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認知症の親の家の管理|売れなくなる前にできる備え

最終更新日:2026年8月6日|監修:司法書士・行政書士 久留慎一郎先生・安心実家じまい事務局

司法書士・行政書士 久留慎一郎
監修者

久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士

東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。

■経歴

  • 1966年鹿児島県生まれ
  • 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
  • 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
  • 2013年司法書士試験合格
  • 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
  • 2017年司法書士法人コスモ退職
  • 2018年事務所開設
  • 2021年司法書士法人設立

■得意領域

  • 相続登記・相続手続き
  • 不動産の名義変更
  • 相続放棄
  • 簡易裁判所の訴訟代理

この記事の結論

  • 親が認知症になり判断能力が失われると、実家は本人の同意で売却・大規模修繕・賃貸ができなくなります。家族であっても代理権は自動的には発生しません。
  • 判断能力が残っているうちなら家族信託・任意後見契約で備えられますが、診断が出た後は法定後見(成年後見・保佐・補助)の申立てが基本の選択肢になります。
  • 成年後見人がついても実家を売れなくなるわけではなく、家庭裁判所の許可を得れば処分できます。ただし本人保護が最優先され、家族の都合だけでは進められません。
  • 施設入居や入院で実家が空き家になったら、電気・ガス・水道の見直し、郵便物の転送、定期的な見回りの3点を早めに行うことが、建物の傷みと特定空家等のリスクを抑える第一歩です。
目次

「うちの親、大丈夫かな」と思ったときに起きること

離れて暮らす親に会うたびに、同じ話を何度も繰り返す、通帳や印鑑をどこに置いたか思い出せない、郵便物が開封されないまま溜まっている——こうした変化に気づいたとき、多くの家族がまず心配するのは本人の健康です。しかし少し時間が経つと、次に直面するのが「実家をどう管理するか」という別の問題です。

認知症による判断能力の低下は、法律上は「意思能力・行為能力の喪失(または制限)」として扱われます。難しい言い方に聞こえますが、要するに「この人は、自分にとって何が得か損かを理解したうえで契約する力が弱くなっている」という状態です。この状態になると、実家の名義が誰であっても、本人名義のままでは不動産の売買契約、賃貸借契約、リフォームの請負契約、金融機関での大口の解約手続きなどが、本人の意思だけでは成立しなくなっていきます。子どもが代わりにサインをしても、本人の意思確認が取れない契約は不動産会社や金融機関の側で受け付けてもらえないのが実務上の現実です。

ここで多くの家族が誤解しやすいのが、「家族なら代わりに手続きできるはず」という思い込みです。日本の法律では、親子であっても法律行為を代理する権限は当然には発生しません。代理権を得るには、家族信託や任意後見契約のように本人が元気なうちに準備しておくか、判断能力が低下した後に家庭裁判所へ成年後見の申立てを行うか、いずれかの手続きを踏む必要があります。この記事では、どの段階で何をすべきかを、判断能力の状態別に整理して解説します。

今すぐ確認したい「兆候チェックリスト」

家の管理に影響が出始めるサインは、日常のちょっとした変化に表れます。次の項目のうち複数に心当たりがあれば、判断能力の状態を意識した準備を始めるタイミングです。

  • 公共料金や税金の支払いを忘れる、または二重に払っている形跡がある
  • 通帳・印鑑・権利証など重要書類の保管場所が分からなくなっている
  • 同じ物を何度も買ってきてしまう、訪問販売でよく分からない契約をしてしまった
  • 家の中の片付けや掃除が急に行き届かなくなった
  • 庭木の手入れや簡単な修繕など、以前はできていた家の管理ができなくなった
  • 「実家をどうするか」という話をすると、話が噛み合わない、または極端に嫌がる

これらは医学的な診断の代わりにはなりませんが、家の管理という視点では「準備を始める合図」として扱って差し支えありません。判断能力に関する法律上の手続きは、本人がまだ意思表示できるうちに動き出せるかどうかで、選べる選択肢の幅が大きく変わります。

家の管理で実際に困ること——口座凍結・修繕・空き家化

認知症の進行にともなって、実家の管理では次のような困りごとが段階的に表面化します。あらかじめ知っておくと、いざというときに慌てずに対応しやすくなります。

銀行口座が実質的に凍結される

金融機関は、窓口や電話でのやり取りから本人の判断能力に疑いを持った場合、大口の出金や解約などの手続きを制限することがあります。これは口座の名義人を保護するための対応ですが、家族から見ると「介護費用や家の修繕費に充てたいお金が、突然引き出せなくなった」という形で表れます。生活費程度の少額の出金には応じてもらえる場合もありますが、金額や条件は金融機関ごとに異なり、最終的な判断は各金融機関に委ねられています。実家の修繕費やリフォーム費用のようにまとまった金額が必要になる場面ほど、この制約の影響を受けやすくなります。

代理人サービスという予防策もある

金融機関の中には、本人の判断能力が低下する前にあらかじめ家族を「代理人」として届け出ておくことで、判断能力低下後も医療費・介護費など目的が明確な範囲での入出金に対応する仕組みを用意しているところがあります。全国銀行協会は認知判断能力が低下した高齢顧客との取引のあり方についての考え方を公表しており、これに沿って代理人サービスや予約型の代理出金の運用を進める金融機関が増えています(詳細・最新の内容は全国銀行協会の公式サイトでご確認ください)。ただし対応の有無や条件は金融機関ごとに異なり、多くの場合、本人がまだ窓口で意思表示できるうちにしか申し込めません。実家の維持費や介護費用の支払いに備える意味でも、判断能力が気になり始めた早い段階で、親のメインバンクに代理人サービスの有無を確認しておくと選択肢が広がります。

大規模修繕・リフォームの契約ができない

屋根の雨漏りや給排水管の劣化など、実家の維持に修繕が必要になっても、契約者である親本人の判断能力が問われる場面では、リフォーム会社との請負契約が成立しないことがあります。契約金額が大きくなるほど、契約当事者の意思確認は厳格に行われる傾向があります。結果として、修繕が必要な状態を知りながら手が付けられず、建物の劣化が進んでしまうケースは少なくありません。

売却・賃貸に進めない

施設入居や長期入院で実家が空き家になり、「維持費だけがかかるなら売ってしまいたい」と考える家族は多くいます。しかし、本人名義のままで判断能力が失われていると、不動産会社に仲介を依頼しても、最終的な売買契約は本人の意思確認が取れないため進められません。この段階で初めて「実家は名義人の同意なしには動かせない」という事実に直面し、そこから成年後見の申立てを始めることになると、手続きに数か月単位の時間がかかることもあります。

空き家のまま管理が滞る

売却も修繕もできないまま実家が空き家になると、通気が悪くなり湿気や害虫の被害が進みます。庭木が伸び放題になれば近隣とのトラブルにつながることもあり、管理が行き届かない状態が続くと、自治体から「特定空家等」に指定されるリスクも高まります。特定空家等に指定されたうえで自治体から改善の勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例(敷地面積200㎡以下の部分は課税標準が原則6分の1、200㎡を超える部分は原則3分の1に軽減される仕組み)の対象から除外され、税負担が増える可能性があります。空き家管理の具体的な進め方は実家の空き家管理はどうする?放置リスクと対策で詳しく解説しています。

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判断能力の状態別・使える制度の選び方【比較表】

実家の管理に関わる制度は複数あり、それぞれ「使えるタイミング」と「できること」が異なります。判断能力がまだ十分にある段階でしか結べない契約もあるため、まずは全体像を把握しておくことが重要です。

制度 使えるタイミング 不動産の売却 特徴
財産管理委任契約 判断能力があるうち 契約範囲による 本人と受任者の合意で開始。判断能力低下後の効力に疑義が生じやすく、任意後見とセットで結ぶのが一般的
家族信託 判断能力があるうち 信託契約の内容による 信託法に基づく私的契約。家庭裁判所の監督を受けず柔軟だが、契約後に判断能力が低下すると内容変更が難しい
任意後見制度 判断能力があるうち(契約)→低下後に効力発生 契約範囲・監督人の同意による 公正証書で契約し、判断能力低下後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任して効力が生じる
日常生活自立支援事業 判断能力が不十分になってからも利用可 不可(不動産処分の権限はない) 社会福祉協議会が実施。公共料金の支払いや通帳管理など日常的な金銭管理の援助が中心
法定後見(成年後見・保佐・補助) 判断能力が低下した後 可能(居住用不動産は家庭裁判所の許可が必要) 家庭裁判所が後見人等を選任。本人保護が最優先され、家族の都合だけでは処分を進められない

表からわかるとおり、家族信託や任意後見契約は「本人がまだ契約の意味を理解できる段階」でなければ結べません。認知症の診断が出てから検討を始めても、すでに契約行為に必要な意思能力がないと判断されれば、これらの制度は選べなくなります。逆に、判断能力がすでに低下してしまった後にできる主な選択肢は、法定後見の申立てと、日常的な金銭管理に限られる日常生活自立支援事業のいずれかになります。

財産管理委任契約——軽い段階での備え

本人の判断能力に問題がなくても、身体的な理由で銀行や役所に出向くのが難しい場合に使われる契約です。委任する事務の範囲を本人と受任者の間で自由に決められる柔軟さがある一方、判断能力が低下した後は本人の同意に基づく契約行為そのものに疑義が生じやすいため、単独ではなく任意後見契約とセットで結んでおく「移行型」が実務では一般的です。

家族信託——判断能力があるうちの備え

家族信託は、親(委託者)が元気なうちに、子など(受託者)へ実家を含む財産の管理・処分権限を託しておく私的な契約です。信託法に基づく仕組みで、家庭裁判所の監督を受けない分、日常的な管理や売却のタイミングを家族の判断で柔軟に決められる点が特徴です。ただし、いったん契約を結んだ後に判断能力が完全に失われると、信託の内容を変更することが難しくなるため、設計段階で将来のさまざまな事態を想定しておく必要があります。契約書の作成には司法書士など専門家への相談が欠かせません。

任意後見制度——契約は元気なうちに、効力は低下後に

本人が判断能力のあるうちに、将来の後見人となる人と支援してほしい内容を公正証書で契約しておく制度です。実際に判断能力が低下した段階で、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで契約の効力が生じます。任意後見監督人が家庭裁判所の監督下で後見人の事務をチェックする仕組みのため、家族信託に比べると自由度は下がりますが、家庭裁判所の関与によって本人保護の安心感を得やすい制度です。

日常生活自立支援事業——手軽だが権限は限定的

市区町村の社会福祉協議会が実施する事業で、判断能力が不十分な人を対象に、公共料金の支払いや通帳・印鑑の保管といった日常的な金銭管理を援助します。成年後見制度に比べて手続きが簡易で、費用も抑えやすい点がメリットですが、不動産の売却や大きな契約行為を代理する権限はありません。実家の管理という観点では、当面の生活費のやり繰りを支える補助的な制度と位置づけて考えるのが実態に近い使い方です。

手続きにかかる費用の目安

制度選びで悩む家族の多くが気にするのが費用です。制度ごとに費用の性質が異なり、単純に金額だけでは比較できませんが、目安を知っておくと検討の材料になります。以下はあくまで一般的な目安で、財産の内容や依頼する専門家、地域によって幅があります。正確な金額は司法書士や弁護士に個別に確認してください。

制度 初期費用の目安 継続費用
財産管理委任契約 公正証書にする場合、公証役場の手数料が数万円程度 基本的になし(受任者への報酬を定めた場合は別途)
家族信託 契約書作成の専門家報酬が数十万円程度から、不動産を信託財産に含める場合は登録免許税・登記費用が別途 基本的になし(受託者への報酬を定めない運用が多い)
任意後見制度 公正証書作成費用が数万円程度 効力発生後は任意後見監督人への報酬が家庭裁判所の判断で発生
日常生活自立支援事業 初回相談は無料の社会福祉協議会が多い 利用料は1回あたり数百円〜1千円台が目安(自治体・所得により減免あり)
法定後見(成年後見等) 収入印紙・登記印紙・郵便切手代などの実費に加え、医師の鑑定が必要な場合は鑑定費用が別途発生することがある 専門職後見人が選任された場合、家庭裁判所が定める報酬が本人の財産から継続的に発生

特に見落とされやすいのが、法定後見の「継続費用」です。専門職後見人が選任されると、本人が亡くなるまで、あるいは後見が終了するまでの間、財産管理の対価として報酬が発生し続けます。実家が空き家のまま何年も本人名義で残るケースでは、この継続費用が想定より大きな負担になることもあるため、申立て前に大まかな見通しを専門家に相談しておくことをおすすめします。

すでに判断能力が低下している場合——成年後見制度で実家を管理・売却する手順

判断能力がすでに低下し、家族信託や任意後見契約を結べる段階を過ぎてしまった場合、実家を法的に動かすための基本的な選択肢は法定後見(成年後見・保佐・補助)の申立てです。ここでは、実家の管理・売却を見据えた場合の流れと注意点を整理します。

後見・保佐・補助の3類型

法定後見は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれます。判断能力がほとんど失われている場合は「後見」、著しく不十分な場合は「保佐」、不十分ではあるものの一定程度残っている場合は「補助」が対象となり、それぞれ選任される後見人等に与えられる権限の範囲が異なります。どの類型に該当するかは、申立て時に家庭裁判所が本人の状態を踏まえて判断します。

申立てから後見開始までの流れ

  1. 申立ての準備——本人の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書、本人の診断書、財産目録、親族関係を示す書類などを準備します。
  2. 家庭裁判所への申立て——親族(配偶者、四親等内の親族など)や市区町村長などが申立人となり、申立てを行います。
  3. 調査・鑑定——必要に応じて家庭裁判所調査官による調査や、医師による鑑定が行われ、本人の判断能力の程度が確認されます。
  4. 後見人等の選任——家庭裁判所が、申立人が候補として挙げた親族、または弁護士・司法書士などの専門職の中から後見人等を選任します。財産の内容や親族間の状況によっては、家族ではなく専門職が選ばれることもあります。
  5. 後見の開始・財産管理の開始——選任後、後見人等は本人の財産目録を作成し、以後は本人に代わって財産管理や契約行為を行います。

この一連の手続きには相応の時間がかかるため、「実家を早く売りたい」という事情がある場合ほど、判断能力が低下する前の段階で備えておく重要性が増します。

居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要

成年後見人が選任された後も、実家を自由に売却できるわけではありません。本人が居住の用に供している不動産(自宅)を売却・賃貸・抵当権の設定などで処分する場合、成年後見人は家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法859条の3)。この許可なしに行われた処分は無効とされます。家庭裁判所は、本人の生活費や将来の介護費用に充てるためなど、本人にとって本当に必要な処分かどうかを審査するため、家族が「空き家になって管理が大変だから」という理由だけで売却を進めることは基本的にできません。空き家である実家を売却する場合でも、本人の入所している施設の費用や医療費の支払いに充てるといった、本人の利益に資する理由が求められます。

専門職後見人が選ばれた場合の報酬

財産の内容が複雑な場合や、親族間で意見の対立がある場合には、弁護士や司法書士といった専門職が後見人に選任されることがあります。この場合、後見人には家庭裁判所が本人の財産状況等を考慮して定める報酬が発生し、本人の財産から支払われます。専門職後見人が選ばれるかどうかは家庭裁判所の判断によるため、家族が候補者として立候補しても、必ずしも希望どおりに選任されるとは限りません。

施設入居・入院で実家が空き家になったら

親が特別養護老人ホームや介護老人保健施設などに入居した、あるいは長期入院となった場合、実家はそのまま空き家になります。この段階で家族が優先的に着手すべきことを整理します。

空き家になった直後にやることチェックリスト

  • 電気・ガス・水道の契約見直し——使用しない期間は基本料金だけがかかり続けます。ガスは閉栓、水道は凍結防止に必要な最小限に絞る、電気は防犯用の照明を残すなど、契約先に相談しながら調整します。
  • 郵便物の転送手続き——郵便局の転送サービスを利用し、税金の通知や重要書類が実家に溜まったままにならないようにします。
  • 定期的な見回り——最低でも月1回程度は室内の換気と外周の確認を行います。遠方で難しい場合は、空き家管理サービスや近隣の親族への依頼を検討します。
  • 近隣への一言——長期間留守にする旨を近隣に伝えておくと、郵便物の滞留や庭の荒れなど異変に気づいてもらいやすくなります。
  • 介護保険の要介護認定の確認——住宅改修や福祉用具のレンタルなど、介護保険サービスを利用する前提として、要介護認定の申請状況を確認しておきます。
  • 貴重品・重要書類の所在確認——通帳・印鑑・権利証・保険証券など、今後の手続きに必要になる書類の保管場所を、本人の記憶が残っているうちに把握しておきます。

この段階では、まだ家財の片付けを急ぐ必要はありません。むしろ、判断能力の状態に応じた財産管理の手続き(家族信託・任意後見・法定後見のいずれか)の見通しを立てることを優先し、片付けや売却はその後で進めるほうが、手戻りの少ない進め方になります。実家をどのタイミングで片付け始めるかの考え方は実家じまいはいつから始める?着手のタイミングで解説しています。

遠方に住んでいて見回りに行けない場合

子世代が遠方で働いている場合、月1回の見回りすら難しいという相談は珍しくありません。この場合の選択肢としては、近隣に住む親族への依頼のほか、民間の空き家管理サービスを利用する方法があります。空き家管理サービスでは、外観の確認や郵便物の整理、通気・通水といった基本的な巡回を月1回程度の頻度で代行してもらえるのが一般的です。実家じまい代行サービスの中には、片付けや将来の売却・解体の相談と合わせて、空き家管理まで窓口を一本化できるものもあります。何度も別々の業者に連絡する手間を減らしたい場合は、片付けから管理・処分まで一括で相談できる窓口を選ぶと、手続きの負担を抑えやすくなります。

火災保険・防犯対策も見落とさない

実家が空き家になると、火災保険の契約内容にも注意が必要です。多くの火災保険は「居住の用に供する住宅」を前提に契約されており、長期間空き家の状態が続くと、契約している保険会社によっては告知事項の変更や契約プランの見直しを求められることがあります。契約内容を確認しないまま放置し、万一の火災や水漏れの際に保険金が支払われない事態を避けるため、空き家になった時点で契約している保険会社または代理店に連絡し、現状を伝えておくことをおすすめします。あわせて、冬季は水道管の凍結防止のために元栓を閉めておく、台風シーズンの前には雨戸や窓の状態を確認しておくといった季節ごとの備えも、建物の傷みを防ぐうえで役立ちます。防犯面では、郵便受けに物が溜まったままにならないようにする、タイマー式の照明を設置するなど、空き家であることが外から分かりにくい工夫も有効です。

介護保険で使える住宅改修・福祉用具

親がまだ実家で暮らし続ける場合、転倒防止のための手すり設置や段差解消といった住宅改修は、介護保険の給付対象になります。全国共通の基準として支給限度基準額は20万円で、自己負担は所得に応じて1〜3割です。申請の代理は家族が行うことが広く認められており、まずは地域包括支援センターに相談し、要介護認定を受けたうえでケアマネジャーと相談しながら進めるのが基本的な流れです。ただし、この代理は介護保険上の手続きに限られ、不動産の売却や大きなリフォーム契約など法律行為全般を家族が自由に代行できるわけではない点は分けて理解しておく必要があります。

「判断能力がある・ない」は誰がどう判断するのか

ここまで「判断能力があるうち」「判断能力が低下した後」という言葉を繰り返し使ってきましたが、実際にその境目を誰がどう判断するのかは、家族にとって分かりにくい部分です。医師の診断名が付いた時点で自動的に契約行為ができなくなるわけではなく、あくまで個々の契約や手続きの場面ごとに、本人がその内容を理解し判断できる状態かどうかが確認されます。

家族信託・任意後見契約を結ぶ場面

これらの契約は公正証書で作成するのが一般的で、公証人が本人と面談し、契約の内容を理解したうえで意思表示をしているかを確認します。すでに認知症の診断が出ている場合でも、症状の程度によっては契約が可能と判断されることもありますが、判断が難しいケースでは公証人が医師の診断書の提出を求めることがあります。軽度認知障害(MCI)の段階や、認知症の診断直後で症状が軽い段階であれば、契約できる可能性が残っていることもあるため、「診断が出たからもう手遅れ」と決めつけず、早めに司法書士や公証役場に相談してみる価値があります。

法定後見の申立てで判断能力を確認する場面

法定後見の申立てでは、家庭裁判所に提出する診断書のほか、事案によっては医師による鑑定が行われ、本人の判断能力の程度が確認されます。診断や鑑定では、長谷川式簡易知能評価スケールのような一般的な認知機能検査の結果も参考資料の一つとして用いられることがあります。最終的にどの類型(後見・保佐・補助)に該当するかは、これらの資料を踏まえて家庭裁判所が総合的に判断します。家族の「もう何も分からないはず」という感覚だけで手続きが進むわけではなく、医学的な評価を経る点は知っておいてください。

ケース別シミュレーション:症状の進み方と「今できること」早見表

認知症の進行度合いは一人ひとり異なりますが、実家の管理という視点では、おおまかに次の3段階で「今できること」が変わっていきます。あくまで目安として活用してください。

段階 本人の様子の目安 今できること 注意点
軽度(気になり始めた段階) 物忘れが増えたが、日常会話や契約の意味は理解できる 家族信託・任意後見契約の検討、財産や不動産のリストアップ、通帳や権利証の保管場所の共有 この段階を逃すと契約行為に必要な意思能力が認められなくなる可能性がある
中等度(生活に支障が出始めた段階) 金銭管理や服薬管理が難しくなる、実家で一人暮らしが困難になる 介護保険の要介護認定申請、施設入居の検討、日常生活自立支援事業の利用相談 新規の契約行為(不動産売却・大規模リフォーム等)は本人の意思確認が難しくなり始める
重度(判断能力がほぼ失われた段階) 契約の内容を理解して意思表示することが困難 法定後見(成年後見等)の申立て、後見人選任後の財産管理・不動産処分の検討 家庭裁判所の許可なく居住用不動産は処分できない。手続きに時間がかかる前提で動く

この表が示すとおり、実家を「動かせる」選択肢の幅は、判断能力が保たれている早い段階ほど広く、進行するほど狭くなります。逆に言えば、まだ会話が成立し、契約の意味を理解できる段階であれば、家族信託や任意後見契約という比較的柔軟な備えを検討できる余地が残っています。「まだ大丈夫そうだから」と先送りにするほど、選べる制度は限られていきます。

家族会議で先に決めておきたい5項目

制度選びの前に、家族の間で話し合っておくべきことがあります。次の5項目は、実際に相談を受ける中でも後回しにされがちな一方、早く決めておくほど後の手続きがスムーズに進む項目です。話し合いの際のたたき台として活用してください。

  • 誰が窓口になるか——金融機関・行政・医療機関とのやり取りを主に担当する家族を一人決めておくと、情報が分散せず対応が早くなります。
  • 誰が後見人・受託者の候補になるか——家族信託の受託者や、成年後見の候補者になりうる人を、家族の状況(同居の有無、仕事の都合、居住地)を踏まえて話し合っておきます。
  • 実家を将来どうしたいか——売却する、賃貸に出す、誰かが住み継ぐ、当面は維持するなど、方向性の大枠だけでも共有しておくと、いざというときの判断が速くなります。
  • 費用は誰がどう負担するか——制度の利用費用や実家の維持費を、誰がどの割合で負担するかを事前にすり合わせておくと、後のきょうだい間のトラブルを防げます。
  • 情報共有の方法——通帳や重要書類の保管場所、かかりつけ医の連絡先などを、家族の誰か一人だけでなく複数人で共有できる状態にしておきます。

事務局に寄せられる相談で見えてきたパターン

安心実家じまいの窓口でご相談を受けていると、家の管理をめぐって似た経緯をたどるケースが繰り返し見られます。ご自身の状況と照らし合わせてみてください。

  • 親の施設入居が決まった直後は片付けや売却を急がず、まず判断能力の状態を確認し、必要であれば成年後見の申立てを先に進めたことで、後の売却手続きがスムーズになった
  • 認知症の診断が出る前に家族信託を検討していたが、話し合いに時間がかかっているうちに判断能力の低下が進み、結局は法定後見の申立てに切り替えざるを得なくなった
  • 実家が空き家のまま数年放置され、雨漏りやシロアリの被害が進行してから相談があり、修繕より解体を選ばざるを得ない状態になっていた
  • きょうだいの一人が「代わりに手続きすればよい」と思い込んだまま動き出し、金融機関や不動産会社の窓口で本人の意思確認が取れず手続きが止まってしまった
  • 親のメインバンクに代理人サービスの制度があることを知らないまま判断能力が低下し、生活費の引き出しのたびに窓口で説明を求められる状態が続いていた
  • 実家の火災保険が「居住用」の契約のままになっていたことに気づかず、空き家になってから数年経って初めて契約内容を見直した

共通しているのは、「判断能力が残っているうちに何をすべきか」という視点を持てたかどうかで、その後の選択肢の幅が大きく変わっている点です。認知症の診断そのものは医療機関の領域ですが、診断が出る前後で実家の管理方針をどう切り替えるかは、家族が早めに情報を持っておくことで対応の質が変わります。

相談できる窓口

実家の管理や制度選びに迷ったときは、一人や家族だけで抱え込まず、次のような窓口を活用してください。

窓口 相談できる内容
地域包括支援センター 介護保険の要介護認定、介護サービスの利用相談、日常生活の見守り体制づくり
市区町村の社会福祉協議会 日常生活自立支援事業の利用相談、成年後見制度の利用支援
家庭裁判所 成年後見・保佐・補助の申立て手続き全般
司法書士・弁護士 家族信託の契約設計、任意後見契約の公正証書作成、成年後見申立ての書類作成・代理
安心実家じまい 実家の片付け・空き家管理・売却や解体の手配。法律手続きは提携司法書士と連携

地域包括支援センターは、介護保険の申請だけでなく、家の管理を含めた生活全般の相談窓口として機能しています。「何から相談すればいいか分からない」という段階でも、まずは地域包括支援センターに連絡してみることをおすすめします。制度の選び方や契約書の作成といった法律面の判断が必要になった時点で、司法書士や弁護士へのご相談につなげるのが実務的な流れです。

地域包括支援センターは、原則として親が住んでいる市区町村ごとに設置されています。担当のセンターが分からない場合は、市区町村の高齢福祉担当窓口に問い合わせるか、市区町村のウェブサイトで「地域包括支援センター 一覧」を確認すると、住所地を管轄するセンターにたどり着けます。遠方に住んでいて直接足を運べない場合も、電話での相談を受け付けているセンターがほとんどです。まずは電話一本からでも、早めに連絡を取ってみることをおすすめします。

安心実家じまいのサービス案内

安心実家じまいは、実家の片付けから空き家管理、売却・解体の手配までを一つの窓口でお受けする全国対応のサービスです。判断能力の低下にともなう法律手続きそのものは提携司法書士が担当しますが、その手続きと並行して進める家の管理・片付けの実務は、安心実家じまいが窓口となってお手伝いします。

親がまだ元気なうちに実家の将来を話し合っておきたい場合は生前整理の進め方ガイドを、実家を片付けるタイミングに迷っている場合は実家じまいはいつから始める?着手のタイミングをあわせてご覧ください。空き家になった実家の管理でお困りの場合は実家の空き家管理はどうする?放置リスクと対策で、具体的な対策を紹介しています。

成年後見人が選任された後の実家の売却や解体、家族信託を組んだうえでの実家の活用など、法律手続きと実務が絡み合う場面では、提携司法書士と連携しながら進める体制を整えています。まずは実家の状況と、判断能力に関する現在の状態を、無理のない範囲でお聞かせください。全体のサービス内容は実家じまい代行パックをご覧ください。

よくある質問

認知症の親名義の家を、子どもが代わりに売ることはできますか?
本人の判断能力がすでに失われている場合、家族であっても代理で不動産を売却する権限は自動的には持てません。売却するには、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立て、選任された後見人が家庭裁判所の許可(居住用不動産の場合は特に)を得たうえで手続きを進める必要があります。判断能力がまだ残っている軽度の段階であれば、家族信託や任意後見契約を結んでおくことで、この手間を避けられる場合があります。
成年後見人がついたら、実家はもう売れなくなりますか?
売却できなくなるわけではありませんが、手続きが増えます。成年後見人が本人の居住用不動産を売却・賃貸・抵当権設定などで処分する場合、家庭裁判所の許可を得る必要があり(民法859条の3)、本人の生活や将来の介護費用にとって本当に必要な処分かどうかが審査されます。空き家になって久しい実家でも、本人の意向を離れて家族の都合だけで売却を決めることはできない点が、成年後見制度の特徴です。
家族信託と成年後見、どちらを選べばいいですか?
本人の判断能力がまだしっかりしている段階なら、家族信託や任意後見契約を検討する余地があります。家族信託は判断能力があるうちにしか契約を結べないため、認知症の診断が出てから検討しても間に合わないことが多い制度です。すでに判断能力が低下している場合は、法定後見(成年後見・保佐・補助)の申立てが基本的な選択肢になります。どちらが向いているかは財産の内容や家族構成によって異なるため、早い段階で司法書士など専門家に相談することをおすすめします。
施設入居で実家が空き家になったら、まず何をすればいいですか?
電気・ガス・水道の契約見直し、郵便物の転送手続き、通気・換気を含めた定期的な見回りの3点をできるだけ早く行うことをおすすめします。空き家の期間が長くなるほど建物の傷みが進み、放置すると自治体から特定空家等に指定されるリスクも高まります。片付けや解体、売却まで見据えている場合は、判断能力の状態に応じた財産管理の手続きと並行して進めると手戻りが少なくなります。
認知症の親の代わりに介護保険の住宅改修やサービスを申し込めますか?
介護保険の要介護認定の申請や住宅改修の手続きは、家族が代理で行うことが広く認められています。まずは地域包括支援センターに相談し、要介護認定を受けたうえで、ケアマネジャーと相談しながら手すりの設置や段差解消などの住宅改修を検討するのが一般的な流れです。ただし、この手続きは介護保険上の代理であり、不動産の売却や大規模なリフォーム契約など法律行為全般を家族が自由に代行できるわけではない点は分けて理解しておく必要があります。
認知症の診断が出たら、家族信託や任意後見契約はもう結べませんか?
診断名が付いた時点で自動的に契約できなくなるわけではありません。契約時に公証人が本人と面談し、契約の内容を理解して意思表示できる状態かどうかを個別に確認します。軽度認知障害(MCI)の段階や、診断直後で症状が軽い場合は契約できる可能性が残っていることもあります。判断が難しいと感じても、まずは司法書士や公証役場に相談してみることをおすすめします。

まとめ

認知症の親の家の管理は、気づいたときにはすでに選べる選択肢が狭まっていることが少なくありません。要点を振り返ります。

  • 判断能力が低下すると、実家は本人の同意だけでは売却も大規模修繕もできなくなる。家族だからといって代理権は自動的には発生しない
  • 判断能力がまだ残っている段階なら、家族信託・任意後見契約という柔軟な備えを検討できる
  • すでに判断能力が低下している場合は、法定後見(成年後見・保佐・補助)の申立てが基本の選択肢になる
  • 成年後見人がついても実家は売れる。ただし居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要で、本人保護が最優先される
  • 施設入居や入院で空き家になったら、電気・ガス・水道の見直し、郵便物の転送、定期的な見回りを早めに行う
  • 介護保険の要介護認定や住宅改修の申請は家族が代理できるが、不動産の売却などの法律行為とは別の手続きである
  • 迷ったら地域包括支援センター・社会福祉協議会・司法書士へ早めに相談する

実家の管理は、判断能力の状態によって「今できること」が刻々と変わっていくテーマです。まだ会話が成立し、契約の意味を理解できる段階であれば、家族信託や任意後見契約という選択肢が残っています。逆に、すでに判断能力が低下している場合は、法定後見の申立てを前提に、時間がかかることを見込んで早めに動き出すことが、実家を「動かせない」状態のまま長く放置しないための備えになります。片付けや空き家管理の具体的な進め方は実家の空き家管理はどうする?放置リスクと対策を、実家じまい全体のタイミングは実家じまいはいつから始める?着手のタイミングをご覧ください。

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この記事を書いた人

安心実家じまい事務局です。実家の片付けや遺品整理、空き家になった家の処分について、はじめての方にも分かるように記事を書いています。提携している現場の業者や司法書士と一緒に、費用の相場・自治体のごみ出しルール・補助金といった、調べてもなかなか分かりにくいところを一つずつ確かめながらまとめています。「誰に頼めばいいか分からない」という段階のご相談も、LINEやお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

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