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老人ホーム入居が決まったら実家はどうする|4つの選択肢

最終更新日:2026年8月6日|監修:司法書士・行政書士 久留慎一郎先生・安心実家じまい事務局

司法書士・行政書士 久留慎一郎
監修者

久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士

東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。

■経歴

  • 1966年鹿児島県生まれ
  • 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
  • 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
  • 2013年司法書士試験合格
  • 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
  • 2017年司法書士法人コスモ退職
  • 2018年事務所開設
  • 2021年司法書士法人設立

■得意領域

  • 相続登記・相続手続き
  • 不動産の名義変更
  • 相続放棄
  • 簡易裁判所の訴訟代理

この記事の結論

  • 実家の選択肢は主に賃貸に出す・売却する・空き家のまま維持する・解体して実家じまいするの4つです。実家に戻る可能性の有無で最初の分かれ道が決まります。
  • 親の判断能力が元気なうちなら家族信託や任意代理契約で備えられますが、認知症などで判断能力が低下した後に売却するには成年後見制度を使い、家庭裁判所の居住用不動産処分許可が必要になります。
  • 空き家のまま放置すると、令和5年12月13日施行の改正空家法により「管理不全空家等」に指定されるおそれがあり、固定資産税の軽減が外れたり、悪化すれば過料の対象になることがあります。
  • 老人ホーム入所後も要件を満たせば、相続税の小規模宅地等の特例(評価額80%減額)を使える可能性があります。ただし賃貸に出すと対象から外れることがあるため注意が必要です。
目次

老人ホームへの入居が決まったら、実家について最初にやること

入居の申し込みや契約、費用の準備で頭がいっぱいのタイミングでは、実家のことまで手が回らないというのが実情だと思います。それでも、入居が決まった直後にいくつか確認しておくと、後の選択肢が広がる項目があります。ここでは、入居準備と並行して進めやすい順に整理しました。印刷してチェックしながら進めていただける粒度にしています。

時期 やること ポイント
入居申し込み〜契約前 実家の名義(登記簿)を確認する 名義が親本人か、祖父母の代のままかで、後の手続きの難易度が変わります
入居申し込み〜契約前 本人の判断能力の状態を家族で共有する 元気なうちに家族信託・任意代理を検討できるかの分かれ目です
入居準備中 権利証・通帳・保険証券など重要書類の保管場所を確認する 実家を離れる前に、貴重品だけは先に運び出しておくと安心です
入居準備中 実家に戻る可能性があるかを家族で話し合う 「一度は施設に、体調次第では在宅復帰も」という場合は、賃貸より空き家のまま維持を選ぶ家庭もあります
入居後1〜3か月 固定資産税・火災保険・電気ガス水道の契約状況を確認する 空にする場合は最低限のプランへの見直しを検討します
入居後1〜3か月 4つの選択肢のうちどれを軸にするか、家族の方向性を仮決めする 仮決めでよいので、話し合いの土台を作っておきます
入居後半年〜 仏壇・位牌・農機具など、供養や特殊な処分が必要な物の扱いを決める 後回しにしがちですが、早いほど選択肢が多く残ります

特に重要なのは、判断能力の状態を早い段階で家族全員が共有しておくことです。入居時点ではまだ本人がしっかり意思表示できていても、数年のうちに認知症が進み、実家の売却や賃貸契約に本人の同意を得られなくなるケースは珍しくありません。元気なうちにできることと、判断能力が低下してからでは選べる手段が変わってくるという点は、この記事全体を通じて繰り返しお伝えしたい部分です。

実家をどうする?4つの選択肢を比較する

実家の使い道は、大きく分けると次の4つに整理できます。どれか一つに決めなければならないわけではなく、当面は空き家のまま維持しつつ、様子を見て売却や解体に切り替える家庭も多くあります。まずは全体像を比較表で押さえてください。

初期費用 月々のコスト 向いているケース
①賃貸に出す リフォームや残置物撤去の費用がかかる場合あり 管理会社への手数料(家賃の5%前後が目安)。空室期間は収入なし 実家に戻る可能性が残っている/立地が良く借り手がつきやすい
②売却する 測量・残置物撤去・登記費用など 売れるまでは維持費が発生 実家に戻る予定がない/老人ホームの入居費用に充てたい
③空き家のまま維持する 基本的になし(片付けが未着手なら別) 固定資産税・火災保険・光熱費の基本料金・庭木の手入れなど、年間十数万円規模になることが多い 結論を急がず判断能力の低下や体調の変化を見てから決めたい
④解体して実家じまい(更地化・活用) 解体費用(延床面積や構造により数十万〜数百万円) 更地後は住宅用地の特例が外れ、固定資産税が上がる場合がある 老朽化が進んでいる/売却や土地活用の前提を整えたい

①賃貸に出す

実家に戻る可能性を残しつつ、収入も得たい場合の選択肢です。持ち家を貸すことに不安がある方向けに、一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)の「マイホーム借上げ制度」のような仕組みもあります。JTIが家を借り上げて転貸する形のため、入居者が入れ替わっても契約者への賃料の支払いが安定しやすい点が特徴です。制度の詳細な条件は、JTIの公式サイトでご確認ください。相続税の計算上、賃貸に出した不動産は「貸家」「貸家建付地」として評価額が下がる仕組みがある一方、後述する小規模宅地等の特例の対象から外れてしまう場合がある点には注意が必要です。

②売却する

実家に戻る予定がなく、老人ホームの入居一時金や月額費用に充てたい場合に選ばれる方法です。ただし、名義が親本人のままで判断能力が低下していると、家族が代わりに売却することはできません。後述する成年後見制度や、判断能力が元気なうちに結んでおく家族信託・任意代理契約の有無によって、進め方が大きく変わります。名義が祖父母の代のままになっている場合は、売却の前に相続登記を済ませる必要があります。相続登記の期限や手続きは相続登記の義務化とは|期限・過料・実家を相続したらやることで詳しく解説しています。

③空き家のまま維持管理する

「体調次第では在宅に戻るかもしれない」「きょうだいの気持ちの整理がついていない」といった事情がある場合、当面は空き家のまま維持するという選択も現実的です。ただし、維持には固定資産税・火災保険料・電気ガス水道の基本料金・庭木の手入れなどが継続的にかかり、収入は生まれません。管理が行き届かないまま放置期間が延びると、次章で説明する空き家対策法上のリスクも高まります。維持を選ぶ場合も、「いつまで維持するか」の目安を家族で決めておくことをおすすめします。

④解体して実家じまいする(更地化・活用)

建物の老朽化が進んでいる、あるいは将来的な売却や土地活用の前提を早めに整えたい場合は、解体して更地にする選択肢もあります。解体には家財の搬出(遺品整理・生前整理)と建物の取り壊しの両方が必要で、まとめて依頼できる窓口を使うと段取りがシンプルになります。更地にすると、住宅が建っている土地に適用されていた固定資産税の軽減特例(住宅用地の特例)が外れ、税額が上がる場合がある点は、解体前に把握しておきたいポイントです。実家を片付けて手放すまでの全体的な進め方は実家じまい代行サービスのページでも紹介しています。

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親の判断能力によって使える手続きが変わる

実家をどうするか決めるうえで、意外と見落とされがちなのが「誰が実家の処分を決められるのか」という点です。実家の名義人が親本人である以上、賃貸契約や売買契約は原則として本人の意思に基づいて行う必要があります。判断能力の状態によって、使える手続きが変わってきます。

判断能力が元気なうちにできること:家族信託・任意代理

本人がまだしっかり意思表示できるうちであれば、次のような備え方があります。

  • 任意代理(委任契約)——本人が家族に代理権を与えておく契約です。判断能力があるうちは有効ですが、本人の判断能力が低下すると代理権の効力に疑義が生じる場合があり、単独では心もとない面もあります。
  • 任意後見契約——将来、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ後見人になる人と契約しておく制度です。判断能力の低下後は家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、契約の効力が発生します。
  • 家族信託——実家などの財産を、信頼できる家族に信託の形で託しておく仕組みです。判断能力が低下した後も、信託契約で定めた内容に沿って、受託者が実家の管理・売却を進められます。契約時点で本人の判断能力が必要なため、早めの準備が前提になります。

これらはいずれも、本人の判断能力があるうちにしか結べません。老人ホームへの入居を検討し始めた段階は、こうした備えを整える最後のタイミングになりやすいため、入居の相談と並行して検討する価値があります。

本人に実家の今後について切り出しにくいと感じるご家族も多いと思います。いきなり「売る・貸す」を決めるのではなく、「もし体調が変わったとき、実家をどうしたいか」という形で本人の気持ちを聞いておくだけでも、後の判断の助けになります。売却や解体までは決めきれなくても、「戻る気持ちはあるか」「形見として残したい物は何か」を確認しておくことが、家族信託や任意代理契約を結ぶかどうかの判断材料にもなります。

判断能力が低下した後:成年後見制度と居住用不動産処分許可

すでに認知症などで判断能力が著しく低下している場合、家族が代わりに実家を売却するには、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる必要があります。成年後見人が選任されたうえで、実家のように本人が生活の本拠としていた不動産(居住用不動産)を売却するには、家庭裁判所の許可(居住用不動産処分許可)を別途得なければなりません。許可を得ずに売却しても、その契約は無効になり得ます。

成年後見制度は、本人の財産を保護する目的の制度であるため、「実家を売って家族の生活費に充てたい」といった本人以外の利益を優先する理由では、許可が下りにくい場合があります。売却の必要性(老人ホームの費用に充てる必要があるかなど)を説明できる資料をそろえておくと、審理がスムーズに進みやすくなります。手続きには数か月単位の時間がかかることも多いため、老人ホームの入居費用を実家の売却資金でまかなう計画がある場合は、早めに司法書士や弁護士へ相談しておくことをおすすめします。

もう一点、見落とされやすいのが成年後見制度の継続的な負担です。成年後見人には家族がなれる場合もありますが、財産状況が複雑な実家がある場合は司法書士や弁護士が選任されることも多く、その場合は本人の財産から後見人報酬が継続的に支払われます。報酬額は家庭裁判所が財産額などをもとに個別に判断しますが、月数万円程度が目安とされ、本人が亡くなるまで続きます。実家の売却が終わればすぐに後見人を辞められるわけではない点も、あらかじめ知っておくと判断に迷いが少なくなります。

実家を空き家のまま放置するリスクと年間の維持費

賃貸にも売却にも踏み切れず、結論を先送りにしたまま空き家の期間が延びていくご家庭は少なくありません。維持すること自体は選択肢の一つですが、放置には次のようなリスクとコストが伴います。

年間でかかる維持費の目安

費目 年間の目安 備考
固定資産税・都市計画税 数万円〜十数万円程度 評価額や住宅用地の特例の有無で変動
火災保険(空き家用) 1万円台〜数万円程度 空き家は通常より保険料が高くなる場合があります
電気・水道の基本料金 数千円〜数万円程度 庭の水やりや通気のため契約を残すケースが多い
庭木の剪定・草刈り 数千円〜数万円(業者依頼の場合) 近隣トラブル防止のため定期的な手入れが必要
見回り・巡回サービス 月数千円程度(利用する場合) 遠方在住で自分で見回れない場合の選択肢

これらを合計すると、家の規模や地域にもよりますが、年間十数万円規模になることが珍しくありません。収入を生まないまま数年単位で続くと、思った以上に負担が積み重なります。

管理不全空家等・特定空家等に指定されるリスク

2023年(令和5年)12月13日に施行された改正空家等対策特別措置法により、放置すれば特定空家等になるおそれのある空き家を、市区町村が早い段階から「管理不全空家等」として指導・勧告できる仕組みが新たに設けられました(国土交通省・空家等対策の推進に関する特別措置法の改正情報より)。勧告を受けると、土地の固定資産税を軽減する住宅用地の特例の対象から外れ、税額が上がる場合があります。改善が見られないまま状態が悪化し、周囲に危険や衛生上の問題を及ぼす「特定空家等」に指定され、是正の命令に従わない場合は、50万円以下の過料の対象になり得ます。実家を空き家のまま維持すると決めた場合も、こうした制度の存在を踏まえ、最低限の管理(庭木の手入れ・郵便物の整理・定期的な通気や通水)は続けておく必要があります。

老朽化が進むほど選択肢が狭まる

空き家になった期間が長引くほど、湿気やシロアリの影響で建物の傷みが進みます。傷みが進んだ状態では、賃貸に出す際のリフォーム費用や、売却時の値引き交渉の材料にされやすくなります。結論を先送りにすること自体は責められるものではありませんが、時間の経過が味方をしてくれる場面は少ないという点は、意識しておいて損はありません。

老人ホームの費用相場と、実家をどう活かすかのシミュレーション

実家をどうするかを考えるうえで欠かせないのが、老人ホームにかかる費用との兼ね合いです。施設のタイプによって費用の水準は大きく異なります。

施設タイプ 入居一時金の目安 月額費用の目安 特徴
特別養護老人ホーム(特養) 原則不要 8万〜15万円程度 公的施設で費用は比較的抑えられるが、原則要介護3以上が対象で、地域によって入居待ちが発生しやすい
介護老人保健施設(老健) 原則不要 8万〜15万円程度 在宅復帰を目指すリハビリ中心の施設で、長期の入居を前提としない
介護付き有料老人ホーム 0円〜数百万円 15万〜35万円程度 介護サービスが施設内で完結し、手厚いケアを受けやすい
住宅型有料老人ホーム 0円〜数百万円 12万〜30万円程度 外部の介護サービスを組み合わせて利用する形が多い
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) 敷金数十万円程度 15万〜25万円程度 比較的自立度が高い方向け。介護が必要になれば外部サービスを利用

(施設のタイプ別に業界で広く示される費用水準をもとに作成。実際の金額は施設・地域・要介護度によって幅があるため、検討中の施設に直接ご確認ください)介護保険を利用する場合、施設サービス費の自己負担割合は所得に応じて1〜3割です。また、食費・居住費が高額になりやすい方向けに、所得に応じて負担を軽減する「特定入所者介護サービス費」(負担限度額認定)という制度もあります。対象になるかどうかは、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口で確認できます。あわせて、1か月の介護サービス利用者負担が一定額を超えた場合に払い戻される「高額介護サービス費」の制度もあり、所得区分に応じた上限額を超えた分が申請により戻ってきます。こうした軽減制度を組み合わせても費用の見通しが立たない場合に、実家の資産を活用する選択肢が現実味を帯びてきます。

ケース別シミュレーション:実家を売却して入居一時金に充てる場合

実家を売却し、その資金を老人ホームの入居一時金に充てるケースを想定した概算です。実際の税額・手取り額は個別の事情で変わるため、あくまで考え方の目安としてご覧ください。

実家の売却価格 諸費用の目安(仲介手数料・登記費用等) 手元に残る概算 充てられる施設の目安
800万円 約40万〜60万円 約740万〜760万円 入居一時金0円プランの施設なら月額費用の数年分に充当可能
1,500万円 約70万〜100万円 約1,400万〜1,430万円 入居一時金のある介護付き有料老人ホームも視野に入る水準
2,500万円 約100万〜150万円 約2,350万〜2,400万円 入居一時金と数年分の月額費用をまかなえる水準

諸費用には、仲介手数料(売買価格が400万円を超える場合は「売買価格×3%+6万円+消費税」が上限の目安)、登記費用、測量費用などが含まれます。相続登記が済んでいない実家では、この諸費用に登記費用が追加でかかる点も見込んでおいてください。また、実家の名義がまだ親本人のままで、判断能力が低下している場合は、前章で説明した成年後見制度による居住用不動産処分許可の手続き期間も、資金化までのスケジュールに織り込んでおく必要があります。老人ホームの契約時に入居一時金の支払期限が決まっている場合、実家の売却が間に合わないと、一時的に貯蓄や親族からの立て替えで費用を工面することになりかねません。

ケース別シミュレーション:実家を賃貸に出して月額費用の一部を補う場合

実家を手放さずに賃貸へ出し、その家賃収入で老人ホームの月額費用の一部を補うケースも想定してみます。

想定家賃(月額) 管理手数料の目安(家賃の5%前後) 手取り家賃の概算 補える範囲の目安
6万円 約3,000円 約5.7万円 特養・老健の月額費用のおよそ半分前後
9万円 約4,500円 約8.6万円 特養・老健の月額費用のほぼ全額に近い水準
12万円 約6,000円 約11.4万円 有料老人ホームの月額費用の3〜4割程度

賃貸には、リフォームや残置物撤去の初期費用、空室期間の収入ゼロというリスクも伴います。売却と賃貸のどちらが有利かは、実家の立地・築年数・借り手のつきやすさによって変わるため、不動産会社に両方のパターンで相談してみることをおすすめします。

相続税の「小規模宅地等の特例」は老人ホーム入所後も使えるか

実家をどうするか判断する際、見落とされやすいのが相続税への影響です。被相続人(親)が亡くなる直前に老人ホームなどに入所していた場合でも、一定の要件を満たせば、実家の敷地を「特定居住用宅地等」として、相続税の計算上の評価額を大きく減額できる「小規模宅地等の特例」の対象になります。

主な要件は次のとおりです。

  • 被相続人が、要介護認定または要支援認定を受けていたこと(認定を受けていた時期についても要件があります)
  • 入所先が、老人福祉法などの法令で定められた老人ホーム等の施設に該当すること
  • 入所後、その実家を事業の用や貸付けの用に供していないこと

この特例が適用されると、一定の面積(330平方メートルまで)を上限に、評価額を80%減額できるとされています。相続税額に直結する大きな特例のため、実家を賃貸に出すかどうかを検討する際は、この特例の対象から外れる可能性もあわせて考える必要があります。賃貸収入が得られるメリットと、相続税評価額が下がる特例を使えなくなるデメリットのどちらが大きいかは、実家の資産価値や相続人の状況によって変わります。個別の判断は税理士への確認をおすすめします(租税特別措置法上の取り扱いによる)。

実家を売るなら「親が売る」か「相続後に売る」かで税金の特例が変わる

実家を売却する場合、いつ売るかによって使える税金の特例が異なります。ここを整理せずに進めると、あとから「もっと早く(あるいは後で)売っておけば税負担が軽かった」という事態になりかねません。

親が存命のうちに売る場合:居住用財産の3,000万円特別控除

親が実家の名義人のまま、老人ホーム入居後に実家を売却する場合、譲渡所得(売却益)から最高3,000万円を控除できる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」の対象になり得ます。もともとは自分が住んでいた家を売る人向けの特例で、以前住んでいた家屋を「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に売れば対象になり、その間の使い方(賃貸に出していたかどうかなど)は問われません。なお、要介護認定・老人福祉法上の施設該当・貸付けに供していないことといった老人ホーム関連の要件は、この特例ではなく次章で説明する「相続後」の空き家特例に関わるものです。また、親子など特別の関係がある人への売却は対象外になる点にも注意してください。適用の可否は個別の事情によって細かく変わるため、実際に売却を検討する段階で税理士に確認することをおすすめします。

相続後に売る場合:小規模宅地等の特例と空き家の3,000万円控除

親が亡くなり、相続人が実家を相続してから売却する場合は、視点が二つに分かれます。相続税を計算する段階では、前章で説明した小規模宅地等の特例(評価額の減額)が関わります。相続後に実際に売却して譲渡所得税を計算する段階では、被相続人が一人暮らしをしていた家屋を相続人が売却した場合に使える「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除」が関わる場合があります。ただしこの空き家の特例は、老人ホーム入所によって空き家になっていたケースにも適用され得る一方、相続開始直前まで一定の要件(老人ホーム入所時点で要介護認定等を受けていたことなど)を満たしている必要があり、要件や期限は小規模宅地等の特例とは別建てで定められています。どちらの特例も要件が細かいため、実家を「誰が」「いつ」売る想定かを整理したうえで、早めに税理士に相談しておくことをおすすめします(各特例の適用は租税特別措置法上の取り扱いによります)。

実家の片付け・遺品整理はいつ、どこまで進めるべきか

実家をどの選択肢に進めるにしても、いずれは家財の片付けが必要になります。タイミングの考え方を、入所前・入所後に分けて整理します。

入所前:本人と一緒に仕分けられる最後の機会

老人ホームへの入居準備の段階で、本人が持っていきたい物、形見として残したい物を一緒に選べると、後悔の少ない片付けにつながります。本人の判断能力があるうちに進める片付けは、いわゆる生前整理にあたります。この段階で、通帳・権利証・保険証券などの重要書類の保管場所も確認しておくと、後の手続きがスムーズになります。

入所後:まとまった時間を取って進める片付け

入所が落ち着いてから、実家全体の片付けに着手するご家庭も多くあります。賃貸・売却・解体のどの選択肢を選ぶ場合も、家財を一度整理しておかないと次の段階に進めません。特に、仏壇や位牌がある場合は供養の手配、農機具や薬品類がある場合は処分ルートの確認など、地域や実家の状況によって必要な手順が変わります。

判断に迷う物は「一時保管」という選択肢もある

入所後の慌ただしい時期に、その場で処分するかどうかを判断しきれない物も出てきます。無理にその場で決めず、一定期間は保管してもらい、落ち着いてから判断する方法もあります。特に、相続放棄を検討している段階で家財の一部でも売却・処分してしまうと、法定単純承認とみなされ、後から相続放棄ができなくなることがあります。放棄を迷っている段階では、処分に着手する前に司法書士や弁護士へ相談しておくと安心です。

遠方に住みながら実家を管理・処分する方法

子世代が実家から離れて暮らしている場合、老人ホームへの送り迎えや面会だけでも負担が大きく、実家の管理まで手が回らないという声をよく聞きます。遠方から進める場合の現実的な段取りは、次のとおりです。

  1. 方針を先に決める——賃貸・売却・維持・解体のどれを軸にするか、大まかな方向性を家族で共有しておくと、個別の業者とのやり取りがスムーズになります。
  2. 写真で状況を共有する——帰省のタイミングで各部屋や収納の写真を撮っておくと、片付け業者や不動産会社への相談が、遠方からでも進めやすくなります。
  3. 鍵の管理方法を決める——立ち会いなしで作業を進められる窓口であれば、鍵を預けるだけで片付けから売却準備まで任せられます。
  4. 手続きの窓口を一本化する——片付け・法律手続き・売却・解体をそれぞれ別の業者に依頼すると、日程調整だけで疲弊してしまいます。まとめて相談できる窓口を持っておくと、判断の負担が減ります。

相続人が複数いる場合は、誰がどこまで動けるかを最初に整理しておくと、特定の家族に負担が偏るのを防げます。老人ホームの費用負担と実家の管理負担は、どちらも長期化しやすいテーマだからこそ、早い段階で役割分担を決めておくことが結果的に負担を軽くします。

納税通知書が届かず延滞してしまうケースに注意

実家を空き家のまま維持する場合、見落とされやすいのが固定資産税の納税通知書です。親が老人ホームに転居すると、住民票の異動や郵便物の転送設定によっては、納税通知書が実家に届いたまま気づかれず、延滞してしまうことがあります。対策として、実家がある市区町村役場に「納税管理人」を届け出る方法があります。子や親族を納税管理人に指定しておくと、以後の納税通知書がその人の住所に届くようになり、遠方に住んでいても納付漏れを防ぎやすくなります。手続きは実家所在地の市区町村の税務担当窓口で確認できます。

老人ホームを退去する可能性も考えておく

実家の使い道を決める際、意外と検討から抜け落ちやすいのが「本人が老人ホームを退去する可能性」です。体調が回復して在宅復帰を目指す場合や、費用の継続的な負担が難しくなった場合、施設側の事情で契約が終了する場合など、退去の理由はいくつか考えられます。選択肢ごとに、退去後の戻りやすさは次のように変わります。

  • 賃貸に出した場合——入居者との賃貸借契約の期間中は、原則として実家に戻れません。定期借家契約であれば契約終了時に戻れますが、普通借家契約の場合は借主の権利が強く、期間満了だけでは戻れないことがあります。
  • 売却した場合——所有権そのものを手放すため、戻る選択肢はなくなります。
  • 空き家のまま維持した場合——維持費はかかりますが、本人の状態が変わったときに戻れる余地を残せます。
  • 解体した場合——建物はなくなりますが、土地を保有していれば、あらためて住宅を建てる選択肢は残ります。

老人ホームの入居契約時には、退去事由(体調の変化、費用の未払い、施設側の運営終了など)についても、あわせて確認しておくことをおすすめします。特に住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、介護度が重くなった場合に住み替えを求められることがあり、実家を完全に手放してしまうと、次の住まい探しの選択肢が狭まる可能性があります。

ご相談でよく見られるパターン

安心実家じまいの窓口には、老人ホームへの入居に伴う実家のご相談が寄せられます。よく見られる状況を紹介します。ご自身の状況と照らし合わせて参考にしてください。

  • 入居先が決まったタイミングで慌てて実家の片付けに着手し、貴重品の確認や仏壇の供養先の手配が後手に回ってしまう
  • きょうだいの一人が「まだ戻る可能性があるから」と維持を主張し、もう一人は「費用がかさむから」と売却を主張して、方針が決まらないまま数年が経過する
  • 本人の判断能力が低下してから売却を検討し始め、成年後見制度の手続きに数か月かかって、老人ホームの費用の支払いに一時的に無理が生じる
  • 実家が賃貸に出しやすい立地だったにもかかわらず、売却しか選択肢を検討しておらず、あとから賃貸のほうが有利だったと気づく

これらに共通するのは、方針を決めるタイミングが遅れるほど、選べる手段が狭まっていくという点です。老人ホームへの入居準備で慌ただしい時期だからこそ、実家についても早い段階で大まかな方向性だけは共有しておくことが、後の負担を減らします。

安心実家じまいのサービス案内

安心実家じまいは、実家の片付けから家の売却・解体の手配までを一つの窓口でお受けする全国対応のサービスです。老人ホームへの入居準備で余裕がない時期でも、写真を送っていただくだけで概算のお見積もりをご案内できます。

片付けのみのご依頼は遺品整理サービス生前整理サービスで承ります。家の処分まで見据えている場合は、実家じまい代行パックが窓口を一本化できて割安です。

生前整理・遺品整理サービス 実家じまい代行パック
対象範囲 家財の片付けのみ 片付けに加え、家の売却・解体の手配まで
料金目安 間取り・物量に応じた個別見積もり 2DKまで29.8万円/3LDKまで49.8万円/4LDK以上69.8万円〜(税別)
向いているケース 実家に戻る可能性が残っており、当面は片付けだけ済ませたい場合 実家の賃貸・売却・解体まで見据えている場合

相続登記など法律手続きが絡む場合は提携司法書士と、成年後見制度の利用を検討している場合も専門家と連携しながら進める体制を整えています。仏壇や位牌の供養、農機具や特殊な物の処分先の確認まで、実家の状況に応じて対応します。料金の全体像は料金表を、ご相談から作業完了までの流れはご相談の流れをご覧ください。

よくある質問

老人ホームに入居した親の実家はどうすればいいですか?
選択肢は主に、賃貸に出す・売却する・空き家のまま維持管理する・解体して更地や別の形で活用する(実家じまい)の4つです。どれが向いているかは、実家に戻る可能性の有無、親の資産状況、名義や判断能力の状態によって変わります。まずは家族で方針を話し合い、判断能力が元気なうちに手続きの土台を整えておくことをおすすめします。
親が認知症で判断能力が低下している場合、実家の売却はどう進めますか?
親本人の判断能力が著しく低下している場合、家族が代わりに実家を売却するには、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる必要があります。実家のように本人が居住していた不動産(居住用不動産)を売却するには、成年後見人が就任したうえで家庭裁判所の許可(居住用不動産処分許可)を得ることが必要です。判断能力があるうちに家族信託や任意代理(任意後見)契約を結んでおくと、この手続きを避けられる場合があります。
実家を空き家のまま放置するとどんなリスクがありますか?
固定資産税や火災保険料、庭木の手入れなどの維持費が、収入なしに継続してかかります。2023年(令和5年)12月13日に施行された改正空家法により、放置すれば特定空家等になるおそれのある空き家は「管理不全空家等」として市区町村から指導・勧告を受けることがあり、勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例から外れて税額が上がる場合があります。改善されないまま特定空家等に指定され、是正命令に従わないと、50万円以下の過料の対象になり得ます。
老人ホーム入所後も相続税の小規模宅地等の特例は使えますか?
一定の要件を満たせば使えます。被相続人が要介護認定または要支援認定を受けていたこと、入所先が老人福祉法などで定める施設に該当すること、退去後の実家を事業用や貸付用に使っていないことなどが主な要件です。実家を賃貸に出してしまうと、この特例の対象から外れる可能性があるため、賃貸に出すかどうかは相続税への影響もあわせて税理士に確認しておくと安心です。
実家の片付けはいつから始めればいいですか?
老人ホームへの入居準備と並行して、必要な家具・衣類・思い出の品を先に運び出す形で少しずつ着手するご家庭が多いです。本人の判断能力があるうちに一緒に仕分けられると、後悔の少ない形見分けがしやすくなります。入居後にまとまった時間を取って実家全体を片付ける場合は、貴重品と権利証・通帳などの重要書類を最初に確保し、供養が必要な仏壇や位牌の扱いを早めに決めておくと、その後の賃貸・売却・解体のどの選択にもスムーズに進められます。
老人ホームを退去して実家に戻りたくなった場合はどうなりますか?
実家をどうしたかによって戻れるかどうかが変わります。売却した場合は所有権自体がなくなるため戻れません。賃貸に出した場合も、入居者との契約期間中は原則として戻れず、普通借家契約であれば期間満了だけでは戻れないこともあります。空き家のまま維持していた場合は、維持費はかかりますが戻れる余地を残せます。老人ホームの入居契約時に、体調の変化や費用面など、どのような場合に退去が想定されるかをあわせて確認しておくと、実家をどうするかの判断がしやすくなります。

まとめ

老人ホームへの入居は、本人にとっても家族にとっても大きな節目です。慌ただしい時期だからこそ、実家をどうするかは焦らず段階を踏んで決めていただければと思います。要点を振り返ります。

  • 実家の選択肢は賃貸・売却・空き家のまま維持・解体(実家じまい)の4つ。当面は維持しながら様子を見る進め方もある
  • 判断能力が元気なうちなら家族信託や任意代理契約で備えられる。低下後は成年後見制度と居住用不動産処分許可が必要になる
  • 空き家放置は令和5年12月改正の空家法で「管理不全空家等」に指定されるリスクがあり、固定資産税の軽減が外れることがある
  • 老人ホームの費用は施設タイプによって月額8万〜35万円程度と幅が大きい。実家の売却・賃貸で費用の一部をまかなう選択肢もある
  • 老人ホーム入所後も要件を満たせば小規模宅地等の特例(評価額80%減額)を使える可能性がある。賃貸に出すと対象から外れることがある点に注意
  • 片付けは本人の判断能力があるうちに一緒に進められると、後悔の少ない形見分けにつながる
  • 相続放棄を検討している場合は、家財を処分する前に司法書士や弁護士へ相談する

実家をどうするかの結論は、家族の状況や実家の資産価値によって一つひとつ異なります。まずは判断能力の状態と、実家に戻る可能性の有無を家族で確認するところから始めてみてください。片付けから売却・解体まで窓口を一本化したい場合は実家じまい代行サービスを、名義変更の要否は相続登記の義務化とはをあわせてご覧ください。

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この記事を書いた人

安心実家じまい事務局です。実家の片付けや遺品整理、空き家になった家の処分について、はじめての方にも分かるように記事を書いています。提携している現場の業者や司法書士と一緒に、費用の相場・自治体のごみ出しルール・補助金といった、調べてもなかなか分かりにくいところを一つずつ確かめながらまとめています。「誰に頼めばいいか分からない」という段階のご相談も、LINEやお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

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