
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
監修の範囲:相続・登記・法務に関する記述(司法書士・行政書士の業務範囲)。片付け・買取・費用相場などの記述は安心実家じまい事務局が編集しています。監修者プロフィール
税金について:税額の計算や特例を使えるかどうかの判断は税理士の業務で、監修の範囲に含みません。申告の前に、税理士または所轄の税務署でご確認ください。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 実家の屋根・雨どい・ブロック塀・庭木の枝が隣地との境界線を越えている「越境」は、空き家売却でよくある問題で、多くは解消せずに「覚書」を交わしたまま売却できます。
- 判断軸はシンプルです。片付けてから売る(仲介)か、そのまま買取に出すか、手取り額で比べて決めてください。越境・境界未確定・残置物がある実家は、仲介より空き家買取(片付け不要・複数社査定)のほうが早く確実に手放せるケースが多くあります。
- 2023年4月の民法改正で、隣地の竹木の枝が境界を越えている場合、所有者に切除を催告しても応じないときは自分で切り取れるようになりました(民法233条)。ただし塀・給排水管など竹木以外の越境物には適用されません。
- 境界があいまいなまま売却すると契約不適合責任を問われるリスクがあるため、売却前に隣地所有者との間で越境の覚書を取得しておくことが最も確実な対策です。
この記事では、実家じまい・空き家の売却を進める中で越境に気づいた方に向けて、民法改正の内容、覚書の作り方、買取・仲介・有料引き取りの比較、ケース別の進め方、税金の特例への影響まで、一次情報に基づいて整理しています。印刷して使えるチェックリストと比較表も用意していますので、実家の状況を確認しながら読み進めてください。
越境とは?実家の売却でよくあるケース
「越境」とは、建物や設備、樹木などが本来の境界線を越えて隣地(または自分の土地)に入り込んでいる状態を指します。長年住み続けてきた実家や、何世代も前に建てられた古い空き家では、建築当時の測量が不十分だったり、塀や庭木が境界を意識せずに設置・植樹されたりしているため、越境が見つかる確率が高くなります。
実家じまいや空き家の売却を進める段階になって初めて「隣の家の屋根が境界を越えている」「うちの庭木の枝が隣の敷地に伸びている」「塀が境界線上ではなくずれた位置に建っている」といった越境に気づくケースは少なくありません。これは売却を妨げる致命的な欠陥ではありませんが、放置すると買主が決まりにくくなったり、契約後にトラブルになったりする原因になります。
越境が起きやすいのは、昭和30〜40年代に宅地化された住宅地です。当時は現在のような精密な測量技術が普及していなかったため、目視や簡易な測量で境界を決めてしまい、後年、正確な測量をすると実際の境界と塀・建物の位置がずれていたと判明することがあります。また、所有者同士が「お互い様」として長年問題にしてこなかった越境が、相続や売却のタイミングで初めて表面化することも多く見られます。
越境を放置したまま売却するとどうなるか
「黙っていれば気づかれないだろう」と考えて越境を説明せずに売却を進めてしまうと、後になって大きな代償を払うことになりかねません。不動産の売買では、引き渡し後に買主が測量や近隣への聞き取りを行い、越境の事実が判明することが珍しくありません。その場合、売主が越境を知っていたかどうかによって、責任の重さが変わってきます。
越境を隣地所有者に説明せず、覚書も取らずに売却した場合、買主は引き渡し後に越境の事実を知ることになります。この場合、売買契約の内容に適合しない状態として「契約不適合責任」を問われる可能性があります。買主が売主に対して求めることができる主な請求には、次のようなものがあります。
- 越境部分の修補(塀の移設・撤去など)を求める「修補請求」
- 越境があることで生じた損害の賠償を求める「損害賠償請求」
- 越境の程度が大きく、契約の目的を達成できない場合の「契約解除」
- 越境分だけ価値が下がっているとして売買代金の引き下げを求める「代金減額請求」
越境の事実を売主が把握していたにもかかわらず買主に説明しなかった場合、これらの責任に加えて、説明義務違反を理由とした別のトラブルに発展することもあります。越境があること自体を隠す必要はなく、事前に説明し、覚書や境界確認書を添えて売却することが、売主にとって最もリスクの低い進め方です。
買取の場合は、買取業者がそのまま所有者となり転売や活用を行うことが多いため、越境の状態を把握したうえで査定額に反映して購入するケースが一般的です。仲介のように「個人の買主」に越境のリスクを説明して理解を得る手間がかからない分、売主としては心理的な負担が少なくなります。
越境がそのまま「欠陥」や「違法建築」を意味するわけではありません。古い実家では、建築当時の測量精度や、隣家との口約束による慣行で、少しずれた位置に塀や建物が建てられていることがよくあります。問題になるのは、越境の事実を知らないまま売却し、引き渡し後に買主や隣地所有者との間でトラブルになるケースです。先に状況を把握し、覚書や測量などの対応をしておけば、売却そのものを止める必要はありません。
総務省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%と、いずれも過去最多・過去最高を更新しています(出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」)。空き家が増えるほど、隣接する敷地同士の管理状況の差や、長期間放置されたことによる境界のあいまいさも増えていくため、越境トラブルは今後さらに増える可能性があります。
枝・塀・給排水管…どこまでが「越境」か【チェックリスト】
売却前に、以下の項目を目視と資料の両面で確認しておくと、後から慌てずに済みます。印刷してチェックしながら実家を一周してみてください。
- □ 法務局で取得した公図・地積測量図と、固定資産税の課税図を見比べ、境界の位置を確認したか
- □ 境界標(コンクリート杭・金属プレートなど)が境界線上に現存しているか
- □ 隣地との塀・フェンスが、境界線の上に正しく建っているか(内側・外側にずれていないか)
- □ 屋根の軒先・雨どいが隣地の上空に伸びていないか
- □ 庭木の枝・根が隣地(または自分の敷地)の境界を越えていないか
- □ エアコンの室外機・物置・自転車置き場などが境界線上または越境した位置に置かれていないか
- □ 給排水管・ガス管・浄化槽の配管が隣地の地中を通っていないか(目視では分かりにくいため、過去の工事図面があれば確認)
- □ 隣地所有者と過去に境界や越境についてやり取りした記録(口頭の約束・メモ・年賀状のやり取りなど)が残っていないか
- □ 隣地が空き家・空き地になっていて、所有者や連絡先がすぐに分からない状態になっていないか
- □ 固定資産税の課税明細に記載されている地目・地積と、実際の敷地の形が大きく異なっていないか
チェックリストで越境の疑いが見つかった場合、焦って隣地所有者に抗議するのではなく、まず公図・地積測量図・固定資産税の課税図面を取得して、現況との差を客観的に確認することから始めてください。感覚的な「越境している気がする」という状態で話し合いを始めると、かえって隣地関係が悪化しやすくなります。
越境の種類ごとに、取るべき対応の優先順位は異なります。チェックリストで見つかった項目を、下の表を参考に優先度を付けて整理してみてください。
| 越境の種類 | 対応の優先度 | 基本的な対応方法 |
|---|---|---|
| 庭木の枝・根 | 低〜中(自分で解消しやすい) | 自分の木なら剪定、隣地の木なら催告のうえ民法233条に基づき対応 |
| 塀・フェンス | 中(覚書での解決が基本) | 隣地所有者と覚書を取り交わし、建て替え時の撤去条件を定める |
| 屋根・軒・雨どい | 中〜高(構造に関わるため) | 覚書で現状を承認するか、改修のタイミングで是正する |
| 給排水管・配管 | 高(見えにくく影響が大きい) | 図面で経路を確認し、必要なら専門業者に調査を依頼のうえ覚書を作成 |
| 境界標が不明 | 高(売却全体に影響) | 土地家屋調査士に境界確定測量を依頼し、境界確認書を取得する |
境界確定測量をするかどうかの判断
境界標が現存し、隣地所有者との認識も一致していれば、改めて確定測量を行わなくても売却を進められる場合があります。一方で、境界標が見つからない、過去に境界トラブルがあった、公図と現況の形状が大きく異なるといった場合は、土地家屋調査士に依頼して境界確定測量を行い、隣地所有者の立会いのもとで「境界確認書」を取得しておくと、売却後のトラブルを大きく減らせます。確定測量には数週間から数か月かかることがあるため、売却のスケジュールと合わせて早めに動き出すことが重要です。
樹木の枝・根の越境は民法233条でどう扱われる?
庭木の枝が隣地に越境している場合の扱いは、2023年4月1日に施行された民法改正で明確になりました。改正後の民法233条では、隣地の竹木の枝が境界線を越えるとき、土地の所有者は竹木の所有者に枝の切除を求めることができ、次のいずれかに当たるときは自分で切り取ることができると定められています。
- 竹木の所有者に枝の切除を催告したが、相当の期間内に切除されなかったとき
- 竹木の所有者を知ることができない、またはその所在を知ることができないとき
- 急迫の事情があるとき
一方で、根が境界線を越えている場合は改正前から変わらず、所有者の承諾を得ずに自分で切り取ることができます。ただし、この条文が適用されるのは「竹木(樹木)」に限られ、ブロック塀や物置、給排水管などの構造物には適用されません。構造物の越境は、後述する「覚書」や協議による解決が基本になります。(出典:柏崎市「民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)の改正」)
境界があいまい・越境がある実家でも、片付け不要の買取や、提携の宅建業者による仲介・買取の相談ができます。写真を送るだけで概算のお見積もりをお出しします。
境界があいまいなまま売れるか?「覚書」という選択
越境がある場合、必ずしも塀や庭木、建物の一部を撤去しなければ売却できないわけではありません。実務上もっとも多いのは、隣地所有者との間で「越境物に関する覚書」を取り交わし、現状の越境を認め合ったうえで売却する方法です。
覚書は、越境している側・越境を受けている側のどちらが売主であっても作成できます。当事務局は宅建業者ではありませんが、提携の宅建業者が実家の売却を担当する際には、境界確認や覚書の取得についても相談しながら進めることができます。片付けや残置物の整理は当事務局の窓口で対応し、売却・買取の実務は提携の宅建業者が担う、という役割分担です。
覚書に書くべき4つの項目
覚書に法律で定められた決まった書式はありませんが、最低限次の4項目を盛り込んでおくことで、後から「どちらがどう約束したか」で揉めるリスクを大きく減らせます。
| 項目 | 記載する内容 |
|---|---|
| ①越境の特定 | 何が・どこから・どれだけ越境しているかを、実測値・写真・確認図で具体的に示す |
| ②現状の承認 | 「現在ある状態のまま」存在することを認める。建て替え・改築で形が変わった場合は対象外とする旨を明記 |
| ③撤去の条件 | 建て替え・改修工事が発生するときに撤去する、費用は越境している側が負担する、など条件を定める |
| ④承継の定め | 土地の所有者が変わっても(売却・相続があっても)覚書の内容を新しい所有者に引き継がせる旨を明記 |
覚書に承継の定めがあれば、実家を売却したあとも新しい所有者と隣地所有者の間で同じ条件が引き継がれるため、売主が将来のトラブルに巻き込まれるリスクを下げられます。覚書がないまま売却すると、越境の事実と今後の撤去条件について買主との間で交渉が必要になり、価格交渉や契約解除の原因になることがあります。
覚書を作成するかどうかを判断する前に、まずは隣地所有者との関係性を振り返ってみてください。日頃から挨拶を交わし、良好な関係が築けている場合は、越境の話を切り出しても比較的スムーズに合意が得られることが多くあります。一方、過去に何らかのトラブルがあった、あるいは面識がほとんどないという場合は、最初から専門家を介して進めるほうが無難です。
覚書を作成する実務の流れ
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| ①現地確認・記録 | 越境している箇所を写真で記録し、できれば実測値も記録する。公図・地積測量図と照合する |
| ②隣地所有者への説明 | 越境の状況を伝え、覚書による解決を提案する。感情的な対立を避け、売却の予定があることも伝える |
| ③覚書案の作成 | 特定・承認・撤去条件・承継の4項目を盛り込んだ覚書案を作成する。司法書士や弁護士に案文の確認を依頼すると安心 |
| ④双方の署名・捺印 | 売主(または所有者)と隣地所有者の双方が署名・捺印し、各自が原本を1部ずつ保管する |
| ⑤売却時に買主へ引き渡し | 仲介・買取いずれの場合も、覚書の写しを買主(または買取業者)に引き渡し、承継される旨を説明する |
覚書は公的な登記のような効力を持つものではなく、あくまで当事者間の合意文書です。そのため、将来隣地の所有者が変わった際にも覚書の内容が実効性を持つよう、承継の条項を明確にしておくことが特に重要です。
隣人が覚書に応じない・連絡が取れないときは
隣地所有者が覚書への署名に応じない場合は、承認する範囲や撤去の時期を限定して再提案する方法があります。それでも解決しない場合は、越境部分の解消(撤去)を求めるか、売却時に境界を引き直す形で対応することになります。話し合いが感情的になりやすい場合は、売主本人同士ではなく、司法書士や宅建業者を間に立てて交渉する方が、冷静に進められることが多くあります。
隣地所有者が遠方に住んでいて連絡が取れない、所在が分からない、または所有者が亡くなって相続人が不明というケースでは、令和3年の民法改正で創設された「所有者不明土地管理制度」を利用する方法があります。これは、所有者の所在や存在が分からない土地について、裁判所が選任する管理人(所有者不明土地管理人)がその土地の管理・処分を行える制度です。従来の不在者財産管理制度は不在者の財産すべてを管理する人を選任するのに対し、所有者不明土地管理制度は対象の土地だけに限定されるため、管理期間が短縮され、申立人が納める予納金の負担も軽減される点が特徴です(出典:国土交通省「所有者不明土地ガイドブック」)。ただし制度の利用には裁判所への申立てが必要で、手続きに一定の時間がかかるため、売却を急ぐ場合は覚書の取得を待たずに買取へ切り替える判断も検討してください。
越境・境界の相談先はどこに分けるべきか
越境や境界の問題は、1つの専門家にすべて相談できるわけではなく、役割に応じて依頼先が分かれます。あらかじめ役割を把握しておくと、相談がスムーズに進みます。
| 専門家 | 主に相談できること |
|---|---|
| 土地家屋調査士 | 境界確定測量、境界標の設置、境界確認書の取得 |
| 司法書士 | 相続登記、覚書の文案チェック、不動産の名義変更 |
| 弁護士 | 隣地所有者との交渉が難航した場合の代理交渉、訴訟になった場合の対応 |
| 宅建業者(提携先) | 買取・仲介の査定、売買契約、越境を踏まえた価格交渉 |
当事務局は宅建業者ではないため、売却・買取そのものは提携の宅建業者が担当し、相続登記や覚書の文案確認は提携の司法書士が担当します。当事務局の窓口では、これらの専門家への橋渡しと、実家の片付け・残置物の整理をまとめて相談できる体制を取っています。どこに何を相談すればいいか分からない場合は、まず当事務局に現状を伝えていただければ、適切な専門家におつなぎします。
複数の専門家に個別に連絡を取り、それぞれに同じ状況を説明し直すのは大きな負担になります。当事務局を最初の相談先にしていただくことで、片付けの見積もりと、境界・越境の対応方針、売却・買取の概算見積もりを、同じ窓口でまとめて把握できるようにしています。遠方にお住まいで実家に何度も足を運べない場合も、写真や資料をもとに進め方を整理できます。
買取・仲介・有料引き取りの3択比較表
越境や境界未確定がある実家の手放し方は、大きく3つに分かれます。どれが合うかは、境界の状況・片付けの負担・売却までにかけられる時間によって変わります。
| 買取 | 仲介 | 有料引き取り | |
|---|---|---|---|
| 境界・越境が未解決でも進められるか | ○ 進めやすい(買取業者が引き継ぐ前提で検討) | △ 原則、覚書や境界確定が求められる | ○ 進めやすい |
| 片付け・残置物 | ○ 片付け不要で引き渡せる場合が多い | × 基本的に残置物を撤去してから引き渡し | ○ 片付け不要 |
| 売却までの期間 | 短い(数週間〜1ヶ月程度が目安) | 長い(買主が見つかるまで数ヶ月〜) | 短いが「売却」ではない |
| 手取り額の目安 | 仲介より低めになりやすい | 買取より高くなりやすい(手数料・解体費などが別途発生) | 手取りは発生せず、逆に費用がかかることが多い |
| 向いているケース | 境界・越境が未解決、早く確実に手放したい | 境界が確定済み、時間をかけて高く売りたい | 売却自体が難しい・負動産化した土地 |
境界や越境の問題を解決してから仲介で売るほうが高く売れる可能性はありますが、測量や覚書の取得には数ヶ月かかることもあります。判断に迷う場合は、空き家買取と実家の売却(仲介)の両方で概算の見積もりを取り、解体費・測量費・諸経費を引いた「手取り額」で比べることをおすすめします。
「有料引き取り」は、売却代金を得る方法ではなく、引き取り手数料を支払って不動産を手放す方法です。国土交通省の調査でも、売却も賃貸もできない負動産化した土地・空き家について、所有者が費用を負担して引き取ってもらう事例が報告されています。境界や越境の問題が複雑で、買取業者からも購入を断られるような土地では、最終的な選択肢として検討されることがありますが、通常はまず買取・仲介を検討し、どちらも難しい場合の最終手段と位置づけてください。
手取り額を比較する際は、売却価格だけでなく、測量費・覚書作成にかかる専門家への依頼費用・解体費・相続登記費用・譲渡所得税(特例適用後)まで含めて計算することが大切です。仲介のほうが売却価格自体は高くなりやすい一方、測量や覚書の取得に時間と費用がかかるため、最終的な手取り額では買取と大きく変わらない、またはそれ以下になることもあります。
越境物の撤去と覚書、どちらを選ぶべきか
越境物がある場合、「撤去してから売る」か「覚書で現状を認めてもらったまま売る」かの判断に迷うことがあります。一般的には、撤去にかかる費用と時間、隣地所有者との関係性、売却までにかけられる期間を踏まえて判断します。塀や物置のように撤去費用が明確で、隣地所有者も協力的な場合は、先に撤去してしまうほうがシンプルで、買主にも説明が不要になります。一方、建物の一部(軒・屋根など)のように撤去すると建物の構造に影響が出る、または撤去費用が高額になる場合は、覚書による解決が現実的な選択になります。
いずれを選ぶ場合も、売却のスケジュールに影響が出ないよう、できるだけ早い段階で隣地所有者に状況を説明し、どちらの対応を希望するか意向を確認しておくことが大切です。
片付けと売却をどう分担するか
越境の覚書や境界確認を進めている間も、実家の中の片付けは並行して進めておくことができます。残置物が多いまま売却を進めると、仲介では引き渡し前の撤去が必須になり、買取でも査定額に影響することがあります。形見分けしたい品物や思い出の品を先に仕分けておき、それ以外の家財は実家じまい代行や遺品整理のサービスで一括して整理する進め方が、負担を分散させる方法として多く選ばれています。当事務局は窓口として片付けの相談・見積もりを担当し、境界確認や売却・買取の実務は提携の宅建業者・司法書士が担当します。
片付けと境界・越境の対応を同時に進める場合の一般的な流れは、おおむね次のようになります。まず現地を確認して境界の状況・越境の有無・残置物の量を把握し、片付けと測量・覚書の見積もりを同時に取ります。片付けは数日〜数週間で完了することが多いのに対し、覚書の取得や測量は隣地所有者の都合によって数週間〜数か月かかるため、片付けを先に終えてから境界対応の結果を待つ、という順番で進めると、売却のタイミングを逃しにくくなります。
ケース別に見る越境の判断
ケースA:隣地の塀が数十センチ自分の敷地に入り込んでいる場合
塀自体は竹木ではないため、民法233条の自己切除は使えません。隣地所有者と話し合い、現状維持の覚書を結ぶか、建て替えのタイミングで塀を境界線上に戻してもらう条件を定めるのが現実的です。売却を急ぐ場合は、覚書の取得と並行して買取業者に相談し、覚書が整わない段階でも買取が可能かを確認する進め方もあります。隣地所有者が「そのうち直す」と口約束だけで済ませようとする場合も、必ず書面(覚書)に残すことが将来のトラブル防止につながります。
ケースB:自分の庭木の枝が隣地に伸びている場合
自分の竹木が隣地に越境している側であれば、まずは自分で剪定して越境を解消するのが最も早い対応です。売却前に剪定しておけば、買主・隣地所有者の双方に説明する手間も減ります。空き家で庭の手入れが行き届いていない場合は、剪定業者に依頼して越境している枝だけでなく、全体の庭木を整えておくと、買主への印象も良くなり売却がスムーズに進みやすくなります。
ケースC:隣地の庭木の枝が自分の敷地に伸びてきている場合
2023年の民法改正により、隣地所有者に切除を催告して相当期間応じてもらえない場合や、所有者が不明な場合、急迫の事情がある場合は自分で切り取ることができます。ただし後々のトラブルを避けるため、催告した記録(内容証明郵便など)を残しておくことが推奨されます。切り取った枝の処分費用は、原則として切り取った側(越境された土地の所有者)が負担することになるため、あらかじめ費用も確認しておくと安心です。
ケースD:境界標が見つからず、越境の有無自体が分からない場合(例:神奈川県の実家)
境界標が失われている、あるいは建築当時から設置されていない実家では、まず公図・地積測量図で大まかな位置を確認し、必要であれば土地家屋調査士に確定測量を依頼します。測量や隣地所有者との境界確認に時間がかかりそうな場合、売却を急ぐなら測量前の状態でも相談できる神奈川県の空き家買取のような買取業者に先に見積もりを取り、仲介と買取の両方で手取り額を比較してから進め方を決める方法もあります。
特に山間部や旧市街地にある実家では、公図自体が明治期の旧土地台帳附属地図(いわゆる「字図」)をもとにしていて、現況と大きくずれていることがあります。このような土地では境界確定測量に通常より時間がかかることが多いため、早い段階で土地家屋調査士に現地を見てもらい、おおよその作業期間を見積もってもらうことをおすすめします。
ケースE:越境の覚書も境界確認もできず、売却自体を急いでいる場合
隣地所有者が高齢で施設に入っている、相続人が複数いて連絡が取れない、海外在住などの事情で覚書の取得に時間がかかりそうな場合は、現況のまま買取業者に相談し、覚書や測量が整うのを待たずに売却を進める方法が現実的です。買取業者によっては、越境や境界未確定のリスクを織り込んだうえで査定・購入する体制を持っているため、仲介より早く確実に手放せます。片付けが済んでいない場合も、買取であればそのままの状態で引き渡せることが多く、片付けと売却を同時並行で進めなくて済みます。
固定資産税や相続税の申告期限、3,000万円特別控除・取得費加算の特例の期限が近づいている場合は、境界対応の完了を待つこと自体がリスクになります。期限を過ぎてから「もう少し時間をかけて覚書を取っておけばよかった」と悔やむより、まずは買取業者に現状のまま査定を依頼し、仲介より早く手放せるかどうかを確認しておくことをおすすめします。
売却せず賃貸・活用する場合も越境の対応は必要
実家を売却せず、賃貸に出す・空き家バンクに登録するといった活用を検討している場合も、越境の問題を放置しておくことはできません。賃貸に出す場合は入居者とのトラブルを避けるために境界を明確にしておく必要があり、空き家バンクへの登録時にも物件情報として境界の状況を正確に伝える必要があります。どのような手放し方・活用方法を選ぶとしても、越境の有無を把握し、必要な対応を取っておくことが前提になるという点は共通しています。
越境を放置した場合のリスクと税金・特例への影響
越境そのものが税制上の特例の適用を直接妨げることは多くありませんが、売却が長引くことで期限のある特例を使えなくなるリスクには注意が必要です。相続した空き家を売る場合、代表的な特例に以下の2つがあります。
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除:昭和56年5月31日以前に建築された家屋で、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却するなど一定の要件を満たすと、譲渡所得から最高3,000万円(令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は2,000万円)を控除できます。売却代金が1億円以下であることや、売却時に一定の耐震基準を満たすか家屋を取り壊して敷地のみ売ることも要件です。(出典:国税庁タックスアンサー No.3306)
- 取得費が不明な場合の概算取得費:購入時の契約書などが見つからず取得費が分からない場合、譲渡価額の5%を取得費とみなす概算取得費のルールがあります。古い実家ではこのルールを使うケースが多く、譲渡所得税の金額に大きく影響します。(出典:国税庁タックスアンサー No.3252)
越境の覚書や境界確認に時間をかけすぎて「相続の開始があった日から3年」という期限を超えてしまうと、3,000万円特別控除が使えなくなる可能性があります。また、相続した土地を相続開始から3年10か月以内に売却した場合に使える「取得費加算の特例」も、期限内に売却できなければ適用できなくなります。境界の問題が長引きそうな場合は、こうした特例の期限を踏まえて、覚書が整う前でも買取で先に手放す選択肢を検討することが実務上のポイントです。
相続登記が済んでいないと、覚書も売却も進められない
相続登記は、不動産の所有者を正式に登記簿上の記録として変更する手続きです。相続登記が済んでいないと、法律上は誰が「土地の所有者」として覚書の当事者になれるのかが確定しません。隣地所有者との話し合いを始める前に、まず相続登記を済ませておくことが、スムーズな進行の前提になります。
令和6年4月1日から相続登記が義務化され、令和6年4月1日より前に発生した相続についても、令和9年(2027年)3月31日までに相続登記を行う必要があります。正当な理由なく申請をせず、法務局からの催告にも応じない場合は10万円以下の過料の対象となることがあります。越境の覚書を隣地所有者と取り交わす際も、売主が登記名義人であることが前提になるため、相続登記が未了の場合は境界の話を進める前に済ませておく必要があります。
越境を放置すると「管理不全空家等」とみなされるリスクも
2023年12月13日に施行された改正空家等対策推進法では、「このまま放置すれば特定空家等になるおそれがある空家等」を市町村が「管理不全空家等」として指導・勧告できる制度が新設されました(出典:国土交通省「空家法と2023改正空家法」)。庭木の越境や塀の破損を直さずに放置し、近隣からの苦情が自治体に寄せられると、管理不全空家等に認定される一因になり得ます。認定され勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が解除されて税額が上がる場合があるため、越境の問題を含めて早めに手を付けておくことが、将来の税負担を避ける意味でも重要です。
隣地所有者との話し合いを円滑に進めるポイント
越境の話し合いは、進め方次第で円滑に進むか、こじれるかが大きく変わります。実務上、次のような点に気をつけると、話し合いがスムーズに進みやすくなります。
- 最初から「撤去してほしい」と要求するのではなく、「現状を確認させてほしい」という形で切り出す
- 公図・測量図・写真など、客観的な資料を用意してから話し合いに入る
- 口頭だけで済ませず、合意した内容は必ず覚書など書面に残す
- 感情的な対立がある場合は、売主本人同士ではなく司法書士や宅建業者を間に立てる
- 売却を予定していることを早めに伝え、覚書の必要性について理解を得る
特に、何十年も前からお互いに境界を気にせず付き合ってきた隣地同士では、「今さら境界の話をするのか」と不快感を持たれることもあります。売却のために必要な手続きであることを丁寧に説明し、相手の立場にも配慮しながら進めることが、円滑な解決につながります。
越境がある実家でよくある失敗パターン
実際の相談でよく見られる失敗パターンを3つ紹介します。自分の実家に当てはまりそうな点があれば、早めに手を打っておくことをおすすめします。
- 失敗パターン1:越境を知っていたのに黙って仲介で売却してしまった
引き渡し後に買主が測量をして越境に気づき、修補や代金減額を求められるトラブルに発展しました。越境を知っている場合は、必ず事前に説明し、覚書か境界確認書を用意してから売却に進めることが重要です。 - 失敗パターン2:隣地所有者との話し合いを先延ばしにし続けた
「そのうち話せばいい」と後回しにしているうちに隣地所有者が高齢になり、認知症で判断能力が低下してしまい、覚書が取れなくなったケースがあります。話し合いは早いほど選択肢が多く残ります。 - 失敗パターン3:測量・覚書を待っている間に特例の期限が過ぎてしまった
境界確定測量に時間をかけすぎて、3,000万円特別控除の「相続から3年」という期限を過ぎ、数百万円単位で税負担が増えてしまったケースもあります。期限が近い場合は、測量や覚書を待たずに買取で手放す判断も検討してください。
よくある質問
越境がある実家は、そのままでは売却できませんか?
隣の木の枝が境界を越えているとき、無断で切ってもいいですか?
境界確定測量をしていないと売却できませんか?
覚書を取り交わす費用はどのくらいかかりますか?
越境がある実家を売却するとき、価格はどのくらい下がりますか?
買取業者は越境や境界未確定の実家でも査定してくれますか?
越境を放置したまま相続登記や売却の手続きを進めても大丈夫ですか?
隣地所有者が高齢で施設に入っている、または認知症で判断ができない場合はどうすればいいですか?
まとめ
越境は実家の売却でよく見つかる問題ですが、多くは覚書を取り交わすことで解消せずに売却できます。振り返ります。
- 越境には樹木の枝・塀・屋根・給排水管などがあり、売却前のチェックリストで洗い出しておく
- 庭木の枝の越境は2023年の民法改正(233条)で、催告後に相当期間応じない場合など自分で切り取れるようになった。根は従来から切り取り可能
- 塀や建物など竹木以外の越境物は、隣地所有者との覚書(特定・承認・撤去条件・承継の4項目)で解決するのが基本
- 片付けてから仲介で売るか、そのまま買取に出すか、手取り額で比較して決める。境界・越境が未解決なら買取が進めやすい
- 3,000万円特別控除には「相続から3年」の期限があるため、境界の問題で長引かせると特例を使えなくなるリスクがある
- 相続登記が未了だと覚書も売却も進められないため、2027年3月までの登記期限を踏まえて先に済ませる
- 越境を知りながら買主に説明せずに売却すると、契約不適合責任(修補請求・損害賠償・契約解除・代金減額)を問われるリスクがある
- 相談先は役割で分かれる。測量は土地家屋調査士、登記・覚書の文案は司法書士、交渉が難航する場合は弁護士、売却・買取は提携の宅建業者が担当する
境界や越境の状態、片付けの進み具合によって最適な進め方は変わります。判断に迷う場合は、一人で抱え込まず、提携の司法書士・宅建業者に相談してください。実家じまい全体の進め方については実家が空き家になったらどうする?もあわせてご覧ください。
越境は、気づいた瞬間は不安になりやすい問題ですが、仕組みを理解すれば対応の選択肢は決して少なくありません。「隣地所有者と話し合って覚書を結ぶ」「自分で剪定して解消する」「境界確定測量で位置をはっきりさせる」「覚書や測量を待たずに買取で手放す」など、実家の状況・隣地との関係・売却までにかけられる時間に応じて、最も負担の少ない方法を選んでください。遠方に住んでいて現地に何度も足を運べない場合も、片付けから境界対応、売却・買取までを窓口でまとめて相談できる体制を整えていますので、まずは現状を写真で送って相談することから始めてみてください。
早いこともあります
越境・境界未確定・片付け前の実家でも、写真を送るだけで概算のお見積もりをお出しします。ご相談・お見積もりは無料です。
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