
久留 慎一郎(ひさどめ しんいちろう)/司法書士・行政書士
東京大学法学部を卒業後、日本航空株式会社に26年間勤務(うち法務部に4年間所属)。在職中に司法書士試験に合格し、2018年に独立開業、2021年に司法書士法人を設立。相続登記や不動産の名義変更など、実家じまいに関わる法律手続きを担当する。安心実家じまいの提携司法書士・行政書士。
■経歴
- 1966年鹿児島県生まれ
- 1985年鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1989年東京大学法学部卒業/同年、日本航空株式会社入社(2002〜2006年は法務部所属)
- 2013年司法書士試験合格
- 2015年簡易裁判所訴訟代理等に関する法務大臣認定/同年、日本航空株式会社退職、司法書士法人コスモ入所
- 2017年司法書士法人コスモ退職
- 2018年事務所開設
- 2021年司法書士法人設立
■得意領域
- 相続登記・相続手続き
- 不動産の名義変更
- 相続放棄
- 簡易裁判所の訴訟代理
この記事の結論
- 代襲相続とは、本来相続人になるはずだった子や兄弟姉妹が死亡・相続欠格・廃除で相続権を失った場合に、その子(孫やひ孫、甥姪)が代わりに相続人となる制度です(民法887条2項・889条2項)。
- 相続放棄は代襲原因にあたりません。放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、その子が代わりに相続することはありません。
- 範囲は、子の代襲は孫・ひ孫と上限なく続く一方、兄弟姉妹の代襲は甥姪までで、甥姪の子が相続人になることはありません(民法887条3項は889条2項に準用されない)。
- 代襲相続人の相続分は、被代襲者が受け取るはずだった分をそのまま引き継ぎ、複数いる場合は人数で均等に分けます(民法901条)。疎遠な親族が相続人に加わりやすく、遺産分割協議が難航しやすい相続類型でもあります。
代襲相続とは何か
代襲相続とは、被相続人(亡くなった人)の子や兄弟姉妹のうち、本来なら相続人になるはずだった人が、相続の開始より前に死亡していた場合や、相続欠格・廃除によって相続権を失っていた場合に、その人の子が代わりに相続人の地位を引き継ぐ制度です。民法887条2項が子についての代襲相続を、889条2項が兄弟姉妹についての代襲相続を定めています。
典型的な例は、祖父が亡くなったとき、本来相続人になるはずだった父がすでに死亡している場合です。この場合、父の子である孫が、父に代わって祖父の相続人になります。相続の現場では「親より先に子が亡くなっていた」「兄弟の一人がすでに他界していた」という事情が重なって、思いがけず疎遠な親族と遺産分割協議をすることになる場面で登場する制度です。
代襲相続が問題になるのは、多くの場合、実家の名義変更や売却を進めようとして戸籍を集めた段階です。「相続人は自分たち兄弟だけのはず」と思っていたら、すでに亡くなっている叔父・叔母の子(つまり自分のいとこ)が相続人に加わっていた、というケースは珍しくありません。相続人の人数や関係が想定と異なると、遺産分割協議のやり直しや、想定より長い準備期間が必要になることもあるため、早い段階で正確な範囲を把握しておくことが大切です。
代襲相続が起こる3つの原因
代襲相続の原因は、次の3つに限られます。
- 死亡——本来の相続人が、被相続人よりも先に、または被相続人と同時に死亡していた場合。
- 相続欠格——民法891条が定める事由(被相続人や先順位の相続人を故意に死亡させた、詐欺・強迫で遺言を妨げた、遺言書を偽造・隠匿したなど)に該当し、法律上当然に相続権を失った場合。
- 廃除——被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行を理由に、被相続人の請求によって家庭裁判所が相続人の地位を奪う審判をした場合(民法892条)。
この3つの原因を整理すると、次のとおりです。
| 原因 | 代襲相続は発生するか | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 相続開始以前の死亡(同時死亡を含む) | 発生する | 民法887条2項 |
| 相続欠格(民法891条各号に該当) | 発生する | 民法887条2項 |
| 廃除(家庭裁判所の審判) | 発生する | 民法887条2項 |
| 相続放棄 | 発生しない | 民法939条 |
なお、廃除の対象になるのは「遺留分を有する推定相続人」に限られます(民法892条)。兄弟姉妹には遺留分がないため(民法1042条1項)、兄弟姉妹は廃除の対象にならず、兄弟姉妹の代襲相続が廃除を原因として発生することは実務上ありません。兄弟姉妹の代襲相続の原因は、実際には死亡と相続欠格の2つに限られます。
相続放棄は代襲原因にならない——もっとも誤解されやすい点
実務で最も多い誤解が、相続放棄と代襲相続の混同です。相続放棄をした人は、民法939条により「初めから相続人とならなかったもの」とみなされます。死亡・欠格・廃除のように相続権を失うのではなく、そもそも相続人だった事実自体がなかったものとして扱われるため、代襲相続の原因にはあたりません。
たとえば、被相続人の長男が多額の借金を理由に相続放棄をしても、長男の子(被相続人から見た孫)が長男の代わりに相続人になることはありません。この場合、相続人の範囲は「長男がそもそもいなかった」ものとして、次の順位(他の子や、子がいなければ直系尊属・兄弟姉妹)に移ります。負債を抱えた相続人が「自分は放棄するので、代わりに子に継がせたい」と考えても、法律上そのような選択はできない点に注意が必要です。
同時死亡の場合はどうなるか
交通事故や災害で、親と子がほぼ同時に亡くなり、どちらが先に死亡したか明らかにできないことがあります。この場合、民法32条の2により「同時に死亡したものと推定」されます。同時死亡と推定された者同士は、互いに相続人とはなりません(親が子を相続することも、子が親を相続することもない)。しかし、民法887条2項の「相続の開始以前に死亡したとき」には同時死亡の場合も含まれると解されており、実務上も代襲相続は発生します。祖父母・親・子の3世代が同じ事故に巻き込まれたようなケースでは、相続関係が複雑になりやすいため、早い段階で司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
相続欠格・廃除の中身をもう少し詳しく
相続欠格(民法891条)は、家庭裁判所の手続きを経ることなく、法律上当然に相続権を失う制度です。該当事由は5つあり、被相続人や先順位・同順位の相続人を故意に死亡させた場合、被相続人が殺害されたことを知りながら告発・告訴しなかった場合(是非の判断がつかない場合や、殺害者が自分の配偶者・直系血族である場合を除く)、詐欺や強迫によって被相続人の遺言を妨げたり、書かせたり、書き換えさせたりした場合、遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合が定められています。相続をめぐる悪質な行為への民事上のペナルティという性格を持つ制度です。
一方、廃除(民法892条)は、被相続人への虐待や重大な侮辱、著しい非行があった場合に、被相続人自身が家庭裁判所に請求して認めてもらう手続きです。生前に請求する方法のほか、遺言で廃除の意思を示し、遺言執行者が被相続人の死後に家庭裁判所へ請求する方法もあります(民法893条)。この場合、廃除の効力は被相続人の死亡時にさかのぼって生じます。廃除は被相続人がいつでも取り消しを家庭裁判所に請求できる点も(民法894条)、法律上当然に効力が生じる相続欠格との違いです。いずれの場合も、廃除・欠格となった本人が相続権を失うだけで、その子(孫や甥姪)が代襲相続人になる点は死亡の場合と変わりません。
代襲相続人の範囲はどこまでか
代襲相続人になれる範囲は、子の代襲相続と兄弟姉妹の代襲相続とで異なります。ここを正確に理解しているかどうかで、相続人の確定作業の見通しが大きく変わります。
子の代襲相続:孫・ひ孫と続く「再代襲」に上限はない
被相続人の子が相続開始前に死亡・欠格・廃除で相続権を失っていた場合、その子(被相続人から見た孫)が代襲相続人になります。さらに、その孫も同じ理由で相続権を失っていた場合は、孫の子(ひ孫)が代わりに相続人になります。これを「再代襲」と呼び、民法887条3項が定めています。再代襲には回数の上限がなく、理論上はひ孫も死亡していれば玄孫へと続きます。ただし、いずれの世代でも「被相続人の直系卑属であること」が条件で、たとえば亡くなった子の配偶者(婿や嫁)が代わりに相続人になることはありません。
兄弟姉妹の代襲相続:甥姪まで、再代襲はなし
被相続人に子も直系尊属(父母・祖父母など)もいない場合、兄弟姉妹が相続人になります(民法889条1項2号)。この兄弟姉妹が死亡・欠格・廃除で相続権を失っていた場合は、その子、つまり被相続人から見た甥や姪が代襲相続人になります(民法889条2項)。
ここで子の代襲相続と大きく異なるのが、兄弟姉妹の代襲相続には再代襲がないという点です。889条2項が準用しているのは887条2項のみで、再代襲を定めた887条3項は準用されていません。そのため、甥や姪も被相続人より前に死亡していた場合、その子(被相続人から見ると姪孫にあたる世代)が代わりに相続人になることはありません。この場合、その甥や姪の相続分は消滅し、他の相続人の取り分が増えることになります。
子の代襲と兄弟姉妹の代襲の違い一覧
両者の違いを整理すると、次のとおりです。相続人を確定させる際は、まずどちらのパターンにあたるかを見極めてください。
| 項目 | 子の代襲相続(孫・ひ孫) | 兄弟姉妹の代襲相続(甥姪) |
|---|---|---|
| 代襲相続人になる人 | 死亡等した子の子(孫) | 死亡等した兄弟姉妹の子(甥・姪) |
| 再代襲 | あり(孫が死亡していればひ孫、上限なし) | なし(甥姪の子は代襲相続人にならない) |
| 根拠条文 | 民法887条2項・3項 | 民法889条2項(887条2項のみ準用) |
| 遺留分 | あり | なし(兄弟姉妹に遺留分がないため) |
| 相続税の2割加算 | 対象外(被相続人の子の代襲相続の場合) | 対象になる |
養子の子は代襲相続人になるか
被相続人の養子は、実子と同じ扱いで相続人になります。養子が被相続人より先に死亡していた場合、養子の子が代襲相続人になるかどうかは、その子が生まれた時期によって結論が変わります。養子縁組が成立した「後」に生まれた子は、被相続人の直系卑属にあたるため代襲相続人になります。一方、養子縁組が成立する「前」に、養子が別の相手との間にすでにもうけていた子は、被相続人との間に法律上の血族関係が生じないため、直系卑属にあたらず代襲相続人にはなりません。養子縁組と出生の前後関係がからむケースは判断を誤りやすいため、戸籍を確認したうえで専門家に相談することをおすすめします。
相続人の順位と代襲相続の位置づけ
誰が相続人になるかは、民法が定める順位に従って決まります。代襲相続がどの場面で登場するかを、順位表で確認しておきます。
| 順位 | 相続人 | 代襲相続の有無 |
|---|---|---|
| 常に相続人 | 配偶者 | 代襲相続の対象にはならない(配偶者の地位は一身専属) |
| 第1順位 | 子 | あり(孫・ひ孫と再代襲が続く) |
| 第2順位 | 直系尊属(父母・祖父母) | なし(代襲相続ではなく、親等の近い者が優先するしくみ) |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 | あり(甥姪まで、再代襲はなし) |
直系尊属には代襲相続という制度そのものが存在しない点に注意してください。父母がすでに死亡していて祖父母が健在という場合、祖父母は「父母の代襲相続人」になるのではなく、もともと民法889条1項1号が「親等の異なる者の間では、その近い者を先にする」と定めていることにより、次に近い直系尊属として直接相続人になります。結果として祖父母が相続人になる点は代襲相続と似ていますが、法律構成としては別のしくみです。
お腹の中の子(胎児)が代襲相続人になる場合
被相続人が亡くなった時点で、代襲相続人になるはずの孫や甥姪の配偶者がまだ出産前で、お腹の中に子がいることもあります。民法886条は「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と定めており、この規定は代襲相続人の地位にもあてはまります。出生前であっても、その胎児は相続人としての立場を持つことになります(死産だった場合はこの規定は適用されません)。遺産分割協議は、実務上は胎児の出生を待ってから、法定代理人(親権者)が代わりに参加する形で進めるのが一般的です。
代襲相続人の法定相続分をケース別に計算する
代襲相続人の相続分は、民法901条によって「被代襲者(本来相続人になるはずだった人)が受け取るはずだった相続分をそのまま引き継ぐ」と定められています。代襲相続人が複数いる場合は、その相続分をさらに人数で均等に分けます。言葉だけでは分かりにくいため、具体的な家族構成をもとに計算してみましょう。
ケース1:子の代襲(配偶者なし・孫2人)
被相続人に子が2人(長男A・次男B)おり、配偶者はすでに死亡。長男Aが被相続人より先に死亡しており、Aには子(孫)が2人(C・D)いる場合です。
本来、子の相続分は均等(民法900条4号)なので、A・Bはそれぞれ2分の1ずつ受け取るはずでした。Aが死亡しているため、Aの2分の1をC・Dの2人で均等に分けます。
| 相続人 | 相続分 | 計算の考え方 |
|---|---|---|
| 次男B | 2分の1 | 本来の子の相続分をそのまま取得 |
| 孫C(代襲) | 4分の1 | 長男Aの相続分2分の1を、孫2人で折半 |
| 孫D(代襲) | 4分の1 | 同上 |
ケース2:配偶者+子の代襲(孫1人)
被相続人に配偶者と子が2人(長男A・長女B)おり、長男Aが先に死亡していて、Aに子(孫)が1人(C)いる場合です。
配偶者と子が相続人のときの相続分は、配偶者2分の1・子全体2分の1です(民法900条1号)。子全体の2分の1を、A・Bで均等に分けるはずでしたが、Aが死亡しているため、Aの取り分(4分の1)を孫Cが単独で引き継ぎます。
| 相続人 | 相続分 | 計算の考え方 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 2分の1 | 民法900条1号 |
| 長女B | 4分の1 | 子全体2分の1を長男A・長女Bで折半 |
| 孫C(代襲) | 4分の1 | 長男Aの相続分をそのまま単独で取得 |
ケース3:兄弟姉妹の代襲(配偶者あり・甥姪2人)
被相続人に子も直系尊属もおらず、配偶者と兄弟姉妹2人(兄E・妹F)がいる場合です。兄Eはすでに死亡しており、Eに子(甥姪)が2人(G・H)います。
配偶者と兄弟姉妹が相続人のときの相続分は、配偶者4分の3・兄弟姉妹全体4分の1です(民法900条3号)。兄弟姉妹全体の4分の1を兄E・妹Fで均等に分けるはずでしたが、Eが死亡しているため、Eの取り分(8分の1)を甥姪G・Hで折半します。
| 相続人 | 相続分 | 計算の考え方 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 4分の3 | 民法900条3号 |
| 妹F | 8分の1 | 兄弟姉妹全体4分の1を兄E・妹Fで折半 |
| 甥G(代襲) | 16分の1 | 兄Eの相続分8分の1を、甥姪2人で折半 |
| 姪H(代襲) | 16分の1 | 同上 |
ケース4:再代襲(孫も死亡していた場合)
ケース1の状況で、さらに孫Cも被相続人より先に死亡しており、Cに子(ひ孫)が1人(I)いた場合、Cが受け取るはずだった4分の1を、ひ孫Iが単独で引き継ぎます。子の代襲相続には回数の上限がないため、このように世代を重ねても計算の考え方は変わりません。一方、ケース3で甥Gがすでに死亡していて、Gに子がいたとしても、その子は代襲相続人にはなりません。兄弟姉妹の代襲相続には再代襲がないため、Gの取り分(16分の1)は消滅し、姪Hの取り分がそのまま残る(増えない点にも注意)か、他の相続人の相続分の計算に戻って再整理する必要があります。世代をまたぐ相続では、この「どこまで代襲するか」の見極めを誤ると、相続人の範囲そのものを取り違えることになります。
4つのケースの相続分早見表
ここまでの計算例をまとめて比較できるようにしました。自分のケースに近いパターンを探す際の目安にしてください。
| ケース | 家族構成 | 代襲相続人の取り分(合計) |
|---|---|---|
| ケース1 | 配偶者なし・子2人(うち1人死亡)・孫2人 | 孫2人で4分の1(各8分の1相当ではなく各4分の1÷2) |
| ケース2 | 配偶者あり・子2人(うち1人死亡)・孫1人 | 孫1人で4分の1 |
| ケース3 | 配偶者あり・兄弟姉妹2人(うち1人死亡)・甥姪2人 | 甥姪2人で8分の1(各16分の1) |
| ケース4 | ケース1で孫も死亡・ひ孫1人(再代襲) | ひ孫1人で4分の1 |
半血の兄弟姉妹の代襲相続人は相続分が半分になる
兄弟姉妹の相続分には、もうひとつ見落とされやすいルールがあります。民法900条4号ただし書は、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(いわゆる半血の兄弟姉妹、異父・異母のきょうだい)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹(全血の兄弟姉妹)の相続分の2分の1と定めています。この扱いは、半血の兄弟姉妹が死亡していて代襲相続が発生した場合の甥姪にもそのまま引き継がれます。たとえば被相続人に全血の弟(相続分の基準を1とする)と、半血の姉(相続分の基準を2分の1とする)がいて、半血の姉がすでに死亡し甥が1人いる場合、甥が代襲相続する相続分も、全血のきょうだいの半分という按分比率のまま計算されます。再婚や連れ子のある家族では、この半血・全血の区別が相続分の計算に直接影響するため、続柄の確認が重要になります。
遺産分割協議書での代襲相続人の記載例
代襲相続人が加わる遺産分割協議書では、続柄を明確にしておくと、後の相続登記や金融機関での手続きがスムーズになります。一般的には「相続人〇〇(被相続人の長男〇〇の代襲相続人、続柄:孫)」のように、誰の代襲相続人であるかを括弧書きで補足する書き方が使われます。押印は代襲相続人自身の実印で行い、印鑑証明書を添付する点は他の相続人と変わりません。文例の細部は不動産の内容や相続人の人数によって変わるため、実際の作成にあたっては司法書士に確認することをおすすめします。
代襲相続と混同しやすい制度との違い
数次相続との違い
代襲相続とよく混同される制度に「数次相続(相次相続)」があります。両者の違いは、相続人が死亡した「タイミング」にあります。代襲相続は、相続人になるはずだった人が被相続人よりも「前」に(あるいは同時に)死亡していた場合の制度です。これに対して数次相続は、被相続人が亡くなった「後」、遺産分割が済まないうちに、その相続人自身が死亡してしまった場合を指します。この場合、死亡した相続人の相続分は、その人自身の相続人(配偶者や子)に、通常の相続のルールに従って引き継がれます。代襲相続のように「被代襲者の相続分をそのまま均等に分ける」という特別な計算ルールは適用されません。
| 項目 | 代襲相続 | 数次相続 |
|---|---|---|
| 相続人が死亡したタイミング | 被相続人より前(または同時) | 被相続人より後(遺産分割前) |
| 適用される相続分のルール | 被代襲者の相続分をそのまま代襲相続人で均等に分ける(民法901条) | 死亡した相続人の相続分を、その相続人自身の相続人が通常のルールで相続する |
| 必要になる遺産分割協議 | 1回(代襲相続人を含めた協議) | 実質的に2つの相続が重なるため、関係者・戸籍がさらに増えることが多い |
実家の相続では、「祖父の相続手続きが済まないうちに、相続人だった父も亡くなってしまった」というケースが数次相続にあたります。代襲相続と数次相続のどちらにあたるかで、必要な戸籍の範囲や相続分の計算方法が変わるため、死亡した日付の前後関係を最初に整理しておくことが実務上の出発点になります。
遺言と代襲相続の関係——「相続させる」旨の遺言で受遺者が先に死亡した場合
「長男に自宅を相続させる」といった遺言を書いていても、その長男が遺言者よりも先に死亡してしまうことがあります。このとき、長男の子(孫)が代わりにその財産を受け取れるかどうかは、法定相続とは別に注意が必要な論点です。最高裁判所の判例では、特定の相続人に特定の財産を「相続させる」旨の遺言は、その対象者(受益相続人)が遺言者より先に死亡した場合、遺言に別段の定め(受益相続人の代わりに孫へ相続させる旨の記載など)がない限り、その部分の遺言は効力を生じないとされています。つまり、遺言があるからといって、対象者の代襲相続人へ自動的に権利が引き継がれるわけではないのです。
この結果を避けたい場合は、遺言を作成する段階で「長男が遺言者より先に死亡した場合は、長男の子に相続させる」といった予備的な条項(補充遺贈条項と呼ばれることもあります)をあらかじめ盛り込んでおく方法があります。実家の相続を見据えて遺言を準備している方は、この予備的条項の要否も含めて、遺言作成時に司法書士へ相談しておくと、将来の代襲相続の場面で意図しない結果になることを防げます。
代襲相続が起きたときの相続手続きと必要書類
代襲相続が絡む相続は、通常の相続よりも戸籍の収集範囲が広がります。実家の名義変更や売却・解体を控えている場合は、この点を早めに把握しておくと手続きの見通しが立てやすくなります。
戸籍収集の範囲が広がる理由
通常の相続では、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍と、相続人全員の現在の戸籍を集めれば足ります。代襲相続が発生している場合は、これに加えて、被代襲者(死亡した子や兄弟姉妹)の出生から死亡までの連続した戸籍も必要になります。被代襲者に他に子がいないかを確認し、代襲相続人を漏れなく確定させるためです。兄弟姉妹の代襲相続では、被相続人の父母それぞれについて出生から死亡までの戸籍もたどる必要があり、収集する戸籍の通数が通常の相続より大きく増える傾向があります。戸籍の集め方や広域交付制度の使い方は相続に必要な戸籍の集め方|広域交付・法定相続情報一覧図もで詳しく解説しています。
実務チェックリスト:代襲相続が疑われるときに確認すること
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 被代襲者の戸籍 | 死亡した子・兄弟姉妹の出生から死亡までの戸籍を取得し、他に子がいないか確認する |
| 代襲相続人の現在の戸籍・住民票 | 孫や甥姪の本籍地・住所を特定し、連絡先を把握する |
| 未成年の代襲相続人がいないか | いる場合、遺産分割協議には親権者の代理か特別代理人の選任が必要になることがある |
| 養子縁組と出生の前後関係 | 養子の子が代襲相続人にあたるかどうかを戸籍上の日付で確認する |
| 代襲相続人が複数いる場合の按分 | 被代襲者の相続分を代襲相続人の人数で均等に分けて確認する |
| 疎遠な代襲相続人への連絡方法 | 面識がない場合は手紙や専門家経由での連絡を検討する |
未成年の代襲相続人がいる場合の注意
代襲相続人が未成年で、その親権者も同じ相続における相続人の一人である場合、親権者と子の利益が対立する「利益相反行為」にあたり、親権者は子を代理して遺産分割協議に参加できません。この場合、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります(民法826条)。また、未成年の代襲相続人が複数(きょうだい)いて、同じ親権者がまとめて代理しようとする場合も、子ども同士の利益が対立するとして、少なくとも1人を除く子について特別代理人が必要になることがあります。手続きに時間がかかるため、該当しそうな場合は早めに司法書士へ相談してください。
遺産分割協議書への記載と実印
代襲相続人も、他の相続人と同じく遺産分割協議書に実印で押印し、印鑑証明書を添付する必要があります。協議書には「被相続人〇〇の代襲相続人として」といった続柄の記載を加えておくと、後の相続登記の審査でも関係性が伝わりやすくなります。実家の名義変更(相続登記)は2024年4月から義務化されており、代襲相続のケースでも申請期限の考え方は変わりません。期限や必要書類の全体像は相続登記の義務化とは|期限・過料・実家を相続したらやることで詳しく解説しています。
代襲相続人が海外に住んでいる場合
代襲相続人が結婚や仕事の都合で海外に生活の拠点を移している場合、日本の印鑑登録制度が使えず、実印や印鑑証明書を用意できないことがあります。この場合の一般的な対応は、現地の日本大使館・総領事館で「署名証明(サイン証明)」の発給を受け、遺産分割協議書に署名したうえで、その署名が本人のものであることを証明する書面を添付する方法です。あわせて、住民票に代わるものとして「在留証明」の発給を受けるのが通例です。手続きには時間がかかることが多いため、代襲相続人の中に海外在住者がいることが分かった時点で、早めに大使館・総領事館の手続きに着手しておくと、全体のスケジュールが遅れにくくなります。
代襲相続で特に注意したい点
甥姪(兄弟姉妹の代襲相続人)には遺留分がない
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分のことです。民法1042条は「兄弟姉妹以外の相続人は遺留分を有する」と定めており、裏を返せば兄弟姉妹には遺留分がありません。この扱いは、兄弟姉妹の代襲相続人である甥姪にも同じく及びます。つまり、被相続人が遺言で「全財産を特定の人に譲る」と書き残していた場合、子や配偶者であれば遺留分侵害額請求ができますが、甥姪にはその請求権がありません。遺言を作成する側にとっては、兄弟姉妹や甥姪しか相続人がいない場合、遺留分を気にせず財産の配分を決められるという実務上の意味を持ちます。
一方、子の代襲相続人(孫・ひ孫)には遺留分があります。計算例で確認します。被相続人に配偶者と子2人(長男A・次男B)がおり、長男Aがすでに死亡していて孫C・Dが代襲相続人という家族構成で、被相続人が遺言で全財産を次男Bに譲ると書き残していたとします。この場合の遺留分の合計は、民法1042条1項2号により遺産全体の2分の1です。孫C・Dの法定相続分は、ケース2と同じ考え方で計算すると、それぞれ8分の1(配偶者2分の1・子全体2分の1のうち、亡Aの取り分4分の1を孫2人で折半)にあたるため、遺留分としてそれぞれ16分の1(法定相続分8分の1×遺留分割合2分の1)を請求できる計算になります。実際の請求にあたっては、生前贈与の有無や評価額によって金額が変わるため、個別の試算は司法書士や弁護士に確認してください。
特別受益・寄与分と代襲相続人
被代襲者(死亡した子や兄弟姉妹)が生前に被相続人から特別な援助を受けていた場合(特別受益)や、被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をしていた場合(寄与分)は、代襲相続人がその主張を引き継げるかという論点もあります。実務上は、被代襲者が受けた特別受益は代襲相続人の相続分の計算にも影響し得ると考えられていますが、寄与分については代襲相続人自身が被相続人に貢献した場合に限られるなど、事案によって判断が分かれる部分です。特別受益や寄与分の主張がからむ遺産分割は調整が難しくなりやすいため、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
代襲相続人の相続税、2割加算はどうなるか
相続税には、財産を取得した人が被相続人の配偶者・父母・子以外である場合、税額に20%を加算する制度があります。ここで代襲相続に特有の扱いがあります。国税庁のタックスアンサーによれば、被相続人の子がすでに死亡していたために孫が代襲相続人になる場合、その孫は2割加算の対象になりません。一方、被相続人の子が死亡していないのに孫を養子に迎えていたケース(代襲相続ではなく養子縁組によるもの)では、2割加算の対象になります。同じ「孫が相続する」場面でも、代襲相続によるものか養子縁組によるものかで税務上の扱いが異なる点は見落とされやすいポイントです。なお、兄弟姉妹の代襲相続人にあたる甥姪は、そもそも配偶者・父母・子のいずれにもあたらないため、2割加算の対象になります。相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、代襲相続人も原則としてこの法定相続人の数に含まれます(国税庁タックスアンサーNo.4152より)。たとえば相続人が配偶者と、代襲相続人である孫1人の合計2人であれば、基礎控除額は3,000万円+600万円×2人=4,200万円です。代襲相続によって相続人の頭数が増えるほど基礎控除額も大きくなる一方、財産を取得する人数が増えることで1人あたりの取得額や税額の配分は変わってきます。具体的な税額のシミュレーションは税理士の専門領域になるため、代襲相続が絡む相続税の計算は税理士へご相談ください。
代襲相続がトラブルになりやすい理由
代襲相続では、被相続人と直接の面識がない、あるいは疎遠になっていた孫や甥姪が相続人に加わることが少なくありません。とくに兄弟姉妹の代襲相続では、被相続人の甥姪という、日頃ほとんど交流のない親族が遺産分割協議に加わることになります。事務局への相談でも、次のようなパターンがよく見られます。
- 代襲相続人の連絡先が分からず、戸籍の附票から住所をたどるところから始めることになり、協議開始までに数か月かかる
- 代襲相続人が「実家に思い入れがない」ため、早期の売却や解体には同意するものの、形見や家財の扱いについて他の相続人と意見が食い違う
- 代襲相続人が複数いる家庭で、誰がどの割合を取得するかの計算方法自体に誤解があり、協議が長引く
面識のない相続人がいる場合は、いきなり金額の話から入るのではなく、被相続人との関係や相続の経緯を丁寧に説明する書面を添えて連絡すると、協議がまとまりやすくなる傾向があります。遺産分割協議が難航しそうな場合や、連絡先の特定に時間がかかりそうな場合は、早い段階で司法書士に相談し、戸籍収集と並行して進めることをおすすめします。
戸籍を集めていて代襲相続だと後から分かった場合
相続手続きを進める中で、被相続人の子や兄弟姉妹の一人がすでに死亡していたことが、戸籍を取得して初めて判明することもあります。この場合、次の順番で対応を進めると混乱を避けやすくなります。
- 被代襲者の死亡日を確認する——被相続人より前の死亡か後の死亡かで、代襲相続か数次相続かが分かれます。
- 被代襲者に子がいるかを戸籍で確認する——出生から死亡までの戸籍をたどり、代襲相続人になり得る人を漏れなく洗い出します。
- 代襲相続人の現在の戸籍・住民票を取得する——本籍地の移動が多い場合は、複数の市区町村への請求が必要になります。
- 代襲相続人へ連絡し、相続の経緯を説明する——面識がない場合ほど、書面で丁寧に事情を伝えることが協議の第一歩になります。
- 相続分を計算し、遺産分割協議へ進む——本記事のケース別計算例を参考に、被代襲者の相続分を代襲相続人の人数で按分します。
この過程は自分で進めることもできますが、戸籍の読み取りや相続分の計算を誤ると、後から協議のやり直しが必要になることもあります。判断に迷う段階で司法書士へ相談すれば、戸籍収集の代行から遺産分割協議書の作成まで一括して依頼できます。
疎遠な代襲相続人が「関わりたくない」と言った場合
面識のない代襲相続人に連絡すると、「実家のことには関わりたくない」「手続きだけ済ませてほしい」という反応が返ってくることもあります。この場合、選択肢はいくつかあります。ひとつは、その代襲相続人が家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う方法です。もうひとつは、遺産分割協議の中で、その代襲相続人が相続分をゼロとする内容に合意し、協議書に署名・実印での押印だけをしてもらう方法です。相続分の譲渡という方法も実務上使われており、共同相続人の一人が遺産分割前にその相続分を他の相続人へ譲り渡すこと自体は可能です(第三者への譲渡については、他の共同相続人が価額を償還して譲り受けられる「取戻権」が民法905条に定められています)。どの方法を選ぶかによって、必要な書類や手続きの負担が変わるため、代襲相続人の意向を確認した段階で司法書士に相談し、最も負担の少ない進め方を選ぶとよいでしょう。
代襲相続と実家の整理・売却をどう進めるか
代襲相続が発生している実家では、名義変更(相続登記)と遺産分割協議がまとまるまで、片付けや売却の手続きに進みにくいという事情があります。とくに兄弟姉妹の代襲相続で甥姪が相続人に加わる場合、実家に住んだことも訪れたこともない人が相続人になっていることもあり、遺品や家財の扱いについて方針を決めるまでに時間がかかりがちです。
面識の薄い代襲相続人が加わる遺産分割で意見がまとまりにくい典型パターンと対処法は相続で兄弟が揉める典型パターン7つと予防策で解説しています。代襲相続人を含めた相続人全員の合意形成が済んだ後は、片付け・売却・解体までを一つの窓口で進められる実家じまい代行サービスもご利用いただけます。相続登記など法律手続きが絡む場面は、提携司法書士と連携しながら進める体制を整えています。代襲相続人が遠方に住んでいる場合でも、写真での状況共有や書面でのやり取りを中心に進めることができるため、まずは実家の状況とあわせてご相談ください。
遺産分割協議がまとまるまで実家を放置すると、空き家の管理不全が進んでしまう点にも注意が必要です。代襲相続人を含めた相続人全員の合意には時間がかかることが多いため、協議と並行して、実家の現状を写真で記録しておく、貴重品や重要書類だけ先に安全な場所へ移しておくといった対応を進めておくと、いざ片付けに着手できる段階になったときにスムーズです。合意形成が長引きそうな場合は、実家の管理方法(施錠・郵便物の転送・庭木の手入れなど)についても、相続人の間で暫定的な取り決めをしておくことをおすすめします。
よくある質問
代襲相続とは何ですか?
代襲相続人の範囲はどこまでですか?孫の子(ひ孫)や甥姪の子も対象ですか?
相続放棄をした場合、その子は代襲相続できますか?
代襲相続人の法定相続分はどう計算しますか?
代襲相続人(孫や甥姪)が相続する場合、相続税の2割加算はどうなりますか?
代襲相続と数次相続はどう違いますか?
遺言を書くときに代襲相続に備える方法はありますか?
まとめ
代襲相続は、相続人の範囲と相続分の計算を一段階複雑にする制度です。要点を振り返ります。
- 代襲相続は、子や兄弟姉妹が死亡・相続欠格・廃除で相続権を失った場合に、その子が代わりに相続人になる制度(民法887条2項・889条2項)
- 相続放棄は代襲原因にならない。放棄した人の子が代わりに相続することはない(民法939条)
- 子の代襲相続は孫・ひ孫と上限なく続くが、兄弟姉妹の代襲相続は甥姪までで再代襲はない
- 代襲相続人の相続分は、被代襲者が受け取るはずだった分をそのまま引き継ぎ、複数いれば均等に分ける(民法901条)
- 半血の兄弟姉妹の相続分は全血の2分の1で、この按分は代襲相続人(甥姪)にも引き継がれる
- 代襲相続では被代襲者の出生から死亡までの戸籍も必要になり、通常の相続より収集の範囲が広がる
- 甥姪(兄弟姉妹の代襲相続人)には遺留分がない一方、相続税の2割加算の対象にはなる
- 孫の代襲相続では相続税の2割加算はかからないが、養子縁組による孫の相続は加算対象になる
- 疎遠な代襲相続人が加わることが多く、連絡と合意形成に時間がかかりやすい。相続分の譲渡など負担の軽い進め方も選択肢になる
- 数次相続(相続人が遺産分割前に死亡)とは区別する。死亡の前後で適用ルールが異なる
- 「相続させる」旨の遺言は、対象者が先に死亡すると原則として効力を生じない。予備的条項の準備が有効
- 代襲相続人が海外在住の場合は、印鑑証明書に代わる署名証明・在留証明の取得に時間を要する
代襲相続が発生しているかどうかは、戸籍を集めてみて初めて分かることも少なくありません。実家の相続で「叔父がすでに亡くなっている」「親のきょうだいの誰かが早くに他界している」といった事情に心当たりがある場合は、早い段階で戸籍の確認から始めることをおすすめします。子の代襲相続か兄弟姉妹の代襲相続かによって範囲・相続分・遺留分の有無・相続税の扱いまで変わるため、自分のケースがどちらにあたるかを最初に見極めることが、その後の手続きをスムーズに進める近道になります。相続登記の期限や手続き全体は相続登記の義務化とは|期限・過料・実家を相続したらやることを、相続人を確定させるための戸籍調査の進め方は相続人調査のやり方|戸籍のたどり方と見落としやすいケースをあわせてご覧ください。
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