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農地・山林の相続でやるべき処分手続き|届出期限90日・相続放棄・買取と仲介の比較

最終更新日:2026年9月27日|監修:司法書士・行政書士 久留慎一郎先生・安心実家じまい事務局

司法書士・行政書士 久留慎一郎
監修者

久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士

東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。

監修の範囲:相続・登記・法務に関する記述(司法書士・行政書士の業務範囲)。片付け・買取・費用相場などの記述は安心実家じまい事務局が編集しています。監修者プロフィール

税金について:税額の計算や特例を使えるかどうかの判断は税理士の業務で、監修の範囲に含みません。申告の前に、税理士または所轄の税務署でご確認ください。

■経歴

  • 1966年鹿児島県生まれ
  • 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
  • 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
  • 2013年司法書士試験合格
  • 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
  • 2017年司法書士法人コスモ退職
  • 2018年事務所開設
  • 2021年司法書士法人設立

■得意領域

  • 相続登記・相続手続き
  • 不動産の名義変更
  • 相続放棄
  • 簡易裁判所の訴訟代理

この記事の結論

  • 農地・山林を相続すると分かった時点で判断すべきことは、①相続放棄するか(期限は自分のために相続があったと知った時から3か月)、②相続するなら農地は農業委員会へ「遅滞なく」・山林は市町村長へ90日以内に届出、③相続登記を3年以内に行う(不動産登記法・2024年4月施行)、の3つです。届出も登記も怠ると10万円以下の過料の対象になり得ます。
  • 処分の判断軸はシンプルです。「片付けてから売るか、そのまま買取か、手取りで比べる」——農地・山林だけを切り離して悩むより、実家の建物・宅地とセットで、片付け費用と売却価格を通算した手取り額で比較すると判断しやすくなります。建物を含めた実家全体の売却は実家の売却、片付け不要でそのまま複数社に査定してもらいたい場合は空き家買取(片付け不要・複数社査定)が窓口になります。
  • 買い手がつかない農地・山林は、有償引き取り(費用を払って引き取ってもらう)や、要件を満たせば相続土地国庫帰属制度による国への引き渡しも選べます。ただし国庫帰属には却下・不承認要件があり、境界不明・荒れた森林などは対象外です(法務省公式サイトより)。
  • 相続放棄をしても、現に占有していた財産は保存義務が残る点に注意が必要です(民法940条)。放棄すれば即座に管理義務から解放されるわけではありません。
目次

農地・山林を相続すると分かったら、まず何をすべきか

実家の相続で家屋や宅地の名義変更に気を取られているうちに、離れた場所にある田畑や裏山の存在を後回しにしてしまう相続人は少なくありません。しかし農地・山林は、宅地とは異なる期限付きの義務がいくつも絡む資産です。相続が発生してから最初にすべきことを、時系列で整理します。

ステップ1:相続財産の全体像を確認する(〜3か月)

被相続人が亡くなったことを知った日から数週間のうちに、まず取り組みたいのが相続財産全体の洗い出しです。預貯金や実家の不動産だけでなく、遠方にある農地・山林、共有名義の山林の持分がないかを、固定資産税の納税通知書や名寄帳(市区町村役場で取得できる、その市区町村内の不動産をすべて記載した一覧)で確認します。農地・山林は納税通知書に記載が漏れていることもあるため、名寄帳での確認をおすすめします。

ステップ2:相続放棄するかどうかを判断する(3か月以内)

民法915条により、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選ぶ必要があります。農地・山林を含む相続財産全体が「負債超過」あるいは「維持コストばかりで活用の見込みがない」と判断される場合、この期間内に家庭裁判所へ相続放棄を申述するかどうかを検討します。熟慮期間は家庭裁判所への申立てにより伸長できる場合もあるため、財産の評価に時間がかかりそうな場合は早めに申立ての要否を確認してください。

ステップ3:相続する場合は、農地・山林特有の届出を済ませる

相続する(単純承認する)と決めた場合、家屋・宅地の相続登記の準備と並行して、農地・山林にはそれぞれ固有の届出義務があります。詳しくは次の章で説明しますが、この届出は相続登記や遺産分割協議がまだ終わっていなくても、期限内に済ませる必要がある点が見落とされやすいポイントです。

ステップ4:相続登記を行う(3年以内)

2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記をしないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になり得ます(法務省公式サイトより)。施行日より前に発生した相続で未登記のままの不動産も対象で、令和9年3月31日までの経過措置が設けられています。農地・山林は相続人が複数いる場合に登記が後回しにされがちな資産の代表格でもあるため、家屋の登記とあわせて手続きを進めることをおすすめします。

なぜ農地・山林は「相続したものの困る」資産になりやすいのか

実家の相続で農地・山林が問題になりやすいのは、宅地と違って「買い手が限られる」からです。農地をそのまま農地として売買・貸借する場合、買主・借主は農地法第3条に基づく農業委員会の許可を受ける必要があり、許可を得られるのは原則として耕作の事業に必要な農作業に常時従事する見込みがある人や法人に限られます。農業を営む予定のない個人がそのまま買うことはできない仕組みのため、買い手の母数自体が少なく、後継者不足の地域ではさらに絞られます。

山林の場合は権利移動そのものへの許可制度はありませんが、境界が明確でないこと、搬出路や造林の状態が悪いことが売却の壁になります。山の斜面は隣地との境界標が失われていることが多く、代替わりを重ねるうちに、どこまでが自分の土地か誰も分からなくなっているケースも珍しくありません。作業道が整備されていない、間伐や下刈りが長年されず荒れている山林は、木材としての価値も転用価値も見込みにくく、無償でも引き取り手がつかない「逆有償」の状態になりやすい点が、宅地の売却とは根本的に異なります。

さらに、相続した山林が「保安林」に指定されている場合は、森林法第34条第1項により立木の伐採に原則として都道府県知事の許可が必要になるなど、制約がもう一段上がります。保安林に該当するかどうかは、市町村や都道府県の林務担当窓口で森林簿・地域森林計画図を確認すれば分かります。相続した段階で「そもそも自由に処分できる土地かどうか」を早めに把握しておくと、後の判断がしやすくなります。

農地の相続で必要な届出【農業委員会】

農地を相続で取得した場合、農地法第3条の3により、農地の存する市町村の農業委員会への届出が必要です。期限は条文上「遅滞なく」と定められており、日数による明確な期限は示されていませんが、実務では相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)を一つの目安に、早めに済ませておくことが推奨されています。届出をしなかった場合、または虚偽の届出をした場合は、10万円以下の過料の対象になり得ます(農地法第69条・2026年9月時点・農地法条文より)。この届出は、農地をそのまま保有し続ける場合も、後で処分する場合も、相続した以上は必要な手続きです。

あわせて確認しておきたいのが、その農地が「農業振興地域内の農用地区域(通称:青地)」に指定されているかどうかです。青地に指定されている農地は、原則として農地以外への転用が認められません。区域外(白地)であれば、宅地などへの転用や売却の選択肢が広がります。区分は農業委員会や市区町村の農政担当窓口で確認できます。

山林の相続で必要な届出【市町村長・90日以内】

山林(森林の土地)を相続で取得した場合は、森林法第10条の7の2により、土地の存する市町村長へ、所有者となった日から90日以内に届け出る必要があります。相続の場合、遺産分割協議がまだ終わっていなくても、相続開始の日(被相続人の死亡日)から90日以内に、法定相続人の共有物として届出をする必要がある点は特に見落とされやすいポイントです。「遺産分割が終わってから届け出ればいい」という理解は誤りで、分割協議が長引きそうな場合ほど、先に共有名義での届出を済ませておく必要があります。届け出ない場合、または虚偽の届出をした場合は、こちらも10万円以下の過料の対象になり得ます(2026年9月時点・林野庁公式資料より)。

農地(農地法3条の3) 森林の土地(森林法10条の7の2)
届出先 農地の存する市町村の農業委員会 土地の存する市町村の長
期限 「遅滞なく」(明確な日数の定めはない) 所有者となった日から90日以内
遺産分割前の扱い 個別の運用に従う 未分割でも相続開始日から90日以内に法定相続人の共有物として届出が必要
違反時の過料 10万円以下(農地法第69条) 10万円以下(届出をしない、または虚偽の届出をした場合)

農地・山林の届出は、相続登記そのものとは別の手続きである点にも注意してください。相続登記が済んでいなくても、これらの届出は期限内に単独で行う必要があります。実家の敷地に隣接する形で農地や山林がある場合は、相続登記の準備と並行して進めておくと、後から慌てずに済みます。

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相続した農地・山林の処分方法【買取・仲介・有償引き取り 3択比較】

届出と登記の見通しがついたら、次は処分方法の検討です。当事務局は宅地建物取引業者ではないため、農地・山林そのものの売買を当事務局が直接買い取ることはできません。提携の宅地建物取引業者が買取・仲介を担当し、当事務局は窓口と実家の片付けを担当するという役割分担で対応しています。まずは代表的な3つの処分方法を比較します。

方法 内容 スピード 費用の目安 向いているケース
①仲介 不動産会社・農地バンク・森林組合を通じて買主を探す 遅い(買主が見つかるまで不確実) 成約時に仲介手数料 立地・条件が良く、時間に余裕がある場合
②買取 提携の宅地建物取引業者が自ら買主となる 速い(条件が合えば数週間〜) 無料(買取価格から相殺) 早く現金化したい、確実性を優先したい場合
③有償引き取り 処分費用を支払って専門業者に引き取ってもらう 比較的速い 数万円〜数十万円(土地の状態による) 買い手がつかない・とにかく手放したい土地

この3つのうち、どれを選ぶべきかは「手取りで比べる」ことで見えてきます。仲介で高値がつく可能性があっても、買主が見つかるまでの間、固定資産税と管理の手間がかかり続けます。逆に有償引き取りは費用こそかかりますが、時間と管理負担から早く解放されるという利点があります。実家の建物・宅地とあわせて片付けてから売るか、そのまま買取かを手取り額ベースで比較したい場合は、片付け不要で複数社に査定してもらえる空き家買取や、建物・宅地・農地山林をまとめて相談できる実家の売却の窓口を利用すると、判断材料がそろいやすくなります。

売却できない場合の次善策

①②のいずれでも買い手がつかない場合、③の有償引き取りに加えて、隣接地の所有者への譲渡(無償・低価格)、相続放棄、相続土地国庫帰属制度による国への引き渡しが選択肢になります。後の2つは、財産全体の受け継ぎ方そのものに関わるため、次の章で詳しく説明します。

実家の片付けと農地・山林の処分をあわせて進める

実務では、農地・山林だけを単独で処分するより、実家の建物・宅地の片付けと同時進行で進める家庭がほとんどです。仏壇や家財、農機具や納屋の中身など、片付けが必要な残置物が農地・山林の周辺にも残っているケースは多く見られます。こうした残置物の片付けを先に済ませておかないと、買取・仲介いずれの場合も査定や引き渡しがスムーズに進みません。片付けから進めたい場合は実家じまい代行、遺品の仕分け・供養まで含めて依頼したい場合は遺品整理が窓口になります。安心実家じまいでは、片付けの段階で提携の宅地建物取引業者と連携し、農地・山林を含めた敷地全体の査定・買取・仲介の相談を並行して進める体制を整えています。

相続放棄という選択肢と、放棄しても残る「保存義務」

農地・山林を含む相続財産全体が明らかに負担超過と判断できる場合、相続放棄も現実的な選択肢です。ただし、相続放棄には2つの注意点があります。

注意点1:農地・山林だけを選んで放棄することはできない

相続放棄は、預貯金・不動産を含む相続財産の全体を受け継がない手続きです。「実家の建物だけ相続して、農地・山林だけ放棄する」といった選択はできません。財産の一部にでも手をつけて処分・売却・消費すると、法定単純承認とみなされ、その後は相続放棄ができなくなる可能性があります(民法921条)。放棄を検討している段階では、農地・山林を含めて何も処分せず、着手前に司法書士や弁護士へ相談することをおすすめします。

注意点2:放棄しても、占有していた財産の保存義務は残る

相続放棄をした時点でその農地・山林を現に占有していた場合、相続人または家庭裁判所が選任する相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自己の財産と同一の注意をもって保存する義務が残ります(民法940条)。実家から離れて暮らしていて占有していなかった場合は、この保存義務は生じません。管理を完全に手放すには、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があり、費用と時間がかかります。「相続放棄をすれば、その日から一切関わらなくてよくなる」という理解は誤りである点に注意してください。

相続土地国庫帰属制度は使えるか

売却先が見つからず、有償引き取りの費用負担も避けたい場合、2023年4月27日に始まった「相続土地国庫帰属制度」が選択肢になります。相続や遺贈によって土地の所有権を取得した人が、一定の要件を満たす土地に限り、法務大臣(窓口は法務局)の承認を受けて国に引き渡せる制度です。建物がある土地、担保権が設定されている土地、境界が不明確な土地、一定の勾配・高さの崖がある土地、間伐や下刈りが行われず荒れた森林などは、却下・不承認の要件に該当し対象外です(2026年9月時点・法務省公式サイトより)。

承認申請には土地一筆あたり14,000円の審査手数料(収入印紙で納付、却下・不承認でも返還なし)がかかり、承認された場合は10年分の管理費用相当額として負担金を納付します。市街化区域外・農用地区域外の土地は原則20万円ですが、農用地区域内の農地や森林は面積に応じた算定式で決まります。相続放棄と異なり、こちらは相続した後に個別の土地だけを対象に検討できる制度である点が特徴です。

農地・山林の相談で特に関係が深い不承認要件

不承認要件のうち、農地・山林の相談で特に関係が深いのは、現に道路・水路・ため池として使われている土地が対象外になる要件と、「その他、管理に過分な費用・労力がかかる土地」に含まれる造林・間伐・保育が実施されていない森林です(2026年9月時点・法務省公式サイトより)。逆にいえば、境界が明確で、通常の管理が行き届いている農地・山林であれば、対象になる余地は十分あります。相続した段階で管理状況を写真などで記録しておくと、後で申請を検討する際の判断材料になります。要件の詳細な確認は法務局の相談窓口が確実です。

売却した場合の税金【国税庁タックスアンサーより】

買取・仲介いずれの方法でも売却できた場合、譲渡益が出れば税金がかかります。農地・山林の譲渡は宅地と同じく分離課税の譲渡所得として扱われるのが基本ですが、山林を伐採・譲渡する場合は「山林所得」という別区分になります。

区分 所有期間 税率
長期譲渡所得 5年超 所得税15%+住民税5%(別途、復興特別所得税として所得税額の2.1%)
短期譲渡所得 5年以下 所得税30%+住民税9%(別途、復興特別所得税として所得税額の2.1%)

相続で取得した農地・山林は、被相続人が取得した時点から所有期間を通算するため、先代から長く受け継いできた土地ほど長期譲渡所得に該当しやすくなります。取得費が分からない場合は、譲渡価額の5%を「概算取得費」として計算できます(2026年9月時点・国税庁タックスアンサー No.3202ほかより)。

評価額別の税額シミュレーション

実際にどの程度の税負担になるか、取得費が不明で概算取得費(譲渡価額の5%)を使うケースを例に試算します。譲渡費用(仲介手数料等)は譲渡価額の3%と仮定し、いずれも所有期間5年超の長期譲渡所得として計算しています。

譲渡価額 概算取得費(5%) 譲渡費用(3%) 課税譲渡所得 税額の目安(所得税15%+住民税5%)
100万円 5万円 3万円 92万円 約18万4,000円
300万円 15万円 9万円 276万円 約55万2,000円
800万円 40万円 24万円 736万円 約147万2,000円

(復興特別所得税は別途、所得税額の2.1%が加算されます)売却額が小さい農地・山林でも、取得費が不明なままだと課税譲渡所得の割合が大きくなり、税負担が重く感じられることがあります。相続時に取得費を証明できる資料(先代の購入時の契約書や領収書)が残っていないか、処分方法を決める前に確認しておく価値があります。

山林の立木を伐採・譲渡した場合は「山林所得」

山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡したりする所得は、土地の譲渡所得とは別の「山林所得」として扱われます。ただし、山林を取得してから5年以内に伐採・譲渡した場合は、山林所得ではなく事業所得または雑所得になります。山林所得の金額は、総収入金額から必要経費と特別控除額(最高50万円)を差し引いて求め、税額は他の所得と合算せず、課税山林所得金額を5分の1にしてから税率を掛け、その税額を5倍にする「5分5乗方式」で計算します(2026年9月時点・国税庁タックスアンサーより)。立木の売却額が大きい場合は、事前に税理士への試算依頼をおすすめします。

空き家の3,000万円特別控除は農地・山林単体には使えない

実家の建物に使える「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(国税庁タックスアンサー No.3306)による最高3,000万円の特別控除は、建物がある不動産、またはその家屋を取り壊した後の敷地が対象です。家屋が建っていない農地・山林を単体で売却する場合、この特例の対象にはなりません。建物・宅地と農地・山林を同時に売却する場合は、それぞれ別の計算になる点を確認したうえで進めてください。取得費の証明資料が見当たらない場合や、複数の土地をまとめて売却する場合の試算は、税理士への確認をおすすめします。

持ち続けた場合の維持コストと、処分費用を比べる

「処分するにも費用がかかるなら、相続したまま持っていたほうがいいのでは」と考える相続人も少なくありません。ただし、持ち続ける場合も固定資産税や管理の手間はゼロにはなりません。判断のためには、維持コストと処分費用を同じ土俵で比較する必要があります。

比較項目 10年間持ち続けた場合の目安 有償引き取りで処分した場合の目安
固定資産税 数万円〜数十万円(評価額・面積による) 処分後は発生しない
管理委託費(草刈り・巡回等) 年間数万円×10年=数十万円規模になることも 処分後は発生しない
一時的な費用 境界紛争や倒木対応が発生すれば別途負担 処分費用(数万円〜百万円規模、土地の状態による)
次の相続への影響 相続人がさらに増え、権利関係が複雑化するリスク 権利関係は処分時点で確定する

この比較はあくまで目安であり、実際の金額は土地の評価額・面積・地域によって大きく変わります。大切なのは、「今は動かない」という選択も、将来の相続人にコストと手間を先送りしているだけかもしれない、という視点を持つことです。次の相続でさらに相続人が枝分かれすれば、境界確認や意思決定はより難しくなります。維持を選ぶ場合も、いつまでにどう判断するかの目安を家族内で共有しておくことをおすすめします。

ケース別シミュレーション

相続人の状況によって、取るべき進め方は変わります。よくある4つのパターンで判断の流れを整理します。

ケース1:相続人が1人で、農地・山林の価値が分からない

まず名寄帳と登記簿で面積・地目・境界の見当をつけ、固定資産税評価額を確認します。次に、提携の宅地建物取引業者への査定と、農業委員会・森林組合への相談を並行して行い、買取・仲介いずれかの可能性を探ります。相談先が一つだけだと「売れない」という結論をそのまま受け入れてしまいがちですが、査定の窓口を複数持っておくと、条件次第で買い手が見つかる可能性を見落とさずに済みます。買い手が見込めない場合は、有償引き取りと相続土地国庫帰属制度の要件を法務局の窓口で確認し、費用を比較したうえで判断します。

ケース2:相続人が複数おり、農地・山林の扱いで意見が割れている

実家の建物は売却する方針で一致していても、付随する農地・山林は「将来使うかもしれない」「早く手放したい」で意見が分かれることがあります。この場合、まず全員で維持コスト(固定資産税・管理費)と処分費用(買取・仲介での想定額、有償引き取りの見積もり)を試算表として共有し、判断材料をそろえることが有効です。届出は遺産分割協議の結論を待たず、相続開始から90日以内に共有物として済ませておく必要がある点は、意見がまとまらない間も忘れずに対応してください。

ケース3:財産全体が負債超過で、相続放棄を検討している

農地・山林を含めて処分・使用は一切せず、熟慮期間(3か月)内に司法書士や弁護士へ相談することを最優先にします。すでに現地に立ち入って草刈りなどをしてしまった場合でも、財産の処分・消費に当たるかどうかは状況によるため、自己判断せず専門家に確認してください。放棄後も占有していた財産には保存義務が残る可能性がある点もあわせて確認しておきます。

ケース4:遠方に住んでいて、現地確認が難しい

現地に足を運べない場合でも、登記簿謄本・公図・固定資産税評価証明書はオンラインや郵送で取得できます。提携の宅地建物取引業者による訪問査定、実家の片付け業者による現況写真の報告を組み合わせれば、立ち会いなしでも処分方法の検討を進められます。境界確認や現地の管理状況の把握など、現地に行かないと分からない情報は、片付け業者の訪問時にあわせて確認してもらうと、往復の交通費や日程調整の負担を減らせます。実家全体の片付けから査定まで窓口を一本化しておくと、現地とのやり取りの回数を減らせます。

ケース5:実家が神奈川県にあり、建物・宅地とあわせて処分したい

実家の建物・宅地に加えて農地・山林が付随している場合、それぞれを別々の窓口に相談すると手間が二重にかかります。たとえば実家が神奈川県にある場合、神奈川県の空き家買取の窓口で、建物・宅地・農地山林を含めた敷地全体の査定を一括して相談できます。片付けが済んでいない場合は、片付けと査定・買取の相談を同時に進める方法が、結果として一番早く手取り額を把握できる進め方です。

不動産会社に相談する前に知っておきたいこと

相続した農地・山林の処分を考えたとき、多くの相続人がまず地元の不動産会社に相談します。ここで知っておきたいのは、不動産会社の得意分野は宅地や建物の仲介であり、農地・山林の取り扱いに慣れていない会社も少なくないということです。査定を依頼しても「うちでは難しい」と断られたり、専任媒介契約を結んだまま長期間動きがなかったりするケースは珍しくありません。

  • 専任媒介の期間中は他社に相談しづらくなる——一般媒介であれば複数の会社に同時に依頼できますが、専任媒介・専属専任媒介を結ぶと、契約期間中は他社への並行相談がしにくくなります。農地・山林のように売れるかどうか不確実な物件では、まず一般媒介で複数社に声をかけ、反応を見てから絞り込む進め方が現実的です。
  • 不動産会社だけが窓口ではない——農地なら農業委員会や農地中間管理機構(農地バンク)、山林なら森林組合も選択肢です。地域の実情に詳しい公的な窓口のほうが、買い手の情報を持っていることもあります。
  • 「売れない」という説明の根拠を聞く——査定の結果「売却は難しい」と言われた場合、その理由が境界にあるのか、立地にあるのか、需要そのものがないのかを具体的に聞いてください。理由によっては、有償引き取りや国庫帰属制度など、次に検討すべき方法が変わります。

実家全体の売却・査定を検討している場合は、農地・山林も含めた敷地全体の状況を整理したうえで、片付けと査定を同じ窓口で相談すると話がスムーズに進みます。

相続した農地・山林の実務チェックリスト

ここまでの内容を、相続が発生した際にそのまま使えるチェックリストにまとめました。印刷して、ご自身の状況に当てはめながらご確認ください。

確認項目 チェックの目安
財産全体の洗い出し 名寄帳・固定資産税納税通知書で農地・山林の存在と面積を確認したか
相続放棄の検討(3か月以内) 財産全体が負債超過でないか、熟慮期間内に判断したか
農地の届出(遅滞なく) 農業委員会への届出を済ませたか
山林の届出(90日以内) 市町村長への届出を、未分割でも共有物として済ませたか
相続登記(3年以内) 名義変更の準備(戸籍収集・遺産分割協議)を進めているか
境界の把握 隣接地との境界が図面・現況で特定できるか
農地区分の確認 農業振興地域の農用地区域内かどうかを確認したか
複数ルートでの見積もり 買取・仲介・有償引き取りの3択を、それぞれ見積もりで比較したか
税金の試算 売却時の譲渡所得税・山林所得の見込み額を確認したか
国庫帰属制度の該当性 却下・不承認要件に当てはまらないか、法務局の窓口で確認したか

よくある質問

農地・山林を相続したら、まず何から手をつければよいですか?
まず名寄帳や固定資産税の納税通知書で財産全体を洗い出し、相続放棄をするかどうかを3か月の熟慮期間内に判断します。相続する場合は、農地は農業委員会へ「遅滞なく」、山林は市町村長へ90日以内に届出をし、あわせて3年以内の相続登記の準備を進めます。届出と登記はどちらも期限を過ぎると10万円以下の過料の対象になり得ます。
農地・山林だけを相続放棄することはできますか?
できません。相続放棄は預貯金や不動産を含む相続財産の全体を受け継がない手続きであり、農地・山林だけを選んで放棄することはできません。財産の一部にでも手をつけて処分・売却すると、法定単純承認とみなされ、その後は相続放棄ができなくなる可能性があります。
相続放棄をすれば、農地・山林の管理義務からすぐに解放されますか?
そうとは限りません。放棄の時点でその農地・山林を現に占有していた場合は、相続人または家庭裁判所が選任する相続財産の清算人に引き渡すまでの間、保存義務が残ります(民法940条)。占有していなかった場合はこの義務は生じません。
当事務局は農地・山林を直接買い取ってくれますか?
当事務局は宅地建物取引業者ではないため、直接の買取・仲介は行っておりません。提携の宅地建物取引業者が買取・仲介を担当し、当事務局は窓口と実家の片付けを担当する形でご相談をお受けしています。
山林を相続した場合、届出をしないとどうなりますか?
森林法第10条の7の2により、所有者となった日から90日以内に市町村長への届出が必要です。届け出ない場合、または虚偽の届出をした場合は、10万円以下の過料の対象になり得ます。遺産分割協議が終わっていなくても、法定相続人の共有物として期限内に届出をする必要があります。
相続した農地・山林を売却した場合、空き家の3,000万円特別控除は使えますか?
使えません。この特例は被相続人居住用家屋、またはその家屋を取り壊した後の敷地が対象です。建物が建っていない農地・山林を単体で売却する場合は、この特例の対象になりません。
相続人が複数いて、農地・山林の扱いで意見が割れています。どう進めればよいですか?
まず全員で維持コスト(固定資産税・管理費)と処分費用(買取・仲介の想定額、有償引き取りの見積もり)を試算表として共有し、判断材料をそろえることが有効です。届出(農地は遅滞なく、山林は90日以内)は遺産分割協議の結論を待たず、法定相続人の共有物として期限内に済ませておく必要がある点は、意見がまとまらない間も対応してください。
実家の建物・宅地と、付随する農地・山林はまとめて相談できますか?
できます。片付けが必要な残置物の仕分けと、農地・山林を含めた敷地全体の査定・買取・仲介の相談を、窓口をひとつにして進める方法が現実的です。提携の宅地建物取引業者と連携し、片付けから処分の相談まで一括で対応しています。

まとめ

農地・山林の相続は、実家の建物・宅地とは異なる期限付きの義務がいくつも絡む、見落とされやすいテーマです。要点を振り返ります。

  • 相続放棄は3か月以内、農地の届出は遅滞なく、山林の届出は90日以内、相続登記は3年以内。いずれも期限を過ぎると過料の対象になり得る
  • 処分の判断軸は「片付けてから売るか、そのまま買取か、手取りで比べる」。買取・仲介・有償引き取りの3択を見積もりで比較する
  • 当事務局は宅地建物取引業者ではなく、提携の宅地建物取引業者が買取・仲介、当事務局は窓口と片付けを担当する
  • 相続放棄をしても、現に占有していた財産の保存義務(民法940条)は残る場合がある
  • 相続土地国庫帰属制度には却下・不承認要件があり、境界不明・荒れた森林などは対象外
  • 売却時は譲渡所得税・山林所得がかかる。空き家の3,000万円特別控除は建物がある不動産が対象で、農地・山林単体には使えない

農地・山林は、家屋の片付けとは別の専門知識が必要になる資産です。まずは財産全体を洗い出し、期限のある届出・登記を済ませたうえで、複数の処分方法を比較することから始めてください。実家全体の片付け・売却まで見据えている場合は実家の売却、片付け不要でまず査定額を知りたい場合は空き家買取をご覧ください。

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この記事を書いた人

安心実家じまい事務局です。実家の片付けや遺品整理、空き家になった家の処分について、はじめての方にも分かるように記事を書いています。提携している現場の業者や司法書士と一緒に、費用の相場・自治体のごみ出しルール・補助金といった、調べてもなかなか分かりにくいところを一つずつ確かめながらまとめています。「誰に頼めばいいか分からない」という段階のご相談も、LINEやお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
運営は株式会社Sora Capital(東京都渋谷区・安心実家じまい事務局)です。相続・登記・法務に関する記述は、提携の司法書士・行政書士 久留慎一郎が監修しています。税額の計算や申告の判断は、税理士にご確認ください。

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