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ハザードマップの説明義務と空き家・実家の売却|浸水想定区域の価格への影響と買取・仲介の比較

最終更新日:2026年10月18日|監修:司法書士・行政書士 久留慎一郎先生・安心実家じまい事務局

司法書士・行政書士 久留慎一郎
監修者

久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士

東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。

監修の範囲:相続・登記・法務に関する記述(司法書士・行政書士の業務範囲)。片付け・買取・費用相場などの記述は安心実家じまい事務局が編集しています。監修者プロフィール

税金について:税額の計算や特例を使えるかどうかの判断は税理士の業務で、監修の範囲に含みません。申告の前に、税理士または所轄の税務署でご確認ください。

■経歴

  • 1966年鹿児島県生まれ
  • 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
  • 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
  • 2013年司法書士試験合格
  • 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
  • 2017年司法書士法人コスモ退職
  • 2018年事務所開設
  • 2021年司法書士法人設立

■得意領域

  • 相続登記・相続手続き
  • 不動産の名義変更
  • 相続放棄
  • 簡易裁判所の訴訟代理

この記事の結論

  • 浸水想定区域内の実家・空き家でも、ハザードマップ上の位置を理由に売却自体ができなくなることはありません。2020年8月28日施行の宅建業法施行規則改正により、仲介業者は重要事項説明でハザードマップ上の所在地を必ず説明する義務がありますが、これは「売れない」ことを意味しません。
  • 公示地価を使った分析では、想定浸水深が1m上がるごとに価格は住宅地でおおむね1%前後、商業地でおおむね5%前後下がる傾向がありますが、過去に実際の浸水被害がない限り大きく下落することは多くありません。
  • 判断の軸は「片付けてから売るか、そのまま買取に出すか、手取りで比べる」の一点です。片付け費用・解体費用・仲介の時間コストまで含めて比較しないと、どちらが得か分かりません。
  • 片付けから売却まで窓口を分けずに進めたい場合は実家の売却(片付けから売却まで窓口ひとつ)でまとめて相談できます。
目次

ハザードマップの説明義務とは|宅建業法改正の一次情報

「ハザードマップで浸水想定区域に入っていると知って不安になった」というご相談を、実家の売却準備中によくいただきます。まず押さえておきたいのは、この説明義務が新しく設けられた制度であり、物件そのものに新たな欠陥が生じたわけではないという点です。

令和2年7月17日公布・同年8月28日施行の宅地建物取引業法施行規則の一部改正(令和2年内閣府令・国土交通省令第2号)により、宅地建物取引業者は重要事項説明の際、水防法に基づき作成された水害ハザードマップにおいて、取引対象の宅地または建物がどこに所在するかを、洪水・雨水出水(内水)・高潮のそれぞれについて提示し、説明しなければならないことになりました(宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3第3号ロ)。売買だけでなく賃貸も対象です。

説明の方法は、市町村が配布するハザードマップの印刷物、または市町村ホームページに掲載されたものを提示し、対象物件のおおむねの位置を示す形で行われます。マップの範囲外であっても「地図で示されている浸水区域以外の場所でも、雨の降り方や土地利用の変化によっては浸水することがある」という注意喚起を添えるのが実務上の標準的な説明とされています(一次情報:公益社団法人全日本不動産協会「水害ハザードマップに関する説明」)。

重要なのは、この説明義務が「所在地の提示」だけではなく、個別に判明している浸水リスク(過去の実際の浸水歴など)があれば、それも別途説明の対象になるという点です。全日本不動産協会の解説によれば、過去の浸水歴を知りながら説明しなかったことで売主・仲介業者の責任が認められた裁判例(京都地裁・東京地裁の判断)も存在します。実家を売る側としては、「ハザードマップに載っているから黙っておく」のではなく、むしろ早い段階で仲介会社や買取業者に実際の浸水歴の有無を正確に伝えたほうが、後のトラブルを避けられます。

浸水想定区域にある空き家・実家は売却できるか|価格への影響データ

「浸水想定区域に入っていると聞いただけで、売れなくなるのでは」と心配される方は多いですが、結論としては売却自体は可能です。ハザードマップの範囲指定は、あくまで将来起こりうる最大規模の降雨を想定した行政情報であり、現時点で建物に欠陥があることを示すものではありません。

ただし、価格への影響がゼロというわけでもありません。日本銀行の調査論文では、全国約3,500地点の公示地価データ(2001〜2020年)を用いたヘドニック・アプローチにより、想定浸水深が1m上昇するごとに、住宅地の価格はおおむね1.1%前後、商業地の価格はおおむね4.7%前後低くなる傾向が確認されています。商業地のほうが住宅地よりも価格への影響を受けやすい傾向があります(一次情報に近い学術データ:日本銀行ワーキングペーパー「水害リスクが地価に及ぼす影響」)。

一方で、実際に過去に浸水被害を受けた物件の場合は、この傾向よりも大きく、一般的に2〜3割程度価格が下がるケースがあるとされています。つまり「ハザードマップに入っている」こと自体の影響は限定的で、「実際に水に浸かった履歴があるかどうか」のほうが価格への影響が大きいというのが実務的な見方です。実家の売却を検討する際は、過去の水害履歴(火災保険の水災申請歴、床上・床下浸水の有無)を家族に確認しておくと、査定時の説明がスムーズになります。

こうした事情を踏まえると、売却の判断軸は「ハザードマップに入っているかどうか」ではなく、「片付けてから仲介で時間をかけて売るか、現状のまま買取で早期に現金化するか」を手取り金額で比較することに置くべきです。片付け費用や解体費用、仲介にかかる期間中の固定資産税・管理コストまで含めて比べないと、本当にどちらが得か判断できません。買取と仲介の違いをあらかじめ整理しておきたい場合は空き家買取のページで仕組みを確認できます。

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買取・仲介・有料引き取りの3択比較【一次データに基づく比較表】

浸水想定区域にある実家・空き家の売却方法は、大きく「仲介」「買取」「有料引き取り」の3つに分かれます。それぞれ特徴が異なるため、片付け状況や急ぎ度に合わせて選ぶ必要があります。

方法 価格の傾向 売却までの期間 ハザードマップ上の不利の影響 片付けの要否
仲介 相場に近い価格が期待できる 数ヵ月〜1年以上かかることもある 買主が水害リスクを理由に値下げ交渉してくる可能性あり 原則、片付け・清掃をしてから売り出すのが一般的
買取(宅建業者) 仲介の7〜8割程度が目安とされる 最短数日〜1ヵ月程度 買取業者が自らリスクを引き受けるため、値下げ要因にはなるが交渉の往復は少ない 残置物があっても買取可の業者が多い
有料引き取り(手放し型) 価格はつかず、逆に引き取り費用を払うケースが多い 比較的短期間 市場価値がほぼない物件(老朽化・再建築不可等)向けで、水害リスクは判断要素の一つにとどまる 残置物の扱いは契約内容による

当事務局は宅地建物取引業者ではないため、売買契約そのものは提携の宅建業者が買取・仲介を担います。安心実家じまいが担うのは、片付け・残置物の仕分け・ご供養までの窓口と、売却に進む場合の提携業者とのつなぎ役です。「片付けてから仲介で売る」「片付け不要で買取に出す」のどちらが手取りで得かは、物件ごとの片付け費用・解体の要否・固定資産税の負担期間によって変わるため、個別の見積もりで比較することをおすすめします。

片付けと売却をまとめて進める方法

浸水想定区域の実家でよくあるのが、「1階に水に浸かった古い家財や家具が残っていて、片付けが終わらないと査定にも出せない」というケースです。特に床下に湿気がこもっている場合、カビやシロアリの被害が進んでいることもあり、片付けと同時に建物の状態確認が必要になります。

こうした場合、片付けと売却を別々の窓口に依頼すると、スケジュールの調整や情報共有に手間がかかります。安心実家じまいでは、残置物の仕分け・搬出・ご供養までの実家じまい代行を行いながら、片付け後の状態をそのまま提携の宅建業者に引き継ぎ、買取・仲介の判断に進める流れを整えています。遺品や形見の品が残っている場合は遺品整理サービスと合わせて進めることも可能です。遠方にお住まいで立ち会いが難しい場合も、鍵をお預かりして作業と報告を進める方法があります。

自分の場合どうする?ケース別シミュレーション

浸水想定区域にある実家の状況は家庭によって異なります。よくある4つのパターンに分けて、判断の考え方を整理します。

ケースA:ハザードマップに入っているが、浸水被害の経験は一度もない

このケースでは、価格への影響は比較的限定的と考えられます。公示地価の分析では浸水深1段階ごとに3〜4%程度の影響が目安とされており、実際の被害歴がなければ、過度に値下げを受け入れる必要はありません。仲介で時間をかけて売る余裕があるなら、まず片付けを済ませて通常の仲介ルートで相場に近い価格を目指す選択肢が現実的です。

ケースB:過去に床下浸水した履歴があり、早く手放したい

実際の浸水履歴がある物件は、価格への影響が2〜3割程度と大きくなりやすい一方、買主から見ても判断がしやすいため、買取であれば比較的スムーズに現金化できます。片付けに時間をかけられない事情(相続税の申告期限が近い、固定資産税の負担を早く止めたいなど)がある場合は、買取を軸に検討するほうが手取りで見て合理的なことが多くあります。

ケースC:老朽化が進み、再建築不可などの制約もある

ハザードマップの問題に加えて再建築不可・接道義務の問題などが重なっている場合、仲介での売却は難易度が上がります。買取、場合によっては有料引き取りも含めて比較する必要があります。固定資産税の負担が重い場合は、放置すると管理不全空き家に指定されるリスクもあるため、早めに窓口に相談するほうが負担を抑えられます。

ケースD:遠方に住んでおり、片付けにも立ち会えない

遠方在住で現地に行く時間が取れない場合、片付けの進捗確認と売却の判断を同時並行で進める必要があります。写真での状況報告を受けながら、片付け完了後にそのまま査定・買取に進める窓口を一本化しておくと、何度も現地に足を運ぶ負担を減らせます。

管理不全空き家・特定空き家との関係|放置した場合のリスク

浸水想定区域にあるかどうかに関わらず、実家を空き家のまま放置すると別のリスクが生じます。令和5年12月13日に施行された改正空家等対策特別措置法により、「管理不全空家等」という区分が新設され、適切な管理がされていないと市町村から勧告を受けた場合、住宅用地の固定資産税の軽減措置(原則1/6または1/3)が解除され、固定資産税が実質的に最大6倍程度に増える可能性があります(一次情報:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」)。

浸水想定区域にある老朽空き家は、豪雨時の倒壊・流出リスクがあることから、自治体の点検・勧告の対象になりやすい傾向もあります。「ハザードマップに入っているから売れないかもしれない」と先延ばしにするより、早めに片付けと売却の判断を進めたほうが、固定資産税の増額リスクを避けられるケースが多いことも知っておいてください。

空き家の3,000万円特別控除と税金の注意点

実家を売却する際、税金面で押さえておきたいのが「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」です。国税庁の情報によれば、昭和56年5月31日以前に建築された家屋を相続・遺贈で取得し、相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかった場合、家屋または家屋付きの土地を売却した際に、譲渡所得から最大3,000万円(令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は2,000万円)を控除できる制度です。適用には相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することや、売却代金が1億円以下であることなどの要件があります(一次情報:国税庁タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」)。

浸水想定区域の物件であっても、この特例の適用要件自体にハザードマップに関する制限はありません。ただし、取得費が分からない古い実家の場合、取得費の計算方法によって譲渡所得額が変わり、結果的に控除後の税額にも影響します。取得費が不明な場合の取り扱いは国税庁タックスアンサーNo.3302「取得費が分からないとき」を確認し、必要であれば税理士・税務署に相談してください。また、相続した不動産は2024年4月1日から相続登記が義務化されており、売却前提であっても登記名義の変更が必要です。詳しくは法務局「相続登記の申請義務化について」をご確認ください。

浸水想定区域の実家を売る前のチェックリスト【印刷して使える】

売却の判断を進める前に、以下の項目を確認しておくと、査定・重要事項説明の場でのやり取りがスムーズになります。印刷してチェックしながら進めてください。

  • □ 自治体のハザードマップで、洪水・内水・高潮それぞれの想定区域に入っているか確認した
  • □ 過去に実際の浸水被害(床上・床下)があったかどうかを家族に確認した
  • □ 火災保険の水災補償を使った履歴があるか確認した
  • □ 建物の床下・1階部分にカビ・シロアリ被害がないか確認した(片付け時に業者へ相談)
  • □ 残置物・家財の片付けにかかる概算費用を把握した
  • □ 固定資産税の課税通知書で住宅用地特例の適用状況を確認した(管理不全空き家に指定されていないか)
  • □ 空き家の3,000万円特別控除の適用期限(相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日)までの残り時間を確認した
  • □ 相続登記が完了しているか確認した(未登記の場合は売却前に必要)
  • □ 仲介・買取・有料引き取りのそれぞれで、手取り金額の見積もりを取った

神奈川県・大阪府・静岡県など河川や沿岸部に近いエリアでは、浸水想定区域の対象が広く設定されている自治体もあります。たとえば神奈川県内の実家であれば神奈川県の空き家買取のページで、エリアに応じた買取の目安を確認できます。

よくある質問

浸水想定区域に入っていると、仲介での売却を断られることはありますか?
ハザードマップ上の位置そのものを理由に仲介を断られることは基本的にありません。重要事項説明での説明義務があるだけで、売買契約自体を禁止する制度ではないためです。ただし、過去の浸水履歴や老朽化の状況によっては、買主の見つかりやすさや価格に影響することがあります。
ハザードマップの説明を受けたら、必ず価格交渉に応じないといけませんか?
必須ではありません。ハザードマップ上の位置の説明は法律上の義務であり、価格交渉に応じるかどうかは売主の判断です。実際の浸水被害がない場合は、過度な値下げ要求に無理に応じる必要はなく、査定額の根拠を仲介会社に確認しながら判断することをおすすめします。
過去に浸水したことを黒塗りにして売ると、後で問題になりますか?
問題になる可能性が高いです。売主が浸水の事実を知りながら伝えなかった場合、契約不適合責任を問われることがあります。裁判例でも、過去の浸水歴を認識していたにもかかわらず説明しなかったことで、売主・仲介業者の責任が認められたケースがあります。査定・契約の前に、分かっている事実は正確に伝えることがトラブル防止につながります。
片付けが終わっていない実家でも、買取の相談はできますか?
可能です。買取業者の多くは残置物がある状態でも査定・買取に応じています。安心実家じまいでは、片付けと買取・仲介の相談を同じ窓口で進められるため、残置物の状況を踏まえた見積もりを合わせてご案内できます。
管理不全空き家に指定される前にできることはありますか?
あります。自治体から勧告を受ける前に、建物の管理状態を改善するか、売却・解体の方針を決めることが有効です。固定資産税が実質的に増額される前に、片付けと売却の判断を進めることをおすすめします。
読むより、聞いたほうが
早いこともあります

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この記事を書いた人

安心実家じまい事務局です。実家の片付けや遺品整理、空き家になった家の処分について、はじめての方にも分かるように記事を書いています。提携している現場の業者や司法書士と一緒に、費用の相場・自治体のごみ出しルール・補助金といった、調べてもなかなか分かりにくいところを一つずつ確かめながらまとめています。「誰に頼めばいいか分からない」という段階のご相談も、LINEやお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
運営は株式会社Sora Capital(東京都渋谷区・安心実家じまい事務局)です。相続・登記・法務に関する記述は、提携の司法書士・行政書士 久留慎一郎が監修しています。税額の計算や申告の判断は、税理士にご確認ください。

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