておきたい項目を一覧にしました。印刷して、ご家族での確認用にご活用ください。
| 確認項目 | チェックのポイント |
|---|---|
| 相続放棄の可能性の確認 | 口座を見つけたあと解約・払い戻しをすると単純承認とみなされる場合がある。検討中なら着手前に司法書士・弁護士へ相談する |
| 自宅の郵便物・書類の確認 | 口座開設案内・確定申告控え・支払調書の控えなどを確認する |
| パソコン・スマホの確認 | ブックマーク・アプリ一覧・メール検索(「口座開設」「取引報告書」等)を行う |
| 店舗型銀行通帳の振替履歴の確認 | ネット銀行・証券会社への定期的な振込がないか摘要欄を確認する |
| クレジットカード明細の確認 | 証券口座への入金・積立の記録がないか確認する |
| 戸籍一式・法定相続情報一覧図の準備 | 一括照会制度の申請にはほぼ必須。先に取得しておくと手続きが早い |
| 相続時預貯金口座照会制度の申請 | 手がかりがない場合、取扱金融機関の窓口で申請(手数料5,060円、約1か月) |
| ほふりへの開示請求 | 株式・投資信託の手がかりがない場合に申請(手数料7,700円/6,050円、約2か月) |
| 見つかった口座の記録 | 金融機関名・支店名・判明日・連絡状況を一覧にして相続人間で共有する |
このチェックリストのうち、特につまずきやすいのが「相続放棄の可能性の確認」です。口座の存在を確認するだけであれば財産の処分にはあたりませんが、解約や払い戻しの手続きまで進めてしまうと、相続放棄ができなくなるおそれがあります。判断に迷う場合は、口座を見つけた段階で一度手を止め、専門家に確認してから次に進めてください。もう一つ見落とされがちなのが「戸籍一式・法定相続情報一覧図の準備」です。これらの書類は一括照会制度だけでなく、金融機関での相続手続き全般に必要となるため、調査を始める前にまとめて取得しておくと、後の手続きがスムーズに進みます。法定相続情報一覧図は、一度法務局で認証を受ければ複数の金融機関へ同時に提出できる写しを無料で再発行してもらえるため、相続人が複数いる、あるいは金融機関が複数見つかりそうな場合は、早めに取得しておくことをおすすめします。
ケース別に見る調査の進め方
金融資産の調査の進め方は、故人の生活状況や家族構成によって変わります。よくあるパターンを四つ挙げて、それぞれの考え方を整理します。
ケースA:ネット銀行・証券を利用していたことは確実だが、どこか分からない場合
給与振込口座からの定期的な振替や、スマートフォンのアプリ一覧から取引先の存在自体は分かっているものの、具体的な金融機関名が特定できない状況です。この場合はまず振込先名での検索やメール履歴の確認を優先し、それでも特定できなければ、相続時預貯金口座照会制度(預貯金が疑われる場合)やほふりへの開示請求(株式・投資信託が疑われる場合)を申請します。両方の可能性がある場合は、両方の制度を並行して申請しても差し支えありません。
ケースB:利用していたかどうかも分からない場合
生前の会話や書類からネット銀行・証券の利用が推測できない場合でも、近年は年金受給者や高齢者であってもポイント運用やネット証券のNISA口座を持っているケースが増えています。手がかりがまったく見当たらない場合は、まず店舗型銀行の通帳の振替履歴を数年分さかのぼって確認し、不審な振込先がなければ、相続財産の規模に応じて一括照会制度の利用を検討する流れが現実的です。目安として、自宅やデバイスの確認に1〜2週間かけても手がかりがゼロであれば、「存在しない」と結論づけるより先に一括照会を申請してしまうほうが、結果的に相続手続き全体の停滞を防げます。費用も数千円程度であるため、念のための確認として申請するハードルは高くありません。
ケースC:相続人が遠方に住んでいて自宅の確認が難しい場合
実家が遠方にあり、頻繁に通えない場合は、帰省のタイミングに合わせて書類・デバイスの確認をまとめて行い、持ち帰れる書類は写真に撮っておくと、その後の手続きを自宅から進めやすくなります。一括照会制度の申請は郵送や窓口1か所で完結するため、遠方からでも進めることができます。司法書士や弁護士に調査自体を代理で依頼することもでき、委任状を用意すれば、戸籍の収集から申請書の提出までを任せることも可能です。何度も実家へ足を運ぶ時間や交通費が負担になる場合は、専門家への依頼とご自身で動く部分を切り分けて考えると、全体の負担を抑えやすくなります。実家の片付けそのものが遠方で進まない場合の考え方は実家の片付けが遠方で進まない人へでも解説しています。
ケースD:相続放棄を検討している場合
相続放棄をするかどうかまだ決めていない場合は、口座の「存在を確認する」段階までにとどめ、解約や払い戻しには進まないでください。一括照会制度の利用自体は財産の処分にはあたらないとされていますが、見つかった口座の取り扱いを誤ると取り返しがつきません。判断がつくまでは、司法書士や弁護士に相談しながら進めることを優先してください。
ケースE:故人が比較的若く、資産運用に積極的だった場合
働き盛りの年代で亡くなった場合、複数のネット証券でNISAやiDeCo、積立投資を並行して行っていたり、暗号資産取引所の口座を保有していたりするケースも増えています。この場合、ほふりの開示請求や相続時預貯金口座照会制度に加えて、パソコン・スマートフォンのアプリ一覧やメールの検索をより丁寧に行う必要があります。暗号資産取引所はほふりや相続時預貯金口座照会制度の対象外であるため、メールの受信履歴や確定申告の控え(雑所得の記載)から手がかりを探すことになります。資産の種類が多岐にわたる場合は、早い段階で税理士に全体の整理を依頼すると、見落としを防ぎやすくなります。
よくあるトラブルとその防ぎ方
ネット銀行・ネット証券の調査は、通常の相続手続きよりも時間がかかりやすく、進め方次第では相続人間の摩擦や、思わぬ不利益につながることもあります。特に、調査そのものに数週間から1か月以上かかる可能性がある点は、他の相続手続き(遺産分割協議、相続税申告、相続放棄の判断)のスケジュールにも影響するため、早い段階で全体のスケジュール感を相続人間で共有しておくことが大切です。事務局として実家じまいのご相談を受ける中でよく耳にするパターンと、その防ぎ方を紹介します。
- 相続放棄前に口座を解約してしまう——存在が判明した口座を「とりあえず整理しよう」と解約・払い戻ししてしまい、後から相続放棄ができなくなるケースです。見つけた段階で一度止まり、専門家に確認してから次に進めてください。
- 一括照会の結果を過信してしまう——相続時預貯金口座照会制度もほふりの開示請求も、マイナンバー未登録の口座や振替制度対象外の商品までは調べられません。一括照会で「何も出なかった」ことが「資産がない」ことの証明にはならない点に注意してください。
- パスワード・認証情報が分からず手続きが止まる——金融機関名が判明しても、ログインできなければ残高は確認できません。金融機関側への死亡連絡・相続手続きの申請は、ログインできなくても窓口や郵送で進められる場合が多いため、まずは金融機関のコールセンターへ相続の旨を連絡してください。
- 複数の相続人がそれぞれ別々に照会を申請してしまう——同じ制度に複数人が重複して申請すると、手数料が二重にかかるだけでなく、手続きが煩雑になります。申請前に相続人間で誰が代表して申請するかを決めておくと、無駄な費用と手間を防げます。
- 借金や未払金の存在に気づかず相続してしまう——ネット銀行の中には信用取引や証券担保ローンのように負債を伴う取引をしていた例もあります。資産だけでなく負債の有無も、通帳の履歴や郵便物から確認する習慣をつけてください。
- 相続放棄の期限が迫ってから慌てて照会を申し込む——一括照会制度の結果が届くまでに1か月〜2か月かかることを知らず、相続放棄の申述期限(原則3か月)のぎりぎりになって申請してしまうケースです。調査に時間がかかりそうだと分かった段階で、早めに家庭裁判所への期間伸長の申し立てを検討してください。
こうしたトラブルの多くは、「存在を確認する段階」と「解約・払い戻しの手続きをする段階」を分けて考えることで防げます。急いで一度に片付けようとせず、まずは手がかりを集め、相続放棄の可能性を整理したうえで、次の段階に進むことが、結果的に一番の近道になります。家族間で役割分担が決まっていない状態で複数人がバラバラに動き出すと、同じ金融機関に何度も問い合わせが行ってしまい、窓口の対応が遅れる原因にもなります。調査を始める前に、誰が中心となって進めるか、見つかった情報をどこに集約するかを決めておくだけでも、全体の進行はかなりスムーズになります。
パターン別シミュレーション:費用と期間の目安
一括照会制度をどこまで利用するかによって、かかる費用と期間は変わります。手がかりの有無に応じた3つのパターンで、概算の費用と期間を整理しました。実際の金額は制度の改定や個別の事情によって変わる場合があるため、あくまで目安としてご覧ください。
| パターン | 利用する制度 | 費用の目安 | 結果が出るまでの目安 |
|---|---|---|---|
| 預貯金の手がかりだけがない | 相続時預貯金口座照会制度のみ | 5,060円 | 約1か月 |
| 証券の手がかりだけがない | ほふりへの開示請求のみ | 7,700円(法定相続情報一覧図を添付すれば6,050円) | 約2か月 |
| 預貯金も証券も手がかりがない | 両方を並行して申請 | 合計11,110円前後(一覧図添付で10,010円前後) | 長い方に合わせて約1か月 |
両方の制度を同時に申請しても手続き上の問題はなく、むしろ調査にかかる時間を短縮できます。戸籍一式や法定相続情報一覧図はどちらの申請にも共通して使えるため、先に取得しておけば二度手間になりません。費用はいずれも数千円程度であり、自宅やデバイスの確認だけで手がかりが見つからない場合は、早い段階で申請してしまうほうが、結果的に相続手続き全体を早く進められます。遺品整理や実家の片付けにかかる費用と比べても、一括照会の手数料は数千円単位と小さく、「念のため申請しておく」判断のハードルは高くありません。
相続人間で情報を共有するための記録シート例
金融資産の調査は、一人だけで抱え込まず、見つかった情報をその都度、相続人全員で共有できる形にしておくとトラブルを防げます。以下のような一覧表を作り、調査の進捗と並行して更新していく方法をおすすめします。印刷してご家族で共有する際のたたき台としてお使いください。
| 項目 | 記入内容の例 |
|---|---|
| 金融機関名・支店名 | 判明した銀行・証券会社名、支店名(分かれば) |
| 手がかりの入手元 | 郵便物/メール/通帳の振替履歴/一括照会制度 のいずれか |
| 判明日 | 手がかりを見つけた、または照会結果を受け取った日付 |
| 連絡状況 | 金融機関への死亡連絡の有無、残高証明書の請求状況 |
| 担当する相続人 | その金融機関とのやり取りを窓口として進める人 |
| 次のアクション | 必要書類の取得、名義変更・解約手続きの予定日など |
この記録シートは、遠方に住む相続人がいる場合や、相続人が複数いて役割分担をしたい場合に特に効果を発揮します。誰がどこまで確認したかが一覧になっていれば、「言った言わない」のすれ違いや、同じ金融機関への重複連絡といった手間を防げます。
実家じまい・遺品整理と金融資産調査をまとめて進める方法
実際には、金融資産の調査だけを単独で進めるより、実家の片付けや遺品整理と並行して進める家庭がほとんどです。遺品整理の仕分け作業の中で、通帳・印鑑・パソコン・スマートフォン・郵便物といった「金融資産の手がかりになりそうな物」を優先的に取り分けておくと、調査の着手が早くなります。安心実家じまいでは、仕分けの段階で重要書類やデジタル機器を丁寧に分けて保管し、作業前後の写真をご報告する対応を行っています。遠方にお住まいで立ち会いが難しい場合も、鍵をお預かりして進める方法があります。
特に注意したいのが、パソコンやスマートフォンの取り扱いです。遺品整理の現場で「もう使わないから」と早々に処分・初期化してしまうと、ブックマークやメールに残っていた金融機関の手がかりごと失われてしまいます。デジタル機器は、金融資産の調査が一区切りつくまでは処分せずに保管しておくことを強くおすすめします。パスワードが分からず起動できない場合でも、本体さえ残しておけば、後日メーカーやデータ復旧業者に相談する余地が残ります。同じ理由で、机の引き出しや書類棚にある紙類も、明らかな不要品と判断できるもの以外は、金融資産の調査が終わるまで仕分けだけにとどめ、処分は後回しにする判断が安全です。
金融資産の調査と並行して、実家の名義変更や相続登記、将来的な売却を検討している場合は、早い段階で司法書士へ相談しておくと手続き全体がスムーズになります。実家の処分方法全体の比較は実家の処分方法5つを比較で、相続登記の費用については相続登記の費用と自分でやる方法でそれぞれ解説しています。
実家じまいそのものについてのご相談は遺品整理サービスで承っています。金融資産の手がかりを探しながら、それ以外の家財の処分まで一つの窓口で任せたい場合は、まずは写真を送るだけの無料見積もりからご相談ください。
よくある質問
通帳もキャッシュカードも見つからないのですが、ネット銀行の口座があるかどうかだけでも確認する方法はありますか?
証券口座があるかどうかを調べる方法はありますか?
相続放棄を考えている場合、口座の存在を調べるだけでも大丈夫ですか?
一括照会の制度を使えば、故人の金融資産をすべて把握できますか?
一括照会の結果が届くまでに相続放棄の期限が来てしまいそうです。どうすればよいですか?
NISA口座やiDeCoの口座も、この一括照会で見つかりますか?
調査で見つかった金融資産は、相続税の申告にどう関係しますか?
まとめ
故人のネット銀行・ネット証券の口座は、通帳や郵便物が残らないという特性上、店舗型の金融機関に比べて見つけにくいのが実情です。とはいえ、自宅とデバイスの確認、振替履歴のたどり直し、そして一括照会制度という段階を踏めば、手がかりがまったくない状態からでも金融機関を特定できる可能性は十分にあります。焦って一つの方法だけに頼らず、複数の手がかりを組み合わせて確認していくことが、結果的に一番確実で早い近道になります。振り返ります。
- ネット銀行・証券は郵便物が発生しにくく、通帳やカードが残らないため存在に気づきにくい
- まずは自宅の郵便物、パソコン・スマホ、店舗型銀行の振替履歴、クレジットカード明細の4つを確認する
- 手がかりがなければ、預貯金は「相続時預貯金口座照会制度」(手数料5,060円・約1か月)、証券は「ほふりへの開示請求」(手数料7,700円/6,050円・約2か月)を利用する
- どちらの制度も、口座の有無と金融機関名が分かるだけで、残高や取引内容は分からない
- 相続放棄を検討している場合は、口座の存在を確認する段階で一度止まり、解約・払い戻しの前に専門家へ相談する
- 実家の片付けや遺品整理と並行して進める場合は、通帳・書類・デジタル機器を先に仕分けておくとスムーズ
金融資産の調査に正解の手順はありません。故人の生活状況やご家族の事情に合わせて、無理のない範囲で進めていただければ十分です。判断に迷う場合や、相続放棄・相続登記など法律面の手続きが絡む場合は、一人で抱え込まず、司法書士や弁護士など専門家に相談してください。調査自体に時間がかかっても焦る必要はありませんが、相続放棄の申述期限(3か月)や相続税申告の期限(10か月)など、法律で定められた期限に関わる部分だけは早めに意識し、期限が近づいている場合は迷わず専門家へ相談することをおすすめします。実家じまい全体の進め方については実家の処分方法5つを比較もあわせてご覧ください。
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