
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
監修の範囲:相続・登記・法務に関する記述(司法書士・行政書士の業務範囲)。片付け・買取・費用相場などの記述は安心実家じまい事務局が編集しています。監修者プロフィール
税金について:税額の計算や特例を使えるかどうかの判断は税理士の業務で、監修の範囲に含みません。申告の前に、税理士または所轄の税務署でご確認ください。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- インスペクション(建物状況調査)は、国の登録を受けた建築士が構造部分と雨水の浸入を防止する部分を調べる制度で、費用の目安は6万円程度〜(物件規模・調査実施者により変動)です。全ての欠陥を保証するものではありません。
- 空き家を解体せず建物付きで売り、3,000万円特別控除(空き家の譲渡所得特例)を使う場合は、別途「耐震基準適合証明書」の取得が必要になることがあり、インスペクションだけでは特例の要件を満たさない点に注意してください。
- 判断の軸はシンプルです。「調査して直して高く売る(仲介)」か「現況のまま買取に出す(調査なしで引き受けてもらえることが多い)」か、手間と時間とお金を含めた手取りで比べてください。くわしくは実家の売却(片付けから売却まで窓口ひとつ)でも解説しています。
- 片付けが済んでいない状態でも、調査や売却の検討は進められます。家財の仕分けと並行して進めたい場合は窓口を分けずに相談するほうが手間が少なくなります。
インスペクション(建物状況調査)とは何か
インスペクションとは、既存(中古)住宅の売買において、建物の状態を専門家が調査する制度の通称です。国土交通省の定義では「建物状況調査」と呼ばれ、国の登録を受けた機関の講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)が、目視・計測・非破壊検査によって建物の状態を確認します。空き家や実家を売却する場面では、「古い家だから水回りや構造が心配」「買主に安心して買ってもらいたい」という理由で検討されることが多い制度です。
調査の対象は、国土交通省の手引きによれば次の2つの範囲に限定されています。
| 調査対象 | 具体的な部位 |
|---|---|
| (1)構造耐力上主要な部分 | 基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい・方づえ・火打材など)、床版、屋根版または横架材(はり・けたなど) |
| (2)雨水の侵入を防止する部分 | 屋根・外壁・開口部に設ける戸・わくなどの建具、屋根や外壁の内部・屋内にある排水管の部分 |
つまりインスペクションは「家全体の総点検」ではなく、建物が構造的に傾いたり崩れたりしないか、雨漏りを起こすような劣化がないかを確認する、いわば「健康診断」に近い調査です。調査できない箇所(床下に入れない、天井裏が確認できないなど)がある場合は、その部分を省略することが認められています。また、国の手引きにも明記されているとおり、調査を実施しても「全ての瑕疵(欠陥)がないことを約束するものではありません」。この点を誤解したまま進めると、後から「調査したのに不具合が見つかった」というトラブルの火種になるため、最初に理解しておく必要があります。
調査は売主・買主どちらが実施してもかまいませんが、買主が実施する場合は売主の同意が必要です。実家や空き家の売却では、売主側(相続人側)が先に調査を済ませておき、結果を開示したうえで販売活動に入るケースが増えています。(出典:国土交通省「建物状況調査(インスペクション)活用の手引き」令和6年4月)
インスペクションの費用相場と時間
国土交通省の手引きでは、インスペクションにかかる時間と費用について次のように示されています。
- 時間:物件の規模にもよるが、1〜3時間程度が見込まれる
- 費用:物件の規模と調査実施者によって異なるが、6万円程度〜が目安
民間の不動産会社・住宅診断会社が公開している相場情報を見ると、戸建ては基本的な調査で5万〜7万円程度、さらに詳細な調査(床下・屋根裏への進入や設備確認を含むもの)になると追加費用がかかる構成が一般的とされています。マンションは専有部分の範囲が狭いため、戸建てより低めの料金が設定される傾向があります。ただし、こうした個別の料金は調査会社ごとに設定が異なるため、本記事では国の手引きにある「6万円程度〜」を目安として押さえ、実際に依頼する際は複数社から見積もりを取ることをおすすめします。
空き家の場合、長期間人が住んでいないことで、雨漏りの跡や給排水管の劣化、シロアリ被害などが進んでいる可能性があります。調査費用だけを見ると「払う価値があるのか」と迷うかもしれませんが、調査をしないまま売却し、引き渡し後に不具合が発覚すると、調査費用より大きな負担(修補費用や損害賠償)を求められることがあります。この後の章で、仲介で売る場合の契約不適合責任との関係を詳しく説明します。
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インスペクションをするメリットと、しない場合のリスク
国土交通省の実態調査(令和4年度「既存住宅取引におけるインスペクションに関する実態調査」)によれば、インスペクションを実施した人のうち全体の78.5%が「満足」「とても満足」と回答しています(売主・買主を合わせたn=205の調査)。満足の理由として挙げられるのは、主に次の3点です。
メリット(1)不具合の有無が明確になり、価格交渉や広告で説明できる
調査の結果、不具合が見つからなかった場合は、その事実を仲介会社が広告でアピールできるため、買主の安心材料になります。逆に不具合が見つかった場合でも、その内容を踏まえて適正な価格を設定し、事前に買主へ伝えておくことで、引き渡し後のトラブルを避けやすくなります。
メリット(2)契約不適合責任のリスクを減らせる
民法572条では、売主が契約不適合責任を負わない特約をしていても、知りながら告げなかった事実については責任を免れることができないと定められています。契約不適合責任を問われた場合、買主は売主に対して(1)補修などの履行の追完請求、(2)代金減額請求、(3)損害賠償請求、(4)契約の解除、という4種類の請求を行える可能性があり、インスペクションを実施せずに不具合を見落としたまま引き渡すと、引き渡し後にこれらの請求を受けるリスクを抱えることになります。インスペクションを実施して不具合を把握し、それを買主に正直に開示しておけば、「知っていたのに隠した」という評価を避けやすくなります。反対に、調査を依頼されたのに「不具合が見つかったら嫌だから」と断ってしまうと、後から不具合が発覚した際に「隠していたのではないか」と疑われ、トラブルに発展するリスクがあります。契約不適合責任そのものの考え方や、仲介と買取での責任の違いは契約不適合責任と空き家売却でも詳しく解説しています。
メリット(3)既存住宅売買瑕疵保険に加入できる可能性が広がる
インスペクションと合わせて一定の検査を行うと、既存住宅売買瑕疵保険に加入できる場合があります。この保険は、引渡し後に構造部分や雨水侵入防止部分の瑕疵が見つかった場合の補修費用などを保険法人がカバーする仕組みで、新耐震基準等に適合していることなど一定の要件を満たす住宅が対象です。個人間売買の場合の一般的な流れは、(1)買主または売主が登録検査事業者に検査・保証を依頼、(2)保険法人へ保険申込、(3)講習受講者による検査の実施、(4)検査結果の確認、(5)保険の付保、という順に進み、引渡し後に瑕疵(欠陥)が発見された場合は保険法人から補修費用等が保険金として支払われます(一定の免責事由あり)。保険に加入できる物件は買主にとって安心材料になり、販売活動でも有利に働くことがあります。
国土交通省の実態調査では、インスペクション実施者の満足度の内訳も示されています。全体(n=205)では「とても満足」22.4%、「満足」56.1%、「どちらとも言えない」17.6%、「不満」2.9%、「大いに不満」1.0%で、合計78.5%が満足の回答でした。売主(n=118)と買主(n=87)でおおむね近い傾向が見られ、立場に関わらず「調査して良かった」と感じる人が多数派であることがうかがえます。
しない場合のリスク
国の手引きでは、調査を実施せずに売買を進めた結果、購入後に不具合が見つかり、買主が想定外の高額な改修費用を負担したケースが紹介されています。売主側から見ると、こうしたケースは「引き渡した後に買主から不具合を指摘され、隠していたのではないかとトラブルになる」リスクとして跳ね返ってきます。実家や空き家は築年数が古いことが多く、雨漏りやシロアリなど目に見えにくい劣化が進んでいる可能性があるため、調査をしないまま売ることのリスクは、新築に近い住宅より高くなりやすいといえます。
インスペクションと「耐震基準適合証明書」は別物
空き家の売却を検討する際、よく混同されるのが「インスペクション(建物状況調査)」と「耐震基準適合証明書」の違いです。両方とも建築士が関わる調査ですが、目的と使い道が異なります。
| 項目 | インスペクション(建物状況調査) | 耐震基準適合証明書 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 宅地建物取引業法(媒介契約時の説明・重要事項説明での概要報告) | 租税特別措置法(空き家の3,000万円特別控除などの要件) |
| 目的 | 構造・雨水侵入部分の現況把握、契約不適合責任のリスク低減 | 一定の耐震基準を満たすことの証明(税制特例の適用要件) |
| 調査範囲 | 構造耐力上主要な部分・雨水の浸入を防止する部分 | 耐震診断基準に基づく耐震性の判定 |
| 証明書類 | 調査結果報告書(契約不適合責任の免責効果はない) | 耐震基準適合証明書(譲渡の日前2年以内に調査完了が必要) |
国税庁のタックスアンサー(No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」)によれば、相続した空き家を解体せず建物付きのまま売却して3,000万円特別控除を使う場合、「地震に対する安全性に係る規定又は基準に適合するもの」であることが要件の一つとされており、具体的には「耐震基準適合証明書又は建設住宅性能評価書の写し(譲渡の日前2年以内に証明のための調査が終了しているもの)」の提出が求められます。つまり、インスペクションを実施して建物状況調査報告書を取得しても、それ自体が税制特例の要件を満たすわけではなく、特例を使いたい場合は別途、耐震診断・耐震基準適合証明書の取得が必要になるということです。この点は実務で混同されやすいため、特例の適用を検討している場合は、着手前に税理士または税務署へ確認することをおすすめします。(出典:国税庁タックスアンサーNo.3306)
なお、同特例には他にも「売却代金が1億円以下であること」「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること」「令和9年(2027年)12月31日までの譲渡であること」といった要件があり、建物を取り壊して更地にして売る場合は耐震基準の要件そのものが不要になります。耐震基準を満たすか判断がつかない古い空き家では、「調査・耐震改修をして建物付きで売る」か「解体して更地で売る」かも、合わせて検討する判断材料になります。
インスペクションは義務なのか――宅建業法の説明義務との関係
「インスペクションは法律で義務付けられているのでは」と思われる方もいますが、正確には調査の実施そのものは義務ではありません。義務化されているのは、調査に関する「説明」の部分です。2018年4月1日に施行された改正宅地建物取引業法により、仲介業者が売主・買主と媒介契約を結ぶ際に、建物状況調査を実施する者(調査実施者)のあっせんの有無を記載することが義務になりました。また、既に調査を実施している場合は、重要事項説明の際にその結果の概要を説明することも義務付けられています。
つまり仲介会社は「調査を受けますか」とあっせんの可否を提示する義務はありますが、売主・買主が実際に調査を受けるかどうかは任意です。調査を受けないという選択も可能ですが、前述のとおり、調査をしないまま売ったことが後のトラブルの火種になりやすいため、「義務ではないからやらない」ではなく、「義務ではないが、自分と買主の双方のために実施する」という判断軸で考えるのが実務的です。買取で売る場合は、仲介を介さず不動産会社が直接の買主になるため、この媒介契約時のあっせん提示自体が発生しない点も、仲介と買取の実務上の違いの一つです。
調査実施者の選び方
調査を依頼する場合は、国の登録を受けた機関が開催する講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)かどうかを確認することが重要です。仲介を依頼している不動産会社に調査実施者のあっせんを相談するほか、国土交通省が案内する「既存住宅状況調査技術者検索サイト」(kizon-inspection.jp)から調査実施者を探すこともできます。既存住宅売買瑕疵保険への加入を検討している場合は、保険法人の指定する検査事業者に依頼する必要があるため、保険加入の希望がある場合は先に仲介会社や保険法人に確認してから依頼先を決めるとスムーズです。
プロに頼む前の簡易セルフチェック【印刷用】
インスペクションを依頼するかどうかを判断する前段階として、所有者自身で目視できる範囲のセルフチェックを行っておくと、調査を依頼するかどうかの判断材料になります。以下はあくまで簡易的な目視確認であり、専門的な調査の代わりにはなりませんが、着手前の参考としてご活用ください。
| 確認箇所 | チェック項目 | チェック |
|---|---|---|
| 外壁 | ひび割れ、色あせ、剥がれがないか | □ |
| 屋根(見える範囲) | 瓦のズレ・破損、雨どいの詰まりがないか | □ |
| 天井・壁(室内) | 雨染み、カビ、変色がないか | □ |
| 床 | 傾き、きしみ、たわみがないか | □ |
| 基礎(外周から見える部分) | ひび割れ、欠け、シロアリの蟻道がないか | □ |
| 建具(窓・サッシ・戸) | 開閉のゆがみ、建付けの不良がないか | □ |
| 水回り | 水漏れ跡、排水の詰まり、カビの発生がないか | □ |
| 床下・天井裏(アクセスできる場合のみ) | 湿気、シロアリ被害、断熱材の劣化がないか | □ |
セルフチェックで気になる点が複数見つかった場合や、築年数が古く長期間空き家になっていた場合は、インスペクションを依頼して専門家の目で確認してもらうほうが、後のトラブルを避けるうえで安心です。逆に、目視で大きな問題が見当たらず、かつ現況のまま早く手放したい場合は、調査を省略して買取に出す選択も十分に合理的です。
買取・仲介・有料引き取りの3択比較【インスペコストから見る判断】
空き家・実家の売却方法は、大きく3つに分かれます。インスペクションの要否やコスト負担の違いを含めて比較すると、次のようになります。
| 方法 | インスペクションの要否 | 価格・スピード | 契約不適合責任 |
|---|---|---|---|
| 仲介(不動産会社に買主を探してもらう) | 必須ではないが、実施すると高く・早く売れやすい。不具合を隠すと契約不適合責任のリスクが高い | 相場に近い価格で売れる可能性があるが、成約まで数か月〜要することも | 売主が負う。特約で一部免責にできても「知っていて告げなかった事実」は免責されない |
| 買取(不動産会社が直接購入) | 多くの場合不要。現況のまま買い取ってもらえる | 仲介より価格は下がりやすいが、早期に現金化できる | 多くの場合、契約不適合責任を免責する特約が結ばれる |
| 有料引き取り(買取不可の物件を手数料を払って引き取ってもらう) | 不要。老朽化が進んだ空き家向け | 価格はつかず、手数料(処分費相当)を払う形になることが多い | 引き取り後の責任は引き取り事業者側に移る契約が一般的 |
この3つの方法のうち、インスペクションの実施が最も意味を持つのは「仲介」です。買主を広く募る仲介では、不特定多数の買主が建物の状態を気にするため、調査結果の開示が成約率や価格に直結しやすくなります。一方、買取・有料引き取りでは、不動産会社や引き取り事業者がリスクを織り込んだ価格を提示する前提で現況のまま引き受けるため、売主側で調査を先行させる必要性は下がります。どの方法を選ぶかは、「調査・修繕にかけられる時間とお金があるか」「少しでも高く売りたいか、早さと手間の軽さを優先したいか」で変わります。空き家買取は現況のまま手放せる分、仲介より価格は下がる傾向にありますが、インスペクションや修繕の手間・費用をかけずに済む点が実家じまいの現場では評価されています。反対に、実家の売却を仲介で進めて少しでも高く売りたい場合は、インスペクションを実施して不具合を開示しておくほうが、買主の安心材料になり、結果的に成約しやすくなる傾向があります。当事務局は宅地建物取引業者ではないため、買取・仲介そのものの契約実務は提携の宅建業者が担当し、当事務局は相談の窓口と片付け・仕分けを担当する形でご案内しています。
ケース別シミュレーション:インスペクションをするか迷ったら
実際の相談でよくある4つのパターンを整理しました。「自分の場合はどれに近いか」の参考にしてください。
ケースA:築30年以上の木造住宅を、片付け後に仲介でできるだけ高く売りたい
このケースでは、インスペクションを実施して現状を開示したうえで販売活動に入る選択が合理的です。古い木造住宅は雨漏りや基礎のひび割れなど、構造・雨水侵入に関わる不具合が見つかりやすく、調査しないまま売ると契約不適合責任のリスクを抱えたまま引き渡すことになります。調査費用(6万円程度〜)は、トラブル発生時の修補費用や損害賠償のリスクと比べれば、相対的に小さな負担といえます。
ケースB:空き家のまま数年放置していて、修繕する余裕もない
修繕の予定がなく、できるだけ早く現金化したい場合は、インスペクションを省略して買取に出す選択が現実的です。買取では現況のまま引き受けてもらえることが多く、契約不適合責任も免責される特約が一般的なため、調査・修繕にかけるコストと時間を省けます。価格は仲介より下がりますが、「調査費用+修繕費用+販売期間の固定資産税負担」を含めたトータルの手取りで比較すると、買取のほうが有利になるケースも少なくありません。
ケースC:3,000万円特別控除を使って売りたいが、建物の耐震性が分からない
このケースでは、インスペクションだけでなく耐震基準適合証明書の取得可否を先に確認する必要があります。昭和56年5月31日以前に建築された住宅は耐震基準を満たさない可能性が高く、証明書の取得が難しい場合は、建物を取り壊して更地で売却する方法に切り替えることで、耐震基準の要件を外して特例を使える場合があります。どちらが有利かは税額や解体費用によって変わるため、税理士に相談しながら判断することをおすすめします。
ケースD:家財の片付けが終わっておらず、売却の相談を後回しにしている
片付けが終わっていないことを理由に売却相談を先延ばしにする必要はありません。実家じまい代行や遺品整理のご相談と並行して、売却・インスペクションの要否についても同時に検討を進めることができます。片付けの進み具合によって、仲介に向けた準備(インスペクション含む)を進めるか、現況のまま買取に出すかの判断材料が変わってくるため、早い段階で一度まとめて相談しておくと、後からやり直す手間を減らせます。
インスペクションを依頼する前の実務チェックリスト
インスペクションを検討する際に、着手前に確認しておきたい項目を一覧にしました。印刷してご活用ください。
| 確認項目 | チェックのポイント |
|---|---|
| 調査の目的を明確にする | 「契約不適合責任のリスクを減らしたい」のか「税制特例(耐震基準適合証明書)を取りたい」のか、目的によって依頼先・調査内容が異なる |
| 調査実施者の資格を確認する | 国の登録を受けた機関の講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)かどうかを確認する |
| 調査対象の範囲を確認する | 構造耐力上主要な部分・雨水の浸入を防止する部分が対象。設備(給排水・電気など)は別途依頼が必要な場合がある |
| 調査できない箇所の扱いを確認する | 床下・天井裏などに進入できない場合、省略される旨の説明を事前に受けておく |
| 見積もりを複数社から取る | 物件規模・調査実施者によって費用が変わるため、1社だけで決めない |
| 既存住宅売買瑕疵保険の対象か確認する | 保険加入を希望する場合は、調査と同時に検査要件を満たせるか確認する |
| 耐震基準適合証明書が必要か確認する | 3,000万円特別控除などの税制特例を使う予定がある場合は、インスペクションとは別の証明書が必要になることを確認する |
| 結果の開示方法を決めておく | 不具合が見つかった場合、仲介会社・買主への説明方法と価格への反映方法を事前にすり合わせる |
このチェックリストのうち特に見落とされやすいのが「調査の目的の明確化」と「耐震基準適合証明書の要否」です。インスペクションを実施すれば税制特例の要件も自動的に満たせると誤解したまま進めてしまうと、確定申告の直前になって証明書が取得できず、特例を使えないという事態につながります。目的を最初に整理しておくことが、手戻りを防ぐ一番のポイントです。
インスペクションでよくあるトラブルとその防ぎ方
事務局として実家・空き家の売却に関するご相談を受ける中で、インスペクションに関連してよく耳にするパターンと、その防ぎ方を紹介します。
- 調査すれば税制特例も自動的に使えると思い込む——インスペクション(建物状況調査)と耐震基準適合証明書は別の制度です。特例を使う予定がある場合は、どちらの証明書類が必要かを先に確認してください。
- 不具合が見つかるのを恐れて調査を断る——調査を断ったことが、後から「隠していたのではないか」という疑いにつながるケースがあります。不具合が見つかることを前提に、価格や開示方法を事前に考えておくほうが結果的にトラブルを避けられます。
- 調査できなかった箇所を「問題なし」と誤解する——床下や天井裏に進入できず調査が省略された箇所は、「問題がない」ことが確認されたわけではありません。省略された範囲は買主にもきちんと伝える必要があります。
- 調査報告書を買主に見せずに契約を進める——重要事項説明では、建物状況調査を実施している場合、その結果の概要も説明することになっています。調査結果を伝えずに契約を進めると、後からトラブルに発展しやすくなります。
- 空き家のまま放置し、調査自体を先延ばしにする——放置期間が長くなるほど劣化が進み、調査結果も悪化しやすくなります。売却を検討し始めた段階で、早めに調査の要否を判断することをおすすめします。
片付けとインスペクション、売却をまとめて進める方法
実家や空き家の売却では、家財の片付け・仕分けが済んでいないために、インスペクションや売却の検討そのものを先延ばしにしてしまう方が少なくありません。しかし、片付けと売却の相談は並行して進めることができます。安心実家じまいでは、家財の仕分け・搬出・ご供養・買取(家財の買取によって作業費用から差し引ける場合があります)までを窓口ひとつでご案内し、片付けが完了した段階で実家の売却の相談に進めるようにしています。インスペクションの要否や、買取・仲介どちらが向いているかの判断についても、提携の宅建業者と連携してご案内が可能です。
遠方にお住まいで立ち会いが難しい場合も、鍵をお預かりして片付けを進める方法があります。片付けと並行して、建物の現況(雨漏りの跡、基礎のひび割れ、シロアリ被害の有無など)を写真でご報告することもできますので、インスペクションを依頼する判断材料としてご活用いただけます。たとえば神奈川県内の実家であれば、片付け後に神奈川県の空き家買取の相談に進むといった流れも可能です。
よくある質問
インスペクション(建物状況調査)の費用は誰が払うのですか?
インスペクションをすれば、3,000万円特別控除は必ず使えますか?
インスペクションで不具合が見つかったら、売却できなくなりますか?
インスペクションをせずに買取に出すことはできますか?
既存住宅売買瑕疵保険とインスペクションは同じものですか?
結局、自分の場合はどうすればいいか
ここまでの内容を踏まえて、自分の状況に近いものを選び、判断の出発点として使ってください。
- 「少しでも高く、時間をかけて売りたい」→ インスペクションを実施し、不具合があれば開示したうえで仲介で売る。調査費用(6万円程度〜)は、契約不適合責任のリスク軽減というリターンに対するコストと考える。
- 「早く・手間をかけずに手放したい」→ インスペクションを省略し、現況のまま買取に出す。価格は下がるが、調査・修繕・販売期間中の固定資産税負担を省ける。
- 「税制特例を使って税負担を減らしたい」→ インスペクションではなく耐震基準適合証明書の取得可否を先に確認する。証明書が取れない場合は解体して更地で売る方法も比較する。
- 「片付けがまだ終わっていない」→ 片付け・仕分けの相談と、売却・インスペクションの要否の相談を同時に進める。片付けの進み具合を待たずに窓口を一つにまとめたほうが手戻りが少ない。
いずれのケースでも、「調査や証明書にかかるコストと手間」と「それによって得られる価格差・リスク軽減」を、最終的な手取り額で比較するという考え方は共通しています。一人で判断がつかない場合は、建物の状態や相続関係、時間の余裕などを踏まえたうえで、複数の選択肢の概算を並べて比較することをおすすめします。
まとめ
インスペクション(建物状況調査)は、空き家や実家を仲介で売る際に、不具合の有無を明らかにし、契約不適合責任のリスクを減らすための制度です。要点を振り返ります。
- インスペクションは国の登録を受けた建築士が構造部分・雨水侵入防止部分を調べる制度。費用は6万円程度〜、時間は1〜3時間程度が目安
- 調査しても全ての瑕疵がないことは保証されない。調査できない箇所は省略される場合がある
- インスペクションと耐震基準適合証明書は別の制度。3,000万円特別控除を使う場合は耐震基準適合証明書が別途必要
- 仲介で高く売りたい場合はインスペクションの実施が有利。現況のまま早く手放したい場合は買取が調査不要で現実的
- 買取・仲介・有料引き取りは、調査・修繕のコストを含めた手取り額で比較するのが判断の近道
- 片付けが終わっていなくても、売却やインスペクションの検討は並行して進められる
判断に迷う場合は、調査の目的(契約不適合責任のリスク軽減か、税制特例の適用か)を最初に整理し、必要な調査・証明書を見極めることが、手戻りを防ぐ一番の近道です。税額や特例の適用可否に関わる判断は税理士へ、相続登記などの法律手続きに関する判断は司法書士へ相談しながら進めることをおすすめします。片付けから売却まで窓口を一つにまとめたい場合は、実家の売却のページもあわせてご覧ください。
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